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(更)入学式編 5

 入学式を終えたあたしはそのまま寮に行き、各自振り分けられた部屋に荷物を置いた。


 意外だったのは、普通こういう寮だと上級生たちと同部屋になるのが普通だと思ってた。


 けど違うようだ。


 あたしの部屋はサチとコウ、そして香織と同じだったんだ。


 これは……実に喜ばしい!


 先輩たちによる寮内のルールやこれからの行動を説明されると、何故か柏木先生に呼び出され、サチとコウ、香織と共に校舎の中庭に向かった。


「……私はアリスだけを呼んだはずなんだが?」

「アリスちゃんは私たちと違って校舎の内部を知らないので、後で案内するために付いてきました」

「……そうか。まあいい、邪魔するなよ」

「それで、先生?これから何すんすか?」

「……アリス、車の運転に必要な物はなんだ?」

「はあ?」


 なんでいきなり質問?


 ていうか、あたしの質問にも答えてないじゃん。


 ……ボケるべきか?


「車とキー」


 ……ピク。


 柏木先生が少しだけ反応した。


「……そう……だな。確かに車とキーが無ければ運転しようも出来ない。じゃあお前の目の前には車とキーがある。だがこれだけではまだ運転できないよな?」

「……そうっすね……ガソリンが入ってないと意味が無いです」


 ……スー。


 今度は反応せずに柏木先生の右手が腰に移動していくけど……途中で止まった。


 ……まだ、まだいけるな。


「じゃあ車にはガソリン満タン!お前の手にはキーがある!だが!まだ足りないものがあるよなあ!」

「……そうですねえ……助手席にサチやコウ、香織みたいな女の子が居れば完璧です」


 ……プチ……スッ!


 多分漫画とかでよく見る脳内のどこかが切れたような……所謂キレた音が……したような、しなかったような。


 でもそんな事を確認する暇もなく柏木先生の右手が右腰……ではなく、左胸らへんに伸びていく。


 ……ガッ!


 それをサチとコウが何とか抑えた。


「先生!さすがにそれは駄目です!問題になりますって!」

「そう……です!教師がしていいことじゃないです!」

「離せ貴様ら!大丈夫だ!かすり傷に済ませる!アリス!それはあったらで良い物であって、必要な物じゃないだろうが!」

「と言ってもなあ……他に必要な物って何すか?……雪道用のチェーンとか?」

「……アリス、一つ聞きたい」

「何すか」

「……もしかしてだが……旧日本って免許証の取得義務はないのか?」

「……免許証?ああ……さっきから言ってた必要な物って免許証すか。……無いっすよ、下手すりゃ一生取らない人もいるんじゃないすか?」

「まじ!?」

「うん。まあ身分証になるから運転しないけど取るって人もいるけど、取らないといけないってわけじゃないんだよねえ」

「……なるほど、そりゃ旧日本で中学生あたりのアリスが免許証の存在を知らないわけだ。だがなアリス、ある意味この日本では免許証は義務だ」

「まじで!?もしかして自転車に乗るのにも?」

「いや、箒に乗るのにいる」

「箒?」


 柏木先生の説明はこうだ。


 自転車、ママチャリとかだと最高時速30キロ前後が普通だ。


 でも漕ぐには筋力と体力が必要だ。


 でも箒だと余裕で100キロが出せるらしい……筋力も体力も消費せず……まあその分魔素は消費するけど。


 もちろん箒に魔法で速度制限をかければ問題ないようだけど、免許によってはその制限が無くなるらしい。


 そりゃ免許証必要だわ。


 そしてここからが本題、あたしが何故呼びだされたか……それは本来箒……に関わらずこの国の免許は中学卒業と同時に全国民が取得する物だかららしい。


 箒を使って飛行するには免許が必要……そしてその免許は中学卒業と同時に取得するのが普通。


 つまりあたしが免許を持ってない時点でイレギュラー状態なのである。


「そして……ここに箒があるわけだが」


 言われてみれば、さっきからあたしの足元に箒が二本ある。


 ……ここで中庭を掃除しろとか言う指示では無いと。


「……つまり呼びだしたのって……箒の試験?」

「そうだ。箒の試験は二つ、筆記試験と実技試験だ。今日は実技試験を行う」

「……ん?」


 今、実技試験を今日行うとか言わんかった?


 ……今、ここで?


 あたし詳しいことは知らんけど、免許の試験ってもっと時間を掛けて行うのが普通じゃないの!?


 ほら教習所でも二、三か月かかるらしいじゃん!


「と言ってもいきなり試験ではあれだからな。とりあえず箒に触れて飛んでみると良い」

「あ、練習はいいのね」


 あたしは早速、箒の横に立つ。


 ……これってあれだろ?ハリーポッターの一作目で見た奴じゃん!


「無論だ。と言ってもお前はつい先日、やって来たばかりの識人だ、箒の扱い方を……」

「上がれ!」


 ギュン!パシッ!


 あたしが叫ぶと、置いてあった箒は即座に浮かび上がり、あたしの手に収まる。


 ……ハリーで見た奴だ!それが目の前で!CGでもなく!……なんと感動的なんだ!


「お……おおおおおお!」

「……なるほど、さすがは識人。経験も技術もないが、知識はあるか……なら教える必要は無いか……アリス」

「なんでしょ!」

「とりあえず飛んでみろ。お前は慣れるより慣れろかもしれん」

「……ほほう?」


 つまり……好きに飛んで良いということだな?


 とりあえず飛んじゃうぞ?


 掴んだ箒を見てみる。


 見た目はスーパーで売ってそうな箒だけど……唯一違うのは、恐らくお尻を乗せる部分かな……金属の板と足を乗せる太い針金が付いてる。


 ハリーでも最新の箒には付いていたような気がするけど、この日本は何時からだろう……こういう改造はやはり日本人だなあ。


 箒に跨る。


 ……さあ、異世界での初飛行だ!


「……飛べ!……ぬぉっ!」


 思いっきり叫んだからか、それとも推進に必要な魔素を加減が分からず注ぎすぎたのか、あたしを乗せた箒は十センチ浮かぶと……猛烈なスピードで前進し始めた。


「アリスちゃん!?」

「馬鹿な魔素を注ぎすぎだ!」

「うぎぎぎぎぎ!」


 本来なら『止まれ』だとか『速度を落とせ』とか言うべきなんだろうけど、いきなり速度が跳ね上がって箒に掴まるだけで精一杯のあたしにそれは出来なかった。


「あり……かる!あが……」


 何言ってんのか分からん!でも目の前にフェンスがあるのだけは……分かる!


 あらやるべきは一つだけだ!


「のおおおおおお!機首上げろおおおおおお!」


 なんとか体を起こすと、両手で箒の前方を持ち上げる。


 ……グイ―ン!


 すると箒はフェンスぎりぎりで上昇し始めた。


「……ほっ」


 ……そのまま緩やかに止まれ。


 そう脳内で唱え意識的に送る魔素を少なくする。


 ……スッ。


 すると、箒は静かに停止した。


「……良い子じゃん!……じゃあ……」


 空を飛べるなら一度やってみたかった。


 それは……曲技飛行だ!


「行くぞおおお!」


 あたしは記憶にある限りの戦闘機の曲技飛行をやり始めた。



 ……約十分後。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 曲技飛行のハンマーヘッド、テールスライドなどなんで知ってるのか分からないけど頭にある曲技飛行を試していく。


「アリス」

「ひゃあ!」


 トン。


 その時だった。


 地面に居るはずの柏木先生の声が真横から聞こえてびっくりする。


「ハンマーヘッドにテールスライド……なんでそんなもん知ってるんだ?」

「……さあ?」

「……そうか、まあいい。ではこれより箒の実技試験を開始する」

「あ……これから試験なのね」

「もちろんだ。まずは……お前の杖を寄こせ」

「……何故に?」

「箒の技量……を見るんだ。杖の使用は認められないんでな」

「ああ、そう言う事ね」


 あたしは素直に杖を渡した。


 柏木先生は杖を見ると少し困惑した。


「……?なんか変わった形状の杖だな。本当におりばんだーで買ったのか?」

「……一応?」


 あたしの杖はかなり特殊だ。


 なにせ、ハリーよろしくおりばんだーという魔法の杖専門店で試したすべての杖が適合しなく、どういうわけか師匠がおりばんだーの店主斎藤さんに預けたこの杖しか反応しなかったんだもん!


 噂によると神様の髪の毛が芯として入っているらしい……本当かよ。


 本当の意味で認められたものしか扱えない代物で、非売品扱いだったらしく最低限杖として使えるように削っただけ。


 他のみんなはハリーポッターのように見ただけで杖と分かる形状になってるけど、この杖は単純に棒にしかなっていないんだよねえ。


「……そうか、まあいい。これは預かっておく」

「ういっす」

「……では、試験内容を告げる。……アリス、ここから飛び降りろ」

「……ん?」


 ……何て言った?


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