(更)ズトューパ編 7
エパッチを追いながら急上昇していくけど、どうも追いつく気配がない。
多分上昇しているからだ。
平行移動よりもあたしの体重がネックになって最高速度が上がらないんだ。
ただそれ以上にあたしには心配事があった。
この世界はどうかは知らないけど、本来標高が上がると共に気圧、気温が徐々に下がっていくのは常識だ。
それに高い山に登ると発症することがある、高山病もある。
登山とか言うレベルじゃないスピードで上昇していくあたしはこの上昇していくとどうなるのかと不安になった。
一応箒に乗るとそう言う気圧やら気温やらを最低限防ぐ魔法がかかってるはずだけど、あたしは箒初心者、何処まで対応しているのか不明だから不安だ。
エパッチ君!何処まで登るんですか!もうフィールドちっさいよ!
高度わかんないけど、糞怖いわ!
どこまでも登っていくことに興奮から恐怖に変わり始めた時、突然エパッチが急停止した。
「……チャーンス!……え?」
……ビュン!
エパッチに腕を伸ばした瞬間、まるで来た道を戻るかのように……いきなり急降下し始めた。
その際、あたしの頬を掠めるように通過し、突然のことで動転したあたしは顔面を通過したエパッチを捕らえられなかった。
「……はは……ははは!……どんだけおちょくれば気が済むんじゃあ!」
「わ!?くっそ!今度は下かよ!」
春浪はあたしがつかみ損ねたエパッチをちゃんと見てこそいたものの、疲労の為か藩王が遅れて、取れない。
「でも今度はアリスが上になる!……なら前を取れる!」
……本当に?
春浪が降下の為に一瞬だけ停止しようとする。
……だよねえ。普通は止まるって考えるよなあ。
あたしは違う!
「おおおりゃあああ!」
あたしは上昇する体制のまま、急停止し、箒の先端を無理やり引っ張り上げた。
そして、頭から落ちるようにしてほとんど速度を殺さす、旋回に成功、下降の体制にして地面に向けて降下を始めた。
ハンマーヘッド……とは箒の向ける方向が違うけど、手順はほぼ同じ、これなら速度を殺さずに下に行ける!
これでコンマ数秒ほど春浪の前に出ることが出来た。
「はあ!?……あいつすげえ!あははは!」
もっと褒めてもいいのよ?
降下を開始して、どれくらいの時間が経過したのかは分からない。
でお徐々にフィールドの地面が見え始めたってことは……確実に地面に近づいていることだけは分かる。
……ただそれでも、エパッチまではあと少しだけ足りない!
あとどれくらい?
もしここで捕まえられないとまたフィールド内の飛行に戻る。
もうそんな体力は残ってない!
何でも良い!思い出せ!賭けでもなんでもいい!落下するまでにあいつを捕まえられる方法があるはずだ!
……!
確か……ルール上、失格になるのは……地面に着いた時だけ。
それに……撃たれて箒から落ちた人たちは全員地面に着く前に落下死防止の魔法で一時停止する……イケる!
「……?」
体重のせいか、いつの間にかあたしの隣まで迫っていた春浪もエパッチを一緒に追い出すけど、さっきとは違い、もろに地面に向けて落ちていくことに恐怖で青くなっている。
……それじゃあ、まだレギュラーは取れないぜ?
「……スゥ……ハァ」
あたしに難しい計算は無理だ。
でも感覚であとどれくらい近づけばエパッチを掴める距離に行けばいいかは何となく分かる。
……もう少し……まだ足りない……後ちょっと!
……ここだあ!
あたしはお尻を乗せている金具部分に足を乗せる。
「一秒だけでいい!速度上げろおおお!」
気のせいか……それとも本当に僅かに速度が上がったのかは知らないけど踏み出す直前、足に抵抗があった。
「おりゃああああああ!」
ドン!
あたしはエパッチに向けて、飛んだ。
「はああああああ!?」
パシッ!
この一世一代の賭けとも言える行動が見事に成功し、エパッチはあたしの手に入った。
そして手の中で少しずつ変形し、小さい手榴弾になるのが分かる。
「おっしゃあああ!とったあああ!……あ」
人生初のズトューパでエパッチを捕まえた喜びに一瞬だけ浸ったのは良いけど、それどころではなった。
現在進行形であたしは箒なしで地面に落ちているからだ。
「やっべ!やっべ!落ちる落ちる落ちるううう!」
地面まで……うん、距離なんぞ分かるわけない!
でもあと数十秒しかない!
行けるか?
やるしかない!ここで失敗すれば……エパッチを優先して生き残れなかったただの馬鹿だ!
「来い!箒!来おおおい!」
……スッ……ビュン!
あたしの体が地面から二メートルの所で魔法により急停止する。
そしてその直後、あたしの体の下に箒がやって来る。
そしてそのまま箒に跨ると……ほっ……と安堵した。
うまく行くか分からなかったけど……うまくいってよかった。
「大丈夫……だよね?ルール違反じゃないよね?」
「ルール違反ならとっくに箒が飛べなくなっているはずだ。よくやった!」
無線機から峰先輩の声がする。
「えへ!えへへへ!」
「……まったく……ん?……っ!アリス!早くピンを抜いて投げろおおお!」
「え?どういう……ぐっ!」
あたしがエパッチを掴んでほっとしている所を春浪は見逃さなかった。
完全な死角の左側から体当たりが当たる。
完全な意識外からの体当たり、あたしは痛みでエパッチを放ってしまった。
空中に放られたエパッチを春浪がキャッチすると、投げようとする。
しかし、さっきまでのチェイスのせいで体力と握力さえも無くなっていたのか、近くまで行くためにゴールボール付近まで全力で飛行を始めた。
その様子を見ていた峰先輩と山神先輩が同時に声を張りあげる。
「全力で阻止しろおおお!奴は疲労困憊だ!撃ち落とせ!うちの新人エースが全力で勝ち取ったエパッチだ!何としても止めろおおお!」
「全力であいつを援護しろおおお!貴様ら!新人がここまで頑張ったんだ!十分休憩した先輩がここであいつを援護しないでどうすんだあああ!」
「「花組・鳥組の全霊をかけてあいつを打ち取れえええ!・守れえええ!」」
その直後、花組、鳥組の選手が一斉に猛スピードで春浪を打ち取り、守ろうとする。
だけど当の本人は多分気力だけ動いているのか、ゴールボールまで一心不乱に飛んでいる。
でも本能なのか、魔法が当たらないように低空飛行し、目の前に飛んでくる魔法や捨て身で突っ込んで来る花組の選手を回避していく。
花組の選手も魔法を撃ちこもうとするけど、鳥組の選手たちが迎撃するから近づけないし、撃ち落とせない。
上空での乱戦に全く気が付かないうちにゴールボール付近に来た春浪は旋回しながらピンを外そうとするけど、握力が限界のようで外せない。
「……うがあああ!」
なんということだ。
春浪は映画でよく見る、ピンを咥えて抜いたのだ。
……普通はが抜けるとか言われてるけど、大丈夫かな?
……ピン!
そしてピンが抜けたグレネードを投げた。
エパッチマスはピンを抜くまでに持っていたチームを認識する。
つまり抜かれた時点で鳥組のエパッチと認識されたということになる。
……ドーン!
そしてエパッチマスが爆発した。
同時に残っていた全てのシールドが割れた。
実況が雄たけびを上げる。
『鳥組の新人春浪選手!アリス選手からエパッチマスを奪い、爆破成功!第二第三シールド破壊し合計5ポイント獲得ううう!』
「……いっつー……マジか」
「大丈夫か?」
「ちょっと痺れますけど……まあ問題無しです」
「すまん、言ってなかったんだが、エキーパーが危険だって言われてる理由の一つがエパッチを手に入れると、ピンを抜くまで相手チームに全力で狙われることなんだよ」
「……もうちょっと早く言ってよお!」
「いやあ……まさか初心者のお前がいきなりエパッチを手に入れるとは思ってなかったものでな。それに全員から狙われると聞いたお前が強張るとやばいからあえて言わなかった」
「……おい。……ていうか試合は?」
「もう決まったようなものだろ?」




