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MESSIA  作者: 硝子
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人形の心

 ばしゃん。

 水が何かに当たって跳ねる音がした。リースは音がした方向へ目を向ける。多分、


(出雲さんのお屋敷の方からだ……!)


 音がした方、出雲の屋敷の前にリースが到着すると、頭からびしょ濡れになった翡翠が突っ立っていた。翡翠の髪や着物から、ぽたり、ぽたりと粒になった水滴が落ちる。

 リースは慌てて翡翠の元へ駆け寄った。


「翡翠さん! 大丈夫ですか!?」


 さっき聞いた水が跳ねる音は翡翠に水が当たった音だった。そうリースが理解すると同時に、翡翠が“誰か”によって水をかけられたのだと気付く。

 一体誰がこんなことを。

 その答えは、周りを見渡せば直ぐに分かった。


「これはこれは。翡翠殿。申し訳ございません!」


「まさかそこにいらっしゃるとは!」


 中身が空になった桶を持った男2人が翡翠の後ろに立っていた。着物を着ているということは、恐らく黎明の里の住人で、出雲の弟子だろう。30歳前後に見える2人は翡翠の兄弟子、といったところだろうか。

 それよりも気になるのは2人の態度だ。謝罪の言葉を口にしているにも関わらず、くすくすと笑っている。馬鹿にしたような、嫌な笑い方だ。

この2人はわざと翡翠に水をかけたに違いない。リースは確信した。

わざと水をかけられた。それはどこからどう見ても明らかだというのに、どうして、


(翡翠さんは何も言い返さないの……!)


 翡翠が呆然と立ちすくんでいる間に、兄弟子2人は立ち去ってしまった。くすくすと嫌な笑いを浮かべながら。

 リースは翡翠に詰め寄った。


「翡翠さん、どうして何も言い返さないんですか!」


「仕方ないことだからだ」


「仕方ない?」


 翡翠は頭から水をわざとかけられても仕方ないと言う。リースはそれが理解出来なかった。


「私が人形だからだ」


「人形?」


「そうだ。人の形をしているが、人では無いもの。だから兄弟子達とは違う」


 だから仕方ないことだ。翡翠は淡々と言葉を発するが、どこか諦めた様子だ。


(翡翠さんが人じゃない? どういうこと?)


 リースは翡翠の言っていることが理解出来なかった。だって、どこからどう見ても、


(翡翠さんは人にしか見えないのに……!)


「翡翠様! リース様!」


「紫苑君」


 慌てたような様子で、紫苑がリースと翡翠の元へ駆け寄ってきた。その手には、タオルがある。


「また兄弟子達からの嫌がらせですか」


「また?」


「そうなんですよ。翡翠様の術使いとしての実力をやっかんで、こうやって翡翠様に嫌がらせをするんです」


「そうだったの……」


 「出雲様の跡を継ぐのは翡翠様だ、と言われているぐらい、翡翠様は素晴らしい術師なんですよ」と紫苑は言葉を続ける。

 リースは紫苑の言葉に納得はするものの、翡翠が言った“人形”という言葉が引っかかる。

 それに、“また”ということは翡翠は何度も兄弟子達から嫌がらせを受けているということだ。


(知らないことばかりだ、翡翠さんのこと)


 リースは「どうぞ」と紫苑から差し出されたタオルを受け取る翡翠を、じっと見つめることしか出来なかった。

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