(更)北条家事件編 龍編 1
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北条家事件 クライマックス
「……ってなことがありました」
翌日、あたしは前回師匠と会った場所、転生者保護協会(一般的には天保協会)の屋上にやって来ていた。
「そうか……お前、目がかなり赤くなってるけどどうした?」
「……目の病気か、大泣きする以外で目が赤くなることってあるんかな?眼球直接殴られるとか?」
「……なるほどな」
師匠はいつも通り、煙管に煙草を詰めると日を付けた。
「それで?今日は何用?」
「言ったろ?昨日話せなかったことだ」
……ヤバい、覚えてない。
「何でしたっけ?……つーかテレビでいたんだけど!北条家の当主が国家反逆罪で逮捕されたって!何があったのよ!」
「それを含めてお前は当事者として知る権利がある。だからここまで呼んだんだ、今の所この情報は国家機密レベルだからな、おいそれと電話では話せん」
「なるほど?」
「さて……どこから話そうか。とりあえずお前に頼まれて神報殿に行ったところか」
師匠が話し始めた。
神報殿、本来は天皇陛下の代わりに神報者である龍が日本で起きた事象を書き記した神報書を納める場所である。
ここに入れるのは原則二人のみ、天皇陛下もしくは神報者のみである。
しかし、例外として天皇陛下もしくは神報者の付添という形であれば一人だけ入室が可能だ。
そのような性質のお陰で神報殿は基本的に入り口を守る警備以外に人はおらず、静かなはずだった。
アリスに頼まれ神報殿に向かっていた龍は何故か神報殿の方から声がするのに気づいた。
普段だったら聞こえない声だ。
(……珍しいな。誰かいるのか?)
「だから!入れないんですって!」
「ですから許可を貰っているんですって!」
龍が覗くと、どうやらいつも警備している皇宮警察ともう一人、見慣れない男性が口論をしているようだった。
「あのね!あなたも皇居に居る人間なら知ってるでしょ!?仮にここは許可があったとしても原則陛下か龍様と一緒でないと入れないの!」
「ですけど!……龍様は……そのお忙しいので……代わりに入ってくれって!」
(……押し問答だな)
これ以上は言った言わない、もしくは入れるまであの男があの場に居ることは誰が見れも明らかである。
龍はこの口論に介入することに決めた。
「ですからちゃんと許可を……」
「俺はそんな許可を出した覚えはないだがなあ」
「……!」
男が急いで振り返り、同時に警官が敬礼する。
「龍様!」
「俺は神報者になってから陛下以外にこの部屋に人を入れたことはないし、弟子になったアリスにもここを案内したことはない。アリスを単独でここに入れようとは思わないし、もし必要があるならその時は帝を同行させるね。それに許可を取った?お前は一体誰に許可を……おい!」
龍が言い終わる前に男は踵を返して立ち去ろうとする。
それを見た龍は急いで男性の襟元を掴んだ。
「おいおい、話は終わってないだろ?誰の許可を……ん?」
男性が袴だったことも関係してか、襟をつかんだ瞬間、龍の目にあるものが映った。
直径10センチ程度の円を描いている独特なデザインの龍の絵だった。
確かに旧日本でもこの第二日本でも入れ墨文化は存在するし、龍も見慣れている。
しかし、男性が入れていた入れ墨は龍のどの記憶の中でもない珍しいデザインの入れ墨のはずだった。
(龍の紋様……なんだ?初めて見たはずなのに……何処かで?)
400年生きている龍の脳が何故か既視感を訴えたのだ。
「おい、その入れ墨、何処で……おい!」
バシッ!
龍が入れ墨に集中し襟を掴む力が緩んだ瞬間、男性は強引に手から離れると急ぎ足で出口へ向かって行った。
「……」
(普通に考えれば、一般人は皇居にすら入れない。ならあいつは皇宮警察……いや服装的には皇族守護の北条家の人間か?)
「龍様?」
「ん?ああ」
「無線を飛ばして応援を呼びますか?」
「……いやいい。顔は覚えただろ?なら後で報告すればどうとでもなるだろ。お前はいつも通り仕事をしてくれればいいよ」
「分かりました」
そう言うと龍はいつも通り、神報殿の中に入った。
神報殿の中に入った龍は手前に置いてある物には目もくれずに奥へ進んでいく。
(俺が知っている皇族守護は北条家のみ。なら俺が神報者になる前に事件があったと仮定するのが普通……なら少なくとも400年前か)
龍は納められた神報書に背表紙の年月日を頼りに目的の場所を探していた。
そして数分歩いた時だ。
明らかに龍の書いた文字と違う書物のエリアにたどり着く。
それを手に取り、中身を見るがどれも戦に関する記述しか書いてなかった。
(……違う。この中から探すのか?時間が足りんぞ)
先代の神報者が書いた書物の量に呆然としながら一冊の本を手に取った時だった。
……パサッ。
本位挟まっていたのか二枚の和紙が滑り落ちる。
しかしそれは何故か神報殿に収めるときに押すはずの判子が無かった。
「……まったく」
龍はそれを回収すると、何気なく本を開いた。
その瞬間、龍の目に『帝』と『霞家』という文言が入ってきたのだ。
「……これか?」
時間が惜しい龍はすぐさまそれをテーブルに持っていくと、すぐに模写を始めた。
基本的に一度でも神報殿に収められた書物は龍や天皇陛下であっても持ち出すのは禁止されている。
持ち出すには原本を模写するしかない。
ある程度の模写を終えた龍は素本を戻すと、すぐさま転保協会に戻って行った。
転保協会にて龍は模写した神報書を確認した。
『帝、霞家の者に殺されかけき』
つまりは当時の天皇陛下が霞家の者に暗殺されかけた……ということだ。
「……はぁ」
龍は落胆した。
(やはりか)
現状当時の事を記す唯一の書物だ。
ある意味霞家の罪が確定したのである。
だが、次の一文を見た瞬間、龍の落胆は疑問に変わった。
『されど帝、霞家をお許しになられ、帝守護の任を北条家に譲った』
「……は?ああああああ!?」
(待て待て待て!帝暗殺未遂だぞ!?今の世ならまだしもあの時代なら一族皆殺しが普通なのに……なんでだ?)
龍がこの文に疑問を思ったその時、本から滑り落ちた二枚の紙の事を思い出した。
(そういえば……何を落としたんだ?)
龍は二枚の内、一枚を取り出すと開いた。
『龍。これを読んだということは本を読んだということだ。神報書は童の意見を書くものではない故、こっちに書き記す』
「……」
(師匠、久しぶりだな)
再会したわけではないが、久しぶりに見た新しい先代神報者の文字を見て懐かしさを覚えた龍。
『報告書の上では霞家が帝を暗殺しようとしたと書いてあるが、事実は少々異なる。長々と書くのは嫌なので、まずは結論だけ言う。帝を暗殺しようとしたのは霞家ではない』
「はあ?」
『正確に言えば霞家に扮した何者かが帝暗殺を企てた……といえばよかろう』
(根拠は何よ)
『お前の事だ。根拠は何だというだろう。実は帝が暗殺されかけた時、一番傍にいたのは童でな。取り押さえたのも童だ。その時の犯人は自らを霞家と名乗った。じゃが長年神報者を務めた童でもそやつの顔は見覚えが無かった。また、そやつの首元には特徴的な入れ墨が掘ってあったのじゃが、それすらも見覚えがない。故に童はこの事件が霞家の者ではないと判断したのだ』
(だったらすぐに調べりゃ……あ、あー)
龍はすぐに気づいた。
この書物の後は戦争の記述しかない。
つまり先代は調査をしなかったのではなく、出来なかったのだ。
『他にも書くことはあるが、取り合えずこの件を一番に調べてくれ。他の事は全て石の下にある。よろしく』
ここで龍はもう一枚の紙を広げた……そして驚愕した。
「……マジかよ」
そこに書かれていたのは……とある入れ墨の絵だった。
龍が驚いたのは、先ほど神報殿に侵入しようとした男性の首元に入っていた入れ墨と同じだったからだ。
恐らく先代が記憶を頼りに書いていたのか所々歪んでこそいたが、龍から見れば男性と入れ墨と完全一致する。
あの入れ墨がどの程度普及しているかによるが、もし特定の一族にしか伝わっていない物だとすれば、400年前天皇陛下を暗殺しようとした犯人と神報殿に入ろうとした男は同族ということになる。
「……はぁ、厄介な事になった。……」
その時、龍は背後に気配を感じた。
しかし、龍は警戒することも自身を守るといった態勢になることも無かった。
背後の男性はゆっくりと二枚の紙を龍に差し出した。
「……何時だ?」
「つい先日」
一枚は和紙で中国語に似た漢文、そして二枚目はそれを和訳したものだ。
そして原文の最後には特殊な文字で書かれた判子が押してあった。




