6-10.リーディア追撃戦(前編)
勇者鎧のおまけに付いてきたキングボンビーが軍に喧嘩売ってきたせいで、しばらくタンガレアという外国に逃れることになりました。ところが、国境地帯で軍を撃退してからにしようとキングボンビーが言うのです。結局その通りになります。
ダルガンイストでは、僅か数人の集団に対し、どの程度の戦力を割くかで揉めていた。
第一波として出撃した騎士隊が撃退されると、ようやく大きく動く方向で決まったようだった。
相変わらずリーディアのところに来る兵が言っていた。
※少人数で騎士隊を撃退できたらおかしいです。
2代目勇者候補のリーディアはもちろん、元々死んだはずの俺も再度死んだ方が都合が良いというのはよくわかる。
死んだはずの人物が歩き回っているといろいろ問題があるかもしれない。
だが、どうせ俺は、勇者として何かする気は無いので、放っておいて欲しいのだが。
早く遠くに逃げた方が良いと、村人や旅人経由でも話が流れてくる。
なんで放っておいてくれないかなと思うが、リーディアが言うには、巨人の話から繋がってるのだそうだ。
リーディアの説明を聞く限りは、派閥争いに巻き込まれているようにも聞こえる。
嘘か本当かはわからないが、辻褄は合っているような気がする。
白い巨人が来たあのとき、リーディアの小隊の所属する大隊は防御側に回されていた。
あれは、実は巨人退治の手柄を立てられないように封じられている状態だったようだ。
確かに、俺は、攻撃側の包囲陣にリーディアが居ると思って、あそこまで巨人を誘導したのだ。
ところが、戻ったら、そっちにリーディアが居た。
俺はリーディア不在の包囲陣に巨人を誘導したわけだ。
そこで巨人が撃破されれば、勲章貰うのはその人たちだったわけだが、なぜか突破された。
俺がせっかく苦労して誘導したと言うのに、主力が突破され、巨人は城門目指して俺たちが居る方に向かってきたので、俺とリーディアの隊と協力して巨人を倒した。
あのとき突破された主力がリーディアが所属する陣営ではない方で、リーディアが手柄を挙げてしまったのでリーディアが所属する陣営が優位に立った。
元々俺はリーディアに倒させようとは思っていたのだが、うまい具合に俺と巨人が相打ちで死んだ……と思った。
それで、俺の死を利用して、リーディアを凄い速さで昇進させて利用しようとしていた輩が居た。
順風満帆だと思っていたのにリーディアが軍に喧嘩売って辞めて、偉い人が怒った。
いろいろ理由があって後ろ盾してるのに、神輿が無くなると大問題ということらしい。
俺は、軍の仕組みは知らないのでよくわからないが、そんな感じの話に聞こえた。
それはそうと、これ、俺が悪いのか?
で、実は俺が生きてて、リーディアが俺のところに来た。
俺の手からリーディアを奪い返すために先遣隊として騎士隊が派遣されてきた。
リーディアは、騎士隊と俺を勝負させた。その結果、完全に軍と敵対した。
俺が悪いのか!!
言ってることは分かった。でも、全部この女が悪くないか?
リーディアに勇者鎧を押し付けた負い目があったので、そこに関しては多少のサポートは必要だろうと考えていたが、ここまで来ると、サポートの範疇を超えている。
それに、過失ではなく狙ってやったように思える。
少なくとも、出発を遅らせて騎士隊を撃退させたのは狙ってやったことだった。
リーディアは脳筋ではあるが、考え無しにやってるわけではない……はずなのだが、狙いがわからない。
リーディアにはリーディアの目的がある。
それが何かがわからなかったが、今まで軍一筋で生きてきたこの女が、ある日突然軍と敵対する道を選んだのだ。
理由は俺の存在か、勇者鎧かどちらか……どちらにしろ、俺が関係していることが原因になってるのだと思った。
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トルテラは、些細なことで簡単にフラグが立つことをよく理解していた。
勇者鎧をリーディアに渡した=勇者を選んだ。
勇者を選ぶのは神なのだ。
これだけ大きなイベントで、フラグが立たないとは考えにくい。
一方で、トルテラの予想通り、リーディアにはリーディアの目的があった。
全部悪い方向に向かっているのはリーディアの作戦通りだった。
リーディアの目的は、トルテラに軍を撃破させることにあった。
リーディアが、勇者として、トルテラと行動を共にするためにはそうするしかなかったのだ。
正確に言えば、脳筋のリーディアにはそれしか思いつかなかったのだ。
(それ以外の手段を選びたくなかった)
トルテラなら敵が100人以下なら撃破できる(とリーディアは勝手に思った)。
決死の兵が100人で必殺の陣で挑むならともかくとして、相手がトルテラでは士気が上がらない。
おそらく、バラバラと士気の低い兵が襲い掛かる。
それでトルテラが負けるとは思わなかった。
無理でも、いざとなれば自分の身柄と引き換えに収めようと思っていた。
リーディアは伝承を信じていた。
伝説の勇者の鎧をトルテラから託されたから。
勇者の伝承は実現され、現実に合わせて変化する。
実際にトルテラはあの巨人を撃破した。
勇者伝承では、勇者が巨人を倒す。
トルテラが勇者になる以前には、2代目勇者は存在しなかった。
ところが、現在の勇者伝承は、先代と2代目は共に歩む。
リーディアは先代勇者であるトルテラと共に歩みたかった。
リーディアは、軍で2代目勇者として担ぎ上げられてた頃、既に”勇者を選ぶのは軍では無く神”ということに気付いていた。
軍に選ばれても、それは本物の勇者ではない。
そのうち本物の勇者が神に選ばれたら、リーディアは軍が勝手に言っているだけの偽勇者になってしまう(とリーディアは考えている)。
それを理解したのは、巨人標本を見た時だった。
トルテラと共に燃え尽きたはずの巨人が、標本として残されていたのだ。
そして、こう言われた。
”リーディアが倒さなかったせいで、トルテラは神になり損ねて勇者になってしまった”
確かにその通りだった。
トルテラは、1人で倒せるのに、わざわざリーディアに巨人を倒させようとした。
勇者伝承を調べてみても、確かにその通りだった。
勇者を選ぶのは神だ。
勇者を選ぶ神は、恐らくトルテラだ。
トルテラはリーディアを選んだから、あのときリーディアと共闘を申し込んだ。
だが、リーディアは自分に勇者の資格は無いと思っていた。
リーディアは失敗した、期待を裏切ってしまった。
巨人を撃退したのはトルテラで、トルテラが死ぬ原因が自分だったのだ。
トルテラは生きていたが、とても胸を張って2代目を名乗ることなどできない。
トルテラが生きていることを知ったときには、怒りを感じた。
弱い自分に、そして何よりトルテラがリーディアとの勝負で手を抜いたことに。
手加減、お子様扱いだ。
そんな相手に勇者を任せようとするトルテラにも不信感があった。
だが、2度目の勝負で不信感はきれいさっぱり消えた。
まるで歯が立たなかった。
トルテラに手加減されて怒りを感じる必要なんて無かった。
それがよくわかった。
だが、勇者の鎧を取りに行くと言われても、リーディアにはそんなものを受け取る資格は無いと思っていた。
結局巨人を倒したのはトルテラで、トルテラと勝負すればまったく歯が立たず。
少し前のリーディアであれば自信満々で受け取ろうとしただろう。
だが、リーディアは並の兵と比べると少々強い程度でしかなく、英雄と呼ばれるにふさわしい力は持っていなかった。
あの巨人にリーディアの最高の一撃はほとんど効かなかった。
勝負をしてくれれば行くという約束の都合もあり、誰が勇者になるかも知りたかったので、勇者鎧の迷宮には同行した。
そこで、トルテラに選ばれたのだ。勇者の鎧を受け取るのに相応しいと。
リーディアは、本当はトルテラと共に歩みたかった。
ところが、本人にその資格があるとは思えなかった。
それでも、トルテラは自分を選んでくれた。
勝負を挑んでまったく歯が立たなかったのに、それでも自分を選んでくれたのだ。
その心に全力で応えると心に誓ったから。トルテラにも誓ったから。
私はトルテラと共に歩む。
かつては夫として迎えようと考えていた時期もあった。
今は自分を勇者として選んだ神として、そして、勇者伝承にあるように、共に歩み子を成す。
そのために、なんとしてもやり遂げる。
※”子を成す”となっているのは、伝承の内容です。
リーディアさんは伝承が現実になると考えています。
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とりあえず、出発の準備は整った。
俺が居なくなると、井戸が濁らないかと村人が気にしてたが、一度住めばしばらく聖域化されてるから、大丈夫だと思うと答えておいた。
とりあえず、また戻ってくるかもしれないから、なるべく維持しておいてくれるよう頼んでおいた。
今後の行動に関しては、意見が割れていた。俺とリーディアで。
リーディアは、軍を撃退してからタンガレア奥深くに進むと言っている。
俺は、ひたすら逃げる派だが、正直、エスティア達が無事ならどうでも良い。
竜の迷宮に行くのも手かもしれない……と思ったが、
行ってまた、”何々が足りないから、出なおせ”みたいなこと言われるかもしれないから危険か……
「勇者鎧の迷宮。あれを使おう。あそこなら連れは安全。あなたが1人で出る」とリーディアが言う。
イラっとするが、その通りだ。俺は一人の方が動きやすい。
タンガレアに逃げても、細々延々と刺客が送られてくると面倒なので、国境地帯で迎え撃とうと言うのだ。どうしても軍と戦いたいらしい。
全部、コイツのせいなんだが、と思っていると、
「おそらくあなたなら撃退可能でしょう。
いざとなれば私を引き渡してくれてもかまわない」と言い出した。
こんな大事になる前ならともかく、今引き渡すってのもどうかと俺は思うのだ。
「戻るならこうなる前に戻るべきだ。今更遅い」と言うと、
「私を気遣ってくれるのか」とか言いやがった。
しかも、一回顔を少し振って、ビシっと決めて言うのだ。イラっとした。
ふと、これでリーディアが死ぬと、勇者伝承的にはどうなるのだろうか?と疑問がわいた。
少し考えてみたが、不思議なことに、リーディアがこの戦いで死ぬ未来が見えない。
コイツは死なない。そう思った。
「命に代えてもエスティア達を頼む」と言うと。
すげーイイ顔して、「約束しよう」と言った。安心したが同時にイラっとした。
リーディアが死なないなら、命に代えても守るという約束を守ってもらえれば、皆死なないはずだ。
何の根拠もないのに、俺にはそう思えた。
他に良い選択肢も無いので、勇者鎧の迷宮を使って撃退することにした。
人間には、ここの扉は開けないのだ。迷宮は破壊もできない。
ここ隠れていれば、誰も手出しできない。
放っておいても外国に逃げるのに、わざわざ大軍が俺とリーディアを追撃に出てくるのだ。
意味が分からない。
何人くらい来るのかリーディアに聞くと、かなり大規模だと言う。
ただ、先日の騎士隊の戦法に正面から当たっても撃退できない、さらにはもっと大きな包囲陣を破った巨人を葬った俺を倒すには、100人でも無理だ。
100人も来ないだろうから蹴散らして、戦意を削いだ方が良いと言うのだ。
100人が、かなりの大規模なら、大規模な軍勢でも、なんとかなりそうな気もする。
ところが誤算があった。100人では無さそうだ。
遠目で確認できる範囲で、2つの集団と、あとはまばらにたくさんの兵士が動き回っているようだ。
「凄い人数」「100人ってこと無いな」
皆100人ではなさそうだと思って見ていると、
「なぜ全軍で来た?」とリーディアが言った。
全軍?
ダルガンイストの1000人が出てきた?いや、全員出てくるわけないし、見た目もそこまで多くない。
何人だろうと思っていると、「全軍って1000人か?」とアイスが聞いてくれた。
リーディアは「全軍と言うのは、その時出せる全兵力のことだ。平時には多くて300人」と言った。
「あの集団一つが100人だ。2つある。回りの兵士もおそらく100人規模」
たった6人相手に300人くらい出して来やがった。
リーディアが言うには、監視や連絡役も入れて総勢300人は平時に出撃できる全軍らしい。
つまりやる気満々ということだ。
この軍事行動のために、いったいいくら金がかかってるんだろうかと思うと、6人の命とか気にするような金額じゃないような気がするのだ。
「こんなくだらないことのためによく予算出るな」と言うと、
リーディアが「私もそれを疑問に思う」と言った。
さらに「大規模演習する予算も取れなかったのに、これだけ出してくるとは」と言う。
やっぱり、予算の問題はあるんだと思った。
リーディアは「兵の動きが鈍い、何をやってるんだ」とか言い出して、
なんか軍を応援していたので、やっぱりこいつは捨てて逃げたくなった。
……………………
ダルガンイストは、完全な包囲網を作っている。
まあ、6人相手なら、そうするのが普通だろう。
俺たちが、このあたりにいることはリーク済みだし、そもそも出発時まで見張りがついてたので、だいたいの位置は把握しているはずだ。
待ってれば、勝手に包囲網に囲まれる。
何人居ようと、俺はその場の突破はできると思うが、結局、その人数に追われたら延々追跡をかわすのは難しい。
勇者鎧の迷宮に隠れる。ここは外から人間が開けることはできないし、中から出ることはできる。
不本意ながら、俺は人間じゃ無いらしいので外から開けるのだ。
今回に限っては、凄く都合が良い。
元々、勇者鎧が置いてあった部屋は、扉が特殊なのだが勇者鎧を持ち出したときに役目は終わったようで、開きっぱなしになっていた。
この部屋は、そこそこ快適なのでしばらくはここに潜伏しても問題無さそうだ。
リーディアおすすめの戦法は、ここに隠れて、偶に俺がテキトーなところで騒ぎを起こす。
それを繰り返す。
ダルガンイストから近いので、軍には補給はいくらでも届くが、この規模の軍の作戦期間が1日延びればそれだけ金がかかる。
規模が大きいことを、逆手に取ろうと言うのだ。
これだけ規模が大きいと、長期間の維持はできないはずだ。
おそらく短期間で決着をつけるつもりなのだ。
……………………
……………………
女達は、普通に、お弁当タイムだ。
「塩かけすぎだよ」「ここ暗いからさ」
俺が悩んでるときに、塩かけすぎとか、そんなことどうでもいいだろ!と思った。
リーディアは、今後のことを考えていた。
まさか、全力で来るとは考えていなかった。
国境地帯に留まれば、機動性の高い兵を中心に、中途半端な数で出てくると考えていたためだ。
大人数を展開すれば、周辺国を刺激することになる。
こないだの巨人の襲撃のときのように、ついでに争いが発生する可能性もある。
リーディアの想定では、広い戦場であれば200人やそこらで、トルテラが討たれることは無いが、おそらく、自分を囮にして女達を逃がそうとするはずだ。
場合によっては、また、どこかに消えるかもしれない。
トルテラ不在で女たちを守りつつ逃亡を続けるのは非常に困難だ。
そのときは、リーディアが命に代えても守らなければならない。
リーディアは、態度には出さないのでわかりにくいが、実はエスティア達4人を特別扱いしていた。
トート森の領主の話を直接聞いているから。
特別な話をわざわざ聞かされたと言うことは、特別な存在なのだ。
そう考えていた。ただ、それがどう特別なのかは、まったくわからなかった。
この4人の中に勇者が居るのかと思ったが、勇者に選ばれたのはリーディアだった。
(勇者鎧を取りに行くとき、この4人も同行したが、トルテラはリーディアを選んだ)
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俺は、どうにも腹が立ってきた。
リーディアは当事者だからいいとして、納得はいかないが、まあ俺も共犯者だとしよう。
だが、100歩譲っても、エスティア達を巻き込んだことは別だ。
うちの女共まで巻き添えにしようというのが、どうにも許せない。
兵士は士気低いし、ヤル気なのは偉い人だけだと思うので、とりあえず、本部に夜襲かけて、嫌がらせしまくってやろうと思った。
考えてることが、伝わったようで、「やめなさいよ」とエスティアが止める。
リナも「リーディアの案で進めて、隙を見て逃げる方法考えよう」と言い出した。
リーディアは、「皆のことは任せてくれ。私が必ず守る。いざとなれば私が投降すれば問題ない」と言うが、「ここまで大事になったら、それで済むわけないでしょ」とエスティアに突っ込まれてた。
リーディアが軍に喧嘩を売ったのだ。
俺にも責任はもちろんある。少しはあると思っている。
対象がリーディアと俺だけならそれで済むが、エスティア達を巻き込んだからには許さん。
これは、俺の気持ちの問題だ。
テーラとアイスは腕組みしてイイ顔している。
ちょっとイラっとした。
コイツ等は、”やっておしまい派”だ。俺が負けると思ってないからな。
コイツ等は、俺を化け物か何かだと思っているのだ。
リナは言わないけどわかってる。どこにも行かないで……だ。
なんか、俺はどんどん腹が立ってきたので、とりあえず本部まで夜襲に行くことにした。
扉を開けたのはリーディアだ。俺は人間じゃないから、中から開けない。




