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(更)北条家事件編 アリス編 1

U・x・U

 あたしがそれを知ったのは、五月の中間テストが帰って来た週の金曜日だった。


 ステアは普通の日本の高校とは違い、授業態度が成績に反映されることはない。


 あくまで各学期の中間テスト、期末テストの結果によって進級、そして退学等が決まる。


 逆に言えば、別に授業に出なくてもテストさえ良い点を取ればなんとかなるのだ。


 全てのテストが戻って来たあたしは……花組寮の談話室にて膝から崩れ落ちた。


「はは……まあ、そうだよな」

「大丈夫?アリスちゃん」


 後ろから答案用紙を覗き込む形で小林先輩が声をかけてくるけど、点数を見て、苦笑いになった。


「あー。しょうがない!赤点ギリギリだから追試もない!次頑張ろ!」

「ははは」

「大丈夫!先輩がいくらでも付き合ってあげるからさ!それにテストトップの霞姉妹も……あれ?サチとコウは?」

「何か実家から呼び出しがあったっぽくて。テストが戻った瞬間に行っちゃいました」

「ふーん。名家ってそういうしきたりなのかな」



 その日の夕方、テスト終了後なので一緒に出掛けようと、談話室にて香織と一緒に待っていたあたしに柏木先生が声をかけた。


「アリス、ここに居たか」

「え?ああ、二人が帰ってこないとやることなくて」

「霞姉妹か……二人が居なくても勉強しろよ。まあいい……ちょっと寮長室へ来い」

「へ?……良いですけど。香織ちょっと待っててね」

「……」


 コクっと頷く香織、最近では慣れたのか少し離れても問題無くなった。


 柏木先生のついて行くように寮長室に入るあたしだけど、椅子に座った先生が大きな溜息をもらす様子に少し困惑した。


「どうしたんすか?溜息なんて珍しい」

「……アリス、落ち着いて聞け」

「はあ」

「つい先ほど、霞家から電話があってな。……霞姉妹から自主退学の申し出があった」

「……え?……ん?はあああ!?」


 脳が一瞬、理解するのを拒んだ。


 ……自主……退学?……ってなんだっけ?


 自分の意思で退学すること……え?サチとコウが……なんで?


 もしかして……月組から花組に移ったから?


 たったそれだけで?訳が分からん。


「アリス」

「何!」

「その……本人たちから何か相談はなかったか?」

「もし相談を受けてたらあそこに座ってないですし、先生に相談しに行くでしょ?」

「それもそうだな」

「先生!」

「なんだ?」

「……霞家の住所教えて!説得……は無理かもしれないけど、話を聞くことはできる!それまでお願いだから退学を受理しないで!」


 あたしの懇願に先生は少し悩むけど、すぐにニヤリと笑う。


「もとよりそのつもりだ。教師が行くよりは話しやすいだろうし、それに退学の申請は基本平日しか受けられん。……もう17時、私は勤務時間を守る人間でな。猶予は土日の二日間だ、いいな?」

「うっす!」



 翌日、あたしは朝一で柏木先生から双眼鏡を持たされ、香織を預けると霞家へ出発した。


 ……のは良かった。


 名家の多くはマギーロからほど近い、通称『名家通り』に住んでいるらしい。


 そして古くからある名家程大きく、そして立派な日本家屋なのだとか。


 けど、あたしの目的地である霞家についたはずだった。


「没落した……名家?」


 一般的に豪邸と呼んでも良いレベルの広さの御屋敷だった。


 ……確か霞家が没落したのって400年前よな?昔から没落する前からここに居るのならこの家の大きさは分かるけど、名家ってすごいな。


 玄関……というか、門があるんですけど……こういう場合、門から入った方がいいのかな?でも箒で入れちゃうよね?


 てか、何故に門の前に黒塗りの高級車が何台も停まってるのかな?


「……さてどうするか……ん?」

「それでは先ほどお話検討よろしくお願いします。私が直々に来たんです、いいお返事を期待してますよ」


 男性の声?


 やっべ!こっちに来る……あ、上か。


 箒に跨ると、上空に避難した。


 車があるってことは車移動……名家は車移動がデフォなん?


 ていうか、ここからじゃ誰が来たのか見れ……あ、そのための双眼鏡か。


 なんで先生こうなるってわかったんだ?


 双眼鏡を使って門から出て来た人を観察する。


 さっきの声的には70代……だったけど、声のまんまのひげを蓄えた老人が出てきましたなあ。


 しかも高そうな着物羽織って……所謂優しいおじいちゃん……というより、明らかな権力を持った側……かな?


 老人を含め、警護の人たちが車に乗ると、そのまま何処かへ走り去っていた。


「……」


 さっき検討をよろしくとか言ってたな。


 二人が退学を申し出た矢先に誰かが霞家に何かを要望しに来た……偶然か?


「……ま、知ったこっちゃない」


 あたしはそのまま門をくぐり、玄関へ歩いて行った。


「……ごめんくださーい!」


 まあもう誰も見てないし、何処にいるのか分からんのでとりあえず大声で叫ぶ。


 ……十数秒後。


 一人の着物を着た女性が歩いて来た。


 髪は後ろに纏められ、目はキリッとしている。


 多分名家の人だ。


「あ、えっと」

「ここをどこだと思っているのです。霞家と言えど名家の家ですよ?それなりの礼儀作法を知らないのですか?」

「……」


 ……やばい、とてつもない正論パンチだ。


 反論できねえ。


 ていうかさ、あたしゃ名家出身でもなんでもないわけですよ。


 礼儀作法なんぞ知るかっちゅうねん。


「あら、あなたステアの学生?」

「あ、はい!ステア魔法学校、花組一年のアリスと申します!同じ組の霞サチとコウに会いたくてお伺いしました!」


 あたしはテンパりながらも思いつく限りの敬語で挨拶した。


「アリス……さん?」


 女性はあたしの名前を聞いて、何か考えている。


「……良いわアリスさん。少し話したいことがあります、どうぞ上がってください」

「はい」


 あたしは女性に促されるまま靴を脱ぎ、家の奥に歩いて行った。



 通されたのはよくある日本家屋の和室の部屋、多分応接用なのかな、長方形の机が置いてある。


 あたしは用意された座布団に正座する。


「あら、別に崩しても問題ありませんよ?」

「いえ……何故かこっちの方が落ち着くので」

「そう……」


 女性が対面に座る。


「自己紹介がまだでしたね。霞家当主、霞サチとコウの母親、霞三枝みつえと申します」

「……え?」


 霞家当主!?この人が!?


 確かにさっきから凄いオーラこそ出てましたけども!まさかの当主!


 ……ていうか、気のせいかな?


 この人の髪の毛、少し赤い気がする。


 サチとコウは綺麗な黒髪なのに……遺伝かな?


「えっと……いつもサチさんとコウさんにはお世話になっております」

「堅苦しい挨拶は要りません。目的があってきたのでしょう?」

「……はい、先生から聞きました。昨日自主退学の申し出があったと」

「ええ、私がさせました」

「何でですか!」


 あたしが声を荒げても三枝さんの表情は変わらない。


「アリスさん、良いですか?私たちは名家。名家に生まれた以上、好き勝手に生きれるわけではありません。名家に生まれた以上、その家が存続するように発展するように日々生きる義務を負うのです。……名家の人間が何故ステアに入学するかご存じで?」

「……名家としての拍から付くから……詳しいことは知りませんけど、ステアを卒業出来ない者は名家にあらず……と」

「その通り、名家の人間はステアを卒業出来なければ同じ名家の中でも名家の扱いをされないほどです」

「であれば何故退学に!?全く逆の行為では?」

「貴方も二人から聞いているでしょう?私たちは『没落した名家』。我々の先祖が大昔に犯した禁忌が原因らしいです。そのため、我々は名家とも表されていますが、実際は何一つ権力も影響力も持たない家なのです」

「……」


 つまり、ステアを卒業出来なくても霞家としては何一つ問題はない……と?


 ……なら何故サチとコウをステアに入れた?


 意味がないのなら最初からステアに入れる意味はなかっただろう。


 それに二人は言っていた。


 霞が名家に居るのは、禁忌を犯した名家がどのような扱いを受けるのか見せしめることで他の名家への牽制になるらしい。


 でも謎だ。


 何故霞家はこれほどの屈辱を受けても、名家を離れようとしないんだ?自分から名家を離脱する権利はあるはず……だよね?


「あの質問しても?」

「構いませんよ」

「何故名家を離れないのですか?名家で無くなればこんな思いをすることもないでしょう?自ら抜ける権利はあるはずでは?」

「我らが先祖代々の悲願であり、唯一の頼みがあるからです」

「はい?」

「過去の文献等は一切残っていないのですが、当主のみに引き継がれる言葉があります」

「……はぁ」

「『いつか神報者がこの問題を解決してくれる日が来る。それまで何とか名家の名を守り抜け』と」

「……は?」


 あたしは霞家当主から師匠の名前ではなく、神報者の単語が出てきたことに驚いた。


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