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と思ったら乙女ゲームだった?

さて、リナちゃんの健闘を祈りつつ、通常業務に戻った自分は、いつも通りそこそこ真面目にコツコツ働いた。

精神的同郷の士に出会ったからといって浮ついた行動はしない。疑われてあの日のリナちゃんの逃亡幇助の罪で、罰則は喰らいたくないからだ。小物でゴメンね。


とりあえず、うっかり関係者に接触はしたくないので、リナちゃんがちょっかいかけてくると言っていたロリコンの変態達の顔と身元は、確認しておいた。


王太子は、言わずとしれた正統なお世継ぎの王子様。たぶん十代後半の金髪巻き毛がゴージャスな俺様イケメン。

あの日、部屋に来たのはこの人。


第2王子は、王太子の下位互換。同じく金髪だけど、サラサラストレートのショートボブスタイルでリナちゃんより年下。だからロリコンではないがマセガキ。カワイ子ぶっているが、使用人は人間だと思っていなさそう。


宰相の息子は素直に腹黒い感じ。策士と見られたい中間管理職っぽいタイプ。王太子の御学友らしい。細面のシュッとしたインテリイケメン。


護衛騎士なのに護衛対象に懸想して危機感を持たれている間抜けは、細マッチョタイプ。王城の警備関係者ならもっと筋骨たくましい奴がいいんじゃないの?筋肉が足らんぞ。王太子よりも年上だが、若造感がある。派手な赤毛でちょっと童顔なせいか?


若い神官というのは、本当に神殿でかなり高い地位にある人だった。銀髪を腰まで伸ばしていて、真っ白な神官服を着ているので、たぶん労働はしない人。20代前半みたいだが、顎も首も細い美形。深窓の令嬢みたい。


リナちゃんが”遊び人っぽい”と言っていたのは、おそらく公爵様。チャラチャラしているけど王弟だよ……20代後半か30過ぎじゃないのか?完全にアウトな年齢差だろ。王太子殿下と同じく巻き毛だけど明るい茶色なせいで単にチャラく見える。いい歳して、整った顔でヘラヘラ笑うのはよせ。


最後の一人、迫力のある怪しい人というのは誰のことかわからなかった。黒髪で黒い服らしいが、ちょっと調べた範囲では該当者なし。

夜更けとかに王城の奥の中庭に現れているらしいから、絶対に偉い人。何やってんの?中2病拗らせた高位貴族か。


結論。どいつもこいつも金と地位のあるイケメン。”色男、金と力はなかりけり”って言葉はこの世界では適用されなかった。フザケンナ。

これはあれだ。リナちゃんは乙女ゲームのヒロイン役だ。なるほどそういう世界だったのね。

格差にバカバカしくなったので、これ以上は考えないことにした。

凡人は世界の片隅で生きていきます。二度とお会いしません。ありがとうございました。




と思っていたのに!


『こんにちは。あのときの方ですね!って……ええっと、こっちの言葉で……』

日本語全開で駆け寄って来た。

「ごキゲンうるわしゅう?」

麗しくねーよ。スカートつまんで可愛くお辞儀とか無駄に作法習わされてるな。可哀想に……じゃなくて、なんでここにいるんだよ。関係者以外立入禁止だぞ。


今日は郊外に造成中の庭園に来ていた。女性や子供が憩える目新しい観光資源をという要望で、前々から計画して造っていた公共緑地庭園の目玉となるところだ。一般公開はまだまだで、資金提供元の関係者の内覧会にむけて最後の仕上げを急ピッチで行っている最中なので、部外者は絶対に入ってこられないはずだ。

思わず眉根が寄りかけたところで、彼女がここに入れた理由がわかった。


「リーナ、どうしたんだい、突然……お前は何者だ」


うわ、王子様、最初と最後で声が1オクターブぐらい違うよ。


「特務にございます。殿下」


膝の上に広げていた昼食をベンチに置いて、第2王子殿下に向かって膝をついて頭を下げる。


「散策の邪魔だ。下がれ」


市井の施設は使用人の教育がなっていないな、とか仰られましても、まだここ公開前の工事中のエリアですよ。

とはいえ口答えはしない。第2王子はこの庭園のメインスポンサーだ。内覧会に先んじて、今回の目玉企画の”秘密の花園(シークレットガーデン)”がいかなるものか覗きに来ても通すしかない。もちろんそれ以下の連中はたとえどれほど大口出資者でも門前払いを喰らわせて、秘匿して世間の興味と関心を煽るというマーケティングを慎重にやってきた大事な物件だが、王子は仕方がない。


「つまらないところに連れてきてしまってゴメンね、リーナ。もう行こうか」


くそう。招待もされていないのに、完成前の状態を無理やり見にきてつまらないとか言うなよ。無茶な注文に精一杯応えてくれて今も寝食忘れて頑張ってくれている庭師や大工や職人の皆さんに申し訳ないじゃないか。

殿下に手を引かれたリナは、ちょっとオロオロしていたが、「ごきげんよう」ともう一度軽く貴婦人風の礼をした。殿下は「そんなのにそういう挨拶はしなくていいんだよ」と言って彼女を連れて行った。


『お弁当中にゴメンね』

彼女がそう小さく呟いたのは聞こえた。


そうだよ。作業が佳境で朝も昼も食べそこねてて、こんな時間にようやく食べ始めたところだったんだよ。

この世界はお弁当文化ないから、スタッフ用仕出し弁当の配給もないからな。外回りの仕事の時用に、食堂のおばさんに頼み込んで作ってもらっている自分好みの特製弁当の包みを大事に抱えて、そそくさとその場を退散した。


やだな。長いものには巻かれる主義だから、偉い人のワガママに振り回されても平気だけど……せっかくみんなで頑張って造ってきた庭園なんだから、君はそんながっかりした顔をしないで欲しかったな。






その後、ほどなくして……。

特務に”外出用携帯食事容器(おべんとばこ)”の開発依頼が来た。

ねぇ、ひょっとして、特務の仕事って、異世界人のリナちゃんのご機嫌取りのための下働き?

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