(更)北条家事件編 エピローグ 1
「改めて見ると……でっか」
師匠とは話した翌日の夕方、あたしは霞家の玄関口に立っていた。
霞家から招待されたからだ。
因みに泊りになる可能性が高いとのことなので、香織は夏美先輩に預けて来た。
「あの時は、色々あったから感じなかったけど……没落していたとはいえ……やっぱ名家は名家なのね」
名家……所謂お金持ちの家の大きさに感服していると、あたしは一つの違和感に気づいた。
……何故か玄関含めた敷地内がピカピカに掃除されているのだ。
まるで大事な客人をもてなすかのように。
「……大掃除……の季節ではないし……誰か来てるのかな?」
……まあ、ちゃんとこっちは招待されているのだ。
行かないという選択肢はない。
「……スゥ……あの!……ん?」
あたしが家の広さから少し大きめに声をかけようとした時だった。
偶然にも一人の少女が玄関口に現れる。
「あ」
「あ」
互いに見つめあう。
でも本来ならここで来客であるあたしが一声かけるべきだったけど、何故か黙ってしまい、先に口を開いたのは少女だった。
「あの!」
「……あ、はい」
「申し訳ありませんが、本日は大事な来客の予定がございますので、お引き取りを!」
「え?えぇ……はぁ」
おかしな、ちゃんと時間は合ってるはずなんだけど。
もしかして二人が伝えて来た時間が間違ってた?
大事な来客……あたし以外にも予定があったのかな?
……しょうがない、一度出直そう。
「分かりました……ちょっと出直し……」
そう言いながら、出口に向かって振り返ろうとした時だった。
「アリス様!?」
「ほえ?」
背後から聞き覚えがある驚きの声が聞こえてくる。
振り向くと、三枝さんだった。
だけど、同時にあたしの名前を聞いた少女の顔が驚異的な速度で青ざめていった。
「あ、三枝さん。どうも」
「え?アリス様?……アリス様!?申し訳ございません!?アリス様とは気づかず飛んだご無礼を!」
すぐさまその場で正座をし、頭を下げる。
「あははは、大丈夫だよ。名乗らなかったあたしも悪いし」
「アリス様、ようこそおいでくださいました。時間通りです、準備整っておりますのでどうぞこちらに」
「あ、はい」
……準備とは?
……あたしが通されたのは前回三枝さんと話した部屋……のはずだった。
でも前回とはうって変わり、ここも来客をもてなすためか出来る限りの品であしらわれていた。
但し、壮大な装飾とはまた違い、ちゃんと部屋の大きさと釣り合うように配置や大きさが考えられている
……コトっ。
あたしが座ると、少女がお茶を差し出す。
「あ、ありがと」
お茶をゆっくりすする。
……前回もお茶を飲んだけど、あの時はステアの一学生、今回は招待客……多分茶葉も入れ方も違うとは思うけど……あたしにはわっかんねえわ!
「いかがですか?」
三枝さんが対面に座りながら感想を求めてくる。
「あー……えっと……」
言うべきか?
こういう場面だとお世辞でも良いから何か言った方がいいとは言うし。
「アリス様」
「はい」
「私どもが言うのもあれですが、今回はお世辞は不要です。正直におっしゃって構いません」
「……よく分かんなかったです……はい。多分ですけど、前世……旧日本でも高級なお茶何て飲む機会なかっただろうし、この世界でも飲む機会なんてなかったもので」
「ふふふ、そうでしょうね。ですが、あなたの立場上今後は飲む機会が増えるでしょうし、今からでも味を覚えるのは損ではないですよ?」
「……そうですね」
「……それでは」
「へ?」
三枝さんは座っていた座布団から少しズレると、深々とお辞儀をした。
「え?……え!?三枝さん!?」
「アリス様、この度は我が霞一族の汚名を晴らすばかりか、皇族御守護のお役目への復帰にご尽力いただきましたことを誠に感謝いたします」
「……へ?」
いきなりの事で思考が停止した。
でも、三枝さんの言葉でさっきまで感じていた違和感と霞家の対応に納得がいった。
……ていうか、今気が付いたけど、今日の三枝さんの格好も違った。
普通の来客や友人を迎える服装では無く、明らかに上客を迎える服装だった。
……これらが全部あたしの為に用意された物だったんだ。
「あの……顔を上げてください!私は単純に友人を助けるためにやった事なので!それに大抵のことは師匠がやった事でもあるし」
「それもお師匠様の龍様より伺いました。ですが、その龍様も今回の一件、アリス様が動かなければ事件自体は解決していたかもしれませんが霞家は助けられなかった……つまりはアリス様は我が霞一族の大恩人なのは変わりありません」
「はぁ」
正直、あたしが動く動かないでどう結末が変わったのかは知らん。
でも師匠がそう言うのならそうなんだろう。
……あたし、何したんだ?
「さてアリス様」
「はい」
「他の名家は知りませんが、霞家は代々恩義を受けたら必ず出来る限りの忠義で返すこと……と教えられてきました」
「はぁ」
「しかし、今回の一件、たった一回のお礼では到底返すことは出来ないと判断しております。ですから我々は考えました」
「何を?」
「これから我々霞家はアリス様のこれからの学園生活及び、この日本で生きていくうえで必要なサポートを一生涯かけてしていくと決めました」
「……ん?なる……ほど?」
つまりは名家の霞家が後ろ盾になってくれるってこと?
……ある意味最強のコネが出来たんでは?
「そして今日は手始めに」
パンパン!
そう言うと三枝さんは手を鳴らす。
すると右側の襖が開いた。
そこに居たのは割烹着姿の女性だった。
「……?……!」
女性が入室すると、後から何人もの人たちが手に料理を持ち、部屋に入る。
そして続々とあたしの前のテーブルに料理を置いて行った。
「……わお」
しかも、普通の居酒屋や一般家庭で出されるような料理では無かった。
高級料亭や老舗の旅館で出されるような一品一品が丁寧に作れた至極の料理だ。
川魚、山の幸、果てには和牛?のようなものまで並んでいる。
「……これって」
「言っておりませんでしたが、我々霞家は皇族守護のお役目から外された後、魔法戦闘の道場を営んでおりましたが、他にも料亭や旅館を経営しております。まあ、他にも色々手を出しておりますが。今日は輪が霞家の中でも腕利きの料理長を呼び寄せ作らせました。皆アリス様の為ならと喜んで腕を振るってくれましたよ」
「ははは」
……もう、笑うことしかできん。
「でも、なんで料理なんですか?」
「アリス様の衣食住をサポートする上で、衣と住はステアがすでに提供しています。でも食に関してはこの日本において霞家の右に出る者は無いと自負しているもので……まずはその力を知ってもらおうと」
「はぁ」
まあつまりは、自分たちはここまでサポートが出来る。
……言い換えれば胃袋を掴みにかかったと……いやあ!食べ物に弱いあたしにはクリティカルヒットですなあ!
ただ、一つだけ分からないことがある。
……明らかに料理が多すぎる点だ。
どう見ても一人前ではない。
まあ、高校球児ならイケるかもしれないけど、あたしは無理でっせ?
好意で用意してくれたものを残すのは気が引ける。
「あの……これさすがに量が多くないですか?いくらあたしでも食べきれないというか」
「大丈夫です、それは今から話します。……入りなさい!」
「んんん?」
まだ何かあるんですか?
今度は左側、確か庭とかと接してる側の襖が開いた。
そしてその瞬間、あたしは目を見開き……言葉を失った。
そこに居たのは……あたしが良く知っている……サチとコウのはずだった。
でも……こう言っては失礼かもしれないけど、今まで見たことがないくらいに、綺麗だったんだ。
一族を上げての着付けと化粧を施したのかもしれない。
サチは髪を後ろに結び、コウは下ろしている。
髪型の違いはあるけど、瓜二つの美少女が和服を着て立っていた。
二人とも経験がないのか、顔を赤面させて視線を落としているけど。
そこがまたいい!
……ていうか、ちょっと待ってくれ!確認ですけど本当にサチとコウですよね!?なんでこんなに和服が似合うんですか!この二人以上に似合う人がいるのかレベルでヤバいんだが!?
……ちくしょうが!なんであたしは男じゃないんだ!男でこの展開ならどうぞ嫁にしてやってくれ!って展開になるでしょうが!
ちくしょう!旧日本の両親よ!なんで男として生んでくれなかったんですかあ!
ちくしょうがああああああ!
「お母さん!二人をくださいいいいい!」
あたしは何故思考が暴走し……いつの間にか、土下座をしていた。
そして……空気が止まった。
……うん、今あたしは何て言った?
……ください。
つまりは……求婚か。
ふふふ、男女関係なくこんな美少女見れば誰だって求婚したくなるのは必然……後悔はないぜ……空気がヤバいことになってる件は置いといて。
「……とりあえず、二人は座りなさい」
サチとコウはゆっくりとあたしの隣に座った。
「アリス様」
「……はい」
「私は今回、一件が解決した時に心底思いました。……何故あなたは男じゃないのかと」
「……そっすね」
あたしも今心の底から絶望しております。
「当然かもしれませんが、霞家として名家として重要なことは何でしょう?」
「当主を継ぐこと?」
「それは二人が居るので問題はありません。問題はその先、跡取りです」
「……」
でしょうね。
「もしあなたが男なら喜んで二人を妻として送るでしょう。まあその場合、アリス様には婿として霞家に入ってもらいますが」
「はぁ」
「しかし、あなたは女性です。つまり二人との間に子供は出来ませんね?」
……いや分かりませんよ?旧日本だと何とか細胞とかで同姓でも子供が出来るかもしれないとか言ってましたし……この世界でもワンチャン行けるんじゃないですかね!
……とは言えねえよなあ!だって旧日本ですら確定してねえもん!この世界で出来るとは言えねえもんなあ!ちくしょうおおお!
「妻には送れません。なので二人にはこれからのアリス様の生活のサポートに入っていただきます」
「……と言いますと?」
「いくらサポートと言えど、霞家の者がステアに常駐は不可能です。ですがサチとコウならすでにステアの学生……ですからアリス様の名家との付き合い方、この日本での常識、魔法の使い方、様々なサポートをさせる予定です」
「それならすでにやってもらって……」
「それはあくまで友人としてでしょう?これからはそれ以上に神報者以外に必要なことを教えるために任命しました。……それにこれは龍様たっての希望でもあるのです」
「ほう?」
師匠……あたしの教育の一部投げたな?
まあ、師匠も師匠で仕事が忙しいのかステアで会う事ほぼないし……それに二人は名家の事も熟知してるし、これから皇族の事も知るだろうし適任ではあるのか。
……それより、ステアでは三枝さんの目がないってことは多少のお触りとかいいってこと……ではないですね!はい!分かってます!
あたしの考えが読めたのか三枝さんから一瞬だけ殺気とも言える視線を感じたので考えるのを辞めた。
「では話もここまでにしましょう。せっかくの料理が覚めてしまいます」
「はい!」
「では僭越ながらアリス様のこれからのご活躍と霞家の益々の繁栄を願いまして……乾杯!」




