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1-8.動ける老人

前回やっと主人公に名前が付きました。呑気な物語ですね!

さらに、遭難したとき助けてくれたエスティアさんに引き取ってもらい。

エスティアさんとリナさんと一緒に住むことになりました。

少しずつ村やこの世界に慣れ、体力も回復したので冒険者の仕事に付いていくようになります。

挿絵(By みてみん)


俺は難しいことは何もできないが、薪割りくらいは、やり方がわかればできる。

ただ、この刃物、俺が使うには短過ぎるし軽すぎる。


はじめは、そうも感じなかったのだが、体力の回復とともに体に力が入るようになってきたのだ。


すると、体が大きいぶんだけ力がある……つもりはないのだが、ここの人は皆小さいというか、女と老人ばかりなためか、ちょっとした荷物運ぶ程度でも、とにかく、行く先々で、”お爺さんのくせに凄い”と褒められる。


そんなこともあって、ここ数日で”村にきてすぐの時、危うく村から追い出されそうになった理由”が分かった。


俺は、老いて衰えたから捨てられたと思われていて、ヨボヨボの老人並みの体力しかないと思われていたのだ。労働力にならないから、避けられただけだったのだ。


俺は、年齢制限の問題でNG食らったと思っていた。


あのときは衰弱してただけで、元通り元気になったので、今度は、箱入りの王子様が国を失って流れてきたとか、不能者なのだとか思われてるらしい。


不能者と言うのは、リナが言ってた”恋ができない”ってのと同じことを指すようだ。


”労働力になるのなら需要がある”

これはすぐに理解できた。ここでは単純作業に使える労働力が常時不足している。

労働力には高い価値があるのだ。


例えば、生活には水を使うが、水を運ぶのがとにかく凄い重労働だ。

水自体が重いものなのに、バケツのように使っている桶の重さが凄くて、運んでいる水の重さより、この桶の方が重いんじゃないかというくらい重い。そして、揺らすと零れる。


だから、水の使用量はなるべく減らす。

環境にやさしいとかそんなのではなく、労力を使うから。

幸いエスティアの家の近くには小さな沢があるので、水が流れてる時ならそこで洗い物ができる。

水量は変化が激しいようで、水が流れているときの方が珍しいような感じだ。


俺の住んでいた社会では、人力で水を運ぶ必要がない代わりに、省人化が進んで、労働力の価値が下がりまくっていたのだと思う。

俺があの世界に帰っても、水を運んで生計を立てることはできないし、水を使うためにインフラコストを負担し続けなければならない。

水を運ぶという生産性の低い仕事を手放すことができるかわりに、もっと生産性の高い仕事をして、上下水道インフラコストを金で払い続ける。


生産性の高い仕事に就けないと、収入に対するインフラコスト負担が大きくなる。

生産性を上げ続けないと、便利な社会を維持するためのインフラ維持コスト負担に圧し潰されてしまう。


それを考えると、日本に帰りたいという気持ちがあまり大きくならない。

この歳で再就職しても、生活費を稼ぐだけで精一杯くらいの収入に落ち込んでしまう可能性が高い。


ここでは労働力に価値がある。

水に限らず、薪の材料にする木材でも、境界を示すための石でも何でも、とにかく重い。

それを運べるだけで価値があるのだ。


はじめは、水運ぶのちょっと手伝っただけですごく驚いた。

井戸から家まで水を運ぶだけですごい重労働なのだ。


ここの人たちは体がとても小さい。俺の感覚だと小学生くらいの体格に見える。

まあ、体形は大人ではあるが。

その小さな体で、こんなに重いものを運べるなんて凄いと思ったのだが、慣れたら俺は体が大きい分、人より多くのものを運ぶことができることが分かった。


体力があることが分かってからは、”うちの方が広いからうちに引っ越してきなよ”とか、”冒険者のところじゃろくなもの食べれないだろ、うちは鶏いっぱい飼ってるから卵と鶏肉あるからうちの子にならないか”的なお誘いを受けるようになった。


「うちに来るといいよ。冒険者のところに男なんて。冒険者は男は持てないんだから」


そんなことは、ほんの数日前、誰にも引き取ってもらえず、捨てられそうになったときに言ってくれよ……と思った。


その反抗の意味も若干含めて、こう答える。

「やっと、住処ができたので、しばらくお世話になろうと思います」


冒険者には、夫は居ないものなのだそうだ。

俺は夫ではないが、冒険者の女の子のところに男が居るのは、おかしいらしい。


でも、確かに鶏肉とか卵とか食ってないな……と思った。

貧乏なのだろう。

そんな状況なのに、俺を置いてくれるなんて、エスティアとリナはなんて良い子達なんだろうと思った。


……………………


おばちゃん方に頼まれて、石やら木やらを運んでいたら、野菜や野鳥?みたいなものを貰えた。

こういう仕事で食ってくことも、できるのかと考えたが、半分は俺が珍しいから、話をするきっかけとして雑用頼んできてるだけのような気もするので、しばらく様子見が必要だなと思った。

年齢的にも、重い荷物を運ぶ仕事は長くは続けられないかもしれない。


でも、いつまでもエスティアとリナに迷惑かけ続けるのもいかがなものかと思うのだ。


野鳥はほとんど骨だった。

貰った時は鳥の形してたのに、食べるとこ無かった。


けど、それでも、少し油が出て大芋が美味しく感じた。

肉じゃなくて出汁用って感じなんだと思った。


出汁の味がするというわけでも無いのだが、出汁も禄に無いスープは、かなりストロングな味がする。

脂が少し出るだけでもまろやかになる。


それはそうと、エスティアとリナには「よその女の人に優しくされても付いて行っちゃだめだよ」とか、なんかお子様みたいなことを言われた。


お誘い受けてるの、バレてるみたいだ。


========


以前から、中高生くらいの年の女の子が赤ちゃんを抱っこしているのを見かけるのだが、兄弟なのか子供なのかどっちなのかと疑問に思っていたのだが、やっぱりどっちも有りで、兄弟だったり子供だったりするようだ。


俺から見ると、”お母さんの方も子供に見える”わけで、ものすごい違和感があった。


ただし、日本に居た時も、貧しい地域の若いお母さんというのは、映像では何度も見ているのだ。

身近なところに居なかっただけで。


見分け方は簡単で、母乳あげてるとお母さんだった。

中高生に見える子が、赤ちゃん育ててる姿は俺には相当衝撃的だった。

さらに、成長しきってなくても、母乳が出るということにも驚いた。

まあ、産めるんだから育てることもできる……そういうものなのだろうが、実際見るまで考えたことも無かった。


日本だったら粉ミルクがあるし、母乳出なくても困らないのだ。


……で、これはものすごく困るのだが、普通に胸出して母乳あげてるので見えてしまうのだ。

これはさすがに、俺に配慮してくれとか言えるわけもなく、昼間はあまり人がいるところには行かないようにしている。


========


「トルテラ居る?」


よくわからないが、俺が居るときだけ声をかけてるように思う。

たぶん外からは見えないと思うのだが、俺が裏にいるときは、家に声をかけずに裏に来る。

居るかと言ってる割に、居ることがわかっているように感じるのだ。

裏にいるときは、歩くと枯れ枝を踏む音がするので、それが聞こえているのだろうか?


俺は騒音に慣れているから音には鈍感なのだろう。


「おかえり。そんな遠くに行ってないし、大丈夫だよ」


俺は遠出したり、勝手に冒険したりしない。

なのに、エスティアは何故か心配する。

俺が誘惑に負けて、そこらの家の子になったり、また、そこらで行き倒れると思っているのだろう。

俺は、行き倒れの前科有りなので、立場的に少々弱いのだが。

今は大芋の葉が見分けられるようになったので、そこらの森の中で簡単に飢えて死ぬことはないと思う。

大芋は生でも食える。味的には不味いが、灰汁も強くなく、生で食べても腹を壊すことは無いようだ。


野菜類の中にはあく抜きしないと食べられないようなものも多い中、大芋は優秀な食材だ。

もうちょっと味が良ければ、もっと助かるのだが。


大芋畑は野生動物に荒らされることが無いという。

たぶん単純に不味いからだと思う。

葉っぱが、癖強そうな臭いだから嗅覚の鋭い動物は、それを嫌うのかもしれない。


エスティア、リナとの生活だが、冒険者は貧乏らしいので、普通の家庭と違うのかもしれないが、食事は主食が大芋。本当に主食。毎日この芋ばかりだ。


直径12cmくらいありそうなでかいもので、長さはまちまち、30cm±15cmって感じだ。

大根に近いサイズかもしれない。

うまくはないが、これは畑で大量に取れる。ただ、掘るのはけっこう手間だ。


水っぽいからか、日持ちがしない。収穫しなければ、しばらくもつようだ。

食べごろでも旨くは無いが、食べごろを外すともっと不味くなる。


新鮮でも旨くはない。

カスカスモソモソという感じで、正直美味くはないが、いくら食っても無くならない不思議な食材的な頼もしさがある。

味的には駄目だが、気持ち的には行ける。

何しろ、タダだ。俺は存在自体が邪魔者みたいなものなので、食費で負担をかけずに済むのは精神的にとてもありがたい。


野菜はカスカスの瓜がメイン。こいつがメインな理由は大きいからだ。

他にも野菜は種類はたくさんあるのだが、実を食べるものはどれも小さく食べ応えが無い。

根菜類は、根っこだろコレという感じのものが多いが、カブみたいなものはあった。

カブみたいなやつは、俺は実より葉の方が好きだ。大根の葉より柔らかい。


まあ、大根の葉っぱだって、葉が食べごろの時に収穫すれば、もっと美味しいのだろう。


野草と言うか、山菜的なものを集めてきて入れることもあるが、これはそれ自体を食べると言うよりは、味のバリエーション的に入れてるようだ。

エスティアとリナは、今日は何々を入れたから、こういう味がするとか話しているが、俺は全部野草味に感じる。


「今日は、ホンデ多めに入れてみたんだけどどうかな?」

「旬だからな。良いんじゃないか」


少しずつ違うのだろうが、野草!という感じの主張が強すぎて味の差があまりわからない。

飲み慣れないと、ビールの味の差がわからないみたいな感じなのだと思う。



塩正義みたいな価値観で、全部塩味。

今日は塩がきいてて美味しいとか、塩味の汁は全部飲むとか、本当に塩正義みたいな価値観だった。

あとでわかったが、塩はかなり値段が高いので冒険者には高級品なのだ。

減塩は経済的な節約で、塩が多い方が元気が出ると言っているので、不足気味ではあるのだろう。


凄いことに、調味料は塩しかない。


味的には問題外だが、つい先日遭難して餓死しかけた身なので、食べられるだけで十分満足だった。


……………………

……………………


村で数日過ごすうちに体力が戻った……というか、なぜか記憶にある自分の体よりずいぶん筋肉質になっている。

俺は筋トレしても、ぜんぜん筋肉付かない体質なのだが。

弛んだ腹の肉も無く、若かったころよりも遥かに引き締まった良い体をしている。

体も軽く、良く動ける。

……それでも老人扱いだが。



そんな感じで、ヨボヨボの老人ではなく、動ける老人であることが分かったので、エスティアとリナの仕事に付いていくことにした。

正式なものではなく、俺が勝手についていくだけなので、俺の賃金は発生しないのだが。


俺が家で待っていると、エスティアが心配するのだ。

俺はあのときは行き倒れてただけで、今は健康なのだが。


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