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(4)強さの試練

３人の兄の末兄が大声で言った。

「……で、マリアとやら。お前は、本当にユンを守れるのか？」

末兄の、身体つきは、マリアと同じぐらい。

猫耳族にしては、巨漢の部類に入るのだろう。

顔は、男っぽくて粗野なイケメン。無骨ワイルドタイプの男である。

マリアは、真っすぐに末兄を見つつ答えた。

「はい。かならずや……」

「ほう……なら証明してみせよ！　格闘術で弟に勝ったら、私は、お前の強さを認めてやる！」

「本当ですか……」

マリアは、にやりとした。

こんなの簡単な事。ユンにわざと負けてもらえばいいだけの話である。

マリアは、ユンの方を向いた。当然、そのつもりでしょ？　と目配せする。

しかし、ユンはマリアの視線には全く気が付かず、興奮気味に鼻息を荒くする。

末兄は、ユンに言い放った。

「弟よ！　くれぐれも手を抜くなよ！」

「けっ！　当たりめぇよ！　アニキ達に俺の成長を見せつけてやる！！　おい、マリア！　勝負だぜ！！」

目をキラキラさせてマリアを指さすユン。

マリアは、顔に手をやった。

（やれやれ……この子、すっかり目的を忘れてる……はぁ、ユンの脳筋！）

＊＊＊＊

二人は、皆の前で対峙した。

ユンは、ちょん、ちょん、と機敏に格闘技のステップを踏む。

「マリア、お前とは一度真剣勝負したかったんだよな！　ふふふ、楽しみだぜ！」

「ねぇ、聞いてよ、ユン！　今はそれどころじゃないの……ちょっと考えれば分かるでしょ？　わざと負けてくれればいいのよ！」

マリアは、必死に説得を試みる。

が、ユンはまったく聞く耳を持たない。

「はぁ？　わざと負ける？　んなぁ事すっかよ、アホ！　俺は誇り高い猫耳族の戦士。真剣勝負に私情は持ちこまねぇぜ！」

「もう！　この脳筋バカ！！」

＊＊＊＊

ユンのパンチ、キックがマリアに襲い掛かる。

それは的確にヒットしていく反面、マリアの攻撃は、ユンの俊敏さの前ではどれも空を切り、一向に当たる気配はない。

ユンの打撃の一つ一つは軽い。

しかし、連打ともなると、そのダメージは相当なものになる。

マリアは、はぁ、はぁ、と息を荒げる事しかできなかった。

「ほら！！！　どうした、マリア！　お前、それでよく俺を守るなんて言ったな！　あははは！」

ユンは、絶好調である。

末兄が、笑いながら言った。

「どうした？　マリアよ。すっかり、防戦一方じゃないか？　口ほどにもないな」

「どうよ？　俺の本気は？　あははは！」

ユンは、すっかり優位に立ち、上機嫌。

末兄は、マリアのあまりにも不甲斐ない戦いっぷりに失望し、首を横に振った。

「……まぁ、我々猫耳族は、最強の種族。人族では到底かなうまい……少し期待もしてたのだが……残念だ」

マリアは、切れた頬を拭った。

（仕方ない……奥の手を出すか……）

「マリア、とどめのラッシュだ！！　耐えられるか！！」

ユンが放ったパンチ。

マリアは、それにあたりながらも、必死にユンの体にしがみ付いた。

ボクシングでいうクリンチである。

ユンは、マリアに言った。

「おいおい、何だ？　この期に及んで、悪あがきか？　みっともねぇぜ、マリア！」

しかし、マリアは、そんなそしりを受けても気にする様子もなく、ユンの顔に顔を寄せて囁いた。

「……大好きよ、ユン」

「へ？」

マリアの意外な切り返しに、ユンは動揺した。

「な、なんだよ。突然……それって、今言うセリフか？」

「だって、可愛いんだもん、ユン。あたしの大好きなユン」

「は！？　はぁああ？？」

たとえ脳筋であっても、恋する相手からの甘い言葉には、どうしても耳を傾けてしまう。

それが、恋する男の悲しい性。

「隙あり！」

マリアは、ユンの動きが止まった一瞬を見逃さない。

ユンの耳をぱくり、と甘噛みし、しゃぶり始めた。

「あーっ、ダメーっ！！」

「あー、美味しい、ユンの猫耳。全部、食べちゃいたい……」

「あっ、ダメ。怒るぞ、耳を攻めるなって、汚いぞ！！　ダメっ……んあっ……はぁン！！！　もうやめてーっ、お願い……アアんっ」

ぴちゃ、ぴちゃと音を立てて舐めまくる。

最初は必死に抵抗をしていたユンだったが、やがて、快感に浸り体をぐったりとさせた。

はぁ、はぁ、と、涎を垂らしてうっとり顔。

人々は、ザワザワと騒然となった。

「……どうしてあの女は、我々、猫耳族の弱点を……」

「ゴクリ……なんて気持ちよさそうなんだ……」

しばらくすると、ユンは静かに寝息を立て始めた。

＊＊＊＊

ユンは、マリアの胸の中で目を覚ました。

お姫様抱っこである。

「ほら、ユン。いい加減、起きてよ。ユン！！」

「ん？　あれ？」

目を擦り起きるユン。

自分が勝負に負けたことを知り、ジタバタした。

「マリア！！　て、てめぇ！！！　汚いぞ！！！　放せよ！　もう一度だ！」

しかし、末兄が、それを制するように言い放った。

「見苦しいぞ弟よ！！　負けは、負けだ！！！」

それを聞いたユンは、項垂れた。

「はい……」

末兄は、腕組みをし、マリアを見下ろして言った。

「認めよう、マリア。お前は強い。まさか、猫耳族の弱点を見抜くとはな。正直、驚いた。まったく、人族にしておくのは勿体無い女よ。あははは」

末兄は、豪快に笑い、うんうん、と頷いた。