5-3.人間には開けない扉と、人間が開けるのに俺は開けない扉
大鎧の書に出た”迷宮の竜が導く”の文字に従い死を覚悟しつつ再び迷宮に行ったトルテラですが、死なずに済んだものの勇者装備が無いと追い返されてしまいました。
勇者装備が無いと導いてもらえないようです。
死を覚悟して迷宮に行ったものの、結局財宝少しもらっただけで、”勇者装備を持って出直せ”と追い返されてしまった。
だが、俺的には先代ルオール候と約束をしたという”竜の遣い”が特定できただけで大きな収穫だった。
貰った財宝には、金貨が何枚か入っていたので、それだけでも十分大金ではあるが、あとは高いのか安いのかよくわからない宝石だかペンダントだかが何個か入ってるだけだった。
あとは地図。
この地図は捨てたい気持ちもあるが、捨てて後で詰むのも困る。
キリっとした顔で「ボス部屋には入らなかった」とアイスが言う。
これは”褒めて、褒めて”か?迷宮に入る前に、ボス部屋には絶対に入らないという約束をしていたのだ。俺も含めて誰も入ってないので、特に偉いわけではないが、
「おう、よくやった」と答える。
テキトーにあしらっただけなのに割と嬉しそうだ。
俺はちょっとこれに弱い。
アイスはちょっとおバカだけど素直で良い子なのだ。
「ねぇ、これからどうするの?」とエスティアが
「勇者装備、探しに行くのか?」とリナが言う。
竜とか勇者絡みのイベントは俺に決定権があるようだ。
言われた通り勇者装備を探すことも検討したが、勇者装備とか危険なモノには触らないのが一番だと思った。
「依頼はこなしたから一度帰ろうと思う」と答えた。
「俺はトルテラについて行くよ」とアイスが言う。まあ、いつも通りだ。
テーラは、特に反応無しだ。
勇者装備には興味無いようだ……と思っていたら、
「勇者装備、知らずに誰かが拾ったらどうする?」と言った。
なるほど。それは問題だ。
そうだ、俺はいつでもどこでも望みもしないフラグを立てる男なのだ。
この中の誰かが勇者装備拾ってしまった場合……良かったねでは済まない。
俺は帰る気満々だったのだが、まずいことに気付いた。
巨人を倒すのが勇者の仕事だった。
あれは、俺でも倒せるかわからない。
そんなことコイツらにやらせられない。身代わりを見つけないと駄目だ。
「やっぱり勇者装備探す。お前らが勇者になったら困る。
あのでかいのと戦わなきゃならなくなる」
と言っても、俺しか見てないんだよな……あのでかい怪物。
くそ、テーラはこのことわかってて誘導しやがった。
いったい俺にどこまでやらせるつもりなんだろう。
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勇者装備がどこにあるか、普通はまずそこからだと思うが、今、普通に手元に地図があって、何故か丁寧に勇者鎧のある迷宮が書かれている。
竜の遣いだか分身だかが、財宝と一緒に地図をくれたのだ。
「これ本物かな?」とアイスが言う。
エスティアとリナが一生懸命調べてるが、見なくてもだいたい想像がつく。
「俺は本物だと思うが、誰かに盗掘されて、もうそこには無いってことはあるかもな」と答えた。
あの竜の分身だかは、俺に勇者装備を集めさせたいのだ。
だから、今どこにあるかはともかくとして、元はそこにあったはずだ。
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まずは、キャゼリアのところに行く。勇者関連に詳しいのはキャゼリアだ。
森から行くよりは、ここからの方が近い。
リナは、キャゼリアのところに行くと、トルテラが書物庫通いで、また別行動になってしまうかもしれないと考える。それに、また、トルテラが酷い目に遭わされるかもしれないと思う。
「次、見張りが必要な時は私が行くから」
エスティアは微妙な顔をしていた。
前回の風呂騒動の時、結果として一番得したのが見張りをしていたエスティアだったのだ。
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装備が十分だったので、そのままダルガノードまで来たが、どうも様子がおかしい。
今回は血みどろ服では無いし問題ないはずだが?……と思ったが、だいたいわかった。
俺は気を失ってたので知らなかったが、よほどの騒ぎになったようで、町で、風呂とか匂いとか”あの年で!”みたいな、そんなヒソヒソ話がすると思ったら、知らぬ間に有名人だよ!
トート森では守り神、ダルガノードでは色ボケ爺さん。
たぶん、俺が大鎧側の人間(?)だからなのだろう。
デフォルトで向こうでは何かすると良い方向に、こっちでは悪い方向に捻じ曲がって情報が伝わるような気がする。
正直どちらも好きではない、ニュートラルなところに住みたいと思った。
でも、1つ安心したことがある。
情報の対価がまた風呂だったらどうしよう……と思ったが大丈夫だった。
俺は風呂出入り禁止になってたからだ。
キャゼリアが男同伴禁止になっただけだけだが、これで俺は安心だ。
キャゼリアは相変わらずだった。
「聞いたわよ。ルオール候直々のお話があったんですって?」
うわ、いきなりそれかよ。
「テリシアが羨ましいわ。私も聞いてみたかった。
で、ここに来たってことは勇者と関係があるのね?」と言った。
正直、理解が早いのは助かる。
「勇者装備について教えて欲しい。何種類あって、どういうものなのか」
と言うと、口頭でさらさらっと教えてくれた。
「勇者装備って言うけど、決まって出てくるのは鎧だけよ。
神の国で作られたものと言われているわ」
「神の国?」
「選ばれた者にしか開けられない迷宮の奥にあると書かれているわ」
勇者側の話では、勇者装備と言うのは神の国で作られたものらしい。
そういや、前にダルガノードの図書館で読んだ。
勇者の話はだいたい、勇者の鎧を取りに行って巨人と戦う話だった。
勇者鎧の地図を見せると助手みたいのを呼んで、興味津々で調べてた。地図にも興味あるのか。
「ダルガンイストからそう遠くないわね」。
迷宮はダルガンイスト近くにあるようだ。
勇者関連の迷宮はだいたい、こっちにあるのだな。
「先生、ここ、ここ」と助手が言う。
「これじゃないかしら?」キャゼリアの持つ詳細地図と見比べて場所が特定できた。
ところが困ったことが起きた。
「私も迷宮に行ってみたい」とキャゼリアが言い出したのだ。
まあ、研究者ならそう思うのだろうが、伝説級の危ないものが潜んでいる可能性がある。
「この迷宮なら、人が開けない扉があるのよ。その扉が開くのをどうしても見たいの!」
危険だからと思ったが、人間には開けられない扉があるのでそれを開けるところを見たいと言う。
”それじゃ、人間が勇者になれないじゃねーーーか!”と突っ込みを入れた。心の中で。
今勇者鎧が手に入ると極めてまずいので、別の迷宮の扉を開けることで妥協してもらった。
とりあえず、情報の対価が、俺(の体)に(性的な意味で)危険が及ぶようなことでなくて助かった。
開けるところ見せるだけならなんとかなるような気がするのだ。
……………………
……………………
なんか、冒険家みたいな恰好をしつつも、素人丸出しなキャゼリアと助手と一緒に、人間では開けられないという扉がある場所まで行く。
前に、ストーンサークル調べに来たあたりだった。
すぐ近くにあると言うのでついて行くと、確かに扉はあった。
単なる岩の窪みかと思った。よくこれが扉だって気付くもんだなと感心した。
俺は見た目は単なる岩にしか見えなかったのだが、触るとピンときた。
確かにこれ、例の扉だ。見つけたやつが凄いよ!
「こんなのどうやって見つけるんだ?」とキャゼリアに聞くと、「経験と勘よ」と返された。
「キャゼリアは今まで何個見つけたんだ?」と聞くと、「1つ」と答えた。
助手の話によると、滅多に見つからないから1つでも凄いそうだ。
ちなみに、慣れると触るとわかるのだそうだ……なんだ、経験と勘がある上に、やっぱ、触んないとわかんないのかよと思った。
まずは、俺以外の誰にも開けられないことを確認する。もちろん、開かない。
「誰にも開けられないことが確認できたから、開けてみて」とキャゼリアが言う。
少し力を入れるが開かない。なんか引っかかってるようだ。接地(魔法)も使って、思い切りやると少し開いた。中に何か危険なものが無いか確認する。
すると、キャゼリアと助手が凄い勢いで喜んでた。
「本当に開いた!」「人間が開けない扉なのに」
”なんで、人間が開けない扉、俺は開けれるんだよ!”と自己突っ込みを入れた。
キャゼリアと助手は、いつだか冒険者で宴会やった時と同じで、抱き合ってくるくる回ってる。
おお!あれはこの世界では標準的なものだったのか!
中高生くらいの女の子ならともかく、キャゼリアくらいの年の女性でもそれやるので、びっくりする。
エスティア達があれやってるの見たこと無いのだが。
うちのは皆テンションが低めなのかもしれない。
開け閉めしたら、だいぶスムーズに動くようになった。
中はあまり深くないようだ。死んだ迷宮って感じがする。
扉は1回目は固いが、1回開いてしまえばびっくりするほど軽く開け閉めできるようになった。少し開いてる状態からならだれにでも開けることができるし、閉めることもできる。
完全に閉まると、俺にしか開けない。
キャゼリアと助手に付き合って、3時間くらい開け閉めばかり繰り返した。
研究者ってのは凄いものだと思った。30分くらいならわかる。
実際に何時間経過してるのかはわからないけど、たぶん3時間くらい経ってると思う。
俺は既に超飽き飽きしている。
エスティア達は飽きて雑談してる。
アイスがダルガノードで買い食いしまくってる話だ。
アイスは金があるときに珍しい食い物を見つけると、すぐ買い食いするのだ。
また俺が俺の小遣いでアイスのパンツ買わなきゃならなくなる。
アイスの小遣いから予めパンツ資金天引きしてほしいと思った。
「あれはイマイチだった。凄く美味そうな匂いするのにタレの味しかしねーんだよ」
「美味しそうに見えなかったよね」「私もあれは外れに見えた」「そうか?美味そうだったぞ。匂いは」
「こっちはお菓子が美味しいと思うんだけど。良い匂いするし、甘いし!」
「こないだのあれ美味しかったな。また買おうかな?」
「あれ、たまにルルが買ってきてくれる。美味しいよね」
ダメだ。こいつら、金持ってるとお菓子買っちゃう小学生レベルなんだ。
ルルの名前が出たからか、キャゼリアが
「ルルシアがあなたの話よくしてるわよ。
あなた達が出て行っちゃったから、今シートの家に居るわ」と言った。
「次戻ったとき、会ってみます」と答える。
それはそうと、なんでルルが俺の話してるんだろう?
テーラにはお姉さんが居る。
テーラはずっと俺と一緒に居て、ルルと話す機会はなかった。
なんでルルが俺の話をしているのだろうかと疑問に思う。
俺が気づかないうちに、度々目撃されていたりするのだろうか?
この扉は危険だ。
勇者本に扉は外から開けることができても内側から開けないという記載があるので、中には絶対に入らない。
過去に扉の横から穴を掘って扉の向こうに行こうとしたが、扉の周囲は掘れないのだという。
さらに、もっと奥なら掘り進めるが、扉の奥に到達することはできないと言う。
あるはずの洞窟に辿り着けないのだと言うのだ。
いったいどういう仕組みなのだろう?
扉の開け閉めだけでものすごく感謝された。
今度、冒険者服の予備を買ってくれると言う。
おお!これで、また残念騎士と戦いになっても、服買うために余計な依頼受けなくて済むと思うと気が楽になった。
……………………
「帰る?」「終わったか。長かったな」
「やっと終わったか。俺腹減ったよ」「お腹すいたね」
食い物の話してるから余計に腹減るんだ……と思ったが、口には出さなかった。
何故なら俺は、紳士だからだ。
テーラが「扉開けて」と言うので開ける。
何か確かめたいことがあるようだ。
少しよそ見をしてる間にテーラが中に入って扉を閉じた。
「何やって……」と言いかけたところで、扉が開いてテーラが出てきた。
中からなら開けられるのか?
「どうやったの?」と言いながらキャゼリアが駆け付ける。
テーラが「中からは人間が開けられるの」と言った。
”知ってたのかよ!だったら教えてくれよ”と思ったのだが、今のが知ってたことを教えてくれたのだそうだ。
心臓に悪いから先に口で言えよ!!!と俺は全力で叫んだ。心の中で。
外から開けれるのは俺だけなので、俺は外で待機しなければならないが、女達が一人一人試す。
驚いたことに、完全に締め切っても中からは開けられるのだ。
この扉の仕組みが分かった。
俺は外から開けられる。人間は中から開けられる。
俺が中から開けられるかは、試してないのでわからない。
キャゼリアに、俺が中から開けられるかを是非とも試してほしいと言われたが、俺一人だと開けられないかもしれないので誰かと一緒に入らなければならない。
「うちの女は駄目だ」と言ったら、なんと一緒に入るのは助手になった。
酷でぇ。キャゼリアじゃ無いのかよ!!
俺、こんなことで命落としたくないんだけど……と思ったが、どっちにしろ、勇者鎧を取るためには誰かと一緒に入らなければならないので、ここで試しておくことにした。
もしかしたら、最後のパートナーが名前も知らない助手さんになってしまうかもしれないと思ったが、テーラが「だいじょうぶ」と言った。
……たぶん大丈夫なのだろう。
扉を閉めると、俺には開けない。が、助手さんはあっさり開けた。
すげー。”俺、人間が開けられる扉、開けないんだぜ!”
やっぱり俺は人間じゃないようだ……
人間が開けない扉を開けることより、人間が開ける扉を開けないことの方がショックが大きかった。
俺は人間じゃないのだ……やっぱり。
そう思って凹んでると、テーラが優しく手を掴み。
「だいじょうぶだよ。元から人間じゃないよ」と言った。
今それを言うのはやめて欲しかった。
俺はもう駄目だと思いくてっと倒れた。
さすがにアイスにまで「スゲー、テーラ鬼畜だ、スゲー」と言われてた。
ダメージがでかくて、回復するまで2時間くらいかかった。
ダルガノードに戻るが、俺がダウンしてたせいで暗くなってしまったので、キャゼリアの屋敷に泊まることになった。
だが、嬉しい誤算が! ここには風呂があった!
あ、いや、風呂は無いと言えば無いのだが、頼むと体洗い用の湯を持ってきてくれる上に、自由に水を流せる洗い場があるので普通に風呂として使えるのだ。
しかも、なんと、憧れの石鹸がある!相変わらず工業用かよ!って感じの妙な臭いがするけど、すっきりする。
ただ、相変わらず、凄い視線を感じるのだ。
やはり覗きスキルみたいなものがあるのではないだろうか?
体洗いは順番なので全員入るのに2時間くらいかかってた。
2人くらいなら同時に体を洗えるようだ。
まあ、俺は、誰かと一緒に入ることは無いが。
「変ね。お湯いっぱい使ったのにカラっとしてるわ」とキャゼリアが言った。
おお! 気付くのか!
そうか、俺はこれが普通だから気付かなかったが、俺は動く除湿器人間……じゃない竜か何かなのだ。
「俺のシールドは湿気も取れるから」と言うと、妙な手押しの霧吹きを持ってきてシャコシャコやって驚いてた。この人は実験しないと気が済まない人なのだなと思った。
なんか、俺はそのアイテムは俺の世界で見たような記憶がある。
俺の時代には無かった……あまり使われないので、俺は使ったこと無いと思うが、なんか俺の世界にもあったような霧吹きだった。
竹の水鉄砲的な見た目のやつだ。
普通のシールドなら、体や服が濡れなくても、水はシールドに沿って流れ落ちる。
俺の場合は霧吹きで水かけても水が落ちないのだ。
今まで気にしてなかったが、除湿した水はどこに行くのだろう?と思ったが、明るいところでやってみたら細かい水滴の動きが見えた。水滴を細かくして体から離れる方向に散らしているようだ。
霧吹きけっこう役に立った!!
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……………………
それはそうと、ここでの睡眠はまったくもって安心できない感じだ。
キャゼリアがテーラに「ねぇテリシア、お願いだから一晩借りれない?」と交渉してたが、テーラではなく、エスティアとアイスに凄い勢いでお断りされてた。
俺は、絶対あとでキャゼリアが乱入してくると思った。
ベッドで寝ると全員が俺のベッドに殺到して圧縮されると思い、俺は絨毯の敷かれた部屋の片隅で寝ることにした。その意図を汲み取ってくれて、うちの女達が囲んで防御してくれた。
ところが、俺が寝ていると、いつもと違う感覚が。何かがペトっとくっついた。
手を動かすと、普通に女が居るが、なんかいつもと違う……と思い、目を開けると助手だった。
反対側はキャゼリアだ。
「あ、起きた、そっち」とキャゼリアが言うと「はい、先生」と助手が言って思いっきり抱き着いてきた。
たぶん筋肉量の違いなんだと思うが、なんかやけに柔らかい。冒険者の体と違う感じだ。
その上、キャゼリアは胸がでかいのだ。
それを押し付けてくるので、前に風呂で踊ってぶるんぶるんしてるのが脳内で再生された。
まずい、動悸と眩暈がする。
「先生、匂いが!」「ほんと、素敵ね」。
なんでコイツらが堪能してるんだよと思い、「誰か!」助けを求めるが、「今日は貸してもらったの」とキャゼリアが言う。俺は裏切られたのだ。
キャゼリアが「ふふ、今日は寝かせないわよ」と言って、俺はもう駄目だと思い気絶した。
「え?まだ何もしてないのに」とキャゼリアが言うと、「だから言っただろ。やりすぎだよ」とリナが言う。宣言通り、リナが見張りについていたのだ。
助手はまだ夢中で抱き着いてる。
仕方が無いので、キャゼリアも意識の無いトルテラに抱き着いて寝ることにした。
ただ寝るだけでも良いものだと思った。
テリオス(ガスパール)が元気だったころのことを思い出していた。
いいな……老けても死なない男。キャゼリアはそう思った。
エスティア達は、不本意ながらもトルテラを生贄にする必要があったのだ。
女達には女達の都合があるのだ。




