私たちにできること
「師匠、今の話は本当か……?」
「翡翠」
出雲が振り向くと、そこには翡翠が立っていた。今の話を聞かれてしまったか。出雲の顔がぎくりと強ばる。
「すまない、翡翠……」
「……」
翡翠の眉が下がり、眉の間にはしわが寄る。悲しんでいるような、怒っているような、複雑な表情だ。
「確かにお前には、もしもの事があれば、リースさんを殺すようにと、術をかけてある。しかし、その術が、使命が、発動しなくて良かった、とも思っている」
「それは何故だ?」
「リースさんには、リースさんとして生きてほしいとも思っているからだ。できることなら、破壊者としての姿は、現れないでほしいと願っていた」
「……私は、リースを救うことは、できないのか……?」
翡翠がしゅん、と落ち込んだ様子で、恐る恐る、出雲に問いかける。
「出雲様、」
翡翠の様子を見ていたナギサが、出雲に縋るような目線を送る。
「……これを、」
出雲は着物の袖の中に手を入れ、何かを取り出した。取り出した物を、ナギサの前にすっと差し出す。
「これは……お札、かしら?」
ナギサな言葉に、出雲はこくりと頷いた。
「そうです。これを、先ほど隙をついてリースさんの背中に貼り付けておきました」
「まだ、リースさんとしての自我が残っているなら、この札を通して、私たちの声が届くかもしれません」
「破壊者はきっと、リースさんの存在を封印しようと、消そうとするでしょう。しかし、逆に、リースさんにもその力があります」
「リースさんに、破壊者を封印してもらう。それしか、リースさんを救う方法はありません」
出雲の強い眼差しが、ナギサ、ヴェン、翡翠を貫く。その眼差しに応えるように、強い意志のこもった瞳を出雲に向けたのは、ヴェンだった。
「つまり、俺たちがリースに、あの破壊者に負けねェように呼びかければいいんだな?」
「そうです」
「……分かった」
出雲の言葉に、翡翠はこくりと頷いた。
「そうね。私たちにできることをやりましょう。ね、翡翠様」
未だにショックを受けている様子の翡翠を慰めるように、ナギサは翡翠の左肩に手を置いた。
「だって、リースは私の……私たちの大事な友達だもの」
ね、翡翠様。とナギサは翡翠に同意を求める。
「私も……使命に反するかもしれないが。リースともう一度会いたい。もっと会いたい。……大事な者だから」
吹っ切れたように、翡翠の瞳がきらきらと輝き出した。その瞳に出雲を映す。
「俺は、何かと突っかかってくるし、嫌味言ってくるし、正直、あいつがいると鬱陶しいと思うときもある。……けど、それが無くなると、あいつが居ねェと、調子が狂うんだよ。あいつには、消えてほしくねェ」
「ヴェン……」
「それに、あいつがいねェと、ナギサや翡翠が悲しむしな」
「……ふふ、そうね」
素直じゃないんだから。と、ナギサはくすりと微笑ましく笑った。
「分かりました。では、皆さん、準備はいいですか? 札を通して、皆さんの声をリースさんに届けます」
「分かった」
「準備はできてるわ」
「俺も」
ナギサ、ヴェン、翡翠をぐるりと見渡した出雲は、決意を宿した瞳で、こくりと頷いた。
「分かりました。では……術を発動します」




