(更)北条家事件編 アリス編 6
( ゜ω゜)
「なんで上級生に報告しなかった?可哀そうだとは思わなかったのか?」
「か、神崎さんに止められてたので」
「神崎!」
「……花組が報復すればすぐに私が言いふらしたとばれます!それだと……両親に迷惑が……やっとの思いでステアに入学できたんです!何事もなく卒業するまで我慢すれば……」
「名家の連中が両親に何かするって?……安心しろ、それはない」
「……なんでそう言い切れるんですか!」
「簡単だ。今まで何度も月組には報復はをしてきたんだが、あいつらはな名家という特権階級にいるせいなのか今までやり返されなかったせいか、一度でも報復するともうやってこないんだよ。だから学校側も一度だけなら黙認している」
それはそれでいいのか学校よ。
「証拠に月組でいじめ的な行為をしてくるのはほとんどが一年生だ」
「……」
「ちょっといいかな」
静かに小林先輩が神崎さんに近づいていく。
「神崎ちゃん、今までよく頑張って来たね。我慢してきた!でもね?我慢ていうのは戦う時を、いい反撃のタイミングを伺うためにするためにあるんだよ?我慢するだけじゃ何も生まないし、先にも進めないよ?それに、家族に迷惑がかかるって言うけどさ、ご家族の一番の願いは神崎ちゃんが笑顔で楽しんで学校生活を送ることじゃないかな?子供を守るためなら親はいくらでも無茶をするもんだよ!」
「先輩」
子供の為なら親は何でもする。
確かに霞家当主の三枝さんですら、サチとコウを最優先に一番安全であろうステアに預けた。
自分が矢面に立って二人に矛先が向かないように。
……これが親か。
あたしの親はどんな人だったんだろうか。
「後ね、神崎ちゃん」
「……はい?」
「こんなに可愛い後輩をいじめてくれたんだからさ……先輩として何か一つお返ししないと気が済まないでしょ?」
「……ひっ!」
小林先輩の顔が殺気を伴った表情になる。
ああ、何となくだけど、小林先輩がエキーパーになった理由が分かるわ。
この人、あたしと同じで感情とそれに伴う行動のコントロールがうまくない人だ。
言い換えれば、その場その場で自分が正しいと思う行動を躊躇なくする人ってことだ。
順先輩居なかったらこの人ヤバくね?
「さて、どうしたもんか」
「小林先輩、順先輩良いですか?」
「なんだ?」
「今回、月組への報復……というより直接的な報復は行いません」
「は?」
「どうして!?」
「それが目的じゃないので」
「目的……ああそうだった。お前のせいで忘れてたよ」
「ええ」
まあ確かに先輩たちに黙ってたのは悪かったっすよ!
でも残っている生徒に聞き取りして精査して、原稿書いて、練習すると、時間が無かったんですもん!
「順先輩、月組は報復されると大人しくなるって言いましたよね?」
「ああ」
「他にもあるんですよ。他の組には効かないけど、月組には効果覿面の方法が」
「言ってみろ」
「謝罪させることです」
「……すまん、言ってる意味が分からん。なんで謝罪?」
「月組は名家の集まりですよね?つまり人生の成功者の集まりです。大人であれば仕事で同じ階級の人間たちや仕事の都合で謝罪する機会が増えると思いますが……じゃああたしたちのような子供は?」
「……あー、なるほど。自分たちは最初から成功が約束されてるのに、なんで下に住む奴らに謝る必要があるのか……となるわけか」
「はい」
「でも形だけの謝罪されても困るんだが?いじめが再発……むしろ悪化するのはもっと困る」
「それはないですよ。ああいう人種は謝罪の内容問わず、謝罪事態に拒絶反応を示すはずなので」
「……そういう事か。形だろうが月組の生徒が謝罪した……本人たちにとってみれば人生最大の屈辱的行為……だがより陰湿になる可能性も」
「その時は花組本来のやり方にすればいいじゃないすか?今回は警告ってことで」
「あのさ、アリスちゃんの計画は分かったけど。そもそも論、どうやって月組の生徒に謝罪するまで持ち込むの?」
話に付いて来れていた小林先輩が尋ねてくる。
「恐らくですけど、今師匠が動いている件が解決すれば、まずは西宮家が霞家に対して公式的な謝罪をするはずです」
「なるほどそれに付随させるのか。いじめの件も謝罪させないとそちらからの謝罪は受けないと」
「まあ、そんな感じです」
「考えたな」
「いやあ」
これがあたしなりに、一日かけて考えた作戦っすよ。
……まあ多分これが限界だと思いますけど。
「で、ここからが本題です!今言ったように本来であれば、花組から報復行為をするのが普通です。ですが現在進行形で別の問題が発生中なんです!月組からいじめを受けている人もいたように、名家である霞家は名家全体からいじめを受けている!あたしは二人を助けたい!でもそれには三週間ほど!二人を名家たちから隠す必要があるんです!」
「あの……」
いじめられている張本人である神崎さんが手を上げる。
「何?何でも言って!」
「……何で三週間なの?」
……ホントな。
「皆も知ってると思うけど、あたしは神報者の弟子です。師匠はこの件の解決に向けて動くらしいんだけど、師匠が三週間、霞家を守り抜ければこの問題は解決するって言ってたんだ。……何で三週間なのかは私も知らん!」
「その……神報者様……龍さんが動くと解決するって言うのは何故?」
「……うーん……これも確証はないんだけど、師匠から電話でこの話を聞いた時にさ、凄い殺気?見たいのを感じたんだよね。まるで最悪北条家を殺してでもこの件を解決するみたいな?」
「殺すの!?」
「……ごめん、あくまで比喩表現。でも多分どんな手段を使ってでも師匠はやり遂げる。弟子のあたしはそれを信じるだけ。だから協力してほしいんだ。でも一応一回落ち着いてから判断しても……」
「やる!」
「Wao」
判断が早い!天狗のお面さんもびっくりだ。
「先輩も言ってた……我慢するのは反撃のタイミングを伺うため、今がそのタイミングなんだと思う!だからやる!」
「……そっか!」
「それに先輩」
「ん?」
「もし謝罪の後で何かされても……守ってくれますよね?」
「あははは!もちろん!」
「さて、他の四人は?」
四人の生徒も頷いた。
ここまでは想定内。
問題はこの件に一切関りがない生徒だ。
順先輩が募り始めた。
「さて、霞姉妹を含めて七人が名家と戦う意思を示した。今回の作戦は三週間の授業ボイコットだ。言い換えれば次のテスト、三週間分勉強せずに受けることになる。それでも友達を……同じ寮に住む友人を守る覚悟がある奴は手を上げろ」
「や、やります!」
「俺も!」
ここは予想外だった。
なんと、ほぼ全員が勢いよく手を上げた。
……たった一人を除いて。
……予想は出来ていた……さあ、どう調理してくれようか。
だけど、あたしのこれからの作戦がいい意味で順先輩によってお釈迦になった。
「お前は?」
「やらないっすよ?だって俺にメリットないじゃないっすか!この学校テストで点が取れなかったら終わりだし、こんなことに人生賭けたくないんで」
「……そうか」
まあ一理ある。
だってこの学校の授業スピードは異常だし、多分あたしだったら風邪とかで二、三日休んだけで絶望だもん。
「ならお前は参加しなくていい」
「……え!?」
誰よりもあたしが反応してしまう、途端に顔が青白く染まるのも分かる。
ここで辞められたらここまでの苦労が水の泡だ。
「同時に以降お前を花組の生徒とは認めない。これから先お前たちが何か助けを求めても俺たちは何一つ手を貸さない……これでいいなら好きにしろ」
「はあ!?なんでそうなるんですか!俺は花組の生徒でしょ!」
「はぁ……まったく」
この男子生徒の反応を見て、溜息を溢しながら柏木先生が前に出て来た。
「ステアに受かって、花組に振り分けられた時点で花組の生徒になったつもりか?」
「現に俺はステアの生徒ですし、花組の寮に居ます」
「そうか……順!花組の掟その一!」
「え?」
「その一!花組の生徒はいついかなる時も罪なき生徒に暴力を振るう事なかれ!」
「その二!」
「花組の生徒はいついかなる時も生徒であることに誇りをもって生活せよ!花組及びステアの名誉が汚れる行いをするな!」
「その三!
「花組の生徒は家族である!その家族が危険にさらされている場合、自らを賭してその解決に尽力せよ!」
「その四!」
「これら三つを破るものが居る場合、その者は花組の生徒とは認めない!いかなる助力もすることはないと肝に銘じよ!」
「さて、森脇君。ここまで聞いてなお協力はしないと?」
……凄い掟だ。
……ていうか、君森脇君って言うんだ……興味ないから初めて知った。
「脅しじゃないですか!」
まあ見方によってはそうとも捉えられるね。
「脅しだが?花組はこの掟によって団結力を強め、ズトューパにも勝ってきたんだよ。さあ、君が取れる選択肢は二つだ」
柏木先生が順先輩にコインを投げた。
何がしたいのかは明白だ。
考えさせる時間を与えさせない……ある意味詐欺師の手法じゃん。
「順がトスをしたコインが床に落ちるまでに決めろ。協力なら手を上げる、そのままは逆だ。簡単だろ?」
「……それが花組のやり方ですか」
森脇君は悔しそうに睨んでいる。
……すまんな、森脇君。
だが後悔などみじんもない、サチとコウを助けるには現状これしかないんだ。
「そうだ、じゃあスタート」
ピン!
順先輩がコイントスを開始する。
今、日本で一番簡単な方法で一番やばい内容を決めるコイントスだ。
普段からやっているのか、コインは天井すれすれまで上昇すると少しずつスピードを増しながら下降していった。
下降していく速度に合わせて森脇君の呼吸も荒くなっていく。
全員がコインの行方を目で追う中、コインが順先輩のちょうど腰の前を通過した時だった。
「ああああああ!」
突然、森脇君が絶叫した。
かなりの声量だったのであたしを含めた全員が森脇君に視線を移す。
だが同時にあたしは安堵した。
森脇君の右手が上がっていたんだから。
因みにコインは床に落ちる前に順先輩が掴んでいた……手を上げるってわかっていたな。
「分かった!やればいんだろ!」
「それでいい。全員で一つの苦労をしてこそ花組だ」
「ただし、休んでいる間の勉強、先輩たちに見てもらわないと割に合わないっすよ?せっかく苦労してステアに入ったんだし」
本当に皆さん、苦労してんのね。
何一つ試験を受けずに入学してすんません。
「安心しろ、仲間の為に尽力する後輩の為に先輩が何もしないと思ったか?心配な奴は先輩が三週間みっちり勉強見てやる。では柏木先生報告よろしくお願いします」
「はあ」
軽い溜息で返事した柏木先生は談話室を後にした。
「先生」
あたしは聞きたいことがあったので、後をついていく。
「なんだ?」
「……ある意味あれもいじめでは?」
「アリス」
「何すか?」
「村八分って知ってるか?」
「……名前と簡単な意味ぐらいなら」
確か旧日本でも昔はあったとか言うじゃん?
村のルールを守れないと、周りから助けてもらえないとか……あれもある意味いじめでしょ?
「別に自分のルールを貫くことは悪いことじゃない。でもな?集団というのは最低限のルールが無いと瓦解する。そのルールもまともに守れない奴は花組には要らない」
「はぁ」
「単純にステアの学生として恥ずかしくない行動を取れ、仲間を助けろ……特段、理不尽な掟では無いだろ?」
「そうっすね」
「他に質問は?」
「……村八分といじめの違いは?」
「簡単だ。ルールを破った奴に対しての罰が村八分。単に気に入らない奴への八つ当たりがいじめだ。大きく違う……以上か?」
「うっす」
そう言うと柏木先生は寮長室へ戻って行った。




