(更)ズトューパ編 2
「ここで……合ってるよね」
ステアの部活棟、そ一枚の扉の前に来てみたはいいんだけど、扉には紙とか何一つ貼られてはいなかった。
多分、この学校が出来てすぐに作られたから経年劣化してるんだろうけど、それでも扉の朽ち具合から現在の花組ズトューパの現状なのかと思わされてしまう。
「ていうか、看板に書いてあるから合ってるよ」
確かに上の看板には最近付け替えたのか、新し目な木の看板に『ズトューパ 花組』と書かれている。
でも人の気配がほぼないのは何でなのだろうか。
「……今日休み?」
「……多分?」
「まあ良いか!まずは入ってみよう!待ってたら誰か来るでしょ!最悪探しにけばいい!」
ドアノブを掴み、回して見る。
鍵は掛かっていないようだ。
「初めまして!入部……見学希望です!……おろ?」
ドアを開けた先に居たのは……一人の下着姿の少女だった……それも美が付く方の。
その姿にあたしは釘付けになってしまった。
同時に目の前に居る少女の分析を始める。
背はあたしと変わらない、胸は……あたしよりもある!……クソ!ショートボブで左目が隠れてるのもグッド!髪は栗色!ちょっと華奢に見えるのもポイント高いぞ!
総評!サチやコウ、香織ともベクトルが違う美少女だ!
ここは花組の部室のはず……この子も花組?なんだこの学校は!最高じゃないか!
「おい」
「うん?あれ?」
分析に集中しすぎてして少女が目の前に来たのに気づかなかった。
よく見ると、上半身を布で隠している……同じ女の子なんだから隠さなくていいのに。
「見た?」
「……ごめん、ばっちり見ちゃった!でも女の子同士……ぐふぁ!」
最後まで言い切る前にあたしの視界が……揺れた。
少女が放ったパンチが見事あたしの顔面にクリーンヒット、あたしは後方に吹き飛んび激突した。
「……」
「アリスちゃん!?」
ガチャン!
急いで三人が駆け寄るけど、少女はドアを閉めると、鍵を閉めてしまった。
「……あたし変な事言ったあ?あんなに殴る?普通」
「うーん、見ず知らずの人にじろじろ見られたらさすがに恥ずかしいんじゃないかな?相手に寄るけどあたしでもああするかも。まあアリスちゃんだったらあたしは気にしないけどね」
「同じく」
「……」
香織は無言だったけど、こくりと頷いた。
……ていうか、あの子裸を隠した……胸を隠した……ていうより背中を見せないようにしたように見えたけど……なんでだ?
まあ、そんなことはどうでも良い。
とりあえず、ここは花組の部室……やっべ!鍵閉まっちゃったけどどうすりゃいんだ?
「君たちこんな所で何してるのかな?」
どうやって部室に入ろうかと悩んでいた時だった。
一人の女性生徒が声を掛けて来た。
「それで?何があったのかな?」
数分後、あたしたちは声を掛けて来た女子生徒と共に部室の中に居た。
中に居た少女はすでにスポーツウェアの姿になっている。
「ノックも無しに扉を開けて、下着姿を見られました」
「そう、じゃああなた反論は?」
「いえ、何もありません!あまりにも可愛かったのでじっと見てしまいました!」
……何故か沈黙が流れた。
ん?確かに男子なら一悶着……ギャルゲーならここから物語が始まるかもしれないけどさ、あたしゃ女子!百合は正義!問題無しだ!
「そ、そう。でも同姓でも見られたくない人がいるから、次からは気を付けてね?」
「はい!気を付けます」
さすがのあたしでも嫌がってる人に同じことはしませんよ。
「貴方もそれでいいよね?」
「はい」
「じゃあ今からここの部活の説明をします!」
「すみません、その前に……お名前は!」
「え?ああ!そっか!入学式の時に会ってない人もいるのか!自己紹介するね!花組ズトューパ部、部長代理の小林夏美です。本来の部長は事情で休学してるから今のことろあたしが部長です!三年生だから学校とか部活で分からないことがあったら何でも聞いてね!うちの寮監督……あれでしょ?」
「あれ……ですね」
全員がその場で頼りにはなるけど基本放置主義の柏木先生を頭に浮かべただろう。
「じゃあ次は君たちの番!全員花組だから名前だけでいいよ!」
最初に手を上げたのはあたしに見事なパンチをした少女だ。
「一年、成田優」
「うん!成田さん!……は入学式の時に会ってるね。次!」
「一年アリスです。ご存じだと思いますが、識人なので苗字はありません。よろしくお願いします。あ、一応選手希望で……一緒に付いて来たこっちの三人はマネージャー希望です」
「聞いてる!他の組でも噂になってるらしいよ!よろしくね!じゃあ残りの三人、マネージャ志望だね?名前は?」
「……霞サチ」
「同じくコウ」
「西村香織」
霞と聞いた瞬間に小林先輩が反応した。
「……へえ、じゃああなた達が噂の組移動した名家の」
「あ、あの!」
その時だった。サチが勢いよく立ち上がる。
「何かな?」
「私たち迷惑にならないでしょうか!小学、中学と部活に入っても他の名家のせいで結局居場所が無くなって、私たちが入って先輩たちに迷惑が掛からないか心配で」
サチは震えていた。
多分迷惑になるならすぐにでも逃げだしたいと思っているんだろうね。
名家はステアに入るのが常識、だから入ったけど、なるべく波を立てずに生活していたい……と言うのが本音のはずだ。
「そうだねえ……多少なりとも月組から嫌がらせとかは受けるかもね」
「だったら!」
「だから?」
この瞬間、小林先輩の表情と声色が変わった。
さっきまで優しい先輩だったのが、入学式の柏木先生のようなオーラを出している。
「霞サチさん、花組が裏で何て呼ばれてるか知ってる?」
「……いえ」
先輩がニヤリと笑い答える。
「花組の花は毒花」
……ん?毒花!?
「皆ね?普段は大人しくて、優しんだよ?でもね、仲間が何かされたら自分たちの仕業だと気づかれないようにやり返すの。花にいたずらしても知らない間にその毒で傷つくように」
まじか。
「なんでステアが組み分けされてるか知ってる?名家が居る月組以外はね、魔法にプラスして突出した才能を見て組み分けされるんだよ。例えばスポーツだったら風組、勉強だったら鳥組ってね。じゃあ花組は?性格、団結力、仲間の為に命を懸けられる生徒が集まるのが花組なの」
「……」
「だから、名家だろうが何だろうが、花組に入った時点で私たちは全力で守るし、仮に月組の生徒があなた達に何かしても相手が後悔するまでやり返すから安心して?」
やばい……ついさっきまで楽園に来たって喜んでたけど……中々凄い学校に……凄い組に入っちゃった。
「分かり……ました」
先輩の圧に押されたのか、それとも衝撃の事実に驚いたのか、サチは絞り出すように返事をした。
「でも代わりにだけど、他の生徒が同じことをされたら、あなた達も協力してね?そういう信頼関係で成り立ってるから!」
「……はい」
「じゃあ話題をズトューパに戻そうか!」
小林先輩はズトューパいついて説明を始めた。