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苦手な方はご注意ください。

三国志演義

三国志演義・汜水関の戦い~反董卓連合軍~

作者: 霧夜シオン

曹操は偽りの勅命をもって諸侯を集めると、盟主に名族の袁紹を推薦。

反董卓連合軍はいよいよ動き出そうとしていた。


声劇台本:三国志演義・汜水関しすいかんの戦い~反董卓連合軍はんとうたくれんごうぐん


作者:霧夜シオン


所要時間:約25分


必要演者数:最低10人

      (9:0:1)


※他に良い組み合わせがあれば教えていただければ幸いです。



配役例【()内はセリフ総数】


曹操:(18)

袁紹:(20)

孫堅:(18)

華雄:(19)

李粛・李儒:(11+8)

董卓・連合軍兵士2:(13+3)

程普・連合軍兵士1:(11+3)

関羽・連合軍諸侯1:(11+7)

胡診・董卓軍部将:(8+12)

ナレ・連合軍諸侯2:(12+7)




※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しまし

 た。


はじめに:この一連の三国志台本は、

     故・横山光輝先生

     故・吉川英治先生

     北方健三先生

     蒼天航路

     の三国志や各種ゲーム等に加え、

     作者の想像

     を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のため

     本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事も

     多々あります。

     その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって

     打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいてお

     ります。何卒ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合

     がありますので、注意してください。

     なお、性別逆転は基本的に不可とします。



●登場人物


曹操そうそう・♂:あざな孟徳もうとく

     漢の相国しょうこく曹参そうしん末裔まつえいを名乗る。

     人相見に「治世の能臣、乱世の奸雄」と評された、兵法、政治、

     果ては詩文にまで名を残す事になる。

     三国志版の覇王にして破格の英雄とも言うべき人物だが、この時

     はまだほとんど力のない状態。

     三十五歳。


袁紹えんしょう・♂:あざな本初ほんしょ

     代々漢王室に仕える名族・袁家えんけの子孫。

     優れた所もあるが、優柔不断な性格でもある。

     反董卓連合軍はんとうたくれんごうぐんの総大将に推される。

     三十後半~四十代。


孫堅そんけん・♂:あざな文台ぶんだい

     長沙ちょうさ太守たいしゅにして、いにしえの兵法家、孫子そんしの子孫を名乗る。

     演義では本来自分のするはずだった活躍を奪われるなどの

     不遇な扱いを受けているが、正史では三国志最強の一角と言って

     よい実力の持ち主だったと伝わる。

     四十代後半。


程普ていふ・♂:あざな徳謀とくぼう

     孫堅そんけん軍の副将を務める。

     風貌ふうぼうが優れ、先を見通す力もあり、

     人との応対も巧みにこなしたという。


華雄かゆう・♂:字は伝わっていない。

     董卓とうたく配下の武勇に優れた、立派な体躯たいくの将軍。

     董卓とうたくへ志願して前線の汜水関しすいかんを守るべく、副将に胡診こしん李粛りしゅくを率

     いておもむく。

     約四十代。


胡診こしん・♂:字は伝わっていない。

     副将として華雄かゆうに従い、汜水関しすいかんの守備に赴く。

     しかし初戦で孫堅そんけんを見つけて打ちかかるが、横から程普ていふに投げつ

     けられた槍で喉を貫かれ、討ち取られる。


関羽かんう・♂:字は雲長うんちょう

     劉備りゅうびの義兄弟として黄巾こうきんの乱で活躍したが、その後は時に恵まれ

     ず、義弟の張飛ちょうひと三人で流浪の日々を過ごしていた。

     今回、曹操そうそうが起こした反董卓連合軍に参加するべく、劉備りゅうびの昔馴

     染みである北平の公孫瓚こうそんさんの軍に兄弟で陣借りしている。


李粛りしゅく・♂:字は伝わっていない。

     かつて丁原ていげんの養子だった呂布りょふに、董卓とうたくから預かった赤兎馬せきとばと黄金

     を贈り、寝返りを勧めた人物。


董卓とうたく・♂:あざな仲穎ちゅうえい

     涼州りょうしゅうの長官。

     十常侍じゅうじょうじの乱に乗じて洛陽らくようへ居座り、献帝けんていを擁立し、自らを相国しょうこく

     と名乗り、気に入らぬ者は一族郎党皆殺し、強欲でほしいままに

     権力を振るい、暴虐の限りを尽くす。

     五十四歳。

 

李儒りじゅ・♂:字は文優ぶんゆう

     董卓とうたくの腹心にして知恵袋。

     この主にしてこの部下あり、を地で行く。

     献帝けんていの腹違いの兄であるべん王子と、その母である何太后かたいごうを塔の

     上から突き落として殺すなど、残虐非道の限りを尽くす。

     大体四十代。


連合軍諸侯1・♂♀不問:反董卓連合軍に参加した諸侯。

            十八か国から集まった者達その1。


連合軍諸侯2・♂♀不問:反董卓連合軍に参加した諸侯。

            十八か国から集まった者達その2。


連合軍兵士1・♂♀不問:反董卓連合軍の名も無き兵士。


連合軍兵士2・♂♀不問:反董卓連合軍の名も無き兵士その2。


董卓軍部将・♂♀不問:董卓配下の名も無き部将。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いしま

 す。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


ナレ:我、天子てんしより密かに勅命ちょくめいを受けて逆臣ぎゃくしん董卓とうたくを討つ軍を起こすものであ

   る。

   曹操そうそうが唱え出した大義にまず近隣の不遇な者達が動かされ、

   続いて陳宮ちんきゅう献策けんさくによって各地へ飛ばした使者に諸侯が反応し、

   彼の元へ集まってきた。

   河南かなん地方の大富豪を説得し、その懐から潤沢じゅんたくな軍資金を引き出して

   軍備にかかっているその様子は、周囲を十分信用させるに足るものだ

   った。

   いつの間にか曹操そうそうのいる陳留ちんりゅうの地には、数十万の大軍が集結していた

   のである。


曹操:ふふふ、河南かなんの地を兵馬で埋めてみせる、か。

   今や絵空事えそらごとではなくなった。

   これなら董卓とうたくを討つことも不可能ではない…!


連合軍諸侯1:曹操そうそう殿!

       おられるか!?


連合軍諸侯2:我ら一同、曹操そうそう殿に折り入って相談の儀がござる!


曹操:おお諸公、何事であろうか?


連合軍諸侯1:曹操そうそう殿、我らはいまや、数十万を数える大兵力となりました。


連合軍諸侯2:これほどの大軍、指揮する者がいなければただの烏合うごうの衆に

       なってしまう。

       速やかに総大将を決め、命令を発してもらうべきと存ずる。


曹操:いかにも。

   …では、私は袁紹えんしょう殿を推挙すいきょしたいと思う!

   彼は代々漢王室の重職じゅうしょくになってきた名族の家柄だ。

   実力、人望共に申し分ないと思われるが。


連合軍諸侯1:確かに…袁紹えんしょう殿ならば異存はない!


連合軍諸侯2:うむ、袁紹えんしょう殿こそ我らの総大将にいただくに相応ふさわしかろう。


袁紹:いや、私はそのうつわではない。誰か他におられぬか?


連合軍諸侯1:いやいや、名族出身である袁紹えんしょう殿にお願い致したい。


連合軍諸侯2:そうだ、我らは進んでその命に従いましょうぞ!


曹操:袁紹えんしょう、ここで互いに譲り合っていてはいたずらに時を費やし、

   かえって敵に付け込まれるかもしれぬ。

   すみやかに総大将となってくれ。


袁紹:うむむ……、分かった! お引き受けいたそう!


曹操:では明日、祭壇をきずいて総大将就任の儀式をとり行う!


ナレ:翌日、袁紹えんしょうは衣服や冠を整えて祭壇に上がると牛馬をほふり、香を

   て天に捧げ、声明を発した。


袁紹:天地の神々よ!

   今、諸侯に推されて総大将の任を受けるこの袁紹えんしょう、死力を尽くして

   漢王室かんおうしつ危急ききゅうを救い、逆賊を討ち滅ぼす!

   もって、苦しみにあえ天下万民てんかばんみんを救う事を誓うものである!


袁紹役以外:【歓声・SE代用可】


袁紹:諸侯しょこうよ!

   この袁紹えんしょう不才ふさいの身ではあるが、推薦を受けて連合軍総大将の任に

   ついた。

   それゆえ、功ある者は賞し、罪ある者は必ず罰する!


袁紹役以外:ははーっ!!!【SE代用可】


袁紹:我が弟の袁術えんじゅつは経理の才能があるゆえ、彼に兵糧ひょうろうをつかさどらせ、

   諸将の陣に兵糧ひょうろうを不足させぬよう取りはからおう!


袁紹役以外:おうッ!!【SE代用可】


袁紹:我らはこれよりすみやかに北上し、董卓とうたくと戦う事になる。

   誰か、先陣を切って汜水関しすいかんを攻め破る者はいないか!


孫堅:その任、我が引き受けた!


曹操:おお、長沙ちょうさ太守たいしゅ孫堅そんけん殿か!


袁紹:うむ、彼ならばやるであろう!

   よし、汜水関しすいかんをみごと破って参られィ!


ナレ:一方、都の洛陽らくようでは袁紹えんしょう曹操そうそう挙兵きょへいしたという知らせを持った早馬

   が次々と駆けこんでいた。


李儒:丞相じょうしょう、一大事でございます!


董卓:【眠そうに】

   なんだ李儒りじゅ、こんな朝早くから。


李儒:大事だいじ勃発ぼっぱつしました。


董卓:【まだ眠そうに】

   どこにだ。


李儒:河南かなん陳留ちんりゅうを中心としてです。


董卓:ぬう…では首謀者は、曹操そうそう袁紹えんしょうの奴だな。

   それで、何をしでかしたのだ。


李儒:天子てんしみことのりを受けたと偽り、あっという間に十八か所の諸侯をたぶらか

   し、数十万にわたる大軍を集めました。


董卓:何ィ!? それは捨ておけんな…!


李儒:さらに敵の第一陣は孫堅そんけんが率い、汜水関しすいかん近くまで攻め上ってきたとの

   事です。


董卓:孫堅そんけんか。

   確か長沙ちょうさ太守たいしゅだったな。

   いくさは上手いのか?


李儒:はい。

   かの有名な、孫子そんし末裔まつえいだと言われております。


董卓:なに、あの大軍師とうたわれた孫子そんしのか!

   ぬうう、ならばこちらもそれなりの大物をつかわさねばなるまい。

   呂布りょふに命じるか…?


華雄:お待ちください、丞相じょうしょう

   にわとりくのに、牛を切る刀を用いる必要はありませぬ!


董卓:む? おお、華雄かゆう将軍か!


華雄:急を聞いて駆けつけて参りました。

   敵先鋒てきせんぽう孫堅そんけんごとき、それがしが蹴散らして見せましょうぞ!


董卓:うむ! よくぞ申した!

   では華雄かゆう将軍、そちに先鋒せんぽうを命じる!

   副将に胡診こしん李粛りしゅく、そして五万の兵を与えるゆえ、汜水関しすいかんを守りぬい

   て我が心を安んずるのだ!


華雄:ははっ、ありがたきお言葉!

   吉報きっぽうをお待ち下され!


董卓:ふふふ、頼もしい奴よ! 行けィ!


ナレ:華雄かゆうはただちに汜水関しすいかんへ至ると関門の守備を固め、連合軍を待ち受け

   る。

   かたや孫堅そんけんも十分な備えを済ませると、正面から堂々と攻めよせた。


孫堅:敵の大将は華雄かゆうか、相手にとって不足は無い。


   【二拍】


   逆臣ぎゃくしん董卓とうたくを助ける愚か者め!

   我は義軍ぎぐんの将なり! 時勢は刻々と移っているのがその眼には見えな

   いか!


華雄:はっはははは! 笑うべきたわ言をほざく奴だ!


   しかし敵もなかなかやるわ。

   誰か、敵将・孫堅そんけんを討ち取って第一の功績を誇る者はおらんか!?


胡診:それがしが参りましょう!

   どうかお命じ下され!


華雄:おう、胡診こしんか。

   よし、五千の兵を与えるゆえ、見事首を取って参れ!


胡診:ははっ!

   者ども出陣だ!

   関門を開けィ!


華雄:よし、万が一の為に兵一万を率いて側面から敵を突くか。

   続けィ!


胡診:さあ突っ込め!

   狙うは孫堅そんけんの首だ!!


胡診役以外:【喚声・SE代用可】


胡診:我こそは汜水関しすいかん副将の胡診こしん

   雑魚ざこに用はない! 孫堅そんけん、どこだ!

   臆病風おくびょうかぜに吹かれてなければ出てこォい!!


孫堅:孫文台そんぶんだいこれにあり!

   胡診こしんとやら、勇気だけは買ってやるぞ!

   さあ来いッ!!


胡診:おお孫堅そんけん、そこにいたか!

   その首、もらい受ける!!

   おりゃああ!!


孫堅:ふんッ!

   なんだ、この程度か!?


胡診:何ィ、貴様こそ猪口才ちょこざいな!!

   はあッ!


孫堅:そんな打ち込みでは物足りんぞ!

   でぇいッ!


胡診:ぬうッッ!

   ええぃまだまだ、これからよォ!

   りゃああッ!


程普:むっ、あれは…殿が敵将と一騎討ちを!

   はぁッ!

   【馬を走らせる】


   【二拍】


   殿ーッ! そんな奴をおん自ら相手になさる必要はありませぬ!

   この狼め、殿の手をわずらわわしおって!

   首の代わりにやりでもくれてやるわ!

   くたばれェェッッ!!


胡診:うッ!? ぐはァッ!!


孫堅:ははは、程普ていふ手柄てがらを持っていかれてしまったな!


程普:殿、敵は崩れましたぞ!

   今こそ追い討ちを!


孫堅:ようし、全軍ッ追撃だ!


董卓軍部将:そ、そんな、胡診こしん様が…!


華雄:くそッ、死なせてしまったわ!!

   やむをえん、退け! 退却せぇ!


   【二拍】


   ええい、追ってきたな!

   壁をよじ登ってきた奴には石や大木、矢の雨をくれてやれ!!


董卓軍部将:それッ者ども、やれィ!

      敵をこれ以上登らせるな!


連合軍兵士1:うわっ、や、矢の雨が…!!


連合軍兵士2:くそっ、近づけねえッ!


程普:これはいかん、敵の士気はまだ十分だ!

   殿、ここはいったん撤退てったいされては。


孫堅:うむ、無駄な犠牲は避けねばな。

   全軍、退けッ!


程普:銅鑼どらを鳴らせ! 退却だ!

   者ども、長居ながいは無用だ!


ナレ:かくして初戦はなかば痛み分けとなった。

   孫堅そんけん胡診こしんの首を本陣へ送り、同時に兵糧ひょうろうの補給を依頼するが、

   彼に恨みをいだく者が密かに袁紹えんしょうへ告げ口する。

   それを信じた袁紹えんしょうは、とうとう兵糧ひょうろうを送らなかったのである。

   それからひと月余り。

   汜水関しすいかんの守将、李粛りしゅくは偵察隊の帰還を待っていた。


董卓軍部将:李粛りしゅく様、ご報告いたします。


李粛:戻ったか。

   孫堅そんけん軍の様子はどうだ?


董卓軍部将:はっ、どうもこのところ、孫堅そんけん軍には元気がないようです。

      奇妙なのは、兵糧ひょうろうく煙が上らないことです。

      まさか、食わずに戦っているわけでもないでしょうが…。


李粛:ふむ…敵の後方、輸送路の方は最近どうだ?


董卓軍部将:ここ一ヶ月半ほど、兵糧ひょうろうが輸送された形跡はありません。


李粛:敵の馬の様子は?


董卓軍部将:この頃、妙にせてきているように思います。


李粛:敵兵の様子はどうだ?


董卓軍部将:よく故郷の歌を歌っています。


李粛:なるほどな…。

   よろしい、よくわかった。

   下がってよい。


   【三拍】


   華雄かゆう将軍、少し、よろしいでしょうか?


華雄:? 李粛りしゅくか。

   いかがした?


李粛:孫堅そんけんを生ける絶好の機会がやってきましたぞ。

   今宵こよい、それがしは部隊を率いて間道かんどうから敵の背後にまわり、

   奇襲きしゅうを仕掛けます。

   将軍は火の光を合図に、正面から一気に孫堅そんけん軍をほふってしまってくだ

   さいませ。


華雄:ほう、成功の見込みはあるのか?


李粛:ありますとも。

   それがしのさぐり得た情報によれば、孫堅そんけんは味方から何か疑われ、

   兵糧ひょうろうを断たれているようです。

   そのため兵の士気は下がり、まったく戦意が上がらないようです。


華雄:なるほど。

   …今夜は月が明るいな。


李粛:はい。

   まさに絶好の機会ではありませぬか。


華雄:よし、李粛りしゅくに任せよう。

   我らも出陣準備に入れ!

   ふふふ、反乱軍め…その顔からさらに血のを抜いてくれるわ…。


ナレ:その頃、孫堅そんけん軍の陣では兵糧ひょうろうが底をついてしばらく経っていた。

   孫堅そんけんに恨みを持つ者のせいで兵糧ひょうろうの輸送が断たれていたのだが、

   その事実は彼にとって、知るよしもなかった。

   このため兵達は飢えて不平に燃え、規律も乱れ、馬もせている現状

   だったのである。


連合軍兵士1:腹が…腹が減った…。


連合軍兵士2:食糧は…兵糧はまだなのか…?


孫堅:程普、兵糧ひょうろうはまだ届かんのか!?


程普:はい、馬車一台通りませぬ…。


孫堅:ぬううう……!


程普:兵も、馬もすっかり弱ってしまっております。


孫堅:【机を叩く】

   一体、袁紹えんしょう殿は何をしておるのだ!?

   兵糧ひょうろうなしで戦えというのか!


程普:なぜ兵糧ひょうろうが届かないのか…。

   もう一度使者を立ててみましょう。

   

孫堅:うッ!? なんだ、あの火は!


李粛:ふふふ、敵はすっかりへたばっておるわ。

   それっ、火矢ひやを射ろッ!

   空を焦がすほど焼き尽くすのだ!


孫堅:いかん、敵の夜襲か!!


程普:ぬうぅ華雄め、兵糧が無いのを知って攻めてきたか!


孫堅:ええい者共、うろたえるな!

   迎え撃て!!


連合軍兵士1:そ、そんなこと言ったって…、

       腹が減って力がでねえ…!


連合軍兵士2:もうだめだ、に、逃げちまおう…!


ナレ:孫堅そんけんと家臣たちは兵達を激励げきれいし、防御態勢を取ろうとした。

   しかし、兵糧ひょうろうを断たれてすっかり戦意喪失していた兵では話にならず

   、彼らは我先われさきにと逃げだしてしまう。

   李粛りしゅく率いる夜襲やしゅう部隊は縦横無尽じゅうおうむじんに火を放って回り、その様子は汜水関しすいかん

   からも望まれた。


董卓軍部将:申し上げます、華雄かゆう将軍!

      敵陣から火の手が上がりました!!


華雄:よしッ、門を開け!

   孫堅そんけんを生けりにしてこの汜水関しすいかんへ迎えてやれ!!

   全軍、進めーーーーーッッ!!


華雄・程普役以外:【喚声・SE代用可】


程普:くっ、新手あらてか!?

   殿、これではいくさになりませぬ!


孫堅:だ、だが我らがここで崩れては!


程普:どうかここは一時退却を!

   それがしがしんがりを務めます!


孫堅:むむむ…分かった!

   程普ていふ、死ぬなよ!


李粛:おおっ、孫堅そんけんが逃げるぞ!

   者共、逃がすなッ、生けれェ!!


華雄:孫堅そんけん、逃げるとは卑怯なり!

   待てィッ! 


孫堅:何をッ! 貴様には矢でもくれてやる!

   ふッ!

   ぬうッ!


華雄:ははは、そんなヘロヘロ矢が当たってたまるか!


孫堅:おのれ、次の矢を…うッ!?

   【弓が折れる】

   しまった、弓が!! くそっ!


程普:殿、早くお逃げを!

   防げ、防げーーーッ!!


ナレ:孫堅そんけんは途中、腹心の働きによって辛くもその命を拾う。

   しかし、夜が明けて集まって来た味方は全軍の十分の一にも足りず、

   ほぼ全滅的な敗北を喫していた。

   一方、華雄かゆう孫堅そんけんを破った余勢よせいを駆って、連合軍本陣へ向けて殺到し

   つつある。

   その知らせは次々と総大将の袁紹えんしょうの元へ駆けこんだ。


連合軍諸侯1:袁紹殿!

       先鋒せんぽう孫堅そんけん軍は敵将華雄てきしょうかゆうに夜襲をかけられ壊滅し、その生死は

       不明との知らせが入りましたぞ!


袁紹:なんだと、孫堅そんけんが!?

   【呟く】

   (いかん、やはり兵糧ひょうろうを送るべきであったか…。)


曹操:ぬう…して、華雄かゆう軍の動きは!?


連合軍諸侯2:怒涛どとうのごとくこちらへ押し寄せ、味方の第二陣

       、第三陣、ことごとく突破されておるとのことだ。


曹操:華雄かゆうめ…なんという万夫不当ばんぷふとうぶりか…!


連合軍諸侯1:これはまずい…本陣まで攻め寄せてくるのも時間の問題だぞ

       。


連合軍諸侯2:うむ…しかし、いかがすべきか…。


曹操:うろたえられるな!

   大将がうろたえては兵の士気は下がり、浮足うきあし立ちますぞ!

   こういう時は酒でも飲んで気を大きく持つにかぎる。

   酒を持て!


ナレ:曹操そうそうも従者に酒をがせたが、むほどに顔面は蒼白そうはくとなった。

   その間も華雄かゆう軍の勢いは止まらず、我こそと駆け出して行った味方の

   兪渉ゆしょう潘鳳はんぽうも、華雄かゆうに難なく討たれてしまう。

   斬られた首が敵兵達に手玉にほうられもてあそばれているとの知らせに、

   連合軍諸将の士気はいよいよ下がった。


袁紹:おのれ華雄かゆうめ!

   こんな事なら我が軍の猛将、顔良がんりょう文醜ぶんしゅう二大将にだいしょうを連れて来るのだっ

   た!

   ここには天下の諸侯もいるというのに、華雄かゆう一人討てる将がいなかっ

   たとあっては物笑いではないか!?

   末代まつだいまでの恥辱ちじょくではないのか!?


関羽:ここに人がいない、とは言いすぎではござらぬか?

   それがしに命じて下されば、華雄かゆうを討ち取ってごらんに入れる。


袁紹:な、なんだ、何者か?


関羽:それがしは関羽雲長かんううんちょう劉備玄徳りゅうびげんとく義弟ぎていでござる。


袁紹:おお、先に席を与えた劉備りゅうび殿の弟か。

   して、いかなる官職にあった者か?


関羽:劉備玄徳りゅうびげんとくが部下で、ほんの兵卒へいそつにすぎません。


袁紹:な、な、なんだと!?

   たかが足軽あしがる分際ぶんざいで諸侯の前で大言壮語たいげんそうごを吐くか!

   このような者がなぜここにいる!

   早くつまみ出せ!


曹操:待たれよ、袁紹えんしょう殿。

   味方で言い争っている場合ではない。

   この男もこれだけの将軍諸侯しょうぐんしょこうを前にしてあれほどの大言たいげんを吐くからに

   は、ただのたわごととも思えぬ。

   試みに行かせてみては?


袁紹:確かに一理はあるが、足軽あしがるなどを差し向けなどしたら、我が軍にそこま

   で人がいないのかと華雄かゆうに笑われかねぬぞ!


曹操:笑わば笑え。

   見た所、世のつねではない面魂つらだましいを備えている。

   敵もすでに間近まぢかに迫ってきている。

   猶予ゆうよはない。

   関羽かんう、では貴公に任せよう。

   まず一杯飲んで、すぐに向かうがよい!


関羽:…。

   ありがたいおおせではあるが、その酒はしばらくそこにお預かりおき

   願いたい。

   ひと走り駆けて華雄かゆうの首を持ち帰ってのち、頂戴ちょうだいすると致します。

   はあッ!


曹操:……。


袁紹:曹操そうそう、本当に良かったのか…!?


曹操:足軽あしがる一人、死んだところで痛くもかゆくもない。

   むしろ華雄かゆう足軽あしがるに討たれたとなれば、そちらのほうが笑いものにな

   ろう。


袁紹:ふむう…。


曹操:それに、足軽あしがるにさえこれ程の豪傑ごうけつがいたとなれば、敵に与える心理効

   果は計り知れないであろう。


袁紹:な、なるほど…。


ナレ:関羽かんうは酒には手を触れず、引き寄せた馬にまたがるや一陣の風を巻き

   起し、華雄かゆう軍へまっしぐらに向かっていく。

   一方、華雄かゆうは逃げ惑う連合軍の兵士を左右に薙ぎ立てながら袁紹えんしょうのい

   る本陣を目指していた。


華雄:ふんッ! どぉうあッ!!

   袁紹えんしょうッ、曹操そうそうッ、どこにいる!

   董卓とうたく様に逆らう愚か者共が!

   その肉を塩漬けにして喰ろうてくれるわ!!


関羽:華雄かゆう! 華雄かゆうはいずこにあるか! 出合えッ!

   この関羽かんうに恐れをなしたか!


華雄:なんだ?

   ふん! ただの足軽あしがるではないか、小癪こしゃくな!

   ひげだけは立派な奴め、まずはそれから斬り落としてくれるぞ!


関羽:見てくれだけで決めつけると痛い目に逢うぞ!

   それがしの青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうが受けられるか!

   ぬううぉぉぉおおッッ!!


華雄:ぐっ、ぬう!!

   な、なんだこの力は!

   手が、しびれる…!!


関羽:どうした、この程度か華雄かゆう!!


華雄:おのれェ足軽あしがる

   なめるなァッ!!


関羽:ふんッ!

   冥土の土産みやげに我が名を持って行け!!

   それがしは関羽かんうあざな雲長うんちょうなり!!!

   でぇええええいッッ!!!


華雄:ぐぅおおおぁああッッ!!


李粛:ば、バカな、華雄かゆう将軍が…。


董卓軍部将:な、なんだあの男は…化け物か…。


連合軍諸侯1:あの華雄かゆうを、まるで子供扱いに…!


連合軍諸侯2:す、すごい…本当にただの足軽あしがるなのか?


袁紹:? …なんだ、敵も味方も静まり返ったぞ…?


曹操:動きが止まった…一体、何が起きている?

   ! 見ろ、関羽かんうだ…!


袁紹:こちらに悠々と引き返してくるぞ…。

   あ、あの首は!?


関羽:いざ、諸侯のご見参けんざんに入れん。

   華雄かゆうが首でござる。


袁紹:おおお! 華雄かゆうだ、華雄かゆうの首だ!


曹操:なんと凄い男よ…!


関羽:では、さかずき頂戴ちょうだいいたします。


   【二拍】


   ふーっ、みるわ…。


曹操:関羽かんうよ、見事であった。

   もう一献いっこんいでやろう。


関羽:いや、それがし一人のほまれとしては済みませぬゆえ、

   その一献いっこんは全軍の為に上げていただきたい。


曹操:おう、いかにもそうであった。


   【二拍】


   (実に素晴らしい武者ぶりと武勇だ…! この男のような将を臣下に

   加えたい…!!)


袁紹:よし、これで敵は大将を失った!

   もはや烏合うごうの衆も同然!

   諸侯よ、追撃だ!

   敵を汜水関しすいかんへ生かして帰すな!!


袁紹・李粛役以外:【喚声・SE代用可】


李粛:いかん、退け、退けえッ!

   全軍、汜水関しすいかんまで撤退し、守りを固めよ!!

   そこの者、なんじ洛陽らくようへ救援要請に向かえ!


董卓軍部将:は、ははっ!

      ただちに!


ナレ:関羽かんうの働きにより、戦況は一変した。

   将を討たれ戦意喪失した董卓とうたく軍の兵は、我先われさき汜水関しすいかんへ逃げ込もうと

   する。

   だが、その大半は連合軍の追撃を受けて荒野にしかばねさらすこととなった

   。


   【二拍】


   華雄かゆう討たれたり

   華雄かゆう軍崩れたり

   敗北の注進ちゅうしん洛陽らくよう董卓とうたくの元へ駆けこんだ。


董卓:な、なんだと!? 華雄かゆうが討ち取られただと!?


李儒:敵の力、あなどれませぬな…、今の味方の状況は?


董卓軍部将:汜水関しすいかんに逃げ帰っております。


董卓:うかつにかんを出るなと命じておけ。


董卓軍部将:李粛りしゅく様は、援軍の到着するまで汜水関しすいかんの守りを固めるとの

      事です。


董卓:しかし…どうしてあれほどな勇将がむざむざやられのだ?


李儒:何と言っても、袁紹えんしょうには地方的な勢力や信望がありますからな…。


董卓:よし、まずはカク、郭汜かくし

   そち達は五万の兵を率いて汜水関しすいかんへ救援に向かえ!

   わしはみずから十五万の兵を率いて虎牢関ころうかんへ向かう!

   呂布りょふ虎牢関ころうかんに着いたらかんの外に精兵三万せいへいさんまんを率いて布陣ふじんするのじゃ!

   出陣の用意をせい!


ナレ:風雲急ふううんきゅうを告げる。

   董卓とうたく李儒りじゅ呂布りょふ張済ちょうさい樊稠はんちょうなど錚々(そうそう)たる将達に十五万の大軍を率

   い、即日出陣した。

   洛陽らくようへだてること南へ五十里あまり、この天嶮てんけんの要害に十万の兵を

   もって守れば、天下の諸侯は道を失うとまで言われたのが虎牢関ころうかん

   ある。   

   かくして世に名高い虎牢関ころうかんの攻防が、天下の諸侯と飛将軍ひしょうぐん呂布りょふの戦

   いが、始まろうとしていた。



END


大分前にできていたものですが、上げるのが遅くなってしまいました。

楽しんでいただけたなら幸いです。

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