囁く声
ドンドンドン。扉を強く叩く音がする。その音で目が覚めたナギサは、ぱちりと目を開いた。
「ナギサ! もう昼だぞ。起きろ!」
ナギサはベットから起き上がり、床に足を着いた。ガチャリとドアノブを回して、扉を引くと、ヴェンが立っていた。
「おはよう、ヴェン」
「おせェんだよ」
「もう11時だぞ」と言うヴェンは、呆れ顔だ。
「だって、眠いんだもの」
「へぃへぃ、おそよう」
「おはよう、ヴェン」
✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱
昼下がり。リースは黎明の里の庭に佇むナギサを見つけた。
「ナギサちゃ……」
リースがナギサに声をかけようとしたその時。後ろから現れたヴェンがナギサの傍に駆け寄った。振り向いたナギサは、笑顔をヴェンに向けた。幸せそうで、とろけそうな、まるでリースが作るお菓子のような笑顔だ。
(またあの笑顔)
どうしてあの笑顔を向けられるのが、あたしじゃないの。貴方の一番が、あたしじゃないの。どろどろとした、薄暗い感情が、リースの心の中を真っ黒にする。
(そうでしょう。悔しいでしょう)
「……誰?」
リースの頭の中で、声が囁く。
(あいつさえいなければ、いなくなってしまえばいい。そう思うでしょう?)
「……あいつがいなくなる」
ヴェンがいなければ、ヴェンがいなくなってしまえば、ナギサちゃんのあの笑顔を向けられるのが、あたしだったかもしれない。ナギサちゃんの一番は、あたしだったかもしれない。ヴェンさえいなければ、ヴェンがいなくなればーー。
(そうでしょう。憎いでしょう。あいつが)
ヴェンが憎い。ナギサちゃんの他には見せない幸せそうな笑顔を向けられるあいつが。ナギサちゃんの一番になったあいつがーー。
(そう。私とあなたは一緒)
囁く声が、リースの心の声と一緒になる。
(私はあなた。あなたは私)




