ギャング
(うわー!)
明は都会の街並みや人込みを見て少し感動した様子だ。明自身、東雲を訪れることはほとんどなく、実家から都心に出るまで電車で3時間、車で5時間かかる。
「知ってると思うけどここが不二宮駅、めちゃくちゃ人いるし、道も複雑だから迷ったら声かけろよ!☆」
宇喜多の案内で来栖もいれ三人で学校周辺と商店街を見て回っている最中で今は不二宮駅前に来ている。
「やっぱりここが一番人多いね、色々遊べるところもありそうだし...ってあれ見てよ!」
そういって明が指さしたほうを他の二人は見つめるとへそを出したシャツにブーメランパンツほぼ裸のような恰好をした4~50代の男性が歩いていた。
「あー...あーいう人この町じゃ結構見つけるよ。海外のファッションショーで着てそうな服装だよな?あんなの普通着ないだろう、どんなセンスしてるんだ?」
来栖は宇喜多の言葉に少し驚きながら呟いた。
「あれはこの国の文化ではないのか?」
「そんなわけないだろ!もし文化だったらやばすぎだわ!」
宇喜多にツッコミを入れられて、「そうか...」と来栖は言いながら歩いている男性の姿を見ていた。
駅前を歩いているとふいに宇喜多が話し始めた。
「話は変わるけど、駅周辺は2年くらい前までカラーギャング同士の抗争があってかなりやばかったよ。」
「カラー?ギャング?」
来栖はキョトンとした不思議な顔をしている。
「僕もその抗争知ってるよ!!前まで結構ネットで騒ぎになってニュースでも取り上げられてたよね!」
明は感情が昂ぶり早口で語りだした。明はギャングとかヤクザといったものが好きで少し憧れている節がある。
「おーゆうき、興味津々だな!」
「とりあえずそこのカフェでいったん座って話そうか?」
宇喜多はそういって近くのカフェに入って会話することにした。
「ルカが知らないなら説明しよう!」
突然宇喜多はどこかで聞いたことのあるナレーション口調で説明し始めた。
「20XX年不二宮はギャング抗争の炎に包まれた!街は荒れ果て、地は裂け、終わらない抗争に警察が介入して、あらゆるギャングたちは絶滅したかに見えた。 だが!ギャングたちは滅んでいなかった!!」
デデデー、デデデデーデデデ、デーデーデー♪…
(なんか始まっちゃったよ⁉)
宇喜多のナレーション口調にびっくりしている明をよそに、来栖が驚いて宇喜多の説明に割って質問する。
「え⁉翔、抗争ってそんな不二宮が炎に包まれるくらい激しかったんですか⁉」
「ルカ君、今の説明はひゆというか言葉のあやってやつだよ。」
「ヒユ?アヤ?」
不思議そうな顔をしている来栖、少し笑った顔で説明する明たちを見て宇喜多はナレーション口調をやめた。
「コホンッ!まー話を戻すとこの街を中心にカラーギャングっていう色を特徴としたギャングがいるんだよ」
「基本的にはストリート系の連中だけど、その中でも大きいチームの赤、黄、緑、銀色の4つは別格の存在なんだ。」
「2年前に抗争があったのはそのうちの2つだよね?」
明が昔起きた抗争について知っていることを語りだした。
「確か、赤の毘沙門天ってチームと黄色のFWG、Fastファースト・Wolfsウルフズ・Gnarlyナーリーの抗争だよね?」
ギャング界隈では毘沙門天は毘天、FWGはエフダブと呼ばれている。
「そう毘沙門天とFWGこの2つのギャングが表ではよくテレビで放送してたんだけど、裏では他の2つのギャングも抗争してたらしい、まー人から聞いた話だけど。」
「この街はかなり無法地帯になってたよ。実際、不二宮周辺は血が飛び散って血まみれの場所とか電柱が折れてるとこもあったし、あと一般人が赤か黄色のものを身に着けてると襲われることもあったらしい。」
「そんなことあったんだ…」
「抗争の詳しい事情はわからないけど結局収拾がつかないまま、警察が介入してきて逮捕者は67人、それで抗争は一気に沈静化したんだよ。」
宇喜多はコーヒーをすすりながら少しお茶らけた様子でしゃべり続けた。
「へーそうなんだな。」
来栖は、宇喜多を見つめて聞いているが話にはあまり興味がなさそうだ。
「いいか?確かに毘沙門天もFWGも危ないけど、俺的には他の2つのほうがやばいからな…」
宇喜多は強調するようにほかの組織について語り始めた時、宇喜多の後ろから声をかけられた。
「よう翔」
突然声をかけてきたのは茶髪で服装はチェック柄のジャケットを肩に羽織り、片方の耳に長いイヤリングを身に着けた細身の男である。
「アニキ⁉こんなとこで何してんだよ!?」
嫌そうに反応する翔に少し戸惑って明が質問する。
「この人翔君のお兄さんなの?こんなかっこいいお兄さんがいるなんて羨ましいな!」
そういう明に翔の兄はにこにこ嬉しそうに自己紹介を始めた。
「君うれしいこと言ってくれるねー!俺の名前は宇喜多天大学1年生の18歳!モデルの仕事やってるんだけど見たことない!?」
天は明に顔を近づけておれおれアピールをするが、そんな姿に嫌気がさした翔が止めに入った。
「おい!もう何してんだよ!さっさと帰ってくれ!」
少しイライラして語気を強めた翔に対して、天はどこ吹く風のように来栖に話しかけた。
「てか君、かなりかっこいいね!ハーフ?良ければモデルなんてやってみない?」
「話をきけー!!さっさと帰るぞ!」
翔はそういって腕を引っ張り外に連れ出そうとすると、天は手からするりと抜けて席に座り、「ブレンドくださーい」と注文してまた小一時間しゃべり続けた後、「あ!この後予定あったんだ!帰るね…See You!」といってさっそうと店を出ていくのだった。
その後、疲弊して気力を失った3人は嵐のように去った天を尻目に店を出ようとした際、
「あの野郎!コーヒー代払わずに帰っていきやがったな!!」
翔は悔しそうに膝をついてうなだれてしまうだった。