(更)北条家事件編 龍編 5
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龍が400年前に起きた事件について名家会議にて告発したが北条大次郎は余り動じなかった。
簡単だ。北条大次郎にとっては今回の議題で霞家の名家除名さえすればこの告発自体意味が無いのだ。
過去に遡り、名家を除名された家が戻ってきたという前例がないのである。
つまり霞家の除名が完了すれば仮に北条大次郎が400年前の罪を告白し、霞家の汚名を晴らしても名家に戻れないという腹積もりなのである。
一人の男が北条大次郎に近づいていく。
先ほど龍が座るための椅子を用意した男である。
その手には恐らく今回の動議である霞家除名を決定づける5議席の署名と判子を押す審議書が握られている。
「さて……始めましょうか。今回の議題は……霞家の除名処分について。これまで霞家は先祖が犯した大罪について本来なら即除名するのが一般的でしょう……しかし我ら先祖たちはこれからのことも加味して名家から除名することなく永続的な発言権の廃止としての処分に留めました。それもすべて霞家の大罪を犯す前の功績も加味してかつこの先の名家への貢献に期待しての処置でした。しかし昨今、霞家の名家に対しての横暴は看過できる範囲を大きく逸脱しているところでございます。よって今回、我らの代にて霞家を名家から除名処分とする方向に決めました……これは名家会議の総意であります。霞三枝殿、何か反論はありますでしょうか」
ここまで来て北条大次郎は霞三枝に反論の機会を与えた。
しかし、霞三枝は何一つ反論しようとしない。反論しないことで反対の意を貫いているのか、それともそもそも反対するような気力が無いのか……恐らく後者であろう。
何故なら誰が見ても霞三枝は3週間前よりやつれている。
恐らく霞姉妹が学校に戻った後、北条家によりこの会議の日までどこかに幽閉されていたのだろう。
理由は簡単だ、霞三枝なりに出来る最後の抵抗を挿せないようにするためと、この場での反論をさせないためである。
今、北条家としては何としても霞家を除名処分としたい、しかし霞家がただでやられるわけにはいかない……周りに協力を仰ぎ、何とか除名処分を回避する方法を画策するはずなのだ。
それを北条家がみすみすやらせるはずが無かった。
北条家は霞姉妹が学校に戻り退学の意思が無いと知るとすぐさまに霞三枝を幽閉し、他者との接点を絶った。
霞姉妹に政府や警察関係のコネは存在しない、また霞家当主である三枝以外の霞家の人間も三枝の指示なしでは動けない……つまり三枝さえ確保すれば全て問題ない……はずだった。
しかし、北条家の作戦はたった一人の転生者の存在で水の泡と化したのである。
北条大次郎を除く4議席の名家が署名と判子を押し終わると、審議書が北条大次郎の前に移動する。
北条大次郎はまず用意されたペンで署名すると、懐からこれまた年月を感じさせる布の袋を取り出す、中から取り出したのは他の名家とはまた少し大きさも形も異なる判子だ。
「北条」
「何だね?今度はなんの告発だい?」
「いや告発では無いよ。判子を押した名家の判子とお前の判子の形がかなり違うから気になった」
「ああ、そこに気づくとはオブザーバー殿も見る目があるようだ」
思いがけない龍の判子に対しての指摘に笑顔になりながら判子を押す作業を止めて龍に判子を見せる。
「判子……押さなくても良いのか?」
「少しぐらい構わん……君はここにいる誰よりも忙しい身だ。ここに来るのも今日が最後かもしれんし、皇居で会えると言っても個人的に話が出来るわけでは無いからな」
「あっそう」
「皇族御守護……昔は帝御守護だったか、そのお役目について400年……つまり今日にいたるまで我々北条家はずっと名家会議の議席を守り通してきた。他の名家は入れ替わることもあろうが我々は無い。議席に着いたものは必ず判子を作る義務が生じるが北条家は代々当主になった者がこの判子を引き継ぐ決まりになっているんだ」
「失くしたことないのか」
「作り直したとも失くしたとも話は聞いてないね。まあ擦り切れて少し掘り直すことはあるが」
「俺もしん……オブザーバーになるにあたって師匠から判子を引き継いだが何回か作り直してんだよなあ。大抵肌に離さずに持っていたせいでぶつけたり落として割れるのが何回か」
「せっかく受け継いでいるんだ大切にした方が良いな。私みたいに袋の中に緩衝材を入れるとか」
「考えてみよう……なあ、その判子……この紙に押してくれないか?」
「何故だ?」
「掘り直しているとはいえ、絵は400年前から変わっていないんだろう?なら俺の判子とも比べてみたい、もしかしたら俺の判子を作った人間と同じかもしれん。それに俺は400年前から生きている身でね、今の所ちゃんと残っているのは日本刀みたいな芸術性が高いものばかりだ、懐かしさというのも感じてみたいしな」
「なるほど……構わんぞ」
北条大次郎は笑顔で龍の差し出した和紙に判子を押した。
龍は判子が押された紙を受け取るとじっくり観察する。
「……北条家にはお抱えの彫師とかは居なかったのか?」
「メンテナンスでのお抱えは居るが作った人間が継いでいるのかは知らんな」
「ふーん」
「じっくり見てくれ」
北条大次郎は審議書に向き直すと再び判子を押す準備をする。
その時龍は判子が押された紙とは別に懐から例の手紙をそっと取り出すと比べて見始める。
押された力によって多少の滲み等の誤差はあるがそれでも誰が見ても一緒の判子だと答えるレベルで同一の印だった。
大きさ、形、そして中身の絵、どれをとっても酷似している。
(北条家お抱えの彫師だ、仮に他の人間の判子を作るにしても同じ絵の判子は作らんだろうし、仮に同じのを作ろうとしても絵が微妙に異なるはず……当たりかな)
龍は無地の紙に印を押したものを懐にしまい、右手に手紙の原文、左手に翻訳したものを持つ。
そして北条大次郎が朱肉に判子を押し付け審議書に判を押す瞬間。
「陛下……お元気でいらっしゃいますでしょうか」
手紙の内容を声に出して読みだした。
すると当然、北条大次郎の判を押す手が寸前で止まる。
そして周りの人間もざわつき始めた。
そしてその様子を観察しながら龍は続ける。
「我が北条家は未だその正体悟られておりませんことをご報告すると共に陛下が北国を統一なされ少しずつ国を……」
「貴様あああ!」
途中で読んでいた龍の右手から手紙の原文を奪い取ると、その中身を確認する。因みに翻訳した紙を奪われないように原文の方は前に突き出し、翻訳版は服に隠しながら読んだため結果的に原文だけを奪わせることに成功した。
そしてその瞬間、今まで以上の速さで北条大次郎の顔が青ざめていく。
本来、北国の皇帝と自分しか知らない手紙の内容だ、3週間前と言えど中身は覚えていた。
何故その内容を龍が知っているのか、そして本当ならとっくに着いているはずの手紙を何故龍が持っているのか、起きている状況に青ざめながら混乱している北条大次郎はよろめきながら椅子に座る。
「何故……貴様が……これを」
思いもよらない状況にもはや言葉が出てこない状況だが、龍は追い打ちをかける。
立ち上がると、隠しながら読んでいた翻訳版を再び読み始めた。
「……最初から行くか。陛下。お元気でいらっしゃいますでしょうか。我が北条家は未だその正体悟られておりませんことをご報告すると共に陛下が祖国である北国を統一なされ、少しずつ国を纏めていく様子を聞き日々お喜びの賛辞を贈りたいと思う所存でございます。さて、今回報告するのは私が所属している名家中心の政党がついに政権を取りました。これにより北国の日本統治までの準備が整った形でございます。後は陛下が日本の皇族と入れ替わるようにして日本の統治を持っていただければ北国400年来の悲願がついに叶うところにございます。後は陛下のご命令一つで、日本国は北国の者になることをご報告するとともに失礼いたします北条大次郎」
今度は最後まで読み切る。龍が周りを観察すると一緒に入ってきた捜査官以外の名家が慌てふためいているのが良く分かる。
そして、大多数の人間が今日この場に龍が……神報者の龍が現れた理由を悟った。
(さて……止めを刺そうか)
「北条大次郎……色々質問はあると思うが、これについて何か言うことはあるか?」
「……どこで手に入れた」
「たまたま拾った」
「そんなわけなかろう!北条家が手配している配達人に直々に手渡しておるんじゃぞ!」
「いいか?どんな人間でも失敗やミスは起こりうるだろう?偶々そいつが落として俺が拾った……それとも俺が盗んだという証拠でもあるか?」
「……」
明らかに北条大次郎の顔が怒りに染まっているのが分かる。
そして残念ながらさすがに北条大次郎でも龍の窃盗について被害届を出すことくらいは出来るだろうが立証は不可能である。
「で?この手紙はなんだ?」
「偽物じゃ!誰かが私に成りすましてこの手紙を書いたんじゃ!」
「へえ!じゃあなんで本来お前しか使えない判子まで使われてるんだ?」
「……前に無くしたことがあるんじゃよ」
「さっきと言ってることが違うぞ?一度も無くしたことは無いって言ってたじゃないか」
「ああ、思い出した!一回だけ!失くしたことがあるんじゃ!あの時は焦ったのう!すぐに見つかったが……まさかこんな使われ方をしたとはのう……次は疑われぬように管理を徹底しよう」
ここで捜査官の一人が龍に耳打ちする。
「……了解。北条大次郎、今しがたお前の家を多くの警察官が家宅捜索してるんだが」
「……っな!なんの罪でじゃ!」
「それはすぐに判明するだろうさ……それでな?お前家からお前が北国の皇帝に当てた手紙と皇帝からの手紙が大量に畳の下から出てきたらしいけど、本当に失くしたの一回だけ?それにしては量が多いと思うのだが?」
「……ふー」
北条大次郎は一度大きく深呼吸すると椅子に座り直した。
「恐らく北条家の誰かがやったのだろうな。見つけたらきつく言っておく。それでいいじゃろ」
この期に及んでまだ主犯として罪を認めようとしない北条大次郎に少しいら立ちを覚える龍だったがまだ想定内だった。
北条大次郎としては主犯として罪を認めなければ最悪死刑になることは無いと踏んでいた。主犯でなければよい、北条家の人間が当主の代わりに主犯と名乗り出れば死刑は免れる。
何も知らなかったで通せば最悪共謀罪等で起訴されても北条家にもお抱えの優秀な弁護士は居る、不起訴で何とかなると踏んだのだ。
しかし、北条大次郎は知らなかった。第二日本の国家反逆罪及び皇族転覆を目論む不敬罪で起訴された者の末路を。
「まだ認めんか……なあ北条、孫娘は元気か?」
「は?いきなり何を言って……」
龍はカバンからテープレコーダーを取り出すと、卓から追加で受け取ったイヤホンジャックを挿して北条大次郎の耳に付ける。
「何だこれは」
「テープレコーダーって奴らしい。要はでっかいレコード盤を今の技術で限界まで小型化したものだ。まあその使い道は色々あるが……これを録音してその場で再生できるんだとさ」
「それがなんだと……」
龍がテープレコーダーの再生ボタンを押した。




