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聖なる乙女は日アサヒロイン

何がどうしたのか、自分の言葉でいいから話せ。こっちは、聞いてもわからないから、何を話しても構わないし、つらいことや不安なことは言葉にするだけで、結構楽になるから。

と、いうようなことを、身振り手振りを交えつつなんとか伝えて、聞き出したところによると、思った通り、愛染理那は異世界転移者らしい。


普通の中学生だったが、ある日、妖精が現れて「僕らの世界を助けて」と頼まれたらしい。日アサか?!

了承したら、なんか天国っぽいところの女神サマに引き合わされて、聖なる乙女としてこの世界に行き、女神の代わりに世界を救って欲しいと依頼されたという。


なるほど正規ルートはそういう段取りなのか。ずっけぇ。

日本語はわからないフリをしながら、ひたすらうなずいて聞くマシーンと化していたのだが、もう少しでツッコミかけた。


ところが正規雇用でも、労働条件はよろしくなかったようで、こちらに来ても言葉が通じないわ、文化は違うわで、苦労しているらしい。

幸い、すぐに王城に保護されて、大事にはされているため、衣食住は足りているし、文化ギャップがつらい部分も少しずつ改善されているので、生活面でこれ以上の贅沢は言えないが、ホームシックにはなる。なによりコミュニケーション不全が辛いと彼女は泣いた。


「そうだよね。大変だよね」

座り込んでしまった彼女の隣にしゃがんで、ひたすら無責任な相槌を打つ。

泣く子をあやす方法なんて知らないが、異世界に放り出されて、日本が恋しいという気持ちには共感ができるので、通じないだろうな~と思いつつも相槌の「うん」にその共感の思いは込めてみる。自己満足だが、異郷でこういう同朋意識を持てる相手がいると、相手のためというよりは自分のために、そうしたくなった。




『聞いてくれてありがとう』

いえいえ、どういたしまして。

『でも、女神サマの話は内緒だから話しちゃダメよ』

口の前で人差し指を小さくクロスさせてそんなことを言う。

おくちミッフィ……って、かわいいな、おい。でも、通じねーよ。この世界にバッテン印はノーの意味って文化はないよ。身振り手振りもあまり通じないって嘆いていたけど、文化的背景を共有しない身振りは、通じないの当たり前だぞ。中学生に言っても酷だけどさ。


「言葉、わからない。安心して、誰にも話さない」

こういう国家機密は、帰ったら、きれいに忘れます。そもそも日本語わからない建前なので、何も聞いていないです。大丈夫、大丈夫。


口の前でバッテンを作って、にっこりしてあげると、彼女は嬉しそうにした。さすが主人公。可愛い。女神サマ、完全に顔で人選しただろ。


何も解決していないけれど、一方的に話しただけで、かなりスッキリした顔になった彼女に、気になっていたことを一つ尋ねてみる。

「逃げる、隠れる、なんで?」

彼女は困った顔になった。

「キケン?オソウ?コワイ」

なんだろう?世界を救うために悪の組織とか悪魔とか怪獣とかとでも戦わなきゃいけないのかな?

『えーっと、こっちの言葉でなんて言ったらいいんだろう。……なんか身近な男の人達が、やたらにせまってきて怖いというか、自意識過剰かもしれないけど身の危険を感じるというか……微妙な話題過ぎて、変に間違えて伝わるとまずいよね』

なんですと?!

『あ、やだ。違うの!やっぱり誤解させちゃった?』

彼女はこちらの顔を見て、あわてて手を振った。

「シンパイナイ。平気」

おいコラ。”平気”だけ発音が熟れているのは何なんだ。そんなに”平気”だと言って我慢しないといけないシチュエーションが多かったのか。そんな子が走って逃げて隠れるって、よっぽど我慢の限界ってことだろ。

どこのど畜生だ。こんな子供相手に。

「……誰?」

他人事ながら、思わず目が据わって、どすの効いた声になった。


なんでもないと渋る彼女から、無理やり聞き出したところ、彼女の周りにいて彼女に粉をかけてくるケダモノというのは、次のようなメンバーらしかった。

王太子、第2王子、宰相の息子、護衛騎士の一人、神殿の偉い人っぽい若い神官、遊び人っぽいけどたぶん偉い貴族の人。身分はわからないけれど迫力のある怪しい人。

なんだその権力者オールスターズ。(最後一人もマント付きの豪華な服を着ていたそうなのでたぶんお忍びなだけ)

腹は立つけど、自分みたいな木っ端貴族じゃ、絶対に物申せない相手じゃん。


日和った結果、彼女に策を授けることにした。

ヘタレでごめんよ。自分の人生大事なんだよ。

「一番害がなさそうな奴を一人選べ。そいつが好きだからといって残り全員遠ざけろ。そして最後に選んだやつをフレ」

言葉が通じなさそうなので、小銭を取り出してテーブルに並べた。もう一度簡単な単語で説明しつつ、硬貨を指差す。

「男、安全、選ぶ」

硬貨を一つだけ指で押さえる。

そのまま押さえた硬貨を動かして、残りの硬貨をテーブルの外に弾き飛ばす。

「全部ポイ」

真剣にテーブルの上を見つめていた彼女の顔を見ると、彼女もこちらを見返して、コクリとうなずいた。可愛い。

最後の硬貨を拾って、ピンと親指で弾く。これもポイだ。わかるね?

「わかりました」

彼女は弾かれた硬貨をキャッチして、笑顔でそう答えた。

……これも発音がいいのは、たくさん使う場面があるからなんだろうな。

テーブルから落ちた硬貨を拾い集めながら、こんなことしかできない自分が嫌になった。




せめてものお詫びに、彼女が住んでいるという宮まで、人目につかないように送ってあげた。改装工事の仕事で行ったことのある建物だから、間取りと構造は把握している。

……特務って、変なところをウロウロしていても、妙な借り物をしても、なんだか大きなものを運んでいても、目立たないんで、こういうときは便利なんだよ。


ちなみに、この日の本来の仕事はキャンセルになった。呼び出した側が別件で忙しくなったらしい。お偉いさんは大変だなぁ。

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