(更)北条家事件編 龍編 7
ヽ(#゜Д゜)┌┛)`д) ;∴ガッ
『爷爷……爷爷帮助(助けて)』
テープレコーダーのイヤホンから聞こえてきたのは幼い少女の北国語での声だ。
その声を聴いた北条大次郎は固まった。
「いいか?北条家のしきたり?って奴はもう調べてある。北条家で生まれた女児は例外なく北国へ嫁ぐしきたり……まあある種人質みたいなもんか。そしてお前が家族思いの人間であることも調べがついてる……北条大次郎、これは取引だ。もしすべての罪お前が首謀者だと認めるのであれば俺の……神報者の指示のもと、第二日本国を上げてお前の子供を全員日本で保護すると約束しよう」
「貴様あああ!」
北条大次郎は怒鳴り声を上げて龍の胸倉をつかむと壁にたたきつける。
すぐに捜査官が入ろうとするが龍が制止した。
「貴様は何処まで……卑劣なんだ」
「いいか?お前にいくつか言っておくが、本来ならば政府転覆程度のなら俺は動かなかった……だが、俺が動いた理由はな……帝を狙ったからだ。帝が狙われるのであれば例え味方であろうとも俺は合法な手段で殺す。それが今回お前だっただけだ」
今回龍が北条大次郎の死刑にこだわる理由がいくつか存在した。
まず大前提として龍は日本政府がどんな政策をとっても普段気にしない。
もし政府の誰かが日本を他国に売ろうとし、その過程で天皇陛下の命と地位が危険だと判断される場合、即座に他の識人が情報収集をし、識人会議を招集するだろう。
だが今回狙われたのは皇族である。
普段識人会議を招集しても他の識人に任せる龍が自ら行動するのは天皇陛下が狙われたのが大きい。
そしてもう一つの大きな理由が今回の件で龍は帝……天皇陛下の信頼を失ったと思っている(実際は400年間の功績もあってあまり失ってはいない)。
龍は現代に生きるにあたり、価値観も少しずつアップデートしてきたが少し冷静を失った龍の信頼を取り戻す手段が首謀者である北条大次郎の死刑なのだ。
もしこれが400年前なら一族打ち首されても文句は言えないだろう、しかし時は現代、刑法が存在する今、そう簡単に打ち首は出来ない(そもそも第二日本国の死刑は旧日本と同様絞首刑である)。
そこで龍が出来ること、それは北条大次郎の首を帝に献上するのではなく北条大次郎の死刑を帝に献上することだったのだ。
「貴様……親の心は無いのか?娘たちを人質に……」
「ああ?俺たちは別に人質を取っているわけじゃねえぞ?そもそも命を握っているのは北国の皇帝だろ?それを助けてやるって言ってんだ。悪い提案じゃねえだろ?それにだ……お前は自分が送り出した娘があっちでどう暮らしてんのか知らねえだろ」
「……」
「それにな……親の心だったか?安心しろ、俺にも子を……孫を持つ時期はあったよ。もうだいぶ昔だ、いい思い出もあればつらい思い出もある。だから子を持つ親の気持ちも分かる……だからこそ最後の情けだ。俺がお前に出来る最大の譲歩だよ」
「もし……」
「ん?」
「もし、私が罪を認めても他の北条家の人間が同じことを繰り返すかもしれんぞ?自慢では無いが北条家として次期当主の教育はちゃんとしているからな、仮にわしを逮捕できても次の当主がいるからな」
「……あー、なるほど……だからか」
「どういう意味だ」
「いいか?国家反逆罪及び皇族転覆を狙った不敬罪の場合、仮に死刑にならなくても一族の国外追放処分は免れんからもう名家に所属するどころか日本にいることすら不可能だぞ?」
ここで初めて北条大次郎は龍が逮捕に関して余裕な態度をしている理由が判明した。
今回の逮捕で北条家の国外追放処分は免れない、つまり自動的に北条家の名家除名が確定する……と同時に北条家の皇族御守護のお役目からも外される。
この時点で龍の目的の一つが達成されるのだ。
では何故ここまで北条大次郎の首謀者としての自白に固執したのはやはり北条大次郎の死刑を確定させるためなのだ。
「龍よ」
ここで初めて龍を役職名では無く名前で呼んだ。
「なんだ?」
「つまり今回の件で我が北条家は国外追放処分を受けるのだな」
「そうだ」
「しかしお前は言ったな?娘たちを日本で保護すると……つまり娘だけは日本に住むことを許可するということだな?」
「まあある程度政府による監視は付くだろうがな」
「約束だな?」
「ああ、俺は相手を騙すために嘘をつくことはあるが……取引の為の約束はたがえない」
「……ふう。分かった」
静かに龍を離すと、ゆっくり椅子に座る。
そして押す寸前だった判子に着いた朱印を拭き取ると袋にしまい、懐に収める。
龍はこの光景に将棋の棋士が負けを宣告する前に身なりを整えるようだと感じた。
「罪を認めよう。我が北条家は400年前、霞家に帝暗殺の濡れ衣を負わせ皇族御守護のお役目を奪い取った。そこから400年間北国の皇帝が日本国の皇族を乗っ取るための準備をしてきた。だが……まさかここで夢潰えるとはな……どこで間違えたか」
北条大郎の誤算、それは紛れもなくアリスの存在を失念していたことだった。
霞三枝を幽閉した時点で霞家は名家除名が確定したと慢心したのだ。
霞姉妹だけでは政府や警察を動かせない……だが二人の親友であるアリスは違う、確固たる証拠さえあれば師匠である龍を動かせる。
もちろん北条大次郎もアリスのことは知っていた。
龍の弟子であることも知っていた、来たばかりの転生者であるがゆえに顔をよく知らなかったが、アリスという転生者が霞姉妹と親密であるらしいという情報も入っていた。
だが、唯一北条大次郎が失念していた事……それはアリスという少女が龍と似たように親友を守るためならどんな手段も使うという行動力がある人間だと知らなかったのだ。
「あの……よろしいでしょうか」
ここで先ほどまで各名家の署名と判を回していた男が前に出る。
「北条大次郎殿、今回の件であなたは逮捕されます。つまり事実上、名家除名処分になるでしょう……後任の指名をされていません」
名家会議の議席に座るもの、つまり議決権を持つ5名家は基本五名家の総意によって選ばれる。
つまり誰かが議席を離れる場合、離れる前に後任を指定し五人の議決を得る必要があるのだ。
「わしは誰も指名せんよ?」
「な!」
誰もが驚く。
自ら罪を認め、議席を離れるのに議席を離れる最後の責任としての後任の指定すら行わない……誰しもが心の中で無責任だと叫んだだろう。
「もうわしは罪を認めた、この時点でもうわしは名家でもなんでもないからのう!」
(やるねえ)
北条家が後任を指名しない場合、5議席を決める選挙が行われる。
だがこれには最低でも1か月は消費するのだ。
何故ならどの名家も名家の頂点に成れる……言葉を変えれば権力争いが勃発するのである。
逆に今まで何故起きなかったのか、簡単である。必ず議席に座るものが後任を指名して席を離れるためだ。
名家たちは本来異なる職業のトップに君臨する者たちの集まりである。
言ってしまえば政府の重鎮を除く経済界の縮図が名家会議なので、その者たちが5議席を勝ち取るために選挙をする……つまり確実に日本経済が停滞する危険が高まるのだ。
北条大次郎が最後に名家会議に残した置き土産なのだ。
しかしここでも北条大次郎の計画は簡単に破綻した。
「おい、ちょっと名家会議規則持ってきてくれ」
龍が男に指示をする。
数分後、六法全書並みに分厚い本が机の上に置かれた。
龍は数ページ開くと中身を読み始める。
「名家会議……議席規則……ああ、これだな。5議席の内、1席でも空席が生じた場合、後任が5議席の総意によるものなら認められる。しかし指名されていない場合、名家会議は必ず現状の5議席すべてを解散し選挙を開催、5議席を決めなければならない」
「そうだ。私は後任を指名せずに辞めた……選挙をするしかないねえ」
「なあ!お前はもう名家では無いよな?ただの見学している一般人だろ?意見する権利は無いんじゃないのか?」
「……っち」
「……ああ、これだ。覚えといてよかったよ。君、この部分を読んでくれ」
「え?あ、はい」
龍の代わりに男が指定された箇所を確認する。
「……え?これは……」
「早く読みたまえ!」
(これが件の言う老害って奴か)
「えー、また天皇陛下の勅令は5議席総意のモノと同等の効力を持つと認める」
「何!?」
勅令、簡単に言えば天皇陛下の命令である。
旧日本では象徴天皇になり天皇陛下は政治に参加することが出来ないため憲法でも勅令は禁止になった。
しかしこの第二日本では違う。
第二日本で非常事態が宣言された場合、日本の統治権は首相から天皇陛下に移譲される。その時に下す命令は全て勅令になる。
つまり天皇陛下の命令権が第二日本国では生きているのである。
しかしこれは非常事態が宣言された場合のみだ。しかし、特例も存在する。
例えば名家会議の規則のように法律や規則の中で勅令が許可されている場合、非常事態宣言下でなくとも勅令が有効になるのだ。
北条大次郎はその構文を自分の目で確かめるが確かに今しがた龍が書いたものではなくちゃんと昔から規則になっていることだと確信した。
「……で?それが何だというんだ?この1会議の……動議の為に、天皇陛下が勅令を出すと?」
「お前……俺が誰だか忘れたか?俺がどんな立場にいるのか忘れたか?」
龍は懐から1枚の紙を男に渡す。
「これを読め」
「はい……っ!」
男の表情が固まる。
「良いからさっさと読めえ!」
「こういう大人にはなりたくないな……。内容で緊張するなら別に噛んでも構わんさ、ここは政治的に正式な場ではない」
「はい……えー、勅令!名家会議の北条家の抜けた1議席には霞家が就くこと!そして北条家は皇族御守護のお役目を解任とする!そして後任を霞家とすることをここに宣言する!」
北条大次郎はその場から崩れ落ちる。
と同時に霞三枝も崩れ落ちた。
龍は三枝のそばに行きしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
「え?ああ、はい……龍さん……いえ、龍様!本当にありがとうございます!本当に……あ、ああああああ!」
三枝が大きな声で泣き出した。400年待った……そしてついに400年経って一族の悲願である汚名の返上と皇族守護に返り咲いたことへの積年の思いがあふれ出したのであろう。
しかし誰も三枝のことを咎める人間は居なかった。それどころか大多数の人間は北条大次郎への侮蔑の眼差しを向けるほどだ。
「いいか?お前が本当に感謝すべきは友人を救いたいという思いだけで、霞家を救いたいという思いだけで俺をも動かしたアリスだ。今回の俺はアリスに頼まれて動いたに過ぎない。だから感謝すべきはアリスなんだよ」
「はい!はい!分かりました!」
「それにだ、三枝殿。お前にはまだやるべき仕事が残っているだろう?」
「え?」
「帝の勅令はあくまで北条家の議席喪失であり皇族守護のお役目解任だ。罪を犯したからと言って自動的に名家を除名されるわけでもないし、自分でやめると言っても規則的にやめられないんだろう?ならお前がすべきことは分かるな?」
ここにいる全員が『さっき名家止めて一般人になったとか言ってたじゃん』と思ったが龍なりの冗談だった。
普通に名家の除名も5議席の総意の元で決定されるため、やめると宣言してもやめられない。
「……分かりました」
三枝はよろめきながら立ち上がると先ほどまで北条大次郎が座っていた席に歩き出す。
その間龍はふと北条大次郎を見る、するとちょうど複数の捜査官に手錠を掛けられて会議場を後にするところだった。
(終わったか……久しぶりに熱くなっちまったな)
近くの電話機に行くと電話をかけ始める。その時ちらっと横見ると、西宮椿が別の電話でどこかに電話しようとしていたが、誰にかけていたのかまでは分からなかった。
「ステア魔法学院花組」
「俺だ」
向こうの声の主は柏木だ。
「……何をしていた」
「まあ色々と……これ以上はまだ機密かな。それよりアリスを出してくれ」
その後、アリスに問題が解決したと報告すると龍も会議場を後にする。
その際、ふと振り向いた龍は三枝が深々とお辞儀をするのが確認し、笑みをこぼし煙管に火をつけ煙を吹かしながら会場を後にした。
「龍さん……館内禁煙です」
「ん?……ああ、すまん」




