(更)技術革命編 4
卓の言葉によれば、パソコンが出来るまで相当の時間が掛かる。
だからあたしは気長に待つことにした。
また中間テストも間近に控えていたため、あたしは卓の事などすっかり忘れていた。
そして卓が転生して二週間後の土曜日の朝の事である。
……トントン。
「……?」
誰かがあたしの肩を叩いた。
「……アリスちゃん、起きてる?」
「……なひゅみ先輩?」
「ごめんね、今ちょっと大丈夫?」
「……ええ、問題……無いです」
体を起こすついでに時計を確認する。
……五時かよ。
「で、何用ですか?」
「用があるのは私じゃないんだ。龍さんが、談話室で待ってるって。あと、制服に着替えて来てって」
「……はぁ」
……あの野郎、ついに当日に言ってくるのか。
「分かりました。準備します。……あ、香織」
「大丈夫、私とサチとコウで何とかするから」
「了解です」
ステアの学生は一部家から通学しているを許可されいる生徒を除いて基本寮暮らしだ。
そして生徒はある時を除いて、基本は私服で生活できる。
そのある時とは……ステアの敷地から出る時だ。
マギーロの街に出るとき、マギーロから出るときは必ず制服の着用が義務になっているのだ。
ある意味身分証変わりだ。
制服を着て、軽く顔を洗うと、談話室に向かう。
師匠は談話室のソファに座っていた。
「よう、すまんな朝早くに」
「殴っていいですか?」
「却下だ。今回俺は只の付添人。文句があるならお前を連れてこいと頼んだ人間に言え」
「誰っすか」
「卓」
「じゃあその張本人は何処に?」
「さあ?」
「……はぁ、じゃあこれからどこに?」
「……首相官邸とは聞いてる」
「……首相……官邸?」
首相官邸ってあれか?日本の総理大臣が仕事している所?
なんでそんな場所に卓があたしを呼ぶんだよ。
「さあ行くぞ」
「ういーす……あ、ごめん忘れ物」
「急げ」
あたしはこの機会に師匠に渡すものを部屋から持ってくると師匠と共に正門へ向かった。
「これが……首相官邸」
ステアから数時間、車はマギーロとは違う日本のよくある街並みを通り過ぎ、ついに首相官邸の玄関口に着いた。
……旧日本の首相官邸の姿もおぼろげではあるけど、覚えてる。
そして今目の前にある第二日本の首相官邸も、旧日本とほぼ同じだった。
……手を抜いた……いや、ここはあえて旧日本と同じにした……と考えよう。
「アリス様」
「え?……あ、はい」
いきなり男性が話しかけてきた。
「私、総理秘書官の宮島と申します。早速ですが小会議室にご案内いたします」
そういうと宮島さんは奥に向かって歩いていく。
「……行くか」
「ういっす」
首相官邸の四階、色々な部屋の扉があるけど、その内の一つに通される。
これが小会議室?と言いたくなるほど広い空間、そして中央には立派な長机が置かれていた。
……政治家にとってはこれが小会議室……ふざけてるなあ。
けど、あたしはすでに部屋に居た人たちの存在に気づき、部屋の事などどうでも良くなった。
「アリスちゃーん!」
「三穂さーん!」
あたしはすぐに三穂さんに抱き着く。
三穂さん、あたしと同じ識人だけど何してる人までは知らない。
歓迎会の際に色々な人が挨拶に来たけど、どの人も政府関係機関の補佐的な役割だった。
でも三穂さんだけは自衛官の制服を着ていただけで、どの部隊なのか、識人としてどのような仕事をしているのかまでは知らないのよ。
「アリス君、久しぶりだ。学校暮らしはどうだい?」
「衣笠んも。楽しんでますよ、もうすぐテストなんで勉強中ですけど」
「そうか、なら良い。学生なんだ勉学に集中しなさい」
同じく識人の衣笠さん。
三穂さんと同じ自衛官だけど、こっちは第一空挺団団長という肩書がある。
「やっぱりステアの制服可愛いなあ!」
「珍しいんですか?」
「ステアの学生は休日でも学校外に出るときは制服を着るらしいが、生活に必要な物はマギーロでほぼそろうからね、マギーロの外に出ることがあまりないんだよ。それに基本、学校関係者以外はマギーロに入ることすらできないからね、ステアの制服は珍しいんだ」
「それにデザインも良いからね。ステアに受験する学生には制服目当ての子もいるんだよ」
「へー」
そんな倍率の高い学校に受験すらせずに入ってしまった事に今更ながら罪悪感が。
「それより龍、お前は何故ここに居るんだ?呼ばれたのか?」
「俺はアリスのお守りだ」
「そうか」
「あの、皆さんは今日呼ばれた理由ってご存じで?」
「いや?新しい転生者の卓に呼ばれただけだ。国の今後を左右する重要な報告があると」
「だったら何もここでなくても」
「国の今後を左右ということだったからね、国会議員にも知らせた方が良いという判断だろう」
「それにしてもよくここ抑えたよね。ここに呼ばれるってことは……あの人たちも来るでしょ」
「だろうな」
「誰っすか?」
「国会議員のトップ、総理大臣だ」
「ああ」
そりゃそうか、ここは首相官邸、総理に会わないなら何故ここに呼んだのかということになる。
「でも今の内閣、結構忙しいはずなんだけどね」
「それって、先月辺りの選挙関係してます?」
「よく知ってるね」
「学校で結構話題になってましたから」
「なんで?」
「新しく総理になった人の娘が月組の同級生なんすよ」
「ああ、なるほど」
四月、入学式から数週間後の事、あたしには選挙権がなかったこともあり、選挙があった事すら知らなかった。
その選挙により、野党だった民政党は政権を奪取、代表の名家西宮輝義が総理に指名された。
そして、西宮輝義の娘である雪にとっても名家の月組にとってもそれは名誉なことだったらしい。
「しかし今回の選挙、眉唾な噂が絶えないのだがね」
「というと?」
「今回の総選挙の解散理由……総理を含めた内閣のほぼ全員のスキャンダルが公になった事なんだよ。今までだってスキャンダルで公職を追われた議員などいくらでもいるが、ここまで一斉に出るのは異様なんだよ」
「そうだねえ」
「……民政党が政権を取るために各大臣の弱みを握ったとか?」
「まあ、そこまで行くと陰謀論になってしまうがね」
「私たちは何もしとらんぞ?」
その場にいた全員が入り口を見た。
そこに居たのは胸のバッチを見れば分かる……議員だ。
だけど気になるのは……その議員の集団に何故かあたしと同じステアの制服を着た少女が居た事だ。
……西宮雪である。
「西宮さん」
西宮さんはあたしを見るけど、無視し他の識人たちに一瞥だけして席に移動した。
……なんで毎回こうなのか。
「……」
「アリスちゃん、あの子に嫌われてるの?」
「さあ?それより三穂さん、バッチを付けてない人もちらほらいますけど……誰ですかね?」
「ああ、多分秘書の人だったり……あの人は大手電機メーカーの人だね。確か……コーセイ電機?」
全員が部屋に入り、最後に部屋に入った女性が口を開く。
「では皆さま揃いましたので、ただいまより会議を開始いたします。どうぞご着席ください」




