(更)北条家事件編 アリス編 7
(´・(ェ)・)
あたしが人生初の演説をして、三週間がたった。
師匠が提示した期間である。
その間何かあったのか……と言われれば、特に大きなことはなかった。
まあ、花組の寮に月組の生徒たちが押しかけてくるとか、月組の生徒が校長室に押しかけて職員会議が開かれる的なことはあったらしいけど、あたしたち一年は寮から出れなかったので詳細は知らない。
というかあたしたち一年が心配していたのはむしろ勉強についてだった。
ちょうど試験は終わったとはいえ、ステアは進学校だ。
少しでも授業に遅れればたちまち試験が地獄になる。
……だけどその心配も杞憂に終わった。
あたしの演説に協力してくれた順先輩や小林先輩、峰先輩が教師役を買って出てくれたけど、一年全員が同じことを思ったに違いない。
『先生の授業より……分からりやすい。先生いらなくね?』と。
それどころか、教師陣より教えるスピードも教え方も旨いのだ。
結果的に言えば、たった三週間で一学期期末までの試験範囲を全員(一部を除いて)に教え終わるという奇跡まで起こしてしまった。
『なんでこんなに教えるのうまいのよ』
この疑問に対して、峰先輩がこう答えた。
『だってお互い得意科目で教えあってテストにさえ合格すれば授業でなくていいんだぜ?だったら授業に出る必要ないじゃん?』
……確かに理論的には間違ってないんだけど。
それはそれでいいのかステアよ。
そして三週間後、師匠が指定した期間の最終日あたしたちはいつも通りに談話室で勉強会を開いていたけど……あたしは机に突っ伏していた。
……先ほど言った一部生徒……ありゃあたしです。
「……無理ゲー」
「大丈夫だよ!アリスちゃん自頭は良いんだから!ズトューパのルールもすんなり覚えられたし……あとは歴史だねえ」
「……歴史」
一般的に高校生が習う歴史って大学受験の為に範囲を絞って深く勉強するもんのはずなのよ。
つまり小中でならう義務教育で習う歴史を履修前提なわけで。
この日本で義務教育を受けていないあたしにとってそれは算数すらまとも習ってないのに数学の授業を受けると同じ行為なのですよ。
しかも旧日本の地理やら歴史やら入ってるせいで第二日本の地理歴史がすんなり入ってくれない!
旧日本の義務教育まとも受けたかどうかすら知らないけど、ちゃんと頭に入ってるってことは……一応学校には通っていたらしい。
「興味があることは覚えるんですよ。魔法とか、後何故か英語もイケるし。でも歴史はなあ……なまじ旧日本の歴史が頭にあるせいでごっちゃになる」
「あたしは旧日本の歴史の方が興味あるけどなあ。判明してるだけでも2000年以上の歴史あるって言うじゃん?そっちの方が断然面白そうだけど」
「そうですかね?」
「私も旧日本の歴史、興味あります」
ここで割って入ってきたのはコウだった。
「なんで?」
「旧世界って世界を巻き込む大きな戦争が二回も起きたんでしょ?この世界だと400年前の戦争以来色んな国を巻き込んだ戦争って起きた事ないし。巻き込まれた当時の人には申し訳ないけど、その時の世界事情ってどうだったのかなって考えると面白いかなって」
「俗に言う歴史の転換点って奴か」
「転換点?」
「簡単に言うと何気ない一言、何気ない行動が後々に世界の歴史を大きく動かす行為だったってやつ」
「ああ……」
第一次世界大戦がそうじゃなかったっけ?どっかの皇太子が殺されたのがきっかけになったとか。
……詳しくは知らんけど。
「一度でいいからそういう場面に立ち会いたいよねえ」
「……旧日本でもそうですけど、そう場面って大抵大勢の死人が出るのが普通なんで、まずは生き残ることが理想っすねえ」
「そうかぁ」
バン!
「うおっ!」
その時だった。
談話室の扉が勢いよく開かれ、同時に談話室の全員が開けた人物に視線を送った。
……柏木先生だった。
でもその表情はいつもとは様子が違い、焦っている……というよりは、何が起きているのか分からずに戸惑っている……というのが正しい。
「……先生?どうかしました?」
「アリス!テレビを付けろ!」
「へ?はぁ……」
あたしは先生に促されるままテレビの電源を付けた。
……運が良かったのか、それとも時間帯的になのか、偶々テレビに映ったワイドショーのキャスターは少し焦った声色で今入ったと思われる情報を伝え始めた。
「えー……ただ今入った情報です。現在、西京都の名家会館にかなりの数の警察関係者が集まっているとの情報が入りました!」
「な!」
「は!?」
「……名家会館って……なんぞ?」
名家会館という名前すら知らない施設の存在に?マークが付くあたしだったけど、それ以外の人は警察関係者が居ることに驚いていた。
「……名家会館ってなんぞ?」
「月に一度、名家の定例会議が行われる場所……としか知らん」
「ああ」
……まあそうでしょうね。
「ていうか、皆何で驚いてるんすか?」
「簡単だ」
多分、名家だけど名家会議についてあまり詳しくないであろうサチやコウの代わりに柏木先生が答える。
「名家は識人とは別に、だが同じように日本経済を支えてきた存在だ。その影響力は政府中枢まで作用する。だから慣例として名家当主は政治家にはなれない。だが、政府と深くつながっているから名家を直々に逮捕することも基本的にはしない。基本的に逮捕するなら名家から除名してから逮捕するのが普通だ」
「なるほど」
名家会議に影響がいかないように名家の冠を外してから逮捕させるのか。
「順、今日何日だ?」
「12日」
「名家の定例会議って今日なのか?」
「名家じゃないのに知るわけないだろ。ていうか現在進行形で名家の人間がいるんだからこっちに聞いてくれよ」
そう言うと順先輩がサチとコウを見る。
静かにコウが口を開いた。
「えーと……一般的に定例会議は月初めに行われるのが慣例ですね。でも毎月行われるから話すことがないときは議長席の五名家の軽い現状報告だったり、予め纏めた政府への提言書の確認で終わるはずです」
「よく知ってるね」
「基本的に名家会議で発言する権利があるのは当主だけだけど、その名家で次期当主が決まっている場合は、見学という形で会議に同席できるんだよ」
「へぇ」
なるほど、将来的に発言するかもしれない存在だから会議の空気に慣れさせるのが目的か。
……ていうか、サチとコウって双子だけどサチの方が年上よな?なんで会議にコウが出てるん?
「なら、今日は確実に定例の日では無いということになる。コウ、他に今日会議が開かれる理由に思い当たるのは?」
「そうですね……例えば緊急議題として議席を持つ名家が議題を持ってきて五人の名家が開催を指示すると会議が開かれますから多分これかと……でも内容はさすがに分かりません」
「そうか……アリス」
「何すか?」
「龍の狙いはこれか?」
「はあ?」
「名家会館で会議が開かれていてそのタイミングを待っていたかのように警察が集まって待機……つまり今日警察は名家の誰かを逮捕するつもりだ。それが三週間耐えた龍の狙いか?」
「……あたしが知ってると思います?知ってたら信用してる先生や先輩方にまず言ってますって。あたしが考える言ってない……言えなかった理由は二つ。あたしから名家に情報が漏れるのを恐れた……あたしを信用してないってことです!……でももう一つは、逮捕する対象が大物すぎて逮捕直前まで情報を共有する相手を極限まで少なくしたかった。あたしはここに閉じこもるから情報共有する必要ないですし。……それにあの人必要最低限の情報以外は基本言わん人っすよ?」
「……そうか、そうだな」
「……?」
柏木先生は思い当たる節があったのか、目をそらした。
あたし含めた全員がテレビにくぎ付けになるが、残念ながらテレビはそれ以上情報を伝えることはなかった。
しかし……約一時間後、事態は……大きく動くことになる。
そしてその続報は、テレビではなく意外な形で知らされる形だった。




