義妹を訪ねて徒歩数時間程度
骨董品屋を離れた後、長時間の移動で小腹が空いてきた俺たちは、少し離れた場所にあるおしゃれなカフェを訪れていた。普段こんな場所には足を運ばないわけだが、女子と一緒の時に変な場所へ行くわけにもいかないだろう。俺が適当に注文したコーヒー(ミルクマシマシ)とミルフィーユのようなスイーツの前には、プリナのこれでもかというサイズのパフェが聳え立っている。
「…このパフェ、すごく美味しいです!なんていうか、このフルーツとか新鮮だし、クリームの甘さもちょうど良くて、このサイズでも全然食べれちゃうっていうか…!」
プリナはかぶりつくようにしてパフェを頬張っている。行儀は悪いが、幸せそうなので…まあいいか…
「ソウタさん、それっぽっちで足りるんですか?これからどれだけ歩くことになるか分からないんですよ?…あむっ(パフェにくらいつく)…大体、シラノさんの本体がまだこの町にいるかどうかも分からないわけですし…あむっ(パフェにくらいつく)…動けていた間にどこか別の町に行っちゃったって可能性もあるじゃないですか…」
「とりあえず口の中を空にしてから話してくれ…あとスプーン使え!……えっとそれで、シラノのことなんだけど、俺はまだこの町にいると思うんだ。俺の家族と対立したままだったっていう状況で、今まで何もしてこなかったことを考えると、何かしらの計画を練るために虎視眈々と数年間準備を進めていたんじゃないかって…そのためには、出来る限りこの町に拠点を置き続けた方が都合がいいだろ?」
「…なるほど…だからこの町のどこかでずっと身を潜めてるのではと…でも、家族の方たちも市街地まで来るんですよね。それなのにこれまで一度も見つかってないってことは、相当わかりにくいところにいるってことです…何かあてでもあるんですか?」
そう聞かれたので、俺は待ってましたとばかりに得意げな表情をして、ポケットから一本の細長い棒状の物と注射器を取り出した。注射器に関しては若干トラウマになりかけているので本当はもう捨ててしまいたかったが…しょうがない…
「あてか…あるんだよな、ここに…!シラノの部屋からちょっと借りてきたアーティファクトたちだ。この棒みたいなのがわかるか?これは数週間前の朝にシラノからすごい熱量で説明を受けたから十分使い方がわかる。これは『マジカルトラッカー』って言って、中が空洞になってるんだけど、魔力が含まれた物質を入れると、半径一キロメートル以内の同じ魔力を持つ物がある場所を示してくれるんだ。そしてこの注射器に入っているものはおそらく…俺の勘だと…あんまり想像したくないがシラノの血だ。だからマジカルトラッカーの中にシラノの血を入れればシラノのところに辿り着けるんじゃないかってことだ」
プリナは俺の話を黙って聞いていたが、話の途中からだんだんと引き気味な顔になってきていた。そして俺が話し終えたのを確認してから、そのままの表情を保ったままパフェを一口口の中に放り込んだ。
「えっと、マジカルトラッカーは知ってますよ?今でも割と需要のあるアーティファクトですから。でも、えっと…なんで注射器の中に血なんて…」
「ああっ…いや、まあ…あんまり深く考えないでくれ……さぁてと!早速やってみよう!まずはマジカルトラッカーの蓋を開けて…この中に血を…まあいいや、全部入れちゃえ」
血と思わしき濃い赤色をした少しドロドロの液体を全て注ぎ込み終わり、蓋を閉めると、マジカルトラッカーは赤い光を放ちながらポキンと俺の指の上くらいで直角に曲がってから、ゆっくりと左の方を向いた。
「あ、そんなダウジングみたいな感じなんだ…じゃあ、そろそろ行こっか」
「待ってください!まだパフェが半分くらい…!」
プリナは掻き込むようにしながらパフェを急いで平らげた。その姿はまさにどんぶりを掻き込むおじさんのそれである…一通り食べ終わると、プリナは素早く会計を済ませてきた。そしてそのまま俺たちは店を後にしてマジカルトラッカーの指し示す方向へと歩みを進めた。
「…なあ、俺一円…あ、いや、(前にみんなが話してたけど、この国の通貨の単位はルインだっけ…)一ルインも払ってないんだけど、いいのか?」
「ソウタさんが一文無しなのは言わずもがなじゃないですか…いいんですよ。私もそうやって師匠に助けられましたから」
プリナは小さくため息をついてから、若干微笑んだ。なんだか申し訳ない気もするが、ここは彼女の善意に甘えてありがたくおごってもらうとしよう。マジカルトラッカーは依然として同じ方向を指し示している。今はそれに従って進むだけだ。
しばらく進むと、マジカルトラッカーは突然指し示す方向を変えた。今いる場所は分かれ道になっているが、道のことまで考慮してくれるような優れ物なのだろうか…
「方向が変わったぞ?こいつ、道案内までしてくれるのか?」
「あ、いえ…マジカルトラッカーはあくまで座標を示すだけなので、道のことまでは考慮してないはずです。目標は頻繁に行動するようですね…急ぎましょう!」
「ああ。…待ってろ、シラノ!」
俺たちはマジカルトラッカーに従い、大通りや、時には暗い路地や下水道の中まで走り続けた。そして長い時間をかけたのち、ようやく目的の場所に辿り着いた。
「はぁ…はぁ…プリナ…これって…」
「……ネコですね……人間にしては異質な場所を移動するなって思ってましたけど…」
「いやなんでネコなんだよ!同じ魔力を持つものの場所を指し示すんじゃなかったのかよ!?」
「そりゃ……」
プリナはそっとそれに近づき、それが逃げようと足を縮めたところで目にも止まらぬ速さでそれを捕獲した。そして逃げようと暴れる毛玉を荒々しく撫でながら答える。
「確かにマジカルトラッカーは同じ魔力を持つものの場所を指し示すアーティファクトですけど、魔力なんてほんの数種類しかないんですから、同一個体が見つかるとは限らないじゃないですか」
…なるほど…一旦整理してみると、要はこの世界の魔力の種類は数種類しか存在せず、シラノと同じ魔力を持つ存在がゴロゴロいる…ということなのだろう。
「それを早く言ってくれ…」
「あはは…いや、まだ何か隠し持ってるのかなって…ていうか、そんなことも知らないなんてあなた何者ですか…?まぁいいです。ソウタさんもこの子を撫でて落ち着いてください」
プリナは呆れ気味な顔で俺の手元に黄色のような茶色のような毛玉を差し出してきた。さっきまで暴れ回っていたものがまんざらでもなさそうな顔でプリナの腕の上に乗っかっている。戸惑って立ち尽くしていると、それは青っぽい眼でこちらをチラッと見てから、「にゃーご」と鳴いて見せた。「桃色の女に撫でられたら思いのほか気持ちよかったからお前も撫でろ」とでも言っているのだろうか。さっきまで逃げようとしていた野良猫のくせに図々しいやつだ。俺はそっと毛玉を抱き抱えて、背中や首周りを撫でてみた。するとそれはゴロゴロと小さく唸りながらこちらに身を委ねてきた。
(…可愛い…)
俺はしばらくそのままネコを撫でることにした。なんだかこうしていると、今自分が抱えている問題の全てを忘れられる気がする。しかし数分ほど経過したところで、プリナにネコを取り上げられてようやく我に返った。
「ソウタさん!ネコさんが可愛いのはわかりますけど、そろそろ動かないと日が暮れてしまいますよ!」
「え…!?あ、そうだ、シラノ…!くそ、名残惜しいが、そろそろ行こう…目的地の更新とかってできるのか?」
「あ、はい。マジカルトラッカーをもう一度立ててもらえれば…」
プリナに言われた通り、俺は直角に曲がっていたマジカルトラッカーを立て直した。すると、マジカルトラッカーは赤く発光し、ネコのいる方向とは別の方向を指し示した。日は少しだけ西に傾き始めている。時間がない…俺たちは歩みを早めてその場を後にした。
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