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(更)入学式編 4

「は?それだと納得できません!」

「先ほどから言っている……納得とやらだが、誰を納得させればいいんだ?」

「言わねば分かりませんか?全校生徒です」

「ほう?てっきり俺は名家連中だけと思ったが」

「な!?なんですって!」

「特段、霞家姉妹が花組に入った所で困る生徒が出るわけじゃないだろ?月組以外の組が大きく変わるわけでもない。俺が見るに困るのはおもちゃを失った月組だけだと思うんだかな。名家が困るから反対か、ずいぶん自己中心的なんだな名家って奴は」


 師匠が意見を述べ終えると、西宮は顔を赤くした。


 恥ずかしがっている……なことは無い、単純に怒り心頭なだけだ。


「それに俺の弟子の件もだが、どうせ名家……いや政治家連中から弟子を出して取り込もうとか言う算段だろ?だから名家も政治家も嫌いなんだ、あいつらは自分の事しか考えていないからな。神法には神報者の後継者は神報者が指名することになっている。だから俺はアリスを選んだ。それだけだ」

「それでは理由にならないでしょう!」

「……そうだな。これは俺の師匠からの遺言だが、神報者はこの国で、この世界で生まれた人間ではなく、識人であるべし……それに従っているだけだ。だから名家の人間、そして政治家が神報者になる未来は決して来ない。こいつみたいに多少いかれた奴じゃないと神報者は務まらないんだよ」


 師匠が乱暴にあたしの頭を撫でてくる。


 ……ほう?あたしがいかれた奴だと。


 確かに転生して二日目で師匠に魔法を撃とうとはしましたよ?でもあれはあたしの裸を見たからであって、あたしがいかれてるわけでは無いと思いますけどね!


「どうしたんだ?アリス」

「どうせいかれてますよお、美人美少女、美少年が好きな変態ですよお!」

「何言ってんだお前」

「……」


 あーらら、西宮様のお顔が梅干し並みに赤くなってしまわれてますよ!噴火寸前ですよ!


 あれですか?あるのか知りませんけど、霞姉妹がどっちの組に行くか、賭けるために魔法で勝負とかしますか?


 いいっすよ!まだ魔法について何一つ知りませんけどそういう転生系のテンプレなら勝てる自信ありますよ!主人公なので!


「雪様」


 噴火直前の西宮隣に誰かやって来る。


 その人はさきほど入学式で挨拶をした生徒会長だった。


 でも何故だ?西宮に対して敬語を使った気がする。


「あの人は甲賀隼人、甲賀家は代々西宮家のお付の名家なんだ。だから年齢関係なく、甲賀家の人は西宮家の人に逆らえないんだよ。今は生徒会長だけど、生徒会長は代々月組が就いてるから多分西宮さんになるかな」


 お付……つまり仕えてる人ってことね。だから敬語か。


 甲賀……あの人忍者の家系ですか?


「貴様ら、もうお別れの時間は過ぎてるんだが、さっさと自分の部屋に……何がどうなっている?」


 西宮の噴火しそうな状況、そしてそこに現れた甲賀会長。


 何とも言い難い空気の状況を打ち破る人が現れた。


 先ほど新入生の名前を読み上げた女性教師だ。


「いいタイミングだな。アリス、そして三人、速やかに部屋に行け。……あと三人これからアリスを頼む」

「師匠は?」

「俺は仕事があるから帰る」

「あの西宮さんは放っていいんすか?」

「知るか。月組の連中がなにかするだろ?……アリス」

「なにさ」

「偶には仕事で連れ出すことがあるかもしれん、準備はしておけ。それと……勉強頑張れ」


 最後の一言は……誰かに言われたとかではなく、自分で考えて絞り出したんだろうね。


 いやあ……師匠は自己中だったのに……成長したんだね!


「アリスちゃん寮行こう!」


 サチがあたしを引っ張って寮に行こうとした時だった。


「あなた」

「ん?」


 西宮が呼び止める。


 先ほどまで赤かった顔は少し元に戻っていた。


「……何だよ。まだあたしが弟子なことにご不満?」

「いえ、その件はもういいです。ですが聞いておきたいことが」

「……?」

「貴方のユニークは何?」

「え?」


 ユニーク……転生系で言うならチートだ。


 本来だったら、どんなチートなのか。


 どんな威力があり、どう無双できるのか、初めから分かるのものだと思う!


 例えば、転生させた神様的な存在が『こういう能力付けてから頑張って!』とか。


 よくあるステータス画面があって、どういう能力なのか自ずと分かる場面があるはずだ。


 じゃあ、この世界はどうなのか……一切分かりません!


「なんで知りたいんだよ」

「今まで弟子を取らなかった龍様が弟子を取ったのです。特別なユニークを持ってる……と思うのが普通では?」

「……あー」


 確かに西宮の言うとおり、あたしのユニークはある程度判明してるし、師匠に言わせればかなり特殊らしい。


 めんどいから詳しくは言えないけど、本来男性だけが、それも数少ない男性だけが使え、しかも魔法によっては四人以上いないと使えない魔法をあたしは一人で使えるんよ。


 その希少性が理由なのかは知らんけど、あたしは神報者がどんな職業かも知らずに面白そうという理由だけで弟子入りを了承してしまった。


 ……正直に言おう、少し後悔している。


「……それで?どのようなユニークをお持ちで?」

「…………さあ?」

「は?分かってないの!?」

「イエス」


 どうやらこの世界の転生者にとって自分がどんなチートを持っているのか判明している人は少ないらしい。


 そりゃそうだ、魔法をどんどん使わないとユニークが判明しないんだ。仕事もあるし、仕える魔素量にも限界がある。


 見つかるまで、試すよりも旧日本から持ってきた知識を元に仕事をした方が良いまである。


 ……だから転生者が識人と言われるのかもしれない。


 ていうか、あたしも自分のユニークについて全部把握してないんだがね。


「となると、龍様があなたを指名した理由がもっと分からなくなったわ。あなたに何かを感じたのかしら」

「ははは……どうでしょうね」


 言えねえ。言ったら世界から狙われる。


「アリス!」

「今行く!じゃあな」

「……」


 何やら言いたげなようだけど、雪も月組の寮に行かねばならないのか、歩いて行った。


「アリス行くよ」

「うっす!そういえば!寮長さんってどんな人かな!綺麗で優しい人が良いなあ!……友里さんとか」

「え?ああ、そうか!アリスちゃん知らないんだっけ!」

「……何が?」


 香織の頭を撫でながら尋ねる。


「あたしたちはすでに学校説明会で各組の寮長とか科目ごとの先生と会ってるんだけど……」

「へえ……じゃあ、皆はもう知ってるんだ」

「うん、その友里さんって人は知らないけど。確か……花組は……柏木先生って人だったかな」


 ……何故申し訳なさそうに言うのか。


 それともある意味言いたくないのか?


 表情が何故かあの人は怖そう……と言っている。


 今日会った人で、怖そうな人……あ。


「……もしかしなくても……入学式に読み上げをしていた?」


 サチとコウが頷いた。


「あははは!あたしの楽しい学校生活……いろんな意味で終わったあ」

「何が終わったって?アリス君」

「……っ!」


 背後から入学式で聞いた……いやさっきも聞いたけど、声に体が跳ねる。


 ゆっくりと振り向くと……そこには、柏木先生が居た。


「……柏木先生でしたっけ?……何故ここに?」

「その前に私の質問に答えてないな。で?何が終わったって?」

「……」


 やばい。


 内容によっては答えた時点であたしの人生が、第二の人生が終わる。


 この人、面白いものを見つけたって顔してる!


「え……えーと……」

「なんだ?」

「ちゅ、中学生が終わってこれから高校生活楽しみだなって話をしてたんです」


 きゅ、救世主か!


 コウがフォロー入れてくれた!


「ほう?だが、アリスは識人、それも最近転生したばかりだと聞いたが?」

「簡単ですよ先生」


 コウがここまでフォローしてくれたんだ。


 ここからはあたしのターンだ。


「なにがだ?」

「知っての通り、識人で中学生時代の記憶はありません。ある意味一度目の人生を終えた身です。ですが!きっとあたしにも中学時代はあったはず!その人生が終わって第二の人生が始まって楽しみだなあ!って話をしてました」


 もはや何を言っているのかあたしでも分からない。


 今のあたしが出来る精一杯の言いわけだ。


「……ふふふ、ははは!そうかそうか本当にくだらない会話だったな!あははは!」


 柏木先生は突然腹を抱えて笑い出した。


「まあいい、良しとしよう。さて四人とも、これから寮にて各種説明が行われるんだ。一秒でも遅刻すれば……どうなると思う?」

「……どうなるんですかね?」

「そうなる前にさっさと行けと言ってるんだ!」

「はいはーい!」


 あたしたちは柏木先生の激に押され、寮に向かって走った。


「まったく……アリス、その調子じゃ政治家は愚か……名家にも食われるぞ?精進しろ」

「え?今なんて……」

「何も言ってない!早く行け!」


 あたしは笑顔で怒る柏木先生を横目で見ながら寮に向かう。


 こうして、あたしの異世界での第二の人生が始まったんだ。


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