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(更)北条家事件編 エピローグ 2

 宴が始まると、あたしの発言で少しだけ重かった空気はすぐに和やかになった。


 すぐ横では霞家の者なのか、それともこの日のために雇ったのかは知らないけど、芸者の人が旧日本だったらありえないような魔法を使った(某アニメの堕女神だったらありえる)芸や舞を披露していた。


 ただ、どうやらあたしは花より団子だったらしく、目の前の料理に集中しすぎて内容は頭に入ってなかった。


 そして宴開始から二時間ほどが経過し、最後の甘味を味わうと三枝さんから是非泊っていくように言われた。


 その際、すでにお風呂の準備はできておりますと言われたので、あわよくば二人と入れたりと考えたが、三枝さんの静かな視線で諦めた。


 その代わりに霞家の者に背中を流させますか?とも言われたが、この世界に来て一人でゆっくり風呂に入ってないと思ったあたしはやんわり断った。



「ふぅー……いいお湯でした」


 旅館を経営してるからなのか、霞家本家のお風呂もかなり広く、ゆっくりと過ごすことが出来たあたしはすでに布団が用意された部屋に通された。


「……無理……だよなあ」


 布団の上に大の字で寝っ転がったあたしはこのまま二人の部屋に夜這いを敢行しようか迷っていた……のだけども。


 そもそもあたしは霞家の内部構造を知らない。


 つまり、二人が何処で寝ているのか分からないのよね。


 探しに行けば霞家の誰かに見つかるだろうし、唯一言いわけに出来るのは『トイレを探していた』だけど、一回しか使えない。


「……しょうがない。普通に寝るか」


 考えてみれば、ステアに戻ればまたいつも通りの日常が待っているし、部屋も同じなんだ。


 ここで動く理由はない。


 あたしはそう考えると、いつも寝ているステアのベッドよりも明らかに良いと思われる布団に包まれながら夢の世界に旅立った。



「……ん?」


 夜中の何時なのかは定かではないけど、あたしはふと目が覚めた。


 壁に掛けれた時計を見ると、1時過ぎだ。


 おかしい、確か寝たのが11時過ぎのはず。


 あたしは普段こんな時間にトイレ等で起きたことはない。


「……寝るか……ん?」


 もう一度寝るために目を瞑った時、あたしはふとした違和感に気づいた。


 ……足が動かない。


 ていうか、あたしは普段うつ伏せで寝るはずだ。


 なのに何で今は仰向けなんだ?


 ……おいおいおい!確かにこの家は名家の家で、古そうな家ですけども!


 こんなすぐに金縛りに会ったりします?


 つーか、心なしか……動かない足が妙にあったかいような……。


 呪怨だっけ?


 布団をめくったら血の気の無い女性がいるって奴。


 やめろ!さすがにまだ死にたくはない!ていうか呪怨でもリングでもちゃんと呪いに触れる描写あったろ!あたしそんな呪いに触れた記憶ないんですが!?


 ススス。


 そうこう考えるうちに掛け布団のふくらみがあたしの胸に近づいてくる。


 嫌だ!嫌だああああああ!


 正体不明のなにかがあたしの前に来た瞬間、あたしは目を瞑った。


「アリス……起きてる?」

「……ん?……んんん!?」


 驚いた。


 そこに居たのは、何故か顔を紅潮させたコウだった。


 ……どういう状況?


 コウさんがあたしが寝てる部屋に忍び込んで……何故かあたしの寝ている布団の中にいる……どいうこっちゃ!


「えーと」

「ストップ!」


 コウの手があたしの口を塞ぐ。


「?」

「声出すとばれちゃう!」


 バレる……つまり、三枝さんはこの状況を感知してないと。


 それはいろんな意味でまずくないか?


 三枝さんの性格上、もしばれたらシャレにならん気が。


 コウは何故かあたしの右手を掴むと、静かにコウの胸に持っていく。


 この柔らかい感触……まさかコウさんブラしてない!?


 コウさんや、いくら手段を飛ばすとはいえさ、この大きさの物を支えなしでは将来垂れるよ!?せっかく形がいいのに!


 ……だけど柔らかい!友里さんといい勝負してるのでは!?


「……んっ」

「……Oh」


 思わず、右手に力が入ると、これが所謂喘ぎ声というやつなのかコウの口から小さな声が漏れた。


「アリス……好き」


 そう言うと、コウは目を瞑りあたしの唇に向かってゆっくりと近づき始めた。


「……」


 さて。


 良いんだよな?


 だってあたしから求めたわけじゃないし、あっちから来たわけだし!


 それにここまで来れたってことは、三枝さん含めた霞家の人たちには見つかってないってことになる。


 ……駄目だ。


 男子ならここで断るなら男子の名が廃るとか言うけど、女子のあたしでも同じだ!


 ていうか、さっきから右手に当たる突起のような感触はまさか!


 ここまで来たら行ってやろうじゃないの!


 もうあたしの吹き飛ばす理性を戻す人は居ない!


 あたしも目瞑ってキスを受け止めようとした……しかしその瞬間だった。


「……?」


 あたしの中の第六感とも言えば良いのか、あたしの中の何かが緊急事態を訴え、吹き飛ばしかけた理性を無理やり戻した。


 そして同時にある物を感じ取った。


 ……視線と殺気である。


 コウに気づかれないようにあたしは目を限界まで動かし視線と殺気の正体を探ろうとするけど、見える限り部屋の中にはあたしとコウしか居なかった。


 何故かコウの口が近づくにつれて殺気も大きくなっていく。


 そしてコウの口があたしの口に触れるか触れないかと言った時だった。


 聞こえるはずもない声が、あたしの脳裏に響いた。


『したらどうなるか……分かりますね?』

「……!……?」


 あたしはすぐさまコウの口を塞いだ。


 突然のことでコウはあたしに拒否されたのかと、一瞬悲しい表情を見せたけど、あたしの表情を見て異変に気付く。


「アリス?」


 あたしは声を出さずに、首を思いっきり横に振った。


 やったらヤラレル!やったらヤラレル!やったらヤラレルウウウウウウウウ!


「……どうかしたの?……!?」


 さすがに変だと思ったのか、コウが上体を起こして周囲を確認した。


 そしてそれによって少し冷静になったのか、視線と殺気に気づくことが出来たのだろうか、紅潮していた顔はみるみる青白くなっていった。


「……ごめんね」

「……don’t worry」


 そのまま、コウは静かに立ち上がると、自分の部屋に戻って行った。


「……はぁ、びしょびしょ」


 旧日本では知らないけど、この日本で初めて感じたとてつもない殺気に体が緊張したのか、全身汗でびしょぬれになっていた。


「お風呂入れるっけ……あっ」


 そういえば風呂から上がって部屋に行くとき三枝さんが言っていたような。


『今日は明日の朝まで露天風呂に入れるようにしておきますから。ごゆっくりおくつろぎくださいませ』


 ……まさかね……ははは。



 翌朝、鏡でも確認したけど、誰に目にも明らかなくっきりしとした隈があたしの目元にあった。


 もう一回、お風呂に入ってすっきりしたは良いけど、殺気のせいで臨戦態勢に入ったせいなのか、全然眠れなかった。


 同じく殺気で眠れなかったのか、コウの目にも隈があった。


「二人ともどうしたのさ」


 何も知らないサチが不思議そうに見つめてくる。


 ……何も知らないってのは幸せだなあ。


「そういえばさコウ、夜どっか行った?」

「え!?な、なんで!」

「だっていつも起きないような時間で歩いて行ったからさ。隣だからさすがに気づくよ」

「た、偶々トイレに行ったんだよ。昨日ははしゃいじゃったから!」

「ふーん。アリスは?隈が凄いよ?」

「慣れない布団……かな?」

「あぁ、なるほど」

「おはようございます。アリス様、よく寝られました?」

「え、えーと……」


 ただの質問のはずなのに昨日のせいで視線が向けられない。


「母さん、布団がいつもと違ったから寝られなかったって」

「あら……今度から旅館で使っている布団をアリス様用に常備しましょう」

「は……ははは、お願いします」


 確信犯でしょこれ。


「それよりコウ、なんであなたまで目に隈があるのですか?」

「……昨日はしゃぎすぎて寝付けませんでした」

「……まったく。あなたも霞家の人間ですよ?自制するように」

「はい」



 ステアに戻る準備が整うと、玄関には三枝さんとお付の女性が見送りに来た。


「良いですか?アリス様はこれまでと同じ友人関係を望まれると思います。それはそれで構いません。重要なのはこの先、この国で生きていくのに必要な価値観、それをお前たちが作るということです。ステアでの先輩との関わり方、名家との関わり方、魔法との付き合い方、すべてをサポートしなさい。良いですね?」

「「はい!」」

「よろしい。アリス様」

「はい」

「この先、何があっても霞家はアリス様の味方です。もし、何かあれば遠慮なく霞家を頼ってください」

「ありがとうございます」


 あたしは二人と共に箒に跨った。


「大丈夫でしょうか?」

「……?」


 お付の女性が聞こえないように、三枝さんと話し出す。


「霞家は変革の真っただ中にいます。これから霞家にとっても二人にとっても想像がつかない日常が待っているでしょうが、問題ありません」

「いえ、それではなく。アリス様とコウ様です。昨晩は何とかなりましたが……ステアでは監視が出来ません」

「……問題はありません。アリス様にもコウにもそういうことになればどうなるのかを本能に刻みました。よほどのことがない限り問題は起きませんよ」

「そうだと良いのですが」


 ……お二人とも安心してください。


 あたしの体があの時の殺気を覚えちょるんです。


 数年間は手を出すなんて脳みそが考えても体が行きません!


 ……ていうか、姿が見えなかったのによくあんな殺気を出せましたね……三枝さん。


 そんなことを考えながらあたしは二人と一緒にステアに戻るのだった。


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