(更)技術革命編 3
「ん?なんだアリス」
「師匠、もう一度タバコ吸ってくれる?」
「……あいよ」
煙管に煙草の葉を詰めていく。
そしてあたしが火をつけやすいように少し上に向けた。
「まさか、煙草にその杖で火を点けるんですか?魔法でも使うとでも?」
まだ半信半疑か。
それどころか、嘲笑の目にすら見えてくる。
あたしが初めて師匠の魔法を見た時もこんな感じだったなあ。
「そうだよ」
煙草に向けて呪文を唱える。
「……フォフト《火よ起これ》」
杖から火が噴き出す。
火は煙草の葉を焼くと、師匠がそれ少しずつ吸い、師匠の口から煙が吐き出された。
「……嘘、いやまだ手品……その杖にライターが仕込まれてる可能性も」
「お前なあ……今の身て」
「まあまあ師匠」
まだあたしのターンですよ。
ここまでは想定内。
今度は卓君に杖を向ける。
「何です?……確かに杖には火が出るような穴みたいなものはありませんけど……出るときだけ穴が出るように加工すれば……」
「アネーグマ《風よ吹け》」
びゅううう!
「なっ!う……ばばばばばば!」
「どう!この杖に火と風を出す仕組みが一緒に入ると思う?まだ手品だと思う!?」
「……確かに」
「信じた?君は死んでこの世界に転生したって」
「……本当に……僕は死んだんですね」
「そう」
「アリス」
「ん?」
「正直感服したよ。今までで一番転生者を諭すのが早かった。……正直前々から転生者に対する接し方を変えた方が良いとは言われてたんだが、中々分からなくてな」
「そりゃ、師匠は400年生きてるんだし現代人の価値観は分からんでしょ」
「あの……どういう意味で?」
「ああ、本当かどうかは知らないけど、この人不老不死で400年生きてるらしい」
「異世界のチートみたいなものですか?」
「さあ?ねえ師匠なんで不老不死になったのさ」
「言ってなかったか……あまり見せる物じゃないんだが」
そう言うと師匠は右腕手首から肘まで巻かれている包帯をほどき始めた。
……中二病かよ。
「中二病ですか?」
「卓君!あたしですら口には出さないようにしたのに!」
「すみません、つい」
「中二病って言うのが何なのか知らんが、まあ見ろ」
「……っ!」
箒が取れた瞬間、あたしの目には……洋風に言えばタトゥー、和風に言えば入れ墨があった。
ただの入れ墨なら驚かなかったかもしれない。
あたしが驚いたのは……その入れ墨がうねうねと動いていたからだ。
無数の茨と一匹の蛇が、好きなように動く……というわけでは無く、揺れ動いていた。
「……キモ」
「アリスさん!?」
「……ごめん、つい」
「まあ気持ちも分かる。動かなければ俺も包帯を巻かないんだがな、これだろ?」
「ああ、何でこんなことに」
「400年前ある闇の魔法使いを封印するときに食らった」
「ヴォルデモート?」
卓君が即答した。
まあ、旧日本人ならその名前が出てくるか。
「よく言わるが、違う。俺が封印したのは闇の女王ファナカスだ」
「その呪いはどういう呪い?不老不死になるだけ?」
「さあ?不老不死に気づいたのは、数年後の事だし。呪いをかけた張本人は封印中なもんでな」
「へえ」
「あの一般的な質問ですが、不老不死になって……性欲とかは?」
「……今はもうない。だが呪いを受けた当時はまだあったな」
「じゃあ奥さんとかいたの?」
「300……350年ぐらい前だったか、居たよ。孫まで居た」
「ええええええ!でも子孫は!?今師匠一人じゃん!」
「……大昔に日本全土で疫病が流行ってな、俺以外全員死んだよ」
「……Oh。ごめん」
あたしが暗い顔になっていた所、お構いなしと卓が質問をしてくる。
「あの、どなたかスマホ持ってないですか?」
その質問にあたしは顔をしかめる。
……とうとうその質問来ちゃった。
「……持ってないです」
「では、この家の方にお借りしたいのですが」
「この家の人も持ってないです」
「じゃあパソコンでも良いです。聞くより自分で調べて方が早いので」
「……卓君、落ちついて聞こうか」
あたしは卓君に……この国にはまだスマホはおろかパソコンすらないことを告げた。
すると卓君の顔から少しずつ笑顔が無くなっていく。
「……マジですか」
「はい、マジです」
「確かにパソコンの基礎はイギリス人のチャールズ・バベッジが作りましたけど、その知識をこの世界に持ち込めた人が居なかったと……」
「はい……ん?ちょっちまて、卓君……もしかしてだけど……」
「何ですか?」
「パソコン作れる?」
「パーツがあれば、小一時間ぐらいあれな」
「いやそうでなく、パーツそのものから」
「……そうですね。理論上は可能ですけど、この世界の素材や精度ではまだ限界があります。それに……」
「何!」
「あほほど時間がかかりますよ?」
「師匠おおおおおお!」
「なんだ!」
「基本的にあたしぐらいの転生者って学校に行くよね?」
「まあな、卓は恐らく小学生……中学生だからまずは政府指定の学校、後にステアかな」
「却下!」
「なんでだ」
「卓がパソコンを作れる!学校に通わせるなんてもったいない!今すぐにでもパソコンを作れる環境にぶち込むべきだ!」
「ぶち込むって……僕は人間ですよ?」
「だがなあ、この国の法律やら最低限の魔法ぐらいは知っとかないと」
「それは別に学校に行かなくても……そう!家庭教師を付けてさ!卓君にはパソコン開発に専念してもらう方が絶対この国の為になるって!」
「……しかしなあ」
師匠は何故か乗り気じゃない。
「卓教えてくれ。そのパソコンとやらが開発されれば、本当にこの日本は豊かに……この国の為になるのか?」
「……そうですね、お師匠さん」
「龍で良い」
「では龍さん、計算は得意ですか?」
「まあそろばんを使えば」
そろばん……使った事ないぞあたし。電卓ないの?
「いいえ、暗算……つまり頭で計算するのは?」
「……簡単な物なら三桁くらいか?」
「パソコンの性能にもよりますが、普通に十数桁の計算もできます。数秒で」
ここでパソコンに懐疑的だった師匠の顔に驚きが追加された。
「良いですか?本来パソコン……コンピューターというのは人間では到底できない計算処理をするために開発されました。その処理能力を使っていろいろなソフト、便利な機能が開発されています。豊……豊と便利が同じかどうかは知りませんけど、生活が便利になることは確かですね」
「弊害はないのか?」
「はい?」
「どんなに素晴らしものでも便利な面だけじゃなく、欠点もあるはずだ。どんなに素晴らしい物でも欠点の方が多いならば意味が無い」
「それはアリスさんに」
「あたし!?」
急に振って来るなよ。
「……そうだなあ。強いて言えば、人の本来見えなかった闇が見えやすくなることかな?」
「どう言う意味だ?」
「こればっかりは言っても分からないよ。対策しようがない、現に旧日本だと現在進行形で社会問題になってるし」
「そうか、分かった。技研に言っておくよ」
「え?いいの!?」
「旧日本でも解決されてないってことは、問題が発生しても政治家がてんやわんやしてるってことだ。ある意味今の時点で分かっていいじゃないか。それより技術の進歩の方が優先だ」
「そういうもんか」
その後、急に眠気を感じた卓君と一緒にあたしと師匠は静かに部屋で眠った。
そして翌日、あたしを桜木一家に会わせるのが目的だったようで、その場で解散、箒でステアに直帰することになった。
……わざわざ会いにくる必要あったか?




