(更)ズトューパ編 6
「峰くん、後方四時方向上空から一人!由美ちゃん!真後ろからピッタリ付かれてる!新井君!見えないと思うけど後方7時の方向からシールドを盾にしてる奴だけ気を付けて!右に居る相手は囮!それと……」
「……すげえな。ここまで変わるんか」
あたしは戦術を伝える司令塔から一旦完全なレーダー的な役割に小林先輩を変えた。
結果は成功のようだ。
でも逆に作戦を考える役目が居なくなるからまずいかな?と考えたけど……杞憂だった。
「……CからBに変更!フォーメーション菊!」
小林先輩のタイミング外れの指示が無くなるとここまで変わるのかと、峰先輩の素早い作戦展開によって今までぎこちなかった動きが早くなる。
……それはそれで小林先輩凄いな。
状況把握が早すぎる。
何だっけ?イーグルアイ?俯瞰視点で人より状況を把握する能力が高い人の事を言う言葉だったはず。
まあこの人はその能力に極振りしすぎて作戦展開能力一切ないんですけどね!
さあ!エパッチマス居ないし、あたしもシールド破壊に参加しますか!
「……ん?」
状況把握の為に少し停止していたんだけど……箒の先にあるものが止まっていた。
……翼を休めるためか優雅に……くちばしで翼を手入れしている……エパッチマスだった。
あたしの視線に気が付くと『やあ、俺をお探しかい?』と首を斜めに傾ける。
……君……もしかしなくても……エパッチマス君だよね?
まあ気が付かなかったあたしもあれだけど……そんな目で見られるのは心外だなあ。
……バッ!
エパッチマスはあたしが気づくと静かに飛び立った。
「…………待てやあ!この鳥野郎!」
試合前にある程度エパッチマスを見つけた際のセオリーを聞いた。
というか、試合中エパッチマスが見つからずに試合が終了することも珍しくないという。
だが、エパッチマスが見つかった後の試合の流れは大きく変わるらしい。
どちらかのエキーパーが見つけると動きが途端に変わるので、相手のエキーパーも捕獲に参加することになる。
その後の動きは大きく分けて三つ。
シールド破壊を一旦終了し、チームを上げて捕獲するに動く。
プロの試合では大抵エキーパーはエース……もしくは人気の選手が務めるため、華を持たせる意味で他の選手は一旦戦いを辞めてエキーパーだけで争奪戦をさせる。
最後、これはユースのチームで多いらしいけど、エパッチマスを完全に放置し、魔法の撃ちあいを優先するというやり方らしい。
……では今回はというと。
「アリスちゃん!エパッチマス見つけた?」
「え?あ、はい!」
「あほ!ならさっさと報告しろ!」
「すんません」
「小林!どうする!作戦は!アリスはエキーパーはおろかズトューパも初心者だ。捕らえ方見せるために一旦作戦変えるか?」
お?作戦変える?
話には聞いてるけど、実際には見てないから見てみたいなあ。
「駄目!アリスちゃん以外は通常作戦で峰くんの指示に従って!アリスちゃんごめん!柏木先生の指示で今回エパッチ捕獲はアリスちゃん一人にやってもらうから!文句があるなら柏木先生に直でよろしく!」
「……わかりやしたあ」
あの野郎。
「因みにアリス、捕獲するまで通信しなくてもいいぞ。捕獲に全身全霊を注げ。頑張れ!」
「うっす」
面白くなってきましたあ!
耳から手を離すと、両手でしっかりと箒を掴み、前傾姿勢で速度を上げた。
因みにだけど、エパッチマスに魔法を当てるとその時点で失格になるらしいです……厳しいなあ。
「待てやあああ!」
追い始めて五分ほどたったけど……まずい、全然距離が縮まらない!
一応見つけやすいように蛍光色になってるから見失うことは無いけど、小さいし思った以上に機敏であたしの視界から外れようとするから安易に速度を出せない。
「よう!識人さん!」
「……!」
唐突に右から声が聞こえてくる。
だけど視線はエパッチマスに固定したいから、少しだけ速度を落とし、視界の中に相手選手とエパッチマスが入るようにする。
そこに居たのは鳥組の選手だった。
それを確認すると、即座にスピードを戻し、エパッチマスに視線を集中する。
「やあ!一応言っておくけど!あたしの名前はアリスじゃあ!」
そして主人公じゃあ!
「俺も一年なんだ!今回の練習試合で識人が一年でエキーパーとして出るって聞いてさ!練習試合だけでも出してくれないかって頼んだら出してくれたんだ!」
「……さいですか」
こっちは人数不足、かつ顧問の思い付きなんだけども、そっちの監督さんも案外適当なの?それとも花組相手の練習試合なら一年出しても問題ないって判断したの?
やっぱり花組って舐められてるの?
「俺もこの試合で結果出してレギュラーになるんだ!レギュラーでなくてもベンチでも良い!試合に出るんだ!」
いい心がけだ。
「あのさあ!あたしに勝つって言うけどさあ!あんたも知ってる通り、つい先日この世界にやって来たばっかのなのよ!ズトューパのルールすら昨日知ったばかりでさあ!そんなあたしに勝って嬉しいの?」
「嬉しいに決まってるじゃん!今日の試合一度でも初心者らしいハンデとかあった?それどころか杖無しで二人撃破したじゃん!もう初心者じゃないよ!立派な選手!なら俺も本気で戦う!見てる皆もそれを見たいんだ!だからこんなに集まってるんじゃないか!」
そういえば試合が始まってから集中しすぎて観客の声とか一切耳に入ってなかった。
……エパッチマスから目をそらさないように歓声を聞いてみるか。
「頑張れアリス!」
「秒速でエパッチ捕まえろ!」
「行けええええええ!」
……マジか。
皆初心者のあたしを気にかけてくれているのかと思っていたけど、違う。
一人の選手として応援してくれている!
「……」
「だから初心者だから負けてもしょうがないとか思ってたら許さねえからな!まずは楽しむ!それだけだろ?……先に行くぜ」
歓声に意識を取られて自然と速度が落ちていたのを見抜いたあいつはあたしの前に出る。
……ははは!そうか忘れてた!そうだよな勝つことも大事だけど、楽しむのも大事だよな!何忘れてんだ!異世界に転生したんだ!この状況を楽しまなくて……どうするよ!
「スリップ……ストリーム!」
ピタっと、相手の後ろに付き僅かに速度を上げると、相手の真横に着く。
「お?なんだ?立ち直ったか?」
「うるっせ!お前名前は?あたしは識人だから知ってるだろうけど、あたしは知らんのだ!」
「……春浪……春浪義信」
「……よろしく義信君」
エパッチが旋回に入ると、あたしは飛行に支障がない程度に旋回半径を小さくし春浪より前に出た。
「なっ!くっそ」
春浪も負けじとついてくる。
「はぁ……はぁ……はぁ」
あたしたちには魔素の限界がある。
エパッチにあるのかは知らないけど、飛んでるならあるでしょ?
なんであいつよりもあたしたちが先にばて始めるんだ?
……あ、そうか……Gか。
さっきからあいつ小回りだったり、細かい上昇下降を繰り返すせいで、単純に体力が無くなって来たのか。
「…………」
後ろから付いてく来てるはずの春浪にも魔法を撃ってこないか気にしているけど、もはやそっちに意識を割こうとすら思えなくなってくる。
でもその考えもすべて吹き飛ぶような状況になってしまった。
……ビュン!
「……は?……マジかよ」
エパッチが突然、並行飛行から急上昇し始めた。
まるでまだまだ飛べる……疲労でへとへとなあたしたちをあざ笑うかのような一直線上昇だ。
何も言っていないけど……あいつはこう言っているように見えた。
『ここからが本番だよ。ついて来れるかな?』
……ははは!良いじゃん!ついてってやるよ!ここまで来て諦めるなんてあたしの辞書には無い!
「おおおりゃあああ!」
あたしは手から腕までの力を振り絞り、エパッチを追うように上昇を始めた。




