序章
長い夏がようやく役目を終え、秋風が頬をかすめた。
街を歩く人たちは半袖から長袖へと姿を変える。中には、衣替えが間に合わなかったのか寒そうに腕を擦る人もいる。
寒くなると人肌恋しくなる、なんて耳がタコになるほど聞いたが事実なのだろう。
一か月前の光景に比べて男女で歩く人が増えた、気がした。
「寒っ」
いつも歩く道が光を帯び、瞳を照らした。
たった一人で歩く私の心を満たすのではなく、少しだけ、ほんとに少しだけ、悲しくさせた。
ーカイロ入ってます。
普段なら道でティッシュを渡されても貰ったことはなかったけど寒さを和らげるために手を伸ばした。
ーありがとうございます!
その声を聞いてじんわりと内側が暖かくなった気がした。
”まだ帰り道?牛乳買ってきてほしい”
寒いから早く帰りたいのに。なんてぼやきながらUターンしてスーパーへと向かった。
明日はもう少し厚手の上着を着ようかな
そんなことを考えながら家までの道のりをいつもよりゆっくりと歩く。
ー今日何食べる?
ーえぇどうしよっかな~寒いからあったかいものが良いかも!
ーじゃあ、しゃぶしゃぶとか?
ーお!いいね行きたい!
横を通り過ぎたカップルの会話が耳に飛び込んできた。
人を好きになるとか、誰かと付き合うとかが嫌なわけではない。羨ましいとは思う。
ただ誰かに対して好きだとかいう感情を抱いたことがないから想像が出来なかった。
友達からの彼氏が出来た報告はこの時期になると毎年やってくる。
別れるなら付き合わなくてもいいじゃん。寒さからくる悲しさ埋めるために好きでもない男と付き合うの?
そんな話ばっか聞いてるからきっとこういう価値観になってしまったんだろうな...。
大学生にもなって恋知らないとか変なんだろうか。好きという感情の答えが未だに見つからない。
でも恋愛してなくとも何気に人生は充実していると思う。てか、思いたい!
誰かに恋して泣くぐらいなら、私は恋愛なんて一生しなくたっていい。