7-18.町娘スタイル(後編)
服を買うと言うだけで一悶着あったが、とりあえず町までやってきた。
服を扱ってる店は10軒くらいあるが、店には格があって、客層が分かれている。
それなりの格好をしてないと入れない。
ここ……この世界では、リアルで”服が無いから服を買いに行けない”があり得るのだ。
だから、冒険者服しか持ってない状態からだと、俺が欲しい服は普通、ステップアップしていかないと買えない。
”普通の服を買いに行くための服”を買う必要が有る。
普通の服買うのに冒険者でも気軽に入れる店はあるのだが、品揃え的に、冒険者用の実用品が多くて、普段着は少ない。
そして普段着は中古が多い。布自体が高価なので、全般的に衣類はかなり高価だ。
その店の対象となるような冒険者は、いきなり新品で買うほど財力が無いので、新品はほとんど置いてない。
そのため、新品買うには、一回中古買って、それを着て、更に新品買えるような店に入る。
そもそも、通りが分かれていて、店も利用客も、ある程度層が分かれている。
首都とは言え、横浜の1/1000くらいしか人が居ない。
人口が少ないので品数も少ない。買う人も作る人も少ないから仕方がない。
普段着が新品で買えるような店でも、きれいな服は奥の方にあるので、俺達でも手前の方で買い物することはある。
パンツ買いに行く店は、きれいな服も売ってるが、パンツはそんなに奥ではない。
部屋着も近いところにある。
エスティアはパンツ見てる。今日はパンツ買いに来たわけじゃ無いから……
店の格はかなり幅があって、もちろん、もっと格上の店もある。
なので、10軒あっても、入れる店は2~3軒くらいになってしまう。
新品はなかなか手が出ないので、古着で良いのが無いか見ていると、けっこう趣味の良いのがあったが、他も見ることにする。
エスティアは「こんな服、大人になってから着たことない」と言った。
俺にはエスティアは、”大人に見えない”のだが……と思った。
いつもだったらスルーするような高級な店に入ろうとする。
「え? ここ入るの?」と言ってエスティアが途惑う。
「一番良いのを選びたいから」と言うと、エスティアは微妙な顔をした。
店に入ろうとすると、貧乏人が入ってくんなみたいな空気をひしひしと感じたが、金ならあると言う感じで銀貨ジャラジャラして見せたら見逃してもらえた。
エスティアはまたパンツ見てる。
だから! 今日はパンツ買いに来たんじゃねーよ!!!と思った。
今日は、凄い普通の町娘っぽい服を買うのだ。
女の子の服には、女の子の秘密的な神秘がある。
俺は日本にいるとき、セーラー服の襟の構造がわからなかった。
あれは、背中のヒラヒラ部分はどうなっているのだろう?
今となっては永遠の謎になってしまった。
町娘の服は、ブラウスとスカートとベストがセットになってるのは、すぐにわかったのだが、肩に掛ける小さいマントみたいなのがどうなってるのかわからなかった。
俺的には、それが女の子の秘密的な感じで、すごく興味を惹かれていた。
ところが、売ってるの見たら、構造が一発で分かってしまった。これは肩に掛けて首で留めるだけだった。
もうちょっとセーラー服的に構造がわかりにくいものの方が嬉しかったのだが。
女の子の秘密みたいな、そんな要素が欲しかったのだ。俺はちょっぴりがっかりした。
このマントの小さいやつは、完全な別部品なので、バラでも買える。
中古のやつは、これがただの布で、なんかアクセントが足りないかなと思っていたら、新品の店になんか凄く良いのがあって、俺が欲しいのはこれだ!と思ったのだ。
こんなのエスティアが着たら、かわいいに決まってる!そう思ったのだ。
エスティアは値段見て溜め息ついてた。
「このマントの小さいやつだけ買って、さっきの服に合わせるか……」
このマントの短いやつ、ケープと言うのだそうだが、これだけ買っても、さっきの中古服ではこれとちょっと合わない。
新品の方にはこれだと思うスカートもあって、ベストもある。俺はそれが欲しくて仕方ない。
はじめは楽しそうに見ていたエスティアだが、俺が同じところを何度も行ったり来たりするので、飽きてきたようだ。
「無理に今日買わなくても良いじゃない」とエスティアが言うが、俺はもう買う気満々なのだ。
俺の欲しかった服は、袖の膨らんだブラウスと、ベストとスカートでとりあえず行けるのだが、チェックのリボンが付いたケープと、フリル付きの白いエプロンがセットで欲しかったのだ。
さっきの中古も捨てがたいが、ここはやはりいつか完全体になることを目指して、ひとまずは基本セットを買うことにする。
そこで、エスティアに説明する。
「この服どうだ?」と聞くと、「こういう服着たの、もう、ずっと前だからわからない」とエスティアは言った。
「好きじゃないか?」と聞くとエスティアは「好きだけど、よくわからないの」と答えた。
物としては嫌ってことは無さそうだ。あとは、セットで買えないけど良いか聞いてみる。
「本当はケープとエプロンまでセットでほしかったけど、今日はお金が足りないから、
ひとまず、ブラウス、ベスト、スカートだけ買って、残りは今度にしようか」と言うと、
「ええ? そんなに高いの買うの? さっきの中古ので十分じゃない?」と答える。
値段で言ったら、確かにあっちの方がバランスが良いと思う。
でも、俺はこういうの着てるの見たいんだよ!!
俺は「これが似合うと思う」と言うと、「でも、ケープとエプロン無くても平気だから」とエスティアが言う。
「でも俺、ケープとエプロンまで着てるの見たいんだよ!」と言うと、一瞬エスティアが固まって、また赤くなった。
そして、財布の中身確認して、「買える。足りない分は出すから、セットで」と言う。
結局、エスティアが不足分を出してくれた。
俺が買ってあげるって言ったのに、結局エスティアにも出させてしまった。
俺はなんてダメなおっさんなんだ。
だが、俺の野望が遂に!!
「これと、これとこれに、エプロンとこのケープを」と店員に言うと、店員が驚いてた。
エスティアは「こんなに高い服買うのはじめて。実家に居た時もこんなのは持ってなかった」と言った。
確かに高かった。
でも、俺はこれをエスティアに着て欲しかったんだよ!
冒険者と年寄りが来て、何を買うかと思えば、新品の服を付属品までセットで買ったので、店員も驚いてた。
服は寸法直し……なんだか新しく作るのか知らないが、何日かかかると言うので、また取りに来ないといけない。
だがやったぞ!! 俺は凄いことをやり遂げたのだ。
俺は”服を買いに行く服がない状態で、リアル店舗で服を買うことに成功した”のだ。
すごい達成感を感じた。
俺は、やればできる子なのだ!!!
もう、この時点で、おめでとうパチパチとか言って、俺の物語が終わっても良いと思うほど満足した。
エスティアは、なんかぼけーーーーっとしていて、変だった。
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俺が欲しかった服は、俺の小遣いじゃ全部セットで買えなくて、足りない分はまた今度と思ったら、残りはエスティアが出してくれた。すまねぇ、俺が貧乏なために。
俺の小遣いは、基本的に買い食い用程度なのでお子さまレベルなのだ。
”家の周りを回るだけの簡単な仕事”は、無料化してしまったし、兵士を放り投げる仕事も、軍が撤退して、兵は排水路保守と工事で若干残ってるだけなので前のように儲からない。
エスティアは、ごく標準的な体格なので、そのままでも問題なさそうだが、サイズ直しして受け取るので、10日ほどで受け取りに来た。この世界では週と言う単位が無いので5日の次はいたい10日になっている。
この世界には、月という単位が無い。月が無いと週も無くなるのだ。
確認のため試着したら、思ってたより上品になっちゃったけど、超可愛かった。
やべー、想像以上だ。元がかわいいんだよ。だから、冒険者服じゃもったいない。
「凄くいいよ!!」
「え? え、え?」
俺のテンションが高すぎてエスティアが引いてた。
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さらに翌週、エスティアと近場のコロノトの町まで出かけることにした。買った服フル装備で。
超可愛かった。あまりにも可愛いのでエスティアの戦闘力は53万かと思った。
でも、お出かけは中止になってしまった。
俺のテンションが上がりすぎてスイッチが入って倒れてしまったのだ。超楽しみにしてたのに。
倒れてすぐはエスティアが介抱してくれてたんだけど、服着てても倒れるなんて、やはりエスティアと何かあるのではと疑われて、他の女どもにエスティアと隔離されてしまった。
なので、俺はしばらくあの服は見れなかったのだ。超楽しみにしてたのに。
散々妨害が入ってお出かけできなかったが、1月くらいしてやっとコロノトの町までエスティアと2人で遊びに行けた。コロノトは近いほうの町だ。
俺の服装はいつも町に行くとき着てるやつで、前にキャゼリアに貰ったやつで、男がこの服装なら中流階級くらいに見られる。だが、俺だけ町民服着てても、女が冒険者だと貧乏人扱いされるのだ。
ところが、エスティアがかわいい服着てるとぜんぜん反応が違う。
冒険者だと入れないような店でも普通に入れる。
そのうえ、エスティアがこの服だと仲睦まじい夫婦に見られることが分かった。
まあ、俺はエスティアの所有物扱いだし、エスティアは妻だと言ってるし、一応夫婦と見られてもおかしくないのかな?と思ったのだが、エスティアがショック受けて静かになってしまった。
うーむ。
俺は本当の年寄りだけど、若年寄の男と若いままの女の夫婦はいっぱいいるから、傍から見れば普通に見えると思ったのだが、年寄りと夫婦扱いは駄目だったみたいだ。
自分で妻と言うのと人から言われるのは違うみたいだ。
ちょっと凹んだけど、この歳の差で夫婦はおかしい。
まあ、仕方ないかなと思った。
俺は親子にでも見えれば良いと思うのだが、ここではお爺さんと若い娘の組み合わせでも親子には見られないので仕方が無い。
帰りも静かで、あまり話をしなかった。
せっかくエスティアも喜んでくれると思ったんだが、俺と一緒だと夫婦に見られてしまうようなので、今度は俺が冒険者服で来ようと思った。
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エスティアは家に帰ってから、大事な話があるからと言って、個室に籠った。
拠点は見栄の張り合いみたいな経緯で拡張されてるので、よくわけのわからない部屋が何個かある。
そのうちの2つは、自由に使える個室になっている。
エスティアが個室で何言いだすかと思ったら、いきなり泣き出した。
「夫婦だって。私、嬉しかったの」と言って。
「嬉しかった?」
俺は、嫌がられたのかと思ってたので、驚いた。
俺も嬉しかったので、ちょっと泣いた。
エスティアがポツポツ話す。
「前にも言ったでしょ。貧乏だから冒険者になって。
一生男と縁が無いと思ってて
それでも、トルテラと出会えて
一緒に暮らしてきて
服買ってもらって、着たら喜んで、倒れるほど。
町の人も、夫婦だって。
今まで、そんなこと言われたことなかった。
ずっと一緒に住んでるし。
夫婦だよ……ね……」
「うん」
返事はここだけ返した。
夫婦では無いと思うけど、あの服着て町に行くと夫婦に見られる。
俺はそれでエスティアが喜ぶのなら、それで問題ないと思っている。
「トルテラ、お願いがあるの」
うん? お願い? 今更?
「なんだ、あらたまって」
「私あなたとずっと一緒にいたい。
だから死なないで、長生きしてほしいの」
なんだ。子供が欲しいとか、2人だけでどこかで暮らそうとか言われるかと思った。
長生き……俺がこの先何年生きるかはわからないけれど、俺も一緒に居たい。
「うん。俺も一緒にいたい」
それだけ返した。
これは俺の本心だったが、なんだか満足してしまって、この世に留まるのに苦労した。
「ほら、言ってるそばからこれだから」
でも、お願いされても、守れるのかな……そう思った。
俺は本当にエスティアが大好きなんだ……と自分自身のことながら再認識した。
フラフラしながら部屋から出て自分のベッドに戻ろうとすると、残りの女共が待ち構えていて、回収されて、またエスティアと接触禁止になってしまった。
でも今度はエスティアも同意の上だった。
あんまり近付きすぎると俺の寿命が削れてしまうかもしれないからだ。
俺は自分の種族が何なのかよくわからない。
今の体は地球人の体ではない。この世界の人間の体とも違うように思える。
人間かどうかは怪しい……と言うか、”竜”らしいので、恋しても寿命削れて死んだりしないのかもしれないが、正直、未だにどうなるかわからないのだ。
リーディアが落ち着いてるところを見ると、おそらく俺はリーディアと子を作る。
そこは決まっていて変わらないのだろう。




