(更)北条家事件編 アリス編 4
┐(´-`)┌
十数分後、三枝さんは何故かサチとコウを伴って戻って来た。
そろそろ時間だから学校に戻るように言ってくる。
あたしたちは玄関まで見送られるが、どうやら何一つ説明を受けていないのか、サチとコウは困惑の表情だ。
「サチ、コウ。良いですか?アリスさんより神報者がこの件に動くことが分かりました。アリスさん曰く、神報者が動けばこの件は必ず解決するだろうと。なのであなた達はステアに戻りなさい」
「母さんはどうするのさ!」
「……何も出来ません」
「へ?」
「正直、今霞家が出来ることがないのです。霞家が何かしら動いたところで北条家を中心に妨害行為が行われるでしょう。だからこそ霞家は静観……いえ、結果が出るまで耐え続けます」
「だったらあたしたちも残って戦う!」
パチ―ン!
唐突だった。
三枝さんが無表情……いや、少し悔しそうな表情でサチの頬を叩いた。
「馬鹿者!北条家が何故あなた達を転校させようとしてるか分かってるのですか!あの者たちの狙いはあなた達なのです!正直に言います、霞家に何一つ力がない以上、ここではあなた達を守れない。だからステアに預けるのです」
「……」
……あのすみません。
北条家って名家っすよね?
しかも名家の中でもかなり影響力がある名家……日本政府にだって影響力があるはずなのに何でステアなら安全だと思われるんでしょうか?
「あなた達が花組に移った際、名家よりかなりの反発があったことは聞いています。ですが、校長は決定を覆さなかった。つまり、名家からの圧力があろうがステアに属していれば守ってくれると判断して私はステアに預けるのです」
そういえば、サチとコウが花組に移動してから校長先生は何度か名家の人に呼び出されたとか聞いたな。
脅しか何かされたのかもしれない。
でも現在進行形で、二人は花組に居る……つまりは校長は圧力に屈しなかったという事か……あの校長いろんな意味で凄いな。
「それにです」
三枝さんはすぐに優しい……母親の顔になると二人を優しく抱きしめた。
「あなた達はまだ子供です。霞家の為に戦うのはもっと後でいい。それに母より先に子供が犠牲になるなんてこれ以上の親不孝はありませんよ?」
「……母さん」
「……」
やばい。
師匠の言った『言葉は時に人を癒せるし、殺すこともできる武器になる』って言葉の意味が分かった。
……あたしに向けてではないけど、特大の言葉のナイフがあたしに刺さりましたよ。
納得した二人と共にあたしたちは箒に乗るとステアに戻って行った。
……なるべく名家の連中に気づかれないようにルートを細かく変更して。
「アリス戻った……なるほど」
予定より時間がかかったけど、何とか名家の人間、そして月組の連中に気づかれることもなく、花組の寮にたどり着いたあたしたちを柏木先生が出迎えたが、サチとコウを見た瞬間、何かを理解したようだ。
そして事情を聴くためか、寮長室に通されるけど何故か小林先輩と順先輩、そして峰先輩もいた。
「それで?どうなった?どれだけ時間を稼げばいい?」
「何一つ話してないのに何でそこまで把握してるんすか」
「まずお前が二人を連れてきた時点で霞家当主は一時的に退学を保留したということになる。そして現状名家に対して何一つ力がない霞家本家よりもステアを選んだということは時間稼ぎが必要だということだ」
「……うん」
「それにただ霞家に行って話を聞くには時間がかかりすぎる。ということはお前誰かに助けを求めに行ったろ?お前がこの世界でステア以外に頼れる人物……となると龍以外に居ないからな。ここまでの推理は合ってるかな?」
「……イエース」
……怖い。
何だこの人。
霞家から電話でも貰った?
じゃなけりゃここまで推測できる要素ないでしょ?
……この人、本当にただの教師か?
てかその前にこの人、他の人が皆師匠の事、龍様とか言うのに龍って呼び捨てにしてたけど……知り合い?
「で?どれだけ時間を稼げばいい?」
「……師匠が言うには三週間」
「……三週間……か」
「ふふふ」
「小林先輩?」
三週間という単語を聞いた小林先輩が何故か笑っている。
「ああ、ごめんごめん。いやあ良かったねえ、試験終わりで」
「……Pardon?」
三週間耐えるのと、試験終わり……何の関係が?
「アリちゃん、今必要なのはサチちゃんとコウちゃんを名家から守り通すことだけど、現状北条家含めた名家から見ると二人はどう見える?」
「……どうって……」
仮にあたしが霞家本家に行ったことを知っていると仮定しても、退学を取りやめるように交渉したとは思っていても、成功したとは思ってない……はず。
だとすると、名家からすると予定通りに月曜日に退学処理が行われて……どれくらいで終了するかは知らんけど、退学すると思ってる……とか?
「来週の月曜日には退学の手続きが行われる?」
「そうだよね。でもこの学校ってかなり特殊な規則があって、仮に花組の生徒が退学を申請して、受理されても他の組には通知されないし、名簿を見ることはできないんだよ」
「……つまり、他の組の生徒が退学を知るには……その組の生徒から聞く……だけ?」
……かなり特殊なルールだなぁ。
他の組で仲良かった友人がいつの間に居なくなったと思ったら退学してました……ってのが普通にあり得るんか。
「でそれが今回の件と何の関係が?」
「つまり、他の組……今回だと月組が二人の退学受理を知るには、花組の生徒から聞くか……授業を休んだ時の教師から花組で誰が休んだのか聞くしかない……ていうことになるんだよね。寮長が授業を休む人間の名簿を毎日報告する義務があるから」
「ってことは月組の生徒と会わないように授業を休んだだけだと、退学してないことがバレるってことになりますね」
「そう!でもね?たった一つだけ、ばれない方法があるんだよ。だけど、これをやるには……花組一年全員の了解を得る必要があるんだけど」
……あ、何となくだけど、分かった。
要は、休む生徒と出る生徒を区別するために報告する必要があるってことは……逆に言えば、区別する必要が無くなれば要らない。
「花組一年全員で授業欠席……要は集団ボイコットをするんだよ」
「……Wao」
ステアって結構な進学校ってイメージがあったけど……先輩がそんな提案していいんすか?
「あの……良いんすか?三週間ですよ?単位とか」
「お前入学式の説明聞いてなかったのか?この学校はテストさえ受かれば授業態度は成績に反映されない」
ああ、そうでした。
この学校、授業態度一切関係なしの完全実力主義の学校でしたね!
ある意味この制度に助けられましたわ!
「次のテストは夏休み前の期末テストだが、ちゃんと点数を取れば何一つ問題はない……だが」
「だが?」
「二、三日。一週間ならいざ知らず、三週間だ。休んでも授業は進むんだ、受けてない範囲がテストに出ないことはない。三週間を耐え抜いて、霞家を救ったとしてもボイコットに協力した生徒がテストで赤点を取ったら今度はそいつらが退学処分だ。恨まれることになるだろう……それでもやるか?」
「……」
多分、多分だけど旧日本のあたしなら間違いなく選ばない選択肢かもしれない。
でも、この時のあたしの脳裏には師匠の言葉が残っていた。
『もし帝の存在が脅かされるなら俺はどんな手を使ってでも敵を潰す』
「ふふふ、あははは!」
「アリスちゃんが壊れたぁ!」
「先生……恨まれても良いかって?」
「ああ、そうだ」
「……最初に言います。クズだと思われても良いです。サチとコウはあたしがこの世界に来て最初に出来た友達です。その二人を守れるならどんな手段だろうが使ってやります。例え、味方に恨まれようとも……ていうかなんすけど」
「なんだ?」
「小林先輩がその提案をするってことは……あたしたち一年が退学ならないように協力してくれるって意味でもありますよね?」
「もちろん、あたしたちだってこんな形で後輩を失いたくないしね」
「ならアリス。お前が一年全員を説得してみろ、試験終わりで全員はそろってないが、この後やってみるか?」
「……いいえ、あくまで全員揃ってからやります。色々準備したいので」
「……了解した」
そしてあたしは明日の交渉に向けて一日しかないけど準備を始めた。




