6-8.この勇者返品したいです!
なんとかリーディアさんに【勇者の鎧】を押し付けることに成功しましたが、事態は急激にまずい方向に進みます。リーディアさんに【勇者の鎧】を与えたつもりが、【勇者の鎧】にリーディアがセットで付いてきてしまったのです。そして、さらには軍に喧嘩を売ってきます。なんという疫病神っぷりでしょうか。
再チャレンジして、やっとリーディアに勇者鎧を押し付けることに成功したのに、
勇者鎧のオマケにリーディアが付いてきた。
俺の苦労が無駄になったどころか、苦労がますます増えた。
リーディアが、派手に軍をやめてきたせいで、軍にはもちろん目を付けられた。
俺は再度、リーディアに軍に戻るよう説得する。
「【勇者の鎧】はリーディアにこそ相応しいと思ったから、託したんだ。
その力は人々の為に使った方が良い」と俺が言うと、
「あなたが、人々ためになることをすれば協力しよう」とリーディアが答える。
それは、俺の仕事じゃない。
そんなことをしたら、女達まで危ない目に遭う。
「リーディアが軍で必要とされてるんだから、普通に軍に戻れよ。
俺は軍から、お前を奪った形になってるんだよ」
と俺が言えば、
「勇者を選ぶのは神。そして、私を勇者を選んだのはあなただ。
その程度のこと気にする必要はない」
とリーディアが答える。
ぬぅ。脳筋のくせに屁理屈こねやがって。
軍がどう動くかを決めるのは俺じゃ無いんだから、
それを決める人たちがどう思うかを考えろよと思う。
「だから、軍が来たらどうするんだ」
「もちろん、迎え撃つ」
「大軍が来たらどうする?」
「他人の領地に送り込める人数など、たいした数ではない。
私とあなたがいれば十分だ」
俺たちがなんとかなっても、女達が危ないじゃないか。
「エスティア達が人質にされたら?」
「それはまずいな。だが、自分の身も守れず仲間を危険に晒すなど愚の骨頂。
見捨てられても文句は言えん」
問題外だ。俺はよく理解した。
このリーディアと言う女、軍のこと、軍でのやり方しか知らない。
脳筋でもあるが、完全な軍人脳でもありそうだ。
俺の気持ちの優先度なんか眼中無い。
俺は女たちの安全を優先したいんだよ。面子がどうとかはどうでも良い。
この女、身の回りの世話も付き人がやってるし、軍以外で生きていくことに関してまったく無関心なのだ。
その上、軍に戻れと言っても、まったく話聞かない。
脳筋のくせに口は回るし、本当に厄介なやつだ。
「お前が軍に戻れば済む話だろ」と言えば、
「それはできない。あなたに誓ったから。あなたが私を選んだのだ。
だからそれに応えた。どこに問題がある?」と返してくる。
俺は、勇者とかそういうの嫌いだから、押し付けたかっただけなんだよ!!!!と叫んだ。
俺の心の中で。
俺の期待通りリーディアは勇者鎧を受け取ってくれた。
そのことに関しては、俺も感謝している。
でも、鎧を渡すと勇者が付いてくるキャンペーン中だなんて知らなかったのだ。
軍に動きがあることは分かっている。
コイツは無駄に人望はあるので、元部下が「軍に戻ってきて」……と言いに来るついでに、いろんな情報をくれるのだ。
リーディアは軍が来ても対決する気でいるが、こいつは脳筋だから勝ち負け以外のことをまったく考えてないのだ。
しかも、コイツは俺が大将で、俺が生き残れば勝ちと思ってそうだ。
俺はエスティア達よりより長生きしたくないんだよ!!!
俺はもう、こいつのことは気にしないことにした。
エスティアはリーディアとの話を聞いていたが、全員揃っていない。
残りのメンバーを集める。
今後の方針について決める。選択肢なんかほとんど無いわけだが。
リーディア以外は全員一致で、逃げの選択をした。
そりゃ、わざわざ大軍と戦いたいなんてやつはいない。
「軍は俺の力は知ってるだろうから、大軍で来ない場合、
恐らく直接正面からでは無く、小細工してくるはずだ。
その前に逃げよう」
これに対して反対意見は出なかった。
問題は、どこに逃げるかだ。
「行先だが、トート森は、近隣の人達に迷惑かかりそうだし、
大群来たら竜が出て、なんかフラグが立ちそうだ」と俺が言うと、
「フラグってなんだ?」とアイスが聞く。
フラグの意味なんかどうでもいいんだがと思いつつも一応説明する。
「運命の分かれ目で、フラグを立てると分かれる方向が決まる。
まあ、悪い方向に行く運命が確定する」
「悪い方向ってなんだ?」
「そりゃ、その時々で変わる。
トート森だと、他国の軍が攻め入ると竜が出るかもしれないだろ」
「悪いのか?」
”悪いのか”って、いろいろまずい気がする。
滅多なことには出ないはずの竜が出たら、何かが起きてしまう。
「俺が竜を呼び出したことにされそうだろ?」
「そうかぁ」
歯切れは悪いが、アイスは納得してくれたようだ。
とは言え、ダルガンイストとあまり交流の無い土地……というと、実際はあまり候補が無い。
テーラが「タンガレア」と言った。
エスティアもリナも頷いた。
まあ、それしか無いよな。
「俺ここ気に入ってたのになぁ」とアイスが言う。
ここは俺とアイスの楽園だったのだ。魚もエビも取れるし木の実も多い。
この土地はきれいな水が手に入らず苦労するが、神殿跡地なら俺が居ればきれいな水が手に入る。
近隣の村人も、うちまで水を汲みに来る。
近頃では、俺はここでも神様扱いになっている。
この世界では井戸の水が透明になると、神様になるらしい。
神になるのは厄介だが、概ね気に入っていたので惜しい。
だが、仕方がない。
”知り合いに被害が及ばないところ”と言うことで、しばらくタンガレアに滞在することにした。
タンガレアでは、軍が大規模に動くのは難しいだろうと思ったのだ。
軍が国外を動き回るのは難しいと思ったからだ。
リーディアが言う。
「そうだな、タンガレアであれば軍も大規模では動きにくい。
悪くない計画だ」
俺は、お前のせいでこうなったんだよ!!!と思ったが言わなかった。
コイツは口で言ってもわからない残念な女なのだ。
ただ、気になることを言った。
「タンガレアで我々を撃つとしたら、少人数での暗殺、
或いはタンガレア側に反撃を受けない規模。
中途半端は無い。まあ、私の価値……先代勇者と現勇者、
どれくらいに見積もってくるか。
どうせ、話し合いで決まらないから先遣隊で様子見、
そのあとやっと本体を動かす算段を始める。
すぐに来るなら、はじめに来るのは騎士隊だ。
志願で目的は”説得”だろうから。
他の隊ならもっと遅いだろう。
ゆっくり準備して問題ない。あの間抜け共に、即決などできんからな」
リーディアはタンガレアに逃れるのは、準備をしてからで十分間に合うという。
軍が動くには時間がかかるから、ゆっくり出発しても問題無いと言うのだ。
予め予期されたことならともかく、リーディアが軍を抜けるのは予想外なので、どうせ動くのに時間がかかるという訳だ。
こいつは残念なやつだが、軍には詳しいので、そういうものなのだろう。
それはそうと、今までの上司の上司の上司くらいに当たる人達をいきなり間抜けとか言い出したのには驚いた。
ついでに、
「あなたがどれだけ間抜けであろうと、私は必ずあなたを守る。誓ったから」
とリーディアは言った。
俺は何も言ってないのだが……でもわかった。
コイツにとっては、俺も間抜けの1人なのだ。
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この拠点はとても狭い。
リーディアが来た時、少し拡張したとは言ってもベッド1個分広がったわけでは無い。
にもかかわらず、小さいベッドがもう1つ増えていて、リーディアの従者が寝ていた。
リーディアのベッドには何故かテーラが寝ていて、リーディアはベッドに座り、何故か俺が圧縮されるのをずっと眺めていた。
俺は、ひたすらリーディアに見られまくって、意味が分からない。
俺は、今日はアイスとリナに圧縮されていた。
再会してからずっと、リナは一緒に寝るとき「どこにも行かないでね」と言う。
俺はこれを聞くたびに悲しくなってしまうのだ。
俺は疫病神みたいな男で、すぐにトラブルを抱えてしまうのだ。
今も、勇者鎧拾ったら勇者が付いてきて困ってるのだ。
しかも、勇者がついてきたせいで軍とトラブルになってるし、もし大軍が来ても、リナたちは安全に逃がしたい。
そう考えると、俺はリナたちを置いて、どこかに行かなきゃならないときもあると思うのだ。
「軍が来る前に遠くに逃げよう」と言うと、リナも「一緒に遠くに逃げよう」と言って、抱き着いてくる。
リーディアに渋い顔で見られながら気を失うのは屈辱的だが「俺はトルテラと一緒ならどこでもいいよ」と言いながらアイスも抱き着いてきて、俺はもう、ちょっと駄目な感じになってきた。
リーディアはなんでずっと見てるんだよ!と思いつつも意識を失ってしまった。
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リーディアは純粋に珍しいから、興味があるから見ていただけだった。
男は女と一緒に暮らすと恋をして寿命が縮むと聞いていたのに、ぴったりくっついて寝ているのだ。
「いつもああなのか?」と言うと、「いつも通りよ」とエスティアが答え、「こっちはベッドがあるせいで狭くて仕方ないけど」と付け足した。
快適ゾーンが狭くなったので、テーラがリーディアのベッドで寝ているのだ。
リーディアはそれには何も答えず、「当番制か?」と聞いた。
「そう。当番制」とだけエスティアが答えるとリーディアは意外なことを言った。
「そうか。一区切りついたら、私も当番に加えてもらおう」
エスティアは、てっきりリーディアは独占するか、興味無いかどちらかだと思っていたのだ。
しかも、一区切りつくまでは加わらないと言う。
私たちの仲間として加わりたい? エスティアがそう考えていると、リーディアはさっさと寝てしまった。テーラの隣で。
リーディアの従者は、テーラを排除したくて堪らないようだった。
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朝テーラに髭を剃ってもらっていると、リーディアがそれを見て言う。
「ヒゲ伸ばしても良いのではないか。伸ばした方が勇者にふさわしい貫禄がでるぞ」と言った。
皆黙る。
まあ、ダルガンイストに建てられた3mもある俺の勇者像で俺は立派な髭を生やしている。
このときも剃っていたのだが、像は髭付きだ。
髭があると目立つから剃ってたのだが、男の勇者であることを強調してあるのだろう。
テーラが悲しそうな顔をしていたが、俺が「髭伸ばすと先代勇者扱いされるだろ」と言うと、
リーディアは「先代勇者ですから当然では」と言った。
テーラの表情は、悲しそうではなくなったものの何か考えている。
俺にはなんとなく想像がついた、前にシートが伸ばした髭の手入れの素晴らしさを語っていたから、たぶんそれだ。
俺は、今でもテーラに髭を剃ってもらっている。
その役は公儀髭剃り役と呼ばれている。
アイスが公儀副髭剃り役になった日にその称号がついたらしい。
この世界には髭が濃く生える男は少ない。それもあってか、あまり髭を剃る習慣が無い。
髭を剃る習慣が無い理由は他にも有る。
ナイフの手入れが手間なのだ。
この世界の刃物はあまり切れ味が良くない。
かなり頑張って手入れをしないと、髭なんか剃れない。
男は髭伸ばしっぱなしが多いが、そもそも髭剃りが難しいからというのも理由の一つになっている。
テーラが、その役目を大事にしているのを知っているので、
俺は髭を伸ばす案には賛成しなかったのだ。
日課だし俺も髭剃ってもらうの好きだから、このままで良いのだ。
ジョリ、ジョリ
ふんふん。におわない
におわない。
ジョリ、ジョリ
ぺた。
くっつかない。
くっつかない。
なぜか復唱する。
「髭、伸ばさなくていいの?」とテーラが問う。
「いいよ。目立つから」と答える。でも、本当の理由は別にある。
髭剃るのやめると、かわりに頭剃りそうだから。




