彼女が去ったあと
さくさくさく。 土を足で蹴る音が聞こえる。
「はあはあ……遅かったか……」
ナギサが振り向くと、そこにはキンドレッド卿が息を切らして立っていた。
「レイズ」
ナギサと同じく振り向いた出雲が、キンドレッド卿を見つけて名前を呼んだ。
「キンドレッド卿。どうしてここに?」
キンドレッド卿が何故、黎明の里に? 彼の管轄はユニティではなかったのだろうか。と首を傾け、ナギサは思う。
ナギサの言葉を聞いた出雲が、驚いたように目を丸くする。それから、困ったように眉を下げ、キンドレッド卿を見つめた。
「レイズ……まだ話していなかったのか?」
「……」
出雲がキンドレッド卿に話しかけるが、キンドレッド卿が応えることはなかった。ナギサはますます首を傾けた。
「どういうことですか? 出雲様」
「……私の口から言うことではないかもしれませんが……レイズーーレイズ・キンドレッドは貴方の父親ですよ。ナギサさん」
「えっ!?」
「……」
ナギサは初めて知る事実に、驚きの声を上げた。まさかーー死んだと聞かされていたキンドレッド卿が自分の父親だったなんてーー。
驚くナギサとは対照的に、キンドレッド卿は顔色一つ変えなかった。
「……黙っていて、すまなかった。ナギサ」
「いいえ……。でも、なんて言っていいのか……」
キンドレッド卿はナギサに向かって頭を下げる。キンドレッド卿の言葉に、ナギサはなんて言葉を返したらいいのか分からなかった。ナギサは混乱した。
「それよりも、幸いなのは……ここに翡翠がいないことです」
「どういうことですか?」
何故翡翠がいない方がいいのだろうか。むしろ、いてくれた方がいいのではないのだろうか。ヴェンに降りていた者を封印してくれた翡翠は。ナギサは首を傾けた。
「悪いな。本当は、リースに降りていた奴を封印するつもりだったんだろう。俺なんかにその力を使っちまって……」
「いいえ……違うんです。ヴェンさん」
ヴェンの言葉に、出雲はふるふると首を横に振った。それから、思い詰めたように目を伏せた。
口を開かない出雲の代わりに、キンドレッド卿が口を開いた。
「……出雲と俺は知っていた。あのお嬢さんが、本当は“何”なのか」
「まさか、紫苑も知っていたとは……。それに、あのような行動をとるなんて、思ってもいませんでした。師として、お恥ずかしい限りです」
出雲が目を閉じる。紫苑のことを思い出しているのだろうか。確かに、紫苑が破壊者の信者だったなんて、思いもしなかった。驚いて当然だ、とナギサは思う。
「リースに破壊者が降りているのなら、破壊者を封印すればいいのではないのですか? ヴェンのときのように」
「それは……リースさんと真紅……破壊者は一体。別人格のようなもの。切って離すことなど、できない存在なのです」
「じゃあ……」
どうすればいいのか。ナギサには、どうやってリースを救えばいいのか分からなかった。
「……リースさんが覚醒……破壊者になったとき、翡翠にはある術をかけてありました。そう行動するように、と」
「術って……」
「……」
ナギサが出雲に言葉を投げかけるが、出雲から言葉が返ってくることはなかった。キンドレッド卿も難しい顔をして黙り込んでいる。しん、とした空気が流れた。
「破壊者ーーいえ、リースさんを殺すように、と」




