(更)北条家事件編 アリス編 3
@ 'ェ' @
「……なんでだ!」
「降りてきていきなり何言ってんだ?経緯も何もなしに」
「……あ」
やべえ……ド正論だ。
「えーと……だから……サチとコウ!霞姉妹が退学しそうなの!助けるために力を貸して!」
「俺に何の関係があるんだ?」
「へ?」
「いいか?人に物を頼むってことは、その人しかできない何かに頼って頼むんだろ?俺がお前に協力するとして、何が出来る」
「あー……えーと……あれ?」
……ヤバい。
ここに一秒でも早く来ることに意識置きすぎて言うべき内容全部吹っ飛んだ。
「……はぁ、お前は交渉のこの字も出来ないのか」
「ちょっと待って!今思い出すから!」
「ていうか、霞家ってことは名家がらみだろ?なおさら手伝えん、あいつら嫌いだし」
「だから思い出してる最中だって言ってるだろうが!」
「……なら早く思い出して交渉してみろ」
「あ?」
「名家がらみでも俺が協力したくなるように交渉してみろって言ってんだよ。交渉は神報者としても必須な能力だ。俺を納得させることが出来たなら今回だけ特別だ、協力してやる」
「交渉……殴れば良いですか?」
一応思い出しながら満々の笑みで握りこぶしを作る。
だけど師匠はそれを見た瞬間、溜息を溢した。
「それを国家間の交渉でもやる気か?一発で戦争になるぞ?」
「は?戦争?」
「いいか?国家間の交渉……つまり外交に置いて暴力ほど禁じ手はない。俺は神報者として国同士の交渉に駆り出されることがあるんだが、基本的に使うのは言葉だけだ。手段は二つ、自分の持ってる軍事力を見せて、脅す方法。そして相手が欲しいものを予め調査し、それを差し出す代わりに要求を飲ます……これだけだ」
「結局物理使ってるじゃん」
「あくまでその場では使わないってだけだ。お前たちがこのまま攻めてくるなら国は亡びるぞってな。国との交渉でその場で掴みかかる馬鹿が居てたまるか」
「ああ、なるほど……でもあたし、師匠の事何も知らないし」
「そうだな……あまり効かないが、感情に訴える手段でも良いぞ?言葉ってのは不思議なもんでな、使い方で相手を傷付けることも出来れば癒すこともできる。説得とか言うだろ?本来は感情が籠ってなければ意味ないが、やってみろ」
「……はあ」
つーかよ、こちとら師匠が確実に動きそうな情報持ってるのよ!
度忘れしただけで……何だっけ……神報者……神報殿……あ。
「師匠、北条家って知ってるよね?」
「……知ってるも何も北条家は皇族守護、仕事柄よく話すが?ていうか霞家の一件だろ?なんで北条家が関わる?」
「北条家が皇族守護……昔は帝守護だったらしいけど、それに就いたのは400年ほど前なんでしょ?」
「……その時代の事は知らん。その時、俺は神報者じゃ無かったからな」
「なら北条家が帝守護に就く前に任されていたのが霞家だったことも知らない?」
「……それは……本当か?」
師匠の表情が困惑に変わった。
「うん、さっき霞家当主に会ってきたけど、文献とか残ってないからあくまで言い伝え程度だけど、北条家の前の守護のお役目は霞家だったって。でも霞家が禁忌を犯して北条家になったとか」
「……それは……俺も知らん」
「そしてここからが重要。歴代当主に伝えられている言葉がね?『いつか神報者がこの問題を何とかしてくれる日が来る。それまで何とか名家の地位を守れ』だってさ。当時の神報者が師匠じゃないとすれば、本来この約束は前神報者である師匠のお師匠さんがしたものじゃない?」
「……」
師匠は口元に手を当てると、ぶつぶつ呟き始めた。
「……あいつが?……いや……でも……もしそうなら」
「師匠?」
「アリス、今言った言葉、本当なんだな?」
「聞いた通りに喋っただけだから、本当かどうかは知らん。霞家当主にしか伝えられない言葉らしいから間違ってるとすれば伝言ゲームのどこかで内容が変化したとか……じゃない?」
「そうか……それで?俺になにしろと?」
「もし、当時帝守護だった霞家が禁忌を犯したのなら……当時の神報者が記録に残してるはずだよね?神報者が残す記録は神報書として神報殿に収められる……それは未来永劫処分されることはない……なら残ってるんじゃ?と思いまして」
「なるほどな、確かにあそこは帝と俺しか入れない。まあ第三者の人間も入る方法があるっちゃあるが……分かった調べてみよう。ただし」
「ただし?」
「もしどんな結果でもお前は受け入れるな?例え霞家に不都合な結果になったとしても」
「やらない後悔よりやった後悔の方が何とやらっす!」
「分かった……何かあれば……」
「ああ、これからまた霞家に戻るから電話は霞家にオナシャス」
「分かった」
師匠から協力を得ることを確約してもらったあたしはすぐに霞家に戻って行った。
……転保協会で師匠から協力を得る交渉に成功した数時間後。
あたしは霞家に戻り、師匠からの電話を今か今かと待っていた。
こうしてみるとあれだ、検査を終えて病院の待合室で待ってる気分だ。
「……龍様の協力は得られそうですか?」
「え?ああ……多分?」
「多分……ですか」
「恐らく神報殿に行って調べてくれているとは思います。でも……何が見つかるか、その後の行動までは読めないので」
「……吉報を待ちましょうか」
「そうですね……」
リリリリリリ!
「……!」
電話が鳴った。
でもここは霞家変に出て違う人だったらまずいから動けない。
霞家当主のお付の人が電話に出る。
「どなたからでした?」
「総一郎様からです。本日も遅れると」
「分かりました」
「あの……総一郎さんていうのは?」
「私の夫……サチとコウの父親です」
「ああ、何してる人なんですか?」
「皇宮警察警備部の部長……皇族御守護とは別で警察官として皇族を警護する部署の部長ですよ」
「へえ……ん?」
マジで!?
いやいやいや!確か霞家は女性が当主になるはずだから総一郎さんは入り婿……だとすると、皇宮警察、いや宮内庁が霞家の当主との結婚を許したってことになるんですけど!?
いいんですか!?
「よく結婚出来ましたね。あたしのイメージだと宮内庁の職員の結婚ってかなり制限があるイメージでしたけど」
「ええ、最初は北条家や他の方々から反対がありました。でも総一郎さんの熱意、そして最終的には天皇陛下のお許しで結婚することになりました」
「ああ、なるほど」
そういう事か。
いくら周りが反対していようが、天皇陛下の鶴の一声で情勢が変わったのね。
リリリリリリ!
またも電話が鳴り響いた。
次は何処からかね。
……十数秒後、先ほどとは違い、かなり駆け足でお付の人が駆けてくる。
「アリス様!龍様よりお電話です!」
「……待ってました!」
あたしは電話まで走った。
「……師匠?」
「……アリスか?」
「うっす。で、どうだった?」
「……すまない、調査結果をお前に言うことが出来なくなった」
「は?なんで?」
「状況が大きく変わったんだ。もう北条家と霞家、ひいては名家の問題じゃなくなったんだよ。俺もこれからやることが出来てな、しばらく連絡が出来ない」
「……はあ」
……何だろうか。
本当に今は話しているのは師匠か?
数時間前とはまるで違う。
電話口から殺気みたいのが駄々洩れてる。
神報殿で何かヤバいのを見つけた?
「……一応聞くけど、師匠がそのやることやったら霞家は助かるの?」
「ああ、助かるだろうな。それどころか、これまでの日本の歴史が大きく変わる。そしてこれからの日本も変わる」
「……はあ!?」
おいおいおい!あたしゃ霞家を助けるために動いてもらったんだが!?
それが何で日本の歴史やらこれからの日本が変わるまでに発展してらっしゃるんですか!?
「一体何があったんすか!」
「すまんが言えない。だがアリス、俺からお前にお願いがある」
「……何すか」
「今からでいい、何があっても霞姉妹を守り抜け。詳しくは言えんが、霞家は日本の将来に必要な存在になる」
「……それは良いけど、具体的にはどれくらい粘ればいのよ」
「……三週間」
「なっが!あのさあ、あたしゃまだこの世界に転生してまずか一か月強しか経ってないのよ?武器も何もない状態で三週間も他の名家から守るなんて無理じゃろ!学校にも名家の連中居るんだし」
「それでも守れ。どんな手を使ってでも守れ。お前は主人公なんだろ?運を引き寄せるのも主人公の特技だと思わんか?」
「煽ってるのか?あ?」
「出来るのか?出来ないのか!」
「……ますよ」
「あ?」
「やってやるよ!それで霞家が救えるならな!それで無理だったら師匠の弟子辞めてやるからな!」
「お前、この前首相官邸で俺が何て言ったか覚えてるか?」
「そんなもん……ゲームしてたから知らん!」
「堂々と言うなよ……帝を守るためなら国会議員だろうが、名家だろうが、徹底的に潰す。どんな手段を使ってもだ」
「……?あの……その言い方だと今の問題が皇族とか天皇陛下が関わってるって言ってるようなもんじゃ……」
「じゃあな、頑張れ」
「おい!」
ブチッ……ツー……ツー。
「……いうなら最後まで言えやあああ!」
「話は終わりましたか?」
「え?ああ……電話が切れたので終わりました。話が終わったかというと……途中で切られたので終わってはいません」
「そうですか……龍様は何と?」
あたしは師匠と電話で話した内容をかいつまんで説明した。
結論から言えば、師匠は恐らく何か目的があって動き出した事、でも恐らく機密に当たるのか、詳細は教えてくれなかったこと。
そしてこの件が解決すれば間違いなく霞家は救われること、そして解決するまでの約三週間、何が何でも霞姉妹を守り抜けと。
あたしがこれらを話すと、今まで無表情……いや当主として頑なに表情を崩してこなかった三枝さんが驚きと喜び、そしてうれし泣きの感情がごちゃ混ぜになった表情に変わり、その場に崩れ落ちた。
「……こうしてはいられません。今すぐに準備をしなければ」
「……え?なんの……あー」
すぐに当主の表情に切り替わった三枝さんは何処かへ早歩きで歩いて行ってしまった。
……着物を着てる時ってすごい歩きにくいはずなのに、なんであそこまで早く歩けるんだろうか。




