春の訪れ
ー入学式当日
高校を卒業してから作りに行った新品のリクルートスーツに袖を通した。
外は過ごしやすいかと言われたら少し蒸し暑かった。
「いってきま~す」
履き慣れない先のとがったパンプスに足を通して玄関の扉を開けた。
入学式の会場に指定された場所の最寄り駅に着いた。
駅を行き交う会社員の中に紛れ込む緊張した様子の新入社員のような人たち。きっと同じ学校なのだろう。
こう見ると日本って広いんだなって実感する。いろんな人がいて、それが当たり前の世界なんだなって。
「ごめん!待ったよね?」
「全然?待ってるの楽しかったし」
「いつもそれ言うけどなにが楽しいの?」
「さぁ?なんだろ」
会場が近づくにつれてスーツを着た人たちが増えていく。
みんな同じ気持ちだろうな…なんでこの靴でこんな道歩かなきゃいけないんだろう、って思ってるに違いない。
「まじ大学も一緒とか腐れ縁にもほどがある」
「そっちが勝手に真似してきたんでしょ」
「ほんとに違う!確かに聞いたけど、忘れてたの」
「別にどっちでもいいけどさ。朱莉と一緒で良かったよ」
「私も!伊吹と一緒で良かった!」
朱莉とは幼稚園からの幼馴染でまさか大学まで一緒になるとは思わなかったけど、これが腐れ縁ってやつなんだろう。
「大学生にもなったことだし!今年こそ恋しないとね!」
「私はいいよ、別に求めてないし。」
「またそういうこと言う~!伊吹モテるのになんでかな~」
あなたのせいですよなんて口が裂けても言えたもんじゃない。
「どうせ入学式暇だし、イケメン探しでもしますか~」
「朱莉は逆に懲りなすぎ。何回別れれば…」
「運命の人に出会うまで」
「…」
「なーんてね、冗談冗談!そんな怖い顔しないで?」
冗談なのは本当なんだろうけど、半分本気でもあると思う。18年も一緒にいたら嫌でも顔見たらわかる。
恋愛することを否定はしない。幸せなら、楽しければ、それでいいと思う。
だけど、それが永遠に続かなかったとき困るのは本人ではなく周りにいる私たちなことをもう少しわかってほしい気持ちもある。