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MESSIA  作者: 硝子
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過去と未来


「神降ろし、ですか?」


 ナギサは出雲の言った、聞きなれない言葉を繰り返した。

 あれから意識を失ったヴェンを翡翠の術で黎明れいめいの里へ連れ帰り、ナギサはディヴァイン神殿で起きたヴェンのことを出雲に説明した。それに、ヴェンが意識を失ってからから一言も言葉を発せず、様子がおかしいリースと翡翠も気がかりだ。


「ええ。おそらく誰かがヴェンさんの身体に神降ろしをしたのでしょう」


 出雲が言うには、ディヴァイン神殿は救世主メシアの伝説が誕生した地。だから、何が起きてもおかしくないと言う。


「私が推測するに、ヴェンさんの身体に降りてきたのは、火の力を操る女神アストライア」


「あの救世主メシアの伝説を作ったと言われている神ですか?」


 確かに、あの時のヴェンの姿をした“誰か”は、「救世主メシアが私を知らぬとは」と言っていた。“女神アストライア”だとしても、おかしくはない。それに、伝説に深く関わる“何か”で間違いないのだろう。


「そうです。和人イニシオの間では、和人イニシオに術の力を与えたことにより、“光降神”とも呼ばれています。それに……」


 出雲が次の言葉を声にすることを躊躇うように、言葉が途切れた。

 「それに、何ですか?」とナギサが目だけで次の言葉を催促すると、出雲は仕方ない、といった様子で目を閉じた。


「中には、中には、ですが。女神アストライアが破壊者ネメシスだと思っている者もいます」


 出雲は顎に手を当て、神妙な面持ちで続けた。


「女神アストライアも破壊者ネメシスも、巨大な力を持ち、火を操るからだと思いますが……」


「仮にヴェンに女神アストライアを神降ろしされていたり、破壊者ネメシスだとしても、ヴェンはヴェンです。……何も変わらないわ」


 ナギサは迷いのない真っ直ぐな声で、きっぱりと言い切った。


「それを聞いて安心しました」


 「やはりナギサさんはナギサさんですね」と出雲は嬉しそうに頬を緩ませた。


「あと、出雲さんに聞きたいことが。ディヴァイン神殿で、リースと翡翠さんの様子もおかしかったんです」


 本人に聞かず、出雲から2人のことを聞くのは野暮かもしれないが、出雲なら何か知っている筈だ、とナギサは確信していた。


「リースは、炎を見た時から、身体を震わせて炎に怯えているようでした。翡翠さんはヴェンに“人形”と言われた時から」


 ナギサの言葉を聞いた出雲は「ああ」と頷き、「私が知っていることをお教えしましょう」と言ってくれた。


「リースさんはご両親を火事で亡くしているんです」


 リースの両親が亡くなっていたことは知っていたが、火事で亡くなっていたとは初耳だ。リースがユニティで暮らす前、黎明の里で暮らしていた頃だろうか? とナギサは思いふける。


「リースが黎明れいめいの里で暮らしていた時ですよね?」


「そうです」


 出雲はこくりと頷いた。


「彼女は私達、黎明れいめいの里の者達で救出しましたが、火事の様子を目の当たりにしてしまい、トラウマのようになっているのでしょう……」


「トラウマ……」


 確かに、あの時のリースは酷く怯えていた。両親が炎で包まれ、亡くなっていく様子を見てしまったのなら、出雲の言う通り、それがトラウマになってもおかしくない。


「翡翠は……そうですね。彼女も一緒に聞いてもらった方が良いでしょう」


 出雲は部屋の出入口である、ふすまに目を向けた。


「リースさん、部屋の中へどうぞ」


 出雲がふすまに向かって声をかける。しばらくすると、恐る恐るといった様子で、すーっと静かな音を立ててふすまが横に移動した。


「えへへ……入るタイミングが分かんなくってね」


 開かれたふすまからあらわれたリースは、「立ち聞きしてごめんね」とギサにぺこりと軽く頭を下げる。


「私の方こそ。ご両親のこと、勝手に聞いてしまってごめんなさい」


 ナギサもリースと同じように、ぺこりと軽く頭を下げた。


「いいよいいよ! それより……翡翠さんがなんで“人形”って呼ばれているのか、私も前から気になってて……。それに、翡翠さん、自分で自分のことも“人形”って言ってたんですよ!」


「翡翠さん、ご自分で?」


 翡翠さん、ご自分で自分のことを“人形”、と言っていたなんて……。ナギサはリースの言葉に衝撃を受けた。


「実は……」


 出雲が躊躇うよう口を閉じたり開けたりした。その後、決意が決まったように、きりりとナギサとリースを見据えた。


「翡翠は……私が5年前、“術”で造り上げた“人間”なのです」


「出雲様の……“術”で?」


「そんなこと、出来るんですね……」


 出雲の言葉にナギサとリースは雷に打たれたように、衝撃を受けた。


「はい。確かに翡翠は、私の“術”で造り上げた“人間”ですが、貴方達と何の代わりもありません。感情があり、痛みを感じる“人間”です。……貴方達も翡翠を“人形”だと軽蔑しますか?」


 出雲の瞳が伏せられ、影が落ちる。その瞳には、悲しみが宿っていた。


「そんなわけありません!」


「するわけが無いわ」


「翡翠さんは、翡翠さんです」


 ナギサとリースは出雲の質問に、きっぱりとノーだと言い切った。ナギサとリースは、翡翠がどんな形で生まれたとしても、態度を変えたり、“人形”だと軽蔑するつもりはこれっぽっちも無かった。


「意地悪な質問でしたね。貴方達を試すような質問をしてしまったこと、お許し下さい」


 出雲は、ゆっくりとした動作で、恭しく腰を折って頭を下げた。


「頭を上げて下さい、出雲様」


「そうそう! 翡翠さん、ちょっと変わってるけど、とってもいい人ですよ!」


「そうね。それに、とっても頼もしいわ」


 出雲の瞳から影が消え、光が差して輝いた。ナギサとリースの言葉に感銘を受けたように。


「貴方達が救世主メシア御一行……いえ、翡翠の仲間でいて下さって、本当に良かった」


 出雲の嬉しそうな顔を見たナギサとリースは、心が暖かい気持ちになり、同じように嬉しくなった。


「ともかく! 翡翠さんはどこからどう見ても紛れもない“人”なので! これからも“仲間”として普通に接します!」


 びしり、と出雲に人差し指を突き付けたリースが、宣言するように声を張った。


「そうね、リース」


 ナギサはリースの言葉に同意する。

 リースは、人差し指を引っ込め、中腰になっていた腰をすとんと降ろし、正座をした。それから、横目でナギサをちらちらと見て、そろりとナギサに声をかけた。


「……ねぇ、ナギサちゃん」


 リースにしては珍しい。目を伏せ、どこか怖がっているような、恐る恐るといった様子だ。


「もしもヴェンが破壊者ネメシスだったらどうするの? あいつを殺すの?」


「そんなこと!」


 するわけが無い。有り得ない。とナギサは声を荒らげた。


「そっか」


 ナギサの返事を聞いたリースは、どこか満足気だ。


「良かった。その答えを聞いて安心した」


 誰が何であっても構わない。もしも、ヴェンが破壊者ネメシスだったとしても、ヴェンはヴェンだ。

 もし、その時が来たら。自分は救世主メシアとしての使命より、ヴェンを選び取るのだろう。例えそれが、世界から背くことになったとしても。

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