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MESSIA  作者: 硝子
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色褪せた世界

『見ろ! 救世主メシア様がお通りになったぞ!』


『まだ幼くいらっしゃるけれど、なんて神々しいの!』


『あの救世主メシア様が、破壊者ネメシスから我々を救って下さるんだ!』


 私は生まれながら破壊者ネメシスから世界を救うという、伝説の救世主メシアというものらしい。生まれたその瞬間から救世主メシアとして崇められ、私は自分が神に似た、特別な存在であるということを、幼いながら理解した。そして同時に、私は救世主として相応しい、そうあるべき言動、振る舞い、それらを自然に身につけていった。それと同時に、私は私自身としての想いや言動を表現することは無くなり、心の殻に閉じ込めるようになった。

 色褪せた世界。私には、世界の景色が全て、モノクロのフィルター越しに見ているように見えた。


✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱


救世主メシア様!」


救世主メシア様〜!」


「……ありがとう」


  救世主メシアとしての教会での集会の帰り道、街の住人に声をかけられた。声をかけてきた男性と女性、それぞれにお礼の言葉を言って、にこりと笑いかけた。“救世主メシア”として。


「おかえりなさい、ナギサちゃん」


「エリーさん、ただいま」


 家に帰るとエリーさんが声をかけてくれた。お母さんの妹のエリーさんが、私の面倒を見てくれている。エリーさん曰く、私のお母さんは、私を生んで直ぐに亡くなったらしい。お父さんは何処にいるのか……消息不明。生きていることは確からしいけれど。

 両親に会ってみたいか、と問われたら、「会ってみたい」と私は言葉にするだろう。けれど、どちらでも構わない。私には親代わりのエリーさんが傍に居てくれるから、私には十分だ。


「今日も救世主メシアのお勤めご苦労さま」


「いいえ、」


 エリーさんが私を労ってくれる。けれど、私は、


救世主メシアとして、当然のことですから」


 私はにこりと、口元に笑みを作ってエリーさんに笑いかけた。けれど、エリーさんは眉を下げ、どこか寂しそうな瞳に私を映した。


「ナギサちゃん、あのね。私に何か出来ることは無い?」


「? エリーさんにはいつも良くしてもらっていますよ。家事や食事、私を朝起こす事だって……」


 そう。エリーさんにはいつも親代わりとして良くしてもらっている。朝が苦手な私が、救世主メシアの集会の時間に遅れずに行けているのも、エリーさんのお陰だ。毎日、家事もやってもらっているし、食事も作ってもらっている。


「そういうことじゃなくて……」


 エリーさんは口をもごもごと動かして、言葉にならない言葉を形にしようとする。


「……いえ、なんでもないわ」


 エリーさんの口から言葉が紡がれることはなく、しゅん、と、何故かエリーさんは寂しそうに縮こまってしまった。その理由が分からなかったけれど、私は言葉の続きを問うことはせずに、にこりと笑いかけた。


✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱


「ナギサちゃんは、もっとわがままを言ってもいいと思うの!」


 リースが怒っているような、悲しんでいるような、複雑な表情をして声を張り上げた。言われた意味が分からず、私は首を傾けた。だって、わがままなら、リースに十分言っているはずだから。


「わがままなら、十分言っているわ?」


「例えば?」


「美味しいものが食べたいだとか、ケーキが食べたいだとか」


 そう、リースにはいつもお菓子を作って貰っている。チョコレートを使ったお菓子が食べたいだとか、フルーツを使ったお菓子が食べたいだとか。そう。わがままなら十分言っているはずだ。


「そういうことじゃなくて……」


 リースは口をもごもごと動かして、言葉にならない言葉を形にしようとする。エリーさんと同じ反応だ。


「……やっぱ、なんでもない」


 リースの口から言葉が紡がれることはなく、しゅん、と、何故かリースは寂しそうに縮こまってしまった。またエリーさんと同じ反応だ。その理由が分からなかったけれど、その理由を問いかけたかったけれど、私は言葉の続きを問うことはせずに、にこりと笑いかけた。それが救世主メシアとして相応しい言動だと思ったから。


✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱



「……、あんた、名前は?」


「え?」


「まさか、救世主メシアとかいうのが、あんたの名前じゃないだろ?」


 驚いた。 名前を聞かれたことなんて無かったから。救世主メシアと呼ばれることが当然だと思っていたから。そんなこと、初めてだった。

 救世主メシアじゃない。ナギサとして、私として、彼と会話していい、と言われているような気がした。そうしてみたいと思った。


「私はナギサ。ナギサよ」


 色褪せた私の世界が、色鮮やかに色が付いていく。

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