表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MESSIA  作者: 硝子
31/35

ネメシス


 ごうごうと燃える火の中。

 お父さんとお母さんがうつ伏せになって、畳の上に倒れていた。どうしてこうなったの? 気がついたら、私の周りは火で囲まれていてーー何かの事故だったんだろうか。ーー違う。あれは事故じゃない。あの時、屋敷に火を放ったのは、


(紛れもなくあたしだーー)


✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱


「……リース?」


 ナギサがリースの名を呼ぶけれど、彼女がそれに応えることはなかった。リースの瞳は、何も映さない。虚ろで、どろどろとした薄暗い色を宿していた。


「……お父さんとお母さんが死んだのは私のせい。全部私の……私のせいで……」


「いけません! 彼女と同調しては! リースさん!」


 出雲が声を張り上げ、リースの名を呼んだ。けれど、リースはその声に応じることは無い。リースはぶつぶつと小さな声で言葉を発しているが、ナギサにはリースが何を言っているのか聞き取ることはできなかった。


「月が……」


 リースの後ろには月が浮かび上がっていた。月が段々満月になり、赤くなっていく。月の変化に気づいたナギサは、まるで燃えているようだ。と思った。リースの瞳が閉じられる。


「……ふふ。ようやく表に出ることができた」


「……ああ……最悪の事態を招いてしまいました……」


「出雲さん?」


 リースの言葉を聞いた出雲が、膝からがくりと崩れ落ちる。何が起きているのかわけが分からないナギサは、出雲の名を呼んで問いかけた。


「この時をどれほど待ち望んだことか。時は満ちた……!」


 リースの瞳が開けられる。その瞳は、燃え上がるように、赤い。ナギサの頭には、まさか、と嫌な予感が過ぎる。


「さあ、今度こそ……私と新しい世界を創りましょう! セレス!」


「セレス?」


 聞いたことがない名に、ナギサは戸惑う。


「そう。セレスティア。貴方はセレスティアの生まれ変わり。……記憶を引き継いでいないの?」


「そんなこと、できるわけがないわ」


 目の前のリースの姿をした誰かは何を言っているのだろう。例え誰かの生まれ変わりだったとしても、前世の記憶など、覚えているはずがないのに。と、ナギサは思う。


「そうね。それは仕方がない。貴方はただの人間。私と違って」


 ふふ、とリースの姿をした誰かが妖艶に笑う。ナギサが今まで見たこともないリースの表情だ。

 目の前のリースの姿をした誰かは、人間ではない、ということだろうか。少なくとも、リースではないことは確かだ。とナギサは思う。


「貴方……リースはどうなったの!?」


「ああ、あれはただの現身うつせみ。私がまこと


 ふふ、とリースの姿をした誰かが笑う。現身うつせみ? 仮の姿だと言うことだろうか。ナギサは顎に手を置き、考え込む。


「……それで、返事は? 今は……ナギサ、と言ったかしら」


「返事って……」


「いけません! ナギサさん! 彼女の言葉を聞いては!」


「……煩いはえね」


 ぎろり。氷の棘のような目線で、リースの姿をした誰がが出雲を睨む。それから右手を上げ、後ろに、ふ、と動かした。その瞬間、


「うっ!」


「出雲様!」


 出雲が後ろに吹き飛んだ。後ろに吹き飛んだ出雲は、地面にぶつかり、どん、と鈍い音を立てた。それと同時に、呻き声を上げた。

 ナギサの嫌な予感が、確信へと変わっていく。


「……貴方が破壊者ネメシスなの? リース?」


「言ったでしょう? あれはただの現身うつせみだって。私は真紅」


「私の質問に答えて」


「……そうだ。と言ったら? 私を殺す?」


「……それは、」


 ナギサは言葉に詰まった。そんなこと、できるわけがない。だって、破壊者ネメシスは、


「ふふ、貴方にそれができるわけない。だって、私の現身うつせみは貴方の大事なお友達だものね」


 ナギサの思考を読んだかのように、真紅が言葉を紡ぐ。真紅の言う通りだ。破壊者ネメシスを、殺すことなんてできない。例えそれが、救世主メシアの使命だったとしても。


「どうなってやがる。破壊者ネメシスが降りているのは俺じゃなかったのか」


 それまで黙っていたヴェンが、言葉を発した。


「あれはただの亡霊。……世界に強烈な怨みを持つ、ね」


「「……亡霊……!?」」


 ナギサとヴェンが驚きの声を上げる。破壊者ネメシスでもない。女神アストライアでもない。ただの亡霊だというのか。


破壊者ネメシス様!」


紫苑しおん君!?」


 真紅に嬉しそうに紫苑しおんが駆け寄った。ナギサは驚きの声を上げる。紫苑は破壊者ネメシスの信者だったのか。

 紫苑の後ろから、全身を包帯で覆われた男がゆっくりと歩いてきた。


「お待ちしておりました」


 全身を包帯で覆われた男がゆっくりと、恭しく、真紅に礼をする。まるで主君に対するように。


「ついに覚醒されたのですね……!」


 紫苑しおんが興奮した様子で真紅に話かける。


「あら。私の仲間……いえ、信者かしら?」


 真紅は紫苑しおんと全身を包帯で覆われた男をちらり、と横目で見る。


「さあ、こちらです。破壊者ネメシス様」


「ありがとう」


 全身を包帯で覆われた男が、右手で行先を示し、真紅を案内する。真紅はそれに従い、足を進めた。


「次に会うときは、いい返事を期待しているわ。……ナギサ」


「待ちなさい! 待って! リース……!」


 真紅の背中にナギサは何度も言葉を投げかけるが、真紅が足を止めることはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\1ポチ頂けますと嬉しいです/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ