(更)北条家事件編 アリス編 5
ヽ(`Д´#)ノ
交渉に置いて重要なのはまず相手を交渉のテーブルに着かせることだという。
目の前で普通に喋ることじゃなく、議論することだ。
一年全員一人一人に交渉するのは時間がもったいないから、次の日の日曜日、全員が戻って来る夕方に説明会をすることに決めた。
だが問題は議題だ。
霞家姉妹が名家から守るために授業と引き換えにボイコットに協力してくれ……何ていきなり頼んでも無理なのは明白だ。
重要なのは、一年全員が名家を共通の敵として認識させる状況を作ることだ。
思ったのは、小林先輩の言葉だ。
『花組の花は毒花』
あのいいぶりだと代々言い伝えられてきたとしか思えない。
だとすると、このような仮説が出てくる。
……花組は度々何かされてきており、花組は毎回やり返してきた。
相手が月組に限らないけど、もしそうならサチやコウ以外に月組に何かしらのいじめをされている生徒がいるかもしれない。
日本人なら自分さえ我慢すれば問題ない……と思う人間が多いと思う。
そんな人には申し訳ないけど、今回は利用させてもらう。
師匠が言ってた。交渉に必要なのは事前に相手の情報を集めること。
ならやってやろう。
一日でどこまでできるかは分からないけど。
あたしは不本意ながら月組からいじめられている生徒が居ることを願いながら校内を歩き回って調査を始めた。
日曜日の夕方。
あたしは寮の自習室で資料作りや喋る原稿作りをやっていた。
何で自室でやらないか……サチとコウに見られたくないからだ。
何となくだけど、今回の交渉、あたし一人で取材から資料作成、そして原稿作りをしたと思ったのだ。
将来神報者になった時、自分一人でやる必要性がある以上、まずはやってみたかったのだ。
そういえば、スティーブ・ジョブズも新製品の発表前はスピーチの練習にかなりの時間をかけるらしい。
やはり練習は正義だ。
「アリス……準備は……大丈夫か?」
「何がっすか?」
「目の隈……寝てないのか?」
……思えば、昨日も寝たのは深夜3時付近だったっけ?
……やばいな。
そう思った瞬間に軽い眠気が。
「……もう終わります」
「なあ聞いていいか?」
「集中してるので簡単な質問であれば」
「今更だが、何でそこまで頑張れる?霞家はお前にとって赤の他人だろう?」
「……そうですね。よくあるセリフですけど、友人を助けるのに理由なんていらん……じゃダメですか?他に理由が必要なら……」
「いや構わん。それでいい……だがなアリス」
「はい?」
「世の中、不眠になりながらでも仕事をしなければならない人間もいる。だがいい言葉を生み出すのには脳を休めるのが一番だ。つまり……休憩しろ」
「……そうっすね。……先生」
「なんだ?」
「先ほどの質問。付け足しても?」
「……構わんが」
「昨日も言いましたけど、サチとコウはこの世界に来て初めてできた親友です。二人を守れるなら……どんな手段だろうが、遠慮しない……どんな努力も惜しまない……それだけです」
「だが少しは遠慮ってもんも覚えた方が良いともうがねえ」
「それは旧日本で死んだときに置いてきました」
「そうか……なら期待している」
そう言うと先生は自習室から出ていった。
夕方の8時ごろ、一年全員が食事を済ませてお風呂も済ませた頃、寮内に順先輩の放送が響いた。
『一年全員、談話室に集合』
十分程度で一年全員がぞろぞろと談話室に集合する。
皆、何で呼び出されたか分からず不安の表情だ。
「静かに」
順先輩のドスの効いた一言に一年全員がスッと静かになる。
「……よし、アリス始めろ」
「はい」
扇状に立っている一年の中心に移動する。
でも全員あたしを見て、少し困惑の表情だ。
当たり前だ、あたしは今回制服を着ていたからだ。
前にも言ったけど、ステア内では基本的に私服が基本だ。
制服を着るのは外に出るときや式典に出る以外ない。
……だからこそあたしは注目を浴びるために、みんなにもあたし自身にも緊張感を持たせるために、制服を着たんだ。
……まあ基本的にあたしは必要ない注目は浴びたくないんだけどね。
「アリス」
「……?」
柏木先生があたしにだけ聞こえるように囁いた。
「よく努力は裏切らないというが、実は違う。正確には結果は努力を裏切らない……だ。間違った努力は間違った結果にしかならない、逆に正しい努力は必ず正しい結果になる。安心しろ、私が見た限り昨日から今日に至るまでのお前の努力は……正しいはずだ」
「……うっす」
もし……もし師匠なら言ってるくれるかな……いやないなあの人はねえわ。
「……スゥー……フゥー……今日皆に集まってもらったのは……この花組の中に月組からいじめを受けている人がいることを報告するためです」
「……は?」
「……どゆこと?」
この報告……いや告発に対して、反応は大きく分けて二つだった……いや三つかも。
いきなりの報告に何が何やらの生徒。
霞家を助けるために力を得るはずなのに、いきなり名家からのいじめ告発という、何も聞かされていないことに動揺する小林先輩や先生たち。
……そして、いじめを受けているであろう生徒のある種絶望的な表情だ。
「……あり」
「よせ」
順先輩があたしを止めようとするけど先生が制止する。
何かを言っているようだけど、先生が説得してくれたようでそれ以上は言ってこなかった。
……さてと、問題はここからだ。
あたしはまず一人の女子生徒を指さす。
「まずは……神崎さん」
「え!?……」
指され、全生徒から注目を集める神崎さんの表情が強張る。
「ずっと気になってたんだけど、絶対にお風呂の時間ずらすよね?体見せられない事情でもあるの?」
「……誰だって裸は見せたくないでしょ!」
「異性だったらあたしだって見せたくないよ?でも同姓ならちょっと引っかかるんだよ。まあ自分の体に自信がないって言う可能性もあるけど。あたしは女子ならフルオープンですが!」
「お前が異常なだけだ」
「ははは……それに前から聞こうか迷ってたんだけど、何で髪切っちゃったの?似合ってたのに」
「……!」
神崎さんがあたしから目を逸らすと同時に髪を触る。
確か髪を触るのは精神的に防衛反応とか言うんだっけ?
「結構ばっさり行ったよね?……もしかして、誰かに脅された?……そうだなあ……例えば、月組の青木さんとか?」
「なんで知ってるの!?」
「全部聞いたよ。月組の青木さんと神崎さんは小学校の頃からの友達だけど、毎回何かに付け込んで殴ったり蹴ったりしてたって。両親は青木さんが経営する会社の社員、もし逆らえば家族に迷惑が掛かる…・・だから相談できなかったんだよね?」
「……」
「アリスちゃん、ちょっと……」
「続けます。次は……」
「まだいるの!?」
その後、あたしは四人ほど、昨日歩き回って調べた情報を報告した。
全員、ステアに入る前から親交があるけど、名家と一般家庭という身分の差で相談できずにいた生徒だ。
「……はぁ。アリス少しいいか?」
「え?あ、はい」
何故かものすごくがっかりした表情の順先輩があたしの元にやって来る。
……あたし何かした?それともやりすぎた?
「正直、お前らには失望したよ」
「えー……そんなあ!」
「お前にじゃない。正直に答えろ、この中にこいつらがいじめを受けてきたことを知っていた者は手を上げろ」
あたしは正直に手を上げた。
「……アリス、すまないがここでボケるのはやめろ」
「……さーせん」
だけど、あたしが挙げた人以外に手を挙げる人はいなかった。
「本当だな?ちゃんと正直に言うなら何もしない。だが知っていたのに手を上げないなら全員連帯責任で一発ひっぱたく!
「……あのぉ……あたしは?」
「おめえもだよ。今回の件で発覚したのは良かったが、そもそもの目的が違うだろ?お前の件がなかったらお前も知らなかったんだし」
「……ですよねえ」
「居ねえんだな?なら……」
「……私知ってました!」
一人の女性生徒が手を上げた。




