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MESSIA  作者: 硝子
20/35

たった一人の人間


「ちょっと、あれ! やばくない?」


 リースが指を差し、焦ったような声をあげる。


「そうね……」


 ここは“クレスト”。オーディアス卿が納める町。オーディアス卿と同じように、和人イニシオ撲滅を望む住人たちが多く住む町だ。

 ナギサ達がクレストに着いた時には、町の中心に住人たちが集っていた。

 リースが指を差した先、町の中心には、見上げなければならないほどの、高い処刑台があった。処刑台の中心には、ロープが輪っかにくくりつけてある。人間の首が吊るせるように。


「さあ! 皆さん! あの忌々しい破壊者ネメシスが死ぬところを! 今ご覧にいれましょう!」


 処刑台の上に立ったオーディアス卿が、声を張り上げた。「破壊者ネメシスはこの者です!」と、手をかざした先には、ヴェンがいる。


「そうだ! 早く死んじまえ!」


「この疫病神!」


 処刑台の周りに集まった町の人々が、好き勝手にヴェンに向かって罵声を浴びせる。その声はどれも、ヴェンの死を望むものや、ヴェンを忌み嫌うものばかりだ。町の住民達の罵声を聞いたナギサは、「ひどい……」と呟いた。

 「早く行け」とヴェンの背中を押すオーディアス卿の様子を見たナギサは焦った。早くヴェンの元に行かなければ!


「通して下さい!」


 ナギサとリースは必死に声を張り上げ、人の波をかき分け、処刑台に近づこうとする。しかし、興奮した住人たちにはナギサとリースの声は届かない。


「手荒だが……私が道を作ろう」


 「破!」と翡翠が数珠を胸の前でかざすと、強い風が吹き、左右に住人たちがよろけ、一本の道が出来た。その道をナギサ達は駆け抜ける。

 はしごを上り、処刑台の上に立ったナギサの前に、オーディアス卿が立ちはだかる。


「……救世主メシア様、ご自分の立場をお分かりか?」


 ナギサと対峙したオーディアス卿は、眉をひそめ不快そうにした。


「貴方様は破壊者ネメシスを倒すべき“使命”をお持ちの筈。その救世主メシア様が、破壊者ネメシスを救おうとするとは……ご自分の使命をお忘れか?」


「確かに私は救世主メシアだわ。……けれどその前に、“ナギサ”という一人の人間です」


 ナギサはオーディアス卿の後ろに立っているヴェンを見ながら、話を続けた。


「それを、そこにいる、貴方様の後ろに居る、ヴェンに教えてもらったの」


 ヴェンが居なければ、皆が求める“救世主メシア”として生きていたかもしれない。とナギサは思いふける。

 

「私のボディーガード、ずっとしてくれるんでしょう?」


「そうでしょう? ヴェン」とナギサはヴェンに話しかける。俯いたままで、どんな表情をしているか分からないけれど。ヴェンの心に届くように。

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