表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4.今度は、二人で

55歳と54歳。二人揃って孫もいて、すっかりおばあちゃん。

しかし人の命は儚いもので、静久と香鳥は共に最愛の夫を喪ってしまうのです。


それでも一番辛くて苦しい時にこそ、大切な人はふらっと現れるのだとか。

そんな二人が、今度は二人で。

お勘定は全部香鳥に払われてしまった。また人に迷惑をかけてしまった。

それから香鳥はまた私の手を引っ張って彼女の家に連れて行った。

広くもない一人用の借り部屋。

昇くんと一緒に買った家はきっと子供達に譲ったのだろう。

香鳥が紅茶を淹れて、一つだけのティーカップを私に。

また時間をかけて飲み干した。それから。

「ごめん、静久」

「何よ。香鳥が謝ることなんて何も無いじゃない」

「だってオレは、静久が辛かった時に側にいられなかったから」

「それは伝えなかった私が悪いわ、香鳥のせいじゃない」

「それに、あの日は静久の気持ちを知らなかった。分かってたら、あんな事は言わなかったのに」

「…え、気づいてたの?」

「大分経ってから、もしかしたらって思った。オレは、なんて酷い事を」

「それは、うん、辛かった。でももう30年前。とっくに時効だし、許してあげるから」

香鳥の細い体が震える。きっとずっと悔やんでいたのだと思った。

だからそっと香鳥を抱き寄せる。ああ、私も香鳥も歳を取ったなぁ。

30年前にふざけてハグされた時とはもうすっかり感触が違う。肌なんて揃ってガサガサ。でも、暖かさはあの時と一緒で。何だか安心してしまって。

「香鳥、私、辛いよ、翔吾くん、死んじゃった、寂しい、一人ぼっちはイヤだよ…」

ボロボロボロボロ涙が溢れる。

辛くて苦しくて泣くことすら出来なかったのが溢れていく。

もう大声は出せなくなっちゃったけれど、それは慟哭だったと思う。

「オレも、オレだって一人は嫌だ。もう耐えられない、静久のせいで、もう、オレ、一人は」

頬を寄せ合って抱き合っているから香鳥の顔は見えない、けれどどんな顔なのかはだいたい分かった。泣き顔なんて見たこと無かったのに。


一人では辛くて苦しくて重たすぎて向き合えなかった。

けれど二人なら、香鳥と一緒なら。だから。


一晩中泣いて、泣いて、泣いて。

でも今度は二人だった。

一緒に泣いて、泣いて、泣いて、わかったのは。


それから、2024年。

私と香鳥は二人で身を寄せ合って生きている。

「これからの人生だって長いんだ。だったら、一人よりは二人の方がいいに決まってる」

一緒に泣いた朝に香鳥が言い出して、私が決めた。

お互いの子供達も孫達もその方が良いって言ってくれたから、皆に甘えて。

また誰かの為に生きていけるようになったから仕事だって出来る。

まだまだ頑張れるよ、香鳥と私の為だもの。

楽しいことだっていっぱい残ってる。


「なぁ、お前」

「なーに、香鳥?」

「今夜は何を食べるかね」

「香鳥が好きなものなら何でも」

「そう言われるのが一番困るんだがね」

「困らせてるのよずっと一緒にいるんだから」

「全くもう、なんでこんな静久と一緒になったのやら」


「後悔した?」

「全然。何一つ」

「愛してるよ、香鳥」

「ああ。愛してる、静久」


ちゃんちゃん。

工藤静香の「慟哭」を2024年に聞いたら失恋百合ソングに聞こえた←まだ分かる

だから一筆書いてみたら結末はおばあちゃん百合になりました←何処から生えてきた


いや、うん。こんな二人の姿が見えたのです。

鉄が熱いうちに書いたらこうなりました。


きっと天国ではちょっと気まずそうな顔で、でも手を繋いで。

それぞれの旦那様と再開する事になるのでしょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ