三国志演義・汜水関の戦い~反董卓連合軍~
曹操は偽りの勅命をもって諸侯を集めると、盟主に名族の袁紹を推薦。
反董卓連合軍はいよいよ動き出そうとしていた。
声劇台本:三国志演義・汜水関の戦い~反董卓連合軍~
作者:霧夜シオン
所要時間:約25分
必要演者数:最低10人
(9:0:1)
※他に良い組み合わせがあれば教えていただければ幸いです。
配役例【()内はセリフ総数】
曹操:(18)
袁紹:(20)
孫堅:(18)
華雄:(19)
李粛・李儒:(11+8)
董卓・連合軍兵士2:(13+3)
程普・連合軍兵士1:(11+3)
関羽・連合軍諸侯1:(11+7)
胡診・董卓軍部将:(8+12)
ナレ・連合軍諸侯2:(12+7)
※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しまし
た。
はじめに:この一連の三国志台本は、
故・横山光輝先生
故・吉川英治先生
北方健三先生
蒼天航路
の三国志や各種ゲーム等に加え、
作者の想像
を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のため
本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事も
多々あります。
その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって
打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいてお
ります。何卒ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合
がありますので、注意してください。
なお、性別逆転は基本的に不可とします。
●登場人物
曹操・♂:字は孟徳。
漢の相国・曹参が末裔を名乗る。
人相見に「治世の能臣、乱世の奸雄」と評された、兵法、政治、
果ては詩文にまで名を残す事になる。
三国志版の覇王にして破格の英雄とも言うべき人物だが、この時
はまだほとんど力のない状態。
三十五歳。
袁紹・♂:字は本初。
代々漢王室に仕える名族・袁家の子孫。
優れた所もあるが、優柔不断な性格でもある。
反董卓連合軍の総大将に推される。
三十後半~四十代。
孫堅・♂:字は文台。
長沙の太守にして、いにしえの兵法家、孫子の子孫を名乗る。
演義では本来自分のするはずだった活躍を奪われるなどの
不遇な扱いを受けているが、正史では三国志最強の一角と言って
よい実力の持ち主だったと伝わる。
四十代後半。
程普・♂:字は徳謀。
孫堅軍の副将を務める。
風貌が優れ、先を見通す力もあり、
人との応対も巧みにこなしたという。
華雄・♂:字は伝わっていない。
董卓配下の武勇に優れた、立派な体躯の将軍。
董卓へ志願して前線の汜水関を守るべく、副将に胡診、李粛を率
いておもむく。
約四十代。
胡診・♂:字は伝わっていない。
副将として華雄に従い、汜水関の守備に赴く。
しかし初戦で孫堅を見つけて打ちかかるが、横から程普に投げつ
けられた槍で喉を貫かれ、討ち取られる。
関羽・♂:字は雲長。
劉備の義兄弟として黄巾の乱で活躍したが、その後は時に恵まれ
ず、義弟の張飛と三人で流浪の日々を過ごしていた。
今回、曹操が起こした反董卓連合軍に参加するべく、劉備の昔馴
染みである北平の公孫瓚の軍に兄弟で陣借りしている。
李粛・♂:字は伝わっていない。
かつて丁原の養子だった呂布に、董卓から預かった赤兎馬と黄金
を贈り、寝返りを勧めた人物。
董卓・♂:字は仲穎。
涼州の長官。
十常侍の乱に乗じて洛陽へ居座り、献帝を擁立し、自らを相国と
と名乗り、気に入らぬ者は一族郎党皆殺し、強欲でほしいままに
権力を振るい、暴虐の限りを尽くす。
五十四歳。
李儒・♂:字は文優。
董卓の腹心にして知恵袋。
この主にしてこの部下あり、を地で行く。
献帝の腹違いの兄である弁王子と、その母である何太后を塔の
上から突き落として殺すなど、残虐非道の限りを尽くす。
大体四十代。
連合軍諸侯1・♂♀不問:反董卓連合軍に参加した諸侯。
十八か国から集まった者達その1。
連合軍諸侯2・♂♀不問:反董卓連合軍に参加した諸侯。
十八か国から集まった者達その2。
連合軍兵士1・♂♀不問:反董卓連合軍の名も無き兵士。
連合軍兵士2・♂♀不問:反董卓連合軍の名も無き兵士その2。
董卓軍部将・♂♀不問:董卓配下の名も無き部将。
ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いしま
す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:我、天子より密かに勅命を受けて逆臣・董卓を討つ軍を起こすものであ
る。
曹操が唱え出した大義にまず近隣の不遇な者達が動かされ、
続いて陳宮の献策によって各地へ飛ばした使者に諸侯が反応し、
彼の元へ集まってきた。
河南地方の大富豪を説得し、その懐から潤沢な軍資金を引き出して
軍備にかかっているその様子は、周囲を十分信用させるに足るものだ
った。
いつの間にか曹操のいる陳留の地には、数十万の大軍が集結していた
のである。
曹操:ふふふ、河南の地を兵馬で埋めてみせる、か。
今や絵空事ではなくなった。
これなら董卓を討つことも不可能ではない…!
連合軍諸侯1:曹操殿!
おられるか!?
連合軍諸侯2:我ら一同、曹操殿に折り入って相談の儀がござる!
曹操:おお諸公、何事であろうか?
連合軍諸侯1:曹操殿、我らはいまや、数十万を数える大兵力となりました。
連合軍諸侯2:これほどの大軍、指揮する者がいなければただの烏合の衆に
なってしまう。
速やかに総大将を決め、命令を発してもらうべきと存ずる。
曹操:いかにも。
…では、私は袁紹殿を推挙したいと思う!
彼は代々漢王室の重職を担ってきた名族の家柄だ。
実力、人望共に申し分ないと思われるが。
連合軍諸侯1:確かに…袁紹殿ならば異存はない!
連合軍諸侯2:うむ、袁紹殿こそ我らの総大将にいただくに相応しかろう。
袁紹:いや、私はその器ではない。誰か他におられぬか?
連合軍諸侯1:いやいや、名族出身である袁紹殿にお願い致したい。
連合軍諸侯2:そうだ、我らは進んでその命に従いましょうぞ!
曹操:袁紹、ここで互いに譲り合っていてはいたずらに時を費やし、
かえって敵に付け込まれるかもしれぬ。
すみやかに総大将となってくれ。
袁紹:うむむ……、分かった! お引き受けいたそう!
曹操:では明日、祭壇を築いて総大将就任の儀式をとり行う!
ナレ:翌日、袁紹は衣服や冠を整えて祭壇に上がると牛馬を屠り、香を焚い
て天に捧げ、声明を発した。
袁紹:天地の神々よ!
今、諸侯に推されて総大将の任を受けるこの袁紹、死力を尽くして
漢王室の危急を救い、逆賊を討ち滅ぼす!
もって、苦しみに喘ぐ天下万民を救う事を誓うものである!
袁紹役以外:【歓声・SE代用可】
袁紹:諸侯よ!
この袁紹、不才の身ではあるが、推薦を受けて連合軍総大将の任に
ついた。
それゆえ、功ある者は賞し、罪ある者は必ず罰する!
袁紹役以外:ははーっ!!!【SE代用可】
袁紹:我が弟の袁術は経理の才能があるゆえ、彼に兵糧をつかさどらせ、
諸将の陣に兵糧を不足させぬよう取りはからおう!
袁紹役以外:おうッ!!【SE代用可】
袁紹:我らはこれより速やかに北上し、董卓と戦う事になる。
誰か、先陣を切って汜水関を攻め破る者はいないか!
孫堅:その任、我が引き受けた!
曹操:おお、長沙の太守、孫堅殿か!
袁紹:うむ、彼ならばやるであろう!
よし、汜水関をみごと破って参られィ!
ナレ:一方、都の洛陽では袁紹、曹操が挙兵したという知らせを持った早馬
が次々と駆けこんでいた。
李儒:丞相、一大事でございます!
董卓:【眠そうに】
なんだ李儒、こんな朝早くから。
李儒:大事が勃発しました。
董卓:【まだ眠そうに】
どこにだ。
李儒:河南の陳留を中心としてです。
董卓:ぬう…では首謀者は、曹操か袁紹の奴だな。
それで、何をしでかしたのだ。
李儒:天子の詔を受けたと偽り、あっという間に十八か所の諸侯をたぶらか
し、数十万にわたる大軍を集めました。
董卓:何ィ!? それは捨ておけんな…!
李儒:さらに敵の第一陣は孫堅が率い、汜水関近くまで攻め上ってきたとの
事です。
董卓:孫堅か。
確か長沙の太守だったな。
戦は上手いのか?
李儒:はい。
かの有名な、孫子の末裔だと言われております。
董卓:なに、あの大軍師と謳われた孫子のか!
ぬうう、ならばこちらもそれなりの大物をつかわさねばなるまい。
呂布に命じるか…?
華雄:お待ちください、丞相!
鶏を裂くのに、牛を切る刀を用いる必要はありませぬ!
董卓:む? おお、華雄将軍か!
華雄:急を聞いて駆けつけて参りました。
敵先鋒の孫堅ごとき、それがしが蹴散らして見せましょうぞ!
董卓:うむ! よくぞ申した!
では華雄将軍、そちに先鋒を命じる!
副将に胡診と李粛、そして五万の兵を与えるゆえ、汜水関を守りぬい
て我が心を安んずるのだ!
華雄:ははっ、ありがたきお言葉!
吉報をお待ち下され!
董卓:ふふふ、頼もしい奴よ! 行けィ!
ナレ:華雄はただちに汜水関へ至ると関門の守備を固め、連合軍を待ち受け
る。
かたや孫堅も十分な備えを済ませると、正面から堂々と攻めよせた。
孫堅:敵の大将は華雄か、相手にとって不足は無い。
【二拍】
逆臣・董卓を助ける愚か者め!
我は義軍の将なり! 時勢は刻々と移っているのがその眼には見えな
いか!
華雄:はっはははは! 笑うべきたわ言をほざく奴だ!
しかし敵もなかなかやるわ。
誰か、敵将・孫堅を討ち取って第一の功績を誇る者はおらんか!?
胡診:それがしが参りましょう!
どうかお命じ下され!
華雄:おう、胡診か。
よし、五千の兵を与えるゆえ、見事首を取って参れ!
胡診:ははっ!
者ども出陣だ!
関門を開けィ!
華雄:よし、万が一の為に兵一万を率いて側面から敵を突くか。
続けィ!
胡診:さあ突っ込め!
狙うは孫堅の首だ!!
胡診役以外:【喚声・SE代用可】
胡診:我こそは汜水関副将の胡診!
雑魚に用はない! 孫堅、どこだ!
臆病風に吹かれてなければ出てこォい!!
孫堅:孫文台これにあり!
胡診とやら、勇気だけは買ってやるぞ!
さあ来いッ!!
胡診:おお孫堅、そこにいたか!
その首、もらい受ける!!
おりゃああ!!
孫堅:ふんッ!
なんだ、この程度か!?
胡診:何ィ、貴様こそ猪口才な!!
はあッ!
孫堅:そんな打ち込みでは物足りんぞ!
でぇいッ!
胡診:ぬうッッ!
ええぃまだまだ、これからよォ!
りゃああッ!
程普:むっ、あれは…殿が敵将と一騎討ちを!
はぁッ!
【馬を走らせる】
【二拍】
殿ーッ! そんな奴をおん自ら相手になさる必要はありませぬ!
この狼め、殿の手を煩わしおって!
首の代わりに槍でもくれてやるわ!
くたばれェェッッ!!
胡診:うッ!? ぐはァッ!!
孫堅:ははは、程普に手柄を持っていかれてしまったな!
程普:殿、敵は崩れましたぞ!
今こそ追い討ちを!
孫堅:ようし、全軍ッ追撃だ!
董卓軍部将:そ、そんな、胡診様が…!
華雄:くそッ、死なせてしまったわ!!
やむをえん、退け! 退却せぇ!
【二拍】
ええい、追ってきたな!
壁をよじ登ってきた奴には石や大木、矢の雨をくれてやれ!!
董卓軍部将:それッ者ども、やれィ!
敵をこれ以上登らせるな!
連合軍兵士1:うわっ、や、矢の雨が…!!
連合軍兵士2:くそっ、近づけねえッ!
程普:これはいかん、敵の士気はまだ十分だ!
殿、ここはいったん撤退されては。
孫堅:うむ、無駄な犠牲は避けねばな。
全軍、退けッ!
程普:銅鑼を鳴らせ! 退却だ!
者ども、長居は無用だ!
ナレ:かくして初戦はなかば痛み分けとなった。
孫堅は胡診の首を本陣へ送り、同時に兵糧の補給を依頼するが、
彼に恨みをいだく者が密かに袁紹へ告げ口する。
それを信じた袁紹は、とうとう兵糧を送らなかったのである。
それからひと月余り。
汜水関の守将、李粛は偵察隊の帰還を待っていた。
董卓軍部将:李粛様、ご報告いたします。
李粛:戻ったか。
孫堅軍の様子はどうだ?
董卓軍部将:はっ、どうもこのところ、孫堅軍には元気がないようです。
奇妙なのは、兵糧を炊く煙が上らないことです。
まさか、食わずに戦っているわけでもないでしょうが…。
李粛:ふむ…敵の後方、輸送路の方は最近どうだ?
董卓軍部将:ここ一ヶ月半ほど、兵糧が輸送された形跡はありません。
李粛:敵の馬の様子は?
董卓軍部将:この頃、妙に痩せてきているように思います。
李粛:敵兵の様子はどうだ?
董卓軍部将:よく故郷の歌を歌っています。
李粛:なるほどな…。
よろしい、よくわかった。
下がってよい。
【三拍】
華雄将軍、少し、よろしいでしょうか?
華雄:? 李粛か。
いかがした?
李粛:孫堅を生け捕る絶好の機会がやってきましたぞ。
今宵、それがしは部隊を率いて間道から敵の背後にまわり、
奇襲を仕掛けます。
将軍は火の光を合図に、正面から一気に孫堅軍を屠ってしまってくだ
さいませ。
華雄:ほう、成功の見込みはあるのか?
李粛:ありますとも。
それがしの探り得た情報によれば、孫堅は味方から何か疑われ、
兵糧を断たれているようです。
そのため兵の士気は下がり、まったく戦意が上がらないようです。
華雄:なるほど。
…今夜は月が明るいな。
李粛:はい。
まさに絶好の機会ではありませぬか。
華雄:よし、李粛に任せよう。
我らも出陣準備に入れ!
ふふふ、反乱軍め…その顔からさらに血の気を抜いてくれるわ…。
ナレ:その頃、孫堅軍の陣では兵糧が底をついてしばらく経っていた。
孫堅に恨みを持つ者のせいで兵糧の輸送が断たれていたのだが、
その事実は彼にとって、知るよしもなかった。
このため兵達は飢えて不平に燃え、規律も乱れ、馬も痩せている現状
だったのである。
連合軍兵士1:腹が…腹が減った…。
連合軍兵士2:食糧は…兵糧はまだなのか…?
孫堅:程普、兵糧はまだ届かんのか!?
程普:はい、馬車一台通りませぬ…。
孫堅:ぬううう……!
程普:兵も、馬もすっかり弱ってしまっております。
孫堅:【机を叩く】
一体、袁紹殿は何をしておるのだ!?
兵糧なしで戦えというのか!
程普:なぜ兵糧が届かないのか…。
もう一度使者を立ててみましょう。
孫堅:うッ!? なんだ、あの火は!
李粛:ふふふ、敵はすっかりへたばっておるわ。
それっ、火矢を射ろッ!
空を焦がすほど焼き尽くすのだ!
孫堅:いかん、敵の夜襲か!!
程普:ぬうぅ華雄め、兵糧が無いのを知って攻めてきたか!
孫堅:ええい者共、うろたえるな!
迎え撃て!!
連合軍兵士1:そ、そんなこと言ったって…、
腹が減って力がでねえ…!
連合軍兵士2:もうだめだ、に、逃げちまおう…!
ナレ:孫堅と家臣たちは兵達を激励し、防御態勢を取ろうとした。
しかし、兵糧を断たれてすっかり戦意喪失していた兵では話にならず
、彼らは我先にと逃げだしてしまう。
李粛率いる夜襲部隊は縦横無尽に火を放って回り、その様子は汜水関
からも望まれた。
董卓軍部将:申し上げます、華雄将軍!
敵陣から火の手が上がりました!!
華雄:よしッ、門を開け!
孫堅を生け捕りにしてこの汜水関へ迎えてやれ!!
全軍、進めーーーーーッッ!!
華雄・程普役以外:【喚声・SE代用可】
程普:くっ、新手か!?
殿、これでは戦になりませぬ!
孫堅:だ、だが我らがここで崩れては!
程普:どうかここは一時退却を!
それがしがしんがりを務めます!
孫堅:むむむ…分かった!
程普、死ぬなよ!
李粛:おおっ、孫堅が逃げるぞ!
者共、逃がすなッ、生け捕れェ!!
華雄:孫堅、逃げるとは卑怯なり!
待てィッ!
孫堅:何をッ! 貴様には矢でもくれてやる!
ふッ!
ぬうッ!
華雄:ははは、そんなヘロヘロ矢が当たってたまるか!
孫堅:おのれ、次の矢を…うッ!?
【弓が折れる】
しまった、弓が!! くそっ!
程普:殿、早くお逃げを!
防げ、防げーーーッ!!
ナレ:孫堅は途中、腹心の働きによって辛くもその命を拾う。
しかし、夜が明けて集まって来た味方は全軍の十分の一にも足りず、
ほぼ全滅的な敗北を喫していた。
一方、華雄は孫堅を破った余勢を駆って、連合軍本陣へ向けて殺到し
つつある。
その知らせは次々と総大将の袁紹の元へ駆けこんだ。
連合軍諸侯1:袁紹殿!
先鋒の孫堅軍は敵将華雄に夜襲をかけられ壊滅し、その生死は
不明との知らせが入りましたぞ!
袁紹:なんだと、孫堅が!?
【呟く】
(いかん、やはり兵糧を送るべきであったか…。)
曹操:ぬう…して、華雄軍の動きは!?
連合軍諸侯2:怒涛のごとくこちらへ押し寄せ、味方の第二陣
、第三陣、ことごとく突破されておるとのことだ。
曹操:華雄め…なんという万夫不当ぶりか…!
連合軍諸侯1:これはまずい…本陣まで攻め寄せてくるのも時間の問題だぞ
。
連合軍諸侯2:うむ…しかし、いかがすべきか…。
曹操:うろたえられるな!
大将がうろたえては兵の士気は下がり、浮足立ちますぞ!
こういう時は酒でも飲んで気を大きく持つにかぎる。
酒を持て!
ナレ:曹操も従者に酒を注がせたが、呑むほどに顔面は蒼白となった。
その間も華雄軍の勢いは止まらず、我こそと駆け出して行った味方の
兪渉や潘鳳も、華雄に難なく討たれてしまう。
斬られた首が敵兵達に手玉に抛られ弄ばれているとの知らせに、
連合軍諸将の士気はいよいよ下がった。
袁紹:おのれ華雄め!
こんな事なら我が軍の猛将、顔良と文醜の二大将を連れて来るのだっ
た!
ここには天下の諸侯もいるというのに、華雄一人討てる将がいなかっ
たとあっては物笑いではないか!?
末代までの恥辱ではないのか!?
関羽:ここに人がいない、とは言いすぎではござらぬか?
それがしに命じて下されば、華雄を討ち取ってごらんに入れる。
袁紹:な、なんだ、何者か?
関羽:それがしは関羽雲長、劉備玄徳の義弟でござる。
袁紹:おお、先に席を与えた劉備殿の弟か。
して、いかなる官職にあった者か?
関羽:劉備玄徳が部下で、ほんの兵卒にすぎません。
袁紹:な、な、なんだと!?
たかが足軽の分際で諸侯の前で大言壮語を吐くか!
このような者がなぜここにいる!
早くつまみ出せ!
曹操:待たれよ、袁紹殿。
味方で言い争っている場合ではない。
この男もこれだけの将軍諸侯を前にしてあれほどの大言を吐くからに
は、ただのたわごととも思えぬ。
試みに行かせてみては?
袁紹:確かに一理はあるが、足軽などを差し向けなどしたら、我が軍にそこま
で人がいないのかと華雄に笑われかねぬぞ!
曹操:笑わば笑え。
見た所、世の常ではない面魂を備えている。
敵もすでに間近に迫ってきている。
猶予はない。
関羽、では貴公に任せよう。
まず一杯飲んで、すぐに向かうがよい!
関羽:…。
ありがたい仰せではあるが、その酒はしばらくそこにお預かりおき
願いたい。
ひと走り駆けて華雄の首を持ち帰ってのち、頂戴すると致します。
はあッ!
曹操:……。
袁紹:曹操、本当に良かったのか…!?
曹操:足軽一人、死んだところで痛くも痒くもない。
むしろ華雄が足軽に討たれたとなれば、そちらのほうが笑いものにな
ろう。
袁紹:ふむう…。
曹操:それに、足軽にさえこれ程の豪傑がいたとなれば、敵に与える心理効
果は計り知れないであろう。
袁紹:な、なるほど…。
ナレ:関羽は酒には手を触れず、引き寄せた馬にまたがるや一陣の風を巻き
起し、華雄軍へまっしぐらに向かっていく。
一方、華雄は逃げ惑う連合軍の兵士を左右に薙ぎ立てながら袁紹のい
る本陣を目指していた。
華雄:ふんッ! どぉうあッ!!
袁紹ッ、曹操ッ、どこにいる!
董卓様に逆らう愚か者共が!
その肉を塩漬けにして喰ろうてくれるわ!!
関羽:華雄! 華雄はいずこにあるか! 出合えッ!
この関羽に恐れをなしたか!
華雄:なんだ?
ふん! ただの足軽ではないか、小癪な!
髭だけは立派な奴め、まずはそれから斬り落としてくれるぞ!
関羽:見てくれだけで決めつけると痛い目に逢うぞ!
それがしの青龍偃月刀が受けられるか!
ぬううぉぉぉおおッッ!!
華雄:ぐっ、ぬう!!
な、なんだこの力は!
手が、痺れる…!!
関羽:どうした、この程度か華雄!!
華雄:おのれェ足軽!
なめるなァッ!!
関羽:ふんッ!
冥土の土産に我が名を持って行け!!
それがしは関羽、字は雲長なり!!!
でぇええええいッッ!!!
華雄:ぐぅおおおぁああッッ!!
李粛:ば、バカな、華雄将軍が…。
董卓軍部将:な、なんだあの男は…化け物か…。
連合軍諸侯1:あの華雄を、まるで子供扱いに…!
連合軍諸侯2:す、すごい…本当にただの足軽なのか?
袁紹:? …なんだ、敵も味方も静まり返ったぞ…?
曹操:動きが止まった…一体、何が起きている?
! 見ろ、関羽だ…!
袁紹:こちらに悠々と引き返してくるぞ…。
あ、あの首は!?
関羽:いざ、諸侯のご見参に入れん。
華雄が首でござる。
袁紹:おおお! 華雄だ、華雄の首だ!
曹操:なんと凄い男よ…!
関羽:では、杯を頂戴いたします。
【二拍】
ふーっ、沁みるわ…。
曹操:関羽よ、見事であった。
もう一献、注いでやろう。
関羽:いや、それがし一人の誉れとしては済みませぬゆえ、
その一献は全軍の為に上げていただきたい。
曹操:おう、いかにもそうであった。
【二拍】
(実に素晴らしい武者ぶりと武勇だ…! この男のような将を臣下に
加えたい…!!)
袁紹:よし、これで敵は大将を失った!
もはや烏合の衆も同然!
諸侯よ、追撃だ!
敵を汜水関へ生かして帰すな!!
袁紹・李粛役以外:【喚声・SE代用可】
李粛:いかん、退け、退けえッ!
全軍、汜水関まで撤退し、守りを固めよ!!
そこの者、汝は洛陽へ救援要請に向かえ!
董卓軍部将:は、ははっ!
ただちに!
ナレ:関羽の働きにより、戦況は一変した。
将を討たれ戦意喪失した董卓軍の兵は、我先に汜水関へ逃げ込もうと
する。
だが、その大半は連合軍の追撃を受けて荒野に屍を晒すこととなった
。
【二拍】
華雄討たれたり
華雄軍崩れたり
敗北の注進は洛陽の董卓の元へ駆けこんだ。
董卓:な、なんだと!? 華雄が討ち取られただと!?
李儒:敵の力、侮れませぬな…、今の味方の状況は?
董卓軍部将:汜水関に逃げ帰っております。
董卓:うかつに関を出るなと命じておけ。
董卓軍部将:李粛様は、援軍の到着するまで汜水関の守りを固めるとの
事です。
董卓:しかし…どうしてあれほどな勇将がむざむざやられのだ?
李儒:何と言っても、袁紹には地方的な勢力や信望がありますからな…。
董卓:よし、まずは李カク、郭汜!
そち達は五万の兵を率いて汜水関へ救援に向かえ!
わしは自ら十五万の兵を率いて虎牢関へ向かう!
呂布は虎牢関に着いたら関の外に精兵三万を率いて布陣するのじゃ!
出陣の用意をせい!
ナレ:風雲急を告げる。
董卓は李儒、呂布、張済、樊稠など錚々(そうそう)たる将達に十五万の大軍を率
い、即日出陣した。
洛陽を隔てること南へ五十里あまり、この天嶮の要害に十万の兵を
もって守れば、天下の諸侯は道を失うとまで言われたのが虎牢関で
ある。
かくして世に名高い虎牢関の攻防が、天下の諸侯と飛将軍・呂布の戦
いが、始まろうとしていた。
END
大分前にできていたものですが、上げるのが遅くなってしまいました。
楽しんでいただけたなら幸いです。