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2,抗争勃発

「おれ──美術部をやめます!」

 部室にいるみんなが一斉にぼくの顔を見る。

「ええ──?」

 それは桜の枝も緑や黄緑の葉を蓄え始め、何だか少し蒸し暑いような、青天の日の出来事だった。




「黒木の奴を出せ」

「黒木ならもう帰ったよ」

「うそをつけ。かくまってるだろう。中を見せろ」

「今モデルさんが来てて……絶賛ヌード・デッサン中なの。エッチ」

「ふざけるな。いいから入れさせろ」

「変態め──」

 軽音楽部の連中が美術部の部室に押し寄せてきた。蓬原先輩が扉の外で立ち塞がり、飄々(ひょうひょう)と相手をしている。壁の向こうでぼくはそのやり取りを聞いていた。

「おれ、行きますよ」ぼくは静かにそう宣言した。

「駄目だ」ゴブリン先輩がたしなめる。「お前が行くと余計ややこしくなる。これ以上ことを荒立てるな」

「でもあいつらの目的はおれでしょう?」ぼくは語気を強めた。「美術部のみんなを巻き込みたくない。自分でかたをつけます」

「同じことを言わせるな。もうお前だけの問題ではない。いいからエイに任せておけ」

「でも──」ぼくは言葉を詰まらせた。

「どーどー」子供をあやすかのように綾瀬が言った。「落ち着いて、クロっち。鬼の形相になってる。大山ちゃんが怖がってるからさ」

 そういえばさっきから大山さんの姿が見えない。部室を見まわすと彼女は机の影に隠れてかがんでいた。でもつるりとしたお尻が半分はみだしている。どうやら頭を抱えながら、がたがたと震えている様子だった。

 今から丁度二か月前、軽音楽部内で暴力沙汰が起きた。当時軽音楽部に身を置いていたぼくはその事件の首謀者とされている──要は人をなぐった犯人だと。でも誤解がある。実はぼくは誰もなぐっちゃいない。軽音楽部の部長の肩をちょっと強く押しただけだ。でもおそらくその態度が根に持たれたのだろう。噂話になってしまった。またスキャンダルとはどんどん面白おかしく作り変えられてしまうのが世の常で、真相などというものは大方闇の中に紛れ込んでしまう定めにあるものだ。結果ぼくは軽音楽部でひどく暴れまわったことにされてしまい、挙句の果てに学内でも〈不良〉のレッテルを貼られてしまった。それ以来、噂を聞きつけた人からは、あからさまな態度で遠ざけられることも少なくない。学部では殆ど孤立したも同然だった。

 ゴブリン先輩がうんざりした調子で言った。

「このあいだ軽音楽部の連中に呼び出されて、エイと一緒に話をつけに行ったんだがな……」

 おそらく新学期の二日目、部室で蓬原先輩とぼくが鉛筆を削っていたあとのことだろう。先輩たち二人が長いこと部室からいなくなったのを覚えている。

 ぼくは尋ねた。

「それで、話し合いはどうなったんですか?」

「どうもならんさ」ゴブリン先輩はやや吐き棄てるように言った。「平行線だ」

「お手上げじゃないですか」

「お手上げだな」

 外では蓬原先輩が何やら言い合いをつづけている。どちらの側にも一歩も引く気配がない。次第に互いの声はヒートアップしていった。部室の壁にかけられた時計の秒針の淡々としたリズムが妙にはっきりと耳に届き、いつしか大山さんのすすり泣く声まで聞こえ始め、綾瀬はそれを必死になだめていた。ぼくは考えたあげく、腹を括って宣言した。

「おれ──美術部をやめます!」

 部室にいるみんなが一斉にぼくの顔を見る。

「ええ──?」

 それは桜の枝も緑や黄緑の葉を蓄え始め、何だか少し蒸し暑いような、青天の日の出来事だった。


 しかしぼくの退部届は受理されなかった。蓬原先輩がふてくされた態度でぼくに書類を突き返したからだ。

「一人で背負い込むな、バカ」蓬原先輩はひどくおかんむりだった。眼も合わせてくれない。「そんなことしても全然カッコよくなんてないからな。勘違いもはなはだしいぞ」

「そうだよ、クロっち」綾瀬には動揺を隠せないという風に説得された。「みんなで一緒に考えようよ。仲間じゃないか。意見を出し合えばきっといいアイディアも見つかるさ」

「よくわからないですし、気休めにしか聞こえないかもしれませんけど──」大山さんにもおろおろしながら弁護された。「きっと何とかなりますよ。大抵のトラブルは時間が解決してくれるって以前本で読んだことがあります。それに黒木先輩が悪い人だとは到底思えませんから」

「とにかく黒木の退部は保留だ」ゴブリン先輩は頑としてそう言っただけで完全に口を閉ざした。

 講義に出席したあと、教室の扉を開くと、髪の長い女が廊下で待ち受けていた。両手を握りしめながらきまりが悪そうに佇んでいる。

「黒木くん」

「星名か」ぼくは言った。

「あの──」

「悪い、すぐに次の教室に移動しなきゃならないんだ」

「待って、少しだけ」星名は懇願するように言った。「話があるの」

「また今度な」ぼくはそう言うと振り返らずにその場から立ち去った。

 やり取りを見ていた綾瀬が無邪気な子犬のようにあとを追いかけてくる。彼はぼくのとなりに並ぶと瞬時に呼吸を整え、嬉しそうに訊いてきた。

「今のものすごい(・・・・・)美人は誰?」

「美人?」

「ほら、さっき教室の前で話してたロング・ヘアーの──」

「ああ、星名のことか」ぼくは言った。「あいつとは以前軽音楽部で一緒だったんだ」

「何か〈訳アリ〉って感じに見えたけど?」これはスクープと云わんばかりに綾瀬がにんまりとした。「クロっちも案外隅に置けないねえ」

「ん?」

「ん?」

 そのあとぼくらは校舎を移るべく黙って渡り廊下を通り抜けた。太陽の光線が差し込む中、途中で賑やかに会話をする女学生三人組とすれ違った。三人ともが殆ど互いに顔を見合わせたまま、息つくいとまもないくらいお喋りに夢中の様子だった。端の娘が急に動いて危うくぶつかりそうになる。ぼくはよけようとして態勢を崩し、よろめいて膝をついた。

「すみません」ぶつかりそうになった女の子が心配そうに手を差し伸べる。「大丈夫ですか?」

「ああ、うん」ぼくは差し出された手をとっさにかわす。立ち上がると掌の埃をズボンで払った。「それじゃあ」

「駄目だ!」次の教室の席につくと綾瀬がいかにも口惜しそうに大きなため息をついた。「クロっちは鈍感すぎるよ」

 ぼくには何のことだかさっぱりわからなかった。

「クロっち、男子校出身でしょ?」

「そうだけど、何でわかった?」

「わかるよ」声には自然と熱が籠っていた。「女子との接し方を見てればさ──全然なってないね」

「おかしいか?」ぼくは尋ねた。

「仲良くなれるかもしれない機会をみすみす自ら全部シャットアウトしてる」

「仲良くならなきゃいけないのか?」ぼくは尋ねた。

「当然でしょ」

 ぼくは茫然とした。頭上にはたくさんの疑問符まで思い浮かび、ぽかんと綾瀬を見つめていた。

「あ、うん」これ以上何を言っても無駄だという顔つきで綾瀬は諦めた。そして不服そうに唇をへの字に曲げて顔をそむけた。「もういいよ」

 放課後、美術部の部室の門を星名が叩いた。後光を纏っているかのような彼女の美しさを前に、美術部員全員が目を細めてたじろぎ、さらにはうろたえた。どうやらみんなそわそわしている。とはいっても、蓬原先輩だけはとくに動揺する素振りも見せず、平然と星名を部屋の中に招き入れ、椅子に座らせてお茶を出した。

「もしかして、入部希望者かな?」蓬原先輩はうずうずと期待するように瞳を輝かせた。

「その──」星名は両手を膝につき、うつむいてコップの淵を見つめていた。「……全部わたしが悪いんです」──聞き逃しそうなくらいか細い声だった。

 出し抜けの告白に、部員のみんなは呆気にとられて唖然とした。一体何の話をしているのだろう?

「よくわからないけど──」蓬原先輩が困ったような表情を顔に浮かべてなだめた。「そんな唐突に懺悔されてもねえ。ここは教会じゃないんだよ?」

 ゴブリン先輩が口を挟んだ。

「何が言いたいのかがさっぱりわからんのだが」威厳を守ろうとはしているが、星名の美貌を前にして、微かに頬を紅潮させている。声もどことなく上ずっていた。「ちゃんと要件を話してくれ」

「黒木くんのことです」星名は今度こそはっきりと言った。

「おれ?」ぼくは不意を突かれて訊き返した。

「黒木くんが軽音楽部と揉めていることも、暴力をふるったと噂が立って学内でみんなに避けられていることも、全部わたしのせいなんです」

 それを聞いた綾瀬と大山さんは口を開け、驚いた表情で顔を見合わせた。ゴブリン先輩は腕を組んで目を閉じたまま、眉をぴくりと動かした。蓬原先輩はさっそく椅子の前後をひっくり返して座りなおし、それから背もたれに両腕を構え、星名の眼を一心に覗き込んで唇の端を持ち上げた。

 彼女は言った。

「詳しく聞かせてもらおうじゃないの」

「はい」星名は覚悟を決めた表情で潔く頷いた。「そのために美術部(ここ)に来ましたから」


 ──ここからはなるべく手短に星名の独白によって、未だにこじれたままのぼくと軽音楽部との事件の真相について紐解いていこうと思う。


「わたしは国際教養学部二年の星名めぐみと言います。子供のころから歌を歌うことが大好きで──だからボーカルがやりたくて──大学に入ったらすぐに軽音楽部に入部しました。黒木くんとも軽音楽部で知り合いました。黒木くんは入部当初からギターの音作りに定評があり、おまけに職人気質だったので、クラブの誰からも一目置かれる存在でした。何度か一緒にバンドも組み、人前で演奏したこともあるけれど、それはもう、ものすごくカッコよかったです。あ……いや、カッコよかったというのはギターのことで……演奏は頼もしいし、音には安心感がありましたので。人の胸を打つというか、ギターの音色がいつまでも余韻として耳に残るんです。はあ……。だから実のところ黒木くんが軽音楽部をやめたあとに、わたしもすぐにクラブを退部しました。別に黒木くんを追いかけたとかじゃなくて……軽音楽部でのある出来事がきっかけなんです。本当ですよ?

 あれは丁度二か月前のことです。二月の半ば、卒業生の送別会を軽音楽部の部室で行ったのですが、新しく入れ替わった幹部の皆さんがお酒を部室内に持ち込んで酒盛りを始めました。卒業生は皆さん感傷的になっていて感慨深げだし、OBの方もちらほら顔を出して盛り上げようと張り切り、一応和気あいあいとはしていたのですが、そもそも学内にアルコールを持ち込むのは規則違反なので、わたしや他の一年生も正直うんざりさせられました。そしてやはりというか、先輩たちは時間とともにお酒が進み、どんどん悪酔いしてきて、態度も横柄にエスカレートしていきました。わたしも先輩方にお酌をさせられる羽目となったのですが、そのうちに未成年のわたしに──ふざけてなのか──飲酒を強要してくる始末で、しまいには部長に手をがっちりと握られ、自身の膝の上に座るようにしつこく迫られたのです。そこでその様子を終始退屈そうに眺めていた黒木くんが、おもむろにわたしの前に壁となって立ちはだかってくれたんです。そして部長の肩を掌でどんとこずきました。黒木くんは身体が大きいので、幹部の皆さんは怖気づいて、とっさに取り繕うように弁解しました。真に受けるなよ、冗談に決まってるだろう? と。 お蔭でわたしは窮地を脱しました。事なきを得たのです。それもこれも全部黒木くんのお蔭です。だから黒木くんはわたしにとって救世主です。もはやヒーロー、あ……いや、別にそういう意味ではなくって、純粋に恩人というか……はは。でも黒木くんはそのあとすぐにクラブをやめちゃいました。残念で仕方がありません」


 そんな風に言われるとちょっと気恥ずかしいが、美術部のみんなは真剣な表情で黙し、食い入るように星名の話に耳をかたむけていた。

 蓬原先輩が口火を切った。

「じゃあ何で、黒木に対して変な噂が流れてるんだ? 黒木は全然悪くないのに──そのくせあまりにも非道い仕打ちやないか?」

「だから全部わたしのせいなんです」星名はうしろめたそうに言った。「わたしが送別会での件を胸の内に抱えきれず、顧問の先生に事の顛末を伝えて相談したんです。それにより規則を破った軽音楽部の幹部の人たちは罰として二週間の謹慎処分を受けました。幹部の人たちは黒木くんが告げ口をした張本人だと思い込んでいて、逆恨みをしています。黒木くんに対する非道い噂話も、軽音楽部の幹部たちが自分たちを正当化するために、わざと当てつけに流したんです」

「何やと!」蓬原先輩が声を張り上げた。「あたしのほうがむかついてきたわ。いてもたってもいられないよ。今から軽音部になぐり込んでくる」

「ちょっと待ってください、部長」綾瀬が慌てて引き留めた。「せいては事を仕損じると言いますし」

「争いごとは苦手です」大山さんがしどろもどろに口を添えた。「話し合いましょう?」

「何とか事が丸く収まる方法はないのか」ゴブリン先輩が腕を組み、天井を見上げた。

 結局みんな、首を捻ってうなった。

「うーん……」

 沈黙が室内を覆い、カーテンは窓に張り付いていた。時計の針はゆっくりと回りつづけている。しばらくしてから蓬原先輩が宙を見上げ、「あ」と言った。そしてすっくと立ち上がり、みんなの顔をじっくりと眺めまわした。

「ええやないか。やったろうやん、戦争」

「何を言ってるんだ、エイ?」ゴブリン先輩が眉を吊り上げる。

「だから──〈平和的〉戦争じゃ!」彼女は意気揚々と拳を持ち上げた。

 窓からは温かな西日が差し込み、ぽかんとした部員たちの表情には、透き通るようなオレンジ色が、仄かに滲んで浮かび上がっていた。


《黒木救出作戦概要》

1、一週間後、花の町大学の中庭の舞台で音楽対決を行う。曲はオリジナルに限る。より多くの聴衆の歓声を得たクラブの側の勝利とする。

2、対決により、美術部が勝った場合、軽音楽部の幹部は黒木と星名に謝罪をし、今後一切身を引く。軽音楽部が勝った場合、黒木と星名は軽音楽部に引き渡す。つまり軽音楽部に復帰させられる。

3、対決において、軽音楽部は機材とスタッフを提供する。美術部はポスターとビラの制作をする。


「何ですか、これ?」翌朝、ホワイトボードに書かれた作戦概要を目にしてぼくは抗議した。「3はともかくとして、1と2は無理がありすぎますよ。うちが軽音楽部に音楽で挑むって──敵うわけがない」

「だって美術対決だと、向こうも乗ってこないだろ?」蓬原先輩が指し棒で掌をぺちぺちと叩きながら言った。「これでもちゃんと多方面に色々と掛け合ったんだぞ。もっと部長をいたわれ」

「大体何で負けたらおれと星名が軽音楽部に戻らなくちゃいけないんですか?」

「それが軽音部の出してきた条件だ」

「おれは美術部員ですけど、星名にいたっては完全な部外者ですよ? なのにこれじゃまるで人質──いやむしろ景品みたいじゃないですか?」

「わたしはかまいません」星名が毅然として言った。「黒木くんの名誉が挽回できるのなら安いものです。そもそもわたしは原因に深く関与しているわけですし」

「何で当たり前のように星名が美術部の部室にいるんだ?」ぼくは訊いた。

「その……エイさんが、いつでも遊びにおいでって──」星名はぼそぼそと口籠りながら言った。

「大体──軽音楽部の連中はともかく──うちが急に一週間で曲とか準備できるわけがないじゃないですか? 音楽を舐めないでくださいよ」ぼくは苦虫を噛み潰す思いで頭を抱えた。「そもそも……音楽経験者はこの中に何人いるんですかね?」

「ビッグ・カラオケのタンバリン・マスターとは僕のことさ」綾瀬が華麗にタンバリンを振る仕草をした。

「家にリコーダーならあるぞ」蓬原先輩は指し棒をリコーダーに見立てて構えた。

「二人とも論外です」ぼくは間髪を入れずに言った。

 蓬原先輩がどんよりと肩を落とし、綾瀬がそれをなだめた。

「ゴブリン先輩は?」ぼくは尋ねた。でも部屋の中を見まわしてもゴブリン先輩の姿は見当たらなかった。「あれ? いない?」

「ゴブリンは教育実習の準備で忙しいんだとさ」蓬原先輩が無感動に答えた。

「ああ」綾瀬が思い出したかのように発言した。「今朝、学内ですれ違ったときに、伝言を預かってたんだ。ゴブリンさんから」

「何て?」

「あとは任せた」綾瀬はきりっとした表情でウィンクした。

 終わった──ぼくはそう思った。勝てる見込みなんて、へそのゴマほどもない。いやそれどころかへそのゴマのカスすらもない。軽音楽部の連中の技術の高さをみんなとんとわかっちゃいない。今からでも勝負は取りやめにしてもらえないものだろうか? でないとあとでえらい目にあうに決まっている。何よりも軽音楽部に戻るつもりはぼくにはもうないのだ。

 ぼくが一人心の中でもだえ苦しんでいると、ずっとみんなの影に隠れて黙っていた大山さんがそっと手をあげた。どうした? といわんばかりに視線が集まる。彼女は胸に手を当てて言った。

「あの……私……中学二年生まで、ピアノ習ってました。クラシックのほうですけど──」

 渡りに船とでもいわんばかりに部屋に歓声があがる。すがる思いで大山さんを見つめると、彼女がとてもまばゆく映った。これが一筋の光明というやつか、それとも──

「経験者がいた」綾瀬が嬉々として言った。「何とかなるんじゃないかな?」

「めぐみちゃんも歌で参加してくれるんだよね?」蓬原先輩が星名に訊いた。

「もちろんです」星名が頷く。「これはわたしの問題でもあるので」

「星名──」ぼくは質問した。「楽器のほうは?」

「ギターはちょこっとだけ練習してる。弾き語りしたいから」

「コードは?」

「特別難しいのじゃなければ何とか」

「よし」ぼくは言った。「やるからにはベストを尽くしましょう」

 みんなが顔を見合わせて笑顔になった。盛り上がってきたようだ。

「それにしても」蓬原先輩が腕を組んで言った。「実は黒木は女の子を助けたんだな。それを誰にも言わずにおくことは中々できるもんじゃない」彼女はぼくを見て笑った。「やるな」

 その笑顔にぼくは一瞬心を奪われた。みんなが活気づいて意見を交わしている最中、颯爽さっそうとした風が、ぼくの頬にやさしく触れていた。

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