7-12.男子学校と男塾
男子学校のことは、エスティア達に軽く聞いていたが、ライゼンに詳しく教えてもらった。
町には男の子専用の学校がある。
”町に学校がある”というのは、その町の管轄の学校が何個か存在するという意味で、学校は、町から離れたところに作られている。
隔離するためだ。
この世界では、町に男があまりいない。
子供を作ると寿命が縮まるという妙な世界なので、町で実際に見かける男女比率が凄いことになっているのだ。
実際は、出生率で言えば2倍しか差がない。
子供が1000人生まれれば、そのうち300人以上は男なのだ。
だけど町で見かけないのは、若い男は、この学校に集まってるせいだ。
学校は8才から16才くらいっぽい。
※おっさんは8才からと言ってますが8才で入学は遅めです。
実際は5~15才くらいで日本に例えると小中学校くらいの時期を
学校で過ごすことになります。
そして、ここを出て町にくれば10年とか15年でヨボヨボの爺さんになってしまうので、爺さん以外を見かける頻度がとても低い。
女の学校は、農村部では小学校も怪しいが、都市部には大学みたいなものまである。
これは一応学校で、勉強するところだ。
むしろ、勉強したくない子供は行かない。
ある意味、日本よりここのシステムの方が合理的だと思う面もある。
“経済的な事情で“とか、“遠すぎて通えない“子が居るのは良くないが、勉強やりたくない子が勉強するための施設に行っても、お時間と金の無駄だ。
まあ、小学校レベルの学校は、全ての子供が通えた方が良いと思うが。
小学校レベルと言っても、俺の世界の小学校レベルの高学年向けの範囲は不要だと思うが。
俺の世界でも、普通の大人が理解しているレベルは小学校中学年くらいのレベルで、多くの人は、それ以上のことは理解できないことが多い。10歳で習うくらいの内容までしか実用できない。
実際のところ、その程度まで理解出来れば社会生活で困ることはあまりない……逆か、そこまでは理解できないと日常生活にも支障が出るからかもしれない。
俺の国は、俺の世界の中で、大人の能力に関しては、かなり極端に優秀な国だったが、それでも小学校と言う一番初めに入る学校のレベルを超えられる人はあまり居なかった。
もう少し正確に言うと、習った時にはできるのだけれど、記憶しているだけで理解しているわけでは無いので、実用できないのだ。
習った内容を応用すれば解答できるはずの簡単な問題を出す。
それを正解できる人が案外少ない。
だが、高等教育を受けた人は、自分のレベルは高等教育レベルであると認識しているが、実際は初等教育レベルを超えている人は多くない。
なので、教育にはほとんど教育効果は無いのではないかと思う。
教育に教育効果がほとんど無いことを利用して選別が行われているだけ。
文字はほとんど全ての人が読めるが、文章を読んで内容を理解できる人はあまりいない。
簡単な文章読んで理解できる人は、俺の国だと3人中2人程度。
多くの国では、簡単な文章読んで内容を理解できる人は大人の50%程度。
数行の文章読めて内容が理解できればそれなり上位の人と言う具合だ。
ほぼ全員が大学まで行く国でも半分の人は文章を読んで内容を理解することはできない。
文章を読んで理解できなくても試験はクリアできていることを考えると、文章読んで理解できる必要は無いのだと思う。
この世界の男子学校も、表向きは“勉強のための施設“という名目だが、実際は保護施設に近い。
特に中学生くらいの子はそうだ。
競争させて、成績を付けることが目的の施設ではないように見える。
まあ、順位付けはするのだけれど、それが最優先では無いようだ。
日本でも、もし、学校が無くて、未成年保護の法律も無かったら、事実上の人身売買の発生は防げないと思う。
貧乏な家庭の子供は、丁稚奉公のような形で早期から働くことになるのではないかと思う。
ただし、この世界では、商品価値が高いのは男性だ。
人口比率と寿命の都合で男女が入れ替わってるのだ。
なので、主に男の子の保護を目的として存在している……ように見える。俺には。
ここの少年たちは、俺の世界の少年たちとあまり差は無いように見える。
ここから見える限りでは。
男子学校には、許可が無いと近付くこともできないのだ。
ここでは男の子が凄い青春を謳歌している。
悔いが残らないように好きなことやらせておく期間みたいな感じだ。
俺のときは大学がそんな感じだった。
受験が終わり、やっと受験勉強以外のことができるようになって、でも、それは就職までの短い一時。
残念ながら俺はその一番大事な時代を無駄に過ごしてしまった。
まあ、俺には必要な時間だったので、仕方が無い。
それは、俺の問題なので、必要なら、俺が勝手に後悔すれば済む話だ。
俺の頃はまだFランとか無かったので、大学行けるのは4人に1人の時代だった。
受験戦争とか言われてた時代だった。
なので、大学合格したときには、ゴールに辿り着いた気持ちで居た。
これで人生安泰かと思ったが、俺の代が就職するときには既にバブル崩壊後で、高卒でも入れたレベルの会社が、大卒の時には遥か高根の花になっていて入れなかった。
頑張った結果が裏目に出る。
バブル崩壊と言うのは、ある種の革命。
”借りてでも投資しろ!”から無駄なことに手を出すなに常識が変化した。
今まで”全力で行け!”だった常識が、支出を抑えろに反転した時代に、社会に出ても、企業は新規採用を止めてしまっている。
5年くらい新卒採用しなくても会社は傾かない。
だから、景気が回復するまで採用は止める。
俺が就活したのは、その採用が止まっている期間だった。
その革命前に高校を卒業して、革命後に大学を卒業した俺は、努力した結果、厳しい就活をしなければならなかった。
就活に限らなかった。
日本に居た頃は、俺はそういう世代の人間だった。
あれは、個人がどうこうして変わる話ではない。
一回しかない人生で、生まれた年だけで幸福度が大きく変化してしまうというのは納得しがたい。
そもそも、持って生まれてくるパラメータ自体が、自分の努力で得られるものではないので、生まれた年も含めて全て運と言ってしまえばそれまでなのだが。
俺は、生まれた年であんなに極端な落差があるような人生ではなく、もう少し純粋に自分がどれだけ頑張ったかで、結果が変わる時代に産まれたかった。
俺はこの世界に来た時、横浜に居た時のことを部分的に忘れていた。
自分の名前も両親の名前も顔も覚えて無いのに、バブル崩壊とか、こんなどうでも良いことはしっかり覚えているのだ。
たぶん、嫌だったことだけ覚えているのだと思う。
生まれた環境で将来が決まってしまう、些細なことで将来が大きく揺らいでしまう。
そんなことが起きないように、なるべく安定した保護施設が存在すると言うのは良いことだと思う。
自分でいろいろ考えて行動できる歳まで、保護するのは良い事だと思う。
ただし、ここでも例外がある。
ここは女から隔離された保護施設になっているので、ここに居ればさらわれたりはしないものの、貴族の狩り場みたいな面もあり、引き取られると言うか、事実上買われていくこともある。
裕福な商人とかも来るそうだ。
男子学校は学費が完全にタダなかわりに、人買いを自由に断れないようだ。
金はかかるが、買われたりしない施設もある。
学校という扱いではなく塾という形式をとっている。
つまり男塾だ。
もちろんライゼンも男塾出身だ。
この話を聞いたときは感動した。
あまりにも感動したので、ライゼンの額に大往生と書いてやった。
俺が若い頃のマンガに、ライゼンと言う名の登場キャラが居て、はじめのうちは普通に戦闘要員だったのだが、後半になると、いろんなことを解説してくれるのだ。
マンガのキャラのライゼンは、やたらと筋肉質で頭の長いハゲなのだが、ここのライゼンは日本に居た頃のそこらのおっさん(俺含む)くらいの肉付きなので、あまり似合わないが、やはり額に大往生の文字があるとしっくりくる。
せめてもっと禿げてれば似合うのに。
書くスペースが狭いので、とても小さな大往生になってしまうのだ。
ライゼンが「はあ、リーディア、どうですかな?この額の文字は」と聞くと、
「神の書いた文字です。
それが額にあると言うことは、より一層真理に近付くことができるに違いないでしょう」と言った。
やべぇ、漫画のキャラの真似なのに……と思ったけど黙っていた。
この世界にはまともな鏡が無いので、ライゼンは自分の顔を見れないのだが、俺が書いたと言うと、多くの人は物凄いおまじないなんじゃないかと思うらしく、凄い話題になって、ライゼンは超有名人になっていた。
ライゼンも俺と不幸仲間になろうぜ!……と思ったが、当のライゼンがご機嫌だったので、ちょっとイラっとした。
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前から見学の許可をもらっていたが、今回やっと見学に来た。
俺は男なので学校に入れる。
人間が開けられる扉は、俺には開けないのに、大部分の人間が入れない施設に俺は入れるのだ!!
単に性別の問題なのだが。
男子学校は完全に女から隔離されているので、女は貴族でも入れない。
貴族は宦官雇っていて、宦官は一応性別は男なので、けっこう自由に出入りできる。
俺の世界では、女を集めた後宮で働く男を宦官にするものだったが、
男ばかりを集めた施設に出入りできるのも宦官というのは、ちょっと面白いと思った。
宦官というのは人工的に子供作れない体にすることによって、寿命を延ばしたり、子供作れない男しかやれないような仕事をすることができる。
どうせすぐ死ぬ男に難しい仕事覚えさせても意味無いので、男ができる仕事は限られているのだ。
宦官であれば、男でも女と同じ寿命を得ることができる。
まあ宦官自体あまり居ないので、そんなの雇えるくらいだと凄い金持ちだそうだ。
「我が校では、万全の態勢で当たっており、当直もすべて男性が担っております」とか説明受けながら見て回る。
どう考えても、俺みたいな巨大な老人が来たら気付きそうなものだのだが、俺が先代勇者とか言われてることには気付いてない様子で、普通に見学できた。
情報もさっぱり伝わってないのかもしれない。
俺的には穴場だ。
男子学校では、”女の人が近付いてきても付いていかないように”とか、”大声を上げて逃げろ”とか安全面では教育も警備体制も万全だみたいな説明を受けるのだが、俺は保護者として子供を預ける学校選びをしてるわけではなくて、仕組みが知りたいだけなのだ。
女と隔離と言っても、家族とは面会できる。
決まった部屋で1回に1時間くらいだけとか、なんか刑務所みたいなところだなと思った。
男子学校は日本の学校とは内容も目的も違って、読み書きは一応やるが、あとは算数とか歴史とかちょっとはやるけど、入門レベルくらいでそんなに勉強しない。
教科書の文字数少なくてびっくりする。1ページあたりの文字数の少なさに驚きだ。
まあ、前に図書館行った時も男向きの本なかったし、文字が達者に読めてもあんまり良いことないのだろう。
実用的な日常生活技術の授業もあり、炊事とか畑仕事とかそんなのはやってる。
個人的には本読む勉強より、こっちの方が役立ちそうだなと思った。
授業で魔法もやってるけど、素質が見たいだけなので、あまり本気でやらない。
全体的には、おおまかな時間割はあるが、ほとんど遊んでる。
午後は必修のクラブ活動みたいな感じで、球技だったり、乗馬だったり、帰宅部は無い。
剣術はもちろん、格闘技とかもあって、声も低いし、やってることは割と男の子っぽいけど、なんというか雰囲気がキラキラした青春みたいな感じで、おっさんには居心地悪すぎる。
なんでお前らそんなに全力なんだよ!と思うが、結局、すべてのことが悔いを残さないためという一点に集約されているのだ。
試合で負けると泣いて夕日に向かって走ろうみたいな感じで、見てると体が痒くなる。
女にはそういうのは大人気らしい。
運動会が凄いと聞いていたので、それも見に行った……と言うか、それに合わせて見に来たのだ。
このときは女でも入れるので、リーディアも一緒に行った。
キャゼリアとライゼンも一緒だ。
首都にある1番の名門校になると、運動会が異様で、厳重な警備の上、観客席は異様な熱気に包まれるという。
ダルガノードも人口が多い都市なので、たぶんこの世界全体で見ても、かなりレベルが高いと思う。
※この世界では、人口最大級の町です
ここには、各地から優秀な男児が集められる。
つまり国で最上位の男児が集められる。
男子学校の中でも、ここだけは特別だ。
今まで俺の盾とか勇者鎧くらいしか特殊アイテムを見たことがなかったが、武器以外の実用品にも魔法道具はあるらしい。ただ、高すぎて普通の人には買えないだけで。
望遠鏡のような魔法道具持った貴族が特別閲覧室から見てる。
※これは魔法道具ではなく、遠目の補助用の道具です
澄ました顔してるけど、すげー気合入ってる。
応援ではなく、品定めだ。
競技は障害物競走の魔法が混ざったやつが多かった。
パン食いのかわりに点火とか、暗視で何が書いてあるか当てるやつとかが多い。
乗馬とかもあり、チーム分けされているが個人競技が多い。
一番派手なのは点火で、女の子だと5~10秒くらいかけて、派手に煙が出る草に火が点くくらいのペースなのだが、男子学校では、1人当たり5個を数秒で点火する。
5倍くらい時間が違うのだ。
これは遠くからも見えやすいし派手でわかりやすいので盛り上がる。
ここから先は聞いた話になるが、
凄いのが、運動会の後、
普通だったら、目当ての子の保護者と接触して交渉する……となりそうなものだが、落札形式になっている。落札するのはお目当ての子供ではない。
遠目で見て気に入った子の”ゼッケン”を落札する。
そして、ゼッケンが代理人の目の前で回収される。
代理人はゼッケンを瓶に入れて大切に持ち帰る。
後日、どの子を選ぶか連絡をして、値段の交渉に入る。交渉はその子の親ではなく
代理人というのが居て、相場で売る。すると、出身の町や村と親で折半される。
という仕組みになっている。男子学校というのはそういうところなのだそうだ。
入札はポイント制で、家の格と規模でかわるようだが年を跨いで貯めれる。
金でもポイントは入るが納税額に比例って感じみたいだ。
金が有ったり偉かったりしても、そんなにたくさん男子を買ったりできない。
ちゃんと、暴動とか起きない範囲で調整されてるのだ。
瓶にゼッケンって、うわー、俺わかっちゃった。
ふんふんしちゃうんだ。
うわー変態だー。貴族でもやっぱふんふんしちゃうんだー、と思って騒いでいたら、リーディアに「それは違う」と言われた。
リーディアは元は貴族ではないが、貴族風の作法を知ってると言うので試しにやってもらった。
まず、執事みたいなやつが瓶のふたを緩めてから主人に渡す。
主人は、瓶を持った手を伸ばし、もう片方の手で瓶のふたを取り、その手を下ろす。
そして、瓶を持った方の手を肘で曲げて(肩から肘までは動かさない)
鼻から数cmくらいのところに瓶を持ってきて
キリっとしてエレガントにスンスンって感じだった。おお、さすが貴族はお上品……いや、それ一緒だから!
しばらく悶絶してから起き上がる。すげー疲れた。
この世界は、におい嗅ぐのは礼儀に反しないのだ……たぶん。
それにしても、何日も着たシャツとかならわかるけど、ゼッケン程度でにおいが分かるものなのだろうか?
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男子学校で新たな事実が判明した。
トイレに小便器がないのだ。
なるほどズボンもパンツも前が完全に閉じてる理由はそれなのか。
この世界の男は立小便しないのだ。
いや、これには思い当たることがあった。
立ってしてたらアイスが何してるんだ?と覗きに来て焦ったことがあった。そういやルルも興味津々だった。がそう言うことだったのか!
ルルはち○こマニアだし、アイスは男珍しいだけかと思ってた。
俺ははじめの頃、魔法なんて存在も知らなくて遠目の魔法で見られてても気付かなかったがたぶん村でも見られまくってた、夜一緒にキャンプしてた冒険者にもずっと見られてたんだ……。なんか今になって急激に恥ずかしくなってきた。
すると、テーラが「私は男らしくて良いと思う」と言った。
俺はもう駄目だと思ってくてっと倒れた。
テーラのはフォローなのだろうか?
アイスが介抱してくれたが、「俺がいつでも見ててやるから」と言う、いや、見ないで欲しいし忘れて欲しいんだが。
でも立ションは辞めなかった。だって面倒だもん。




