おまけ:結婚式当日
おまけです。
やぁ、この日が来てしまいましたよ。
結婚式当日!
ウソみたいですが、マジです。
18歳になった途端に結婚とか、昔は想像もしてなかったな。
提出する公式文書にはサイン済み。
身内でやる格式張った儀式っぽいことは大方終わって、このあと日本で言うところの披露宴相当のパーティです。
いやぁ、ドレスですよ。ドレス!
色とデザインは、好きにしていいよと言われたから、シンプルな白にしてもらいました。うひゃー。
「よくお似合いですよ。お嬢様」
「すみません。お客様としてお迎えしなければいけないところなのに、仕度まで手伝っていただいて」
「お嬢様の晴れ姿にお力添えできて光栄ですわ」
侍女さん……昨年、結婚して今は子爵夫人が、嬉しそうに微笑んでくれた。
相変わらずお美しい。憧れる。
「素敵な奥さんをずっと独占しちゃって、あいつに妬かれそうです」
「いいんですよ。ほっといて大丈夫です。うちの人、お嬢様のことでとやかくは言いませんから」
「貴女にそんな感じで”うちの人”だなんて言われるあいつも幸せだよなぁ」
「お嬢様と結婚できる旦那様の方が何倍もお幸せですよ」
「そうかな。そうだといいけど」
いや、愛されているとは思うんだけど、ちょっとどういう意味で愛されているのかわかりにくい奴だからなぁ。
だめだ。考えていたらドキドキしてきた。
「貴女とあいつって普段どんな感じなんですか。なんか尻に敷かれてるって噂は聞いたんだけど、領主夫妻ってどんな感じなのか、うちは父が一人で全部やっていたからわからなくて」
「そういえば、奥様は長くお留守にしていらっしゃるんでしたね」
私を生んですぐに”失踪”したのだという。死亡届は出していないらしいということぐらいは知っているが、詳細を誰も教えてくれない。絵姿1枚残っていないので、私は母については何も知らなかった。
生きているなら結婚式ぐらいは出てもらいたかったが、事情が全くわからないので、そんなことを口に出す気にもならなかった。
ちょっと重くなってしまった空気を仕切り直すように、パーティの来客名簿と招待状を作るときのドタバタを面白おかしく話していると、うちの使用人の一人が泡をくって駆け込んできた。
「大変です、お嬢様。奥様がお帰りになられました」
ええっ?!奥様って母のことですか?
「結婚式に間に合ったわ!!」
呆然とする私に抱きついてきた”母”はどう見ても20代半ばかせいぜい後半な年齢の女性だった。年齢が合わない。
いやそれよりも何よりも……。
「リナちゃんだよね?!」
「お母さんと呼んでください!」
何がどうなってるの?!!
うちの父に一目惚れしたものの、結局、恋が成就せずに元の世界に帰ったリナちゃんは、女神様にお願いして、恋が成立する時間で再召喚してもらったのだという。
「恋が成立する時間というと?」
「私がちゃんと大人になっていて、あなたのお父様がまだ若くて、年齢差が丁度いい時間よ」
元の世界の家族ともきちんと話し合って、社会人として独立してからの再転移で、20年前へ。
そこで若き日の父上と知り合って、熱烈にアタックして、交際して、結婚したのだという。
「でも、子供を身籠ったときに色々あってね。その時の女神様の力では、あなたか私かどちらかしかこの世界に残れなかったの」
それで、今まで失踪扱いだったという。
「絶対に帰ってくるから待っていてって約束したの。ちゃんと守っててくれたの感動だわ」
「あれ?先にこっちで会っていたんだから、父上が再婚していないのは知っていたでしょう?」
「まだ起こっていないことを知っている私は過去に送れないって言われて、トクムさんに助けてもらったときの記憶は一切なくて戻ってたのよ」
「一切なしって言うと父のことも忘れてるんじゃ……」
「ええ。全部忘れていても、やっぱり一目惚れしたの!すごいでしょう」
それは……すごい。
あの地味で女慣れしていなさそうな父上に一目惚れって、それはすごい。
「あの人も私が消えたあとは、私との記憶は薄れちゃうことになっていたし、私との思い出を記録したものを残してもいけないって条件だったから、無理じゃないかなって、実はわりと思ってたのよ」
なるほど。うちでは母上の記録が不自然に何もなかったのは、女神様の制約だったのか。
「女神様の力が完全復活して、こっちの世界にまた戻ってこれて、全部の記憶が戻ったときには、泣きそうになっちゃった」
彼女は、涙声でもう一度私をギュッと抱きしめた。
「大好きなあなたが私の娘で嬉しい。結婚おめでとう」
なんだかその温もりと声にこもった想いが、ああ、お母さんなんだって思えて、泣いてしまった。
一通り二人で泣いてから「お化粧が!」ってあわてて直してもらっていたら、廊下の向こうからものすごい足音が聞こえてきた。
「アイザ!!」
扉をぶち破らん勢いで開けて、部屋に入ってきたのは、なんと父上だった。
父上はこれまで見たこともない必死の形相だったが、部屋の中央にいる母上を見た瞬間に、これまた見たこともないほど喜色満面になった。
え?あんた父上か?
「全部思い出せたぞ。私は君を取り戻した!」
「あなた、ただいま!」
ひしと抱き合う両親というのは感動的な場面なのだろうが、母上がリナちゃんで20代なせいで、見ていて妙に気恥ずかしかった。
「君はちっとも変わらないな。私だけが老けてしまった」
「いいえ。あなたは私が初めて会って一目惚れした姿と同じよ」
う、うーん。ややこしい関係だが幸せそうで何より?そしてそこで甘々な顔をしているあんたは本当に父上か?
「なんだかラブラブさで、今日が結婚式の新婦が負けそう」
「流石にそれはないですよ。お嬢様」
ほら、新郎がしびれを切らして迎えに来てくださいましたよと言われて入口の方を見ると、我が最愛の新郎殿が外れかけた扉を気にしながら、入ってくるところだった。
ああ、大丈夫。ラブラブさで負ける心配はなさそう。
私は彼が差し出した手を取った。
さぁ、お客様方がお待ちかねだ。
みんなに私のこの素晴らしい旦那様を見せびらかしてやろう!
主人公の脳内がかなり甘々ですね。
というわけで、女神様の課題達成。
リナちゃんは後妻ルートではなく、正妻ルートというお話でした。
父上……。
女神様が力を取り戻せた事情はサイドBで
https://ncode.syosetu.com/n5656hx/
たくさんの感想、評価などありがとうございました。




