料理No.1決定戦
リースの術は成功した。目に生気が戻り、光を宿した翡翠にリースが飛びつき、泣きじゃくった。その様子を見て、ナギサはほっと肩をなでおろした。良かった。本当に良かった。
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「体調はどうですか? 翡翠さん」
畳の上に敷いた布団の上で、身を起こしている翡翠にリースは声をかけた。
「大丈夫だ」
翡翠の言葉を聞いたリースが、ぴんと眉を吊り上げる。「大丈夫」は翡翠の口癖だ。
「もう! 翡翠さんの大丈夫は大丈夫じゃないです! しっかり休んで下さい!」
「そうか……分かった 」
「はい。わかって下さって良かったです」
こくり、と納得したように頷く翡翠に、リースはにっこり、と満足気に口の両端を上げた。
リースは閉めていたふすまの片側をそろりと開けると、廊下に置いていたおぼんを両手で持ち、翡翠の目の前に差し出した。翡翠はぱちくり、と目を瞬かせる。
「大したものじゃないですが、作ったので、どうぞ!」
差し出されたおぼんには、米をお湯で浸した料理が乗っていた。料理からは、チーズの匂いが漂い、ほかほかと湯気が立っていた。翡翠はぱちりぱちりと、目を瞬かせる。
「これは、何だ?」
「えっ? リゾットです」
翡翠がリースが持っているおぼんの上に乗せられた料理を指差す。今度はリースがぱちりと目を瞬かせた。
「お米をお湯とチーズで炒め煮ているので、洋人の料理でも翡翠さんが食べやすいかなあ、と思って……」
翡翠はなるほど、とこくりと頷いた。
「初めてだ」
「そうなんですか?」
「ああ、初めて食べる。和人の料理にもかゆというものがあるが……それとよく似ている」
リースは手を頬に当て、少しの間考えた後、ぱん、と両手を合わせて目を輝かせた。
「……ああ! おかゆですね! そっか、おかゆもありましたね……おかゆにすればよかったかな……」
「いや、」
リースがしゅん、と頭を下に下げていく。それを止めるように、翡翠はふる、と首を横に振った。
「この“リゾット”というものも、食べてみたい。私はケーキ以外は洋人の料理は食べたことがない。どんな味がするのか興味がある」
「頂こう」と、翡翠がおぼんを受け取る。受け取ったおぼんを畳の上に置き、お盆の上に乗っていたスプーンを手に取った。スプーンでリゾットを一すくいすると、小さく開けた口に運んだ。翡翠がリゾットを頬張り、もぐもぐと口を動かす。
「……美味い」
「……よかったあ!」
リゾットを頬張った翡翠が満足気に微笑む。それを見たリースが、ぱっと顔を輝かせた。
「翡翠さんにケーキ以外で初めて料理を食べてもらうので、口に合うかどうか心配だったんです」
「そうか」
「えへへ」とリースが嬉しそうに頬をかく。翡翠はこくりと頷いて返事をした。
「このチーズ? というものが塩気が効いていて、米にあっている。 とても美味い」
「そんなに喜んでいただけるのなら、作った甲斐があったわね」
「そうそう! 作った甲斐が……って、ナギサちゃん! いつから居たの?」
リースが驚いて振り向くと、いつから居たのか。ナギサが立っていた。
「貴方達がおかゆの話をしているところかしら?」
驚くリースを他所に、ナギサは何事も無かったように、淡々と会話をした。
「というか、翡翠、洋人の料理はケーキ以外食ったことがねェのな」
「そうだ」
「って、あんたまで!」
リースが声のした方に振り向くと、ヴェンが立っていた。ヴェンも何事も無かったように淡々と会話している。
「二人とも……気配を消すの止めてよね!」
「ふふ、お邪魔かと思って。悪いわね」
「いい雰囲気だったからな。悪かったな」
「もー!!」
ナギサとヴェンは、謝罪の言葉を口にしているが、にこにこ、にやにや。と、楽しげに笑っている。そんな二人に、リースはぷんぷんと怒るが、照れ隠しだとバレているのだろう。ナギサとヴェンは楽しげに笑うことを止めない。むしろ、更に楽しげに笑っている。
「そうね。翡翠様にもっとたくさんの洋人の料理を食べてもらってはいかがかしら?」
「俺達が料理を作ってか?」
「賛成! 翡翠さん復帰記念ってことで!」
ナギサとヴェン言葉に、リースが手を挙げて賛成する。
「お前達がいいなら私からも頼みたい。洋人の料理には、興味がある。もっと食べてみたい」
興味があるのか、翡翠の目がキラキラと輝いている。
「そうか。じゃ、やるしかねェな」
「よーし! 翡翠さんのために頑張るぞ!」
「料理No.1決定戦開催ね」
カーン! とナギサ、ヴェン、リースの頭の中でコングの鳴る音がした。ファィッ!
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「まずは私から! じゃ〜ん!」
キラキラと輝く料理、もといたくさんのお菓子が座卓に並べられた。チョコレートケーキ、マカロン、いちごパフェ。並べられた料理からは、ふわりと甘い香りが漂う。
「甘ェ」
「甘いわね」
座卓に並べられた料理もといお菓子を、ぱくり、と一口スプーンですくって食べたヴェンとナギサが感想を述べる。
「これじゃ菓子だろう。料理じゃねェ」
「うっさい! お菓子も十分料理です〜」
ぎゃあぎゃあと騒ぐヴェンとリースを他所に、翡翠は並べられたチョコレートケーキをスプーンで一すくいして、ぱくりと口に運んだ。
「……美味い」
「翡翠さん……!」
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「次は俺か」
赤い。辛そう。座卓に並べられた料理はどれも赤くて辛そうだ。アラビアータ、ビリヤニ、エビチリ。並べられた料理からは、ツンとしたスパイシーな匂いが漂う。
「辛い!」
「辛いわね」
座卓に並べられた料理もとい激辛料理を、ぱくり、と一口箸でつまんで食べたリースとナギサが感想を述べる。
「そうか? 激ウマだろ」
「こんな激辛料理、好きで食べてるのあんたぐらいよ!」
「そんなことねェだろ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐヴェンとリースを他所に、翡翠は並べられたビリヤニを箸で一つまみして、ぱくりと口に運んだ。
「……美味いぞ」
「翡翠……!」
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「最後は私かしら」
白い。とにかく白い。座卓に並べられた料理はどれもとにかく白かった。カレー? シチュー? ポタージュスープ? 並べられた料理からは、ほかほかと湯気が立っているが、食欲をそそる匂いが何も漂ってこなかった。
「味がしない……」
「味がねェな……」
「それに白い」
座卓に並べられた料理? を、ぱくり、と一口スプーンでつまんで食べたリースとヴェンが感想を述べる。
「逆にこれをどうやって作ったのか謎」
「流石はナギサと言うべきか」
「そんなに変かしら? 美味しいと思うのだけれど」
「そう思うなら、食ってみろよ」
口論するヴェンとリース、ナギサを他所に、翡翠は並べられたカレー? をスプーンで一すくいして、ぱくりと口に運んだ。
「……美味いぞ?」
「翡翠様……!」
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「今日は色んな料理を食べることができ、とても有意義な一日だった。感謝する」
翡翠が、ナギサ、ヴェン、リースに向かってぺこり、と頭を下げる。
「なにはともあれ翡翠さんに喜んでもらったなら良かったです」
「そうだな」
「本当にね。良かったわ」
「ああ。それに、とても楽しいと感じた」
ぱっ、と花が咲いたような笑顔を向ける翡翠に、ナギサ、ヴェン、リースは心を打たれた。美形の笑顔は破壊力がすごい。
「リース、ヴェン、ナギサ。ありがとう」
「「「どういたしまして!」」」




