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MESSIA  作者: 硝子
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行方

「皆さん、大変です! ヴェンさんが部屋に居ません!」


 ばん、と音を立ててふすまが左右に開かれたと同時に紫苑しおんが現れた。急いでここまで来たのだろうか。紫苑しおんは、はあはあと息を切らしている。


「……ヴェンが?」


「それは本当ですか。紫苑しおん?」


「はい、本当です。出雲様」


 出雲の問に、紫苑しおんはこくりと頷いた。


「……だろうね」


 驚いた様子で紫苑しおんに言葉を返すナギサと出雲。驚いている様子の2人とは違って、リースは落ち着いた様子で呟く。


「……リース?」


 リースは何か知っている。ナギサはそう確信した。


「言っとくけど、あたし、引き止めたから。あいつを。……けど、あいつ、あたしの言うことなんにも聞かないんだもの!」


 リースは怒った様子で両手を腰に当て、一気にまくし立てた。そして、その後ぷい、と顔を横に逸らした。


「そうだったの……。それで、ヴェンは、」


「多分、あの人のところ。……オーディアス卿」


「そんな! じゃあヴェンは!」


 オーディアス卿。ナギサは彼が異常に思える程、熱心に破壊者ネメシスを探していることを知っている。そして、その破壊者ネメシス候補の人にどんな扱いをしているのかも。そんな彼の元に、破壊者ネメシスの可能性が高いヴェンが自ら向かったのなら、


「……自ら死にに行くようなものですね」


 そう。出雲の言う通り、自殺行為だ。


「恐らく、クルセイド軍はヴェンさんが破壊者ネメシスであると断定しているでしょう。何らかの証拠を抑えた可能性があります。そんなクルセイド軍の元へヴェンさんが向かったのなら、」


 出雲はそこで言葉を切った。その後に続く言葉をナキザは知っている。けれど、その言葉を否定して欲しい。願うような気持ちで、そろりとナギサは口を開いた。


「……ヴェンは処刑される?」


 ごくり。その場に居た誰かが唾を飲み込む音がした。ナギサは伏せ目がちに、ゆっくり出雲に視線を移した。


「……その可能性が高いでしょう。……しかも、ただの処刑じゃ無いかもしれません」


 出雲の口から肯定の言葉が返ってきてしまった。予想していたとはいえ、ナギサは少なからずショックを受けた。

 その上、ただの処刑じゃないとは。洋人フィニス過激派で破壊者ネメシス撲滅ぼくめつを目論んでいる、オーディアス卿のやりそうなこと。ナギサにはその答えが分かってしまった。


「……公開処刑」


「あのオーディアス卿のやりそうなことね!」


 ぽつりと呟いたナギサの言葉に素早くリースが反応し、声を張り上げて同意した。やはりリースも同じ意見だったのか。

 ショックを受けていても仕方がない。ともかく。一刻も早く、ヴェンを連れ戻さないと。ナギサは気持ちを切り替えようと、すう、と息を吸った。


「そうね。ともかく、早くヴェンを連れ戻さないと」


「では、翡翠にも手伝わせましょう」


「そうですね! 翡翠さんにも一緒に来てもらいましょう」


 ぱん、と出雲が手に持っていた扇子を畳む。出雲が部屋の出入口であるふすまに目を向けると、人影がふすまに映っていた。


「翡翠、入って来なさい」


 出雲がふすまに向かって声をかけると、すーっと静かな音を立てて、ふすまが横に動いた。開かれたふすまから現れたのは、翡翠だ。それから翡翠は一言も喋らず、静かな足音を立てながら足を進め、部屋に入ってくる。


「翡翠様」


「翡翠さん! 今ちょうど翡翠さんの話をしていたんです」


 ナギサとリースが翡翠に話しかけるが、翡翠は黙ったまま。俯き、目は伏せられているので視線が合わない。


「あのバカ、ヴェンがオーディアス卿のところに1人で行ってしまったんです! 一緒に連れ戻しに来てもらえませんか?」


「……私は……一緒には行けない」


 翡翠の声はいつも凛としているが、翡翠らしくない、か細く弱々しい声で言葉が返ってきた。


「え!?」


「……どうして、かしら?」


 一緒には行けない。その言葉に驚いたリースとナギサは困惑する。


「私は……破壊者ネメシスを封印するために作られた存在だ。その筈なのに、私の術は効かず、私はなんの役にも立てなかった。……やはり私が“人形”だからだ」


 翡翠の声はどんどんか細く、弱々しいものに変わっていく。もしかしたら、泣いているのではないか。と思ってしまう程に。


「……私ではお前達の役には立てない!」


 言葉を言い切ると、ナギサ達を見ることをせず、翡翠は足早に部屋を走って出ていってしまった。


「あっ! 翡翠さん! 待ってください!」


「翡翠様!」


「翡翠!」


 慌ててリースが翡翠の後を追って、走って部屋を出ていく。ナギサと出雲も翡翠の名を呼んで翡翠を呼び止めようとするが、翡翠は戻って来なかった。

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