(更)ズトューパ編 8
ゴールボールの方を見てみると、花組の選手を遮る形で鳥組が陣形を組んでいた。
「点数は……相手のエキーパーがエパッチ投げて力尽きたから7対11で負けてるな。仮にここから勝つにはゴールボールを打ち抜くしかない」
「……じゃあなんで当てはゴールボールを打ち抜かないんですか?」
「これが練習試合だからだよ。リーグ戦なら即刻終了だが、練習試合だし、一旦試合を終わらせてポジション別に魔法の撃ちあいをしても……本来は良いんだがなあ」
「本来は……」
「言ったろ?練習試合でここまで観客が居るのも稀だ。終わり方があいつらも分からないんだよ。まあ、点数的には勝ってるからここから先どうする?的に待ってるんだろ」
なるほど。
これが公式試合なら試合が止まっている時点でバッシングものだけど、練習試合だから関係ない。
ある程度試合が終盤だからこれからどうするか……決めかねてると。
「峰先輩はどうしたいんですか?」
「ん?そりゃ勝ちたいさ。練習試合だろうがな、それに負けたらあいつに奢らないといけないし」
「動機……」
「それにここまで熱くなる練習試合も久しぶりだ。ここまで来たら簡単にゴールボール打ち抜いて終わり……何て山神も思ってないだろう?現にあいつは打ち抜いてないし」
「……少し考えても良いですか?」
「別にいいけど、言っとくが今日の練習試合は普段と違ってこんなに観客がいるんだ。長引くとあいつらの目が痛いから早くしろよ」
……さて、どうしようか。
点差は4点。
つまり勝つには、こちら側が脱落者なしでゴールボールを打ち抜くしかない。
でもいきなりゴールボールを狙いに行けば……混戦になって……いや相手が即座にゴールボール打ち抜いて終わりかな。
なら少しだけでも相手が油断して視線を固定する時間を作らなくちゃならない。
そして誰も気づかれずにゴールボールを打ち抜く……出来るのかそれ?
……失敗すれば終わり、そして負けが確定……か。
はは!無謀とか賭けとかじゃない!面白そうだからやってみようか!
「峰先輩、試したいことがあります」
あたしは作戦を伝え始めた。
「……」
作戦を伝え始めると、みんなの表情が真面目な表情から、峰先輩と成田さん以外は拍子抜け……というより呆れた顔になっていた。
無線で聞いていた小林先輩は爆笑している。
「いや……作戦としてはありだとは思うが……勝てるの?山神に?体格差考えた?」
「でもルール上は問題ないでしょ?これは体格差とエキーパーの特性を踏まえたある意味の奇襲ですから。それにこれは練習試合!面白そうならやってみるのがあたしのポリシーなんで!」
「……はぁ、識人ってこういうやつばかりなのか?こいつらと仕事をする政府の連中の気苦労が目に見えるなあ」
「あははは!」
……多分あたしだけです。
「まあ良いか、どうせ本戦が始まったら出来ないし、あいつも許さないだろうし……やってみるか」
「あ、あと。峰先輩ちょっと聞きたいことが」
作戦会議が終わると、花組の選手は次々と移動する。
その様子を見た鳥組は警戒するけど、杖を持っていない様子に困惑しているようだ。
あたしと峰先輩はゴールボール前で待っている主将の山神先輩の元へ向かって行く。
「どうした?降伏か?」
「馬鹿言え、そうなったらお前に奢らなきゃいけなくなる」
「そんなに奢るの嫌か?どこで嫌われたんだ?」
「別に嫌ってるわけじゃない。同じ組以外に奢るのがやなんだ。それにここで負けを認めたらあいつに殺される」
「じゃあ何しに来た?」
「山神先輩」
「アリス君……だったかな?なんだい?」
「私と……差しの勝負をしてください」
「……は?」
山神先輩は拍子抜けという表情になった。
当然だ、いくら一対一の状況に出来るからと言ったって、魔法が何一つ通じないエキーパーが一騎打ちを申し込むなど本来ありない……エキーパー同士なら別だろうけど。
「…………」
山神先輩が驚愕の表情であたしを指さし、何度も峰先輩を見る。
『この子は本気で言ってるのか?』
そう言いたのかな。
「残寝ながらアリスは本気だ」
「一つ聞きたい、エキーパーの魔法が通じないのは知ってるね?」
「知ってますよ」
「確かに先ほど君は二人倒した……が、それはあくまで別のポジションの選手に撃たせるという罠を張ったんだ。だが今回はそう言うことが出来ない……なのに……やるつもりかい?」
「そうっすけど?」
「何故そこまで自信満々なんだ?」
「それは……あたしが識人だからですかね」
「……は?」
「識人は記憶こそ無いけど、知識はあります。この世界には無い戦術や戦い方を知ってるんですよ。それらを駆使すれば例えエキーパーでも何とかなる……そう思って試してみたいと思いました」
「……はぁ」
「それにこれ練習試合ですよ?勝敗関係なく試せるんあら試してみたいじゃないですか!」
「……はぁ、なるほどな。そういう事なら引き受けよう!」
……まあハッタリですけどね!
旧日本の戦術?
中学生が知るわけないじゃん。
『アリス、今回の作戦で少なからず味方にも嘘をつくことになる。俺もちゃんと説明するから謝れよ』
あたしは峰先輩の言葉を思い出しながら山神先と一騎打ちの為に場所に着いた。
ちょうど山神先輩があたしとゴールボールに挟まれる形だ。
両チームの選手も各チーム一人だけ、ゴールボール付近に残してスエンター付近に待機する。
……けどどちらも杖を構えて臨戦態勢だ。
……あの!皆さんあたしが勝つなんて思ってないんですね!
まあ良いですけど!あたし別に山神先輩に勝てるとか思ってないんで!
あくまで、ゴールボールの前から鳥組引きはがそうとしただけだし。
今回、あたしが峰先輩に伝えた作戦はあたしがどうにかして山神先輩に勝つんで、その後鳥組各個撃破して、くださいという作戦だ。
花組の精神的支柱が峰先輩であると共に、鳥組は山神先輩だ。
その山神先輩を落とせば、少しだけでも他の選手に動揺が生まれるだろう。
そこを狙って攪乱し、ゴールボールを狙ってくださいと伝えたのだ。
因みに半分本当で半分嘘だ。
あたしの目的はさっき言った通り、全員の視線をゴールボールから逸らすこと。
山神先輩を倒すことなど頭にない。
ここまでは作戦通り、だから次は第二段階!
山神先輩が大きく腕を広げる。
「さあ!いつでも良いぞ!君のタイミングで始めてくれ!」
エキーパーの魔法は杖が無くても防げる……見くびられたな。
「……行くぜ!」
……ドン!
あたしは思いっきりの前傾姿勢を取ると、一気にトップスピードまで加速し山神先輩に向かって突っ込んだ。
そしてある程度まで近づいたことを確認すると、水の魔法を放つ。
だけど山神先輩は杖を構える素振りすら見せない。
……バシャ―ン!
箒の自動防衛機能により、山神先輩の少し前で水の魔法が崩れた。
「さてさて、右か?左か?それとも上か!下か!」
一般的に、エキーパーが他の選手に魔法を撃つことは珍しくないらしい。
一応目くらましになるからだとか。
だから山神先輩も即座にあたしが次に移動する場所を見定めている。
……もしセオリー通りに動かなかったら?
「む?どういうことだ?」
「りゃああああああ!」
バシャ―ン!…・・・ドン!
「ぬううう?」
「「「おおお!?」」」
あたしは弾かれ、水の壁状態になったシールドに……突っ込み、山神先輩にタックルをかました。
ルールには掴む、蹴るは駄目だが……体当たりは問題無いと書かれている。
なら体格差があろうが……トップスピードで突っ込めばあたしでも!山神先輩を押したまま地面に憑かせることが出来るのでは!
「う、動けえええ!」
「ぬ!ぬお……」
先輩は即座に魔法を撃とうとするけど、無理だよねえ。
だってこの状態で撃ったら……自分まで魔法の余波に巻き込まれる。
そして掴むのは禁止!山神先輩に手段はない!
「……ぬ」
「……ん?」
「ぬ……があああ!」
「へ?」
バシーン!
……あたしの体が……ふっとばされた。
なんと山神先輩は地面まであと数十センチの所で上半身の力だけであたしを吹き飛ばした。




