(更)ズトューパ編 5
試合が始まった直後、シールドの反対側から多くの選手が急上昇し、あたしに魔法を撃ってきた。
……あたしが識人だから?それとも今回の作戦は積極的にエキーパーを潰しましょう!
……的な?
ははは……とりあえず杖でふせ……あー。
「急上昇おおお!」
箒を掴み先端を上に向けて急上昇する。
魔法はあたしに居た場所に向かって行くけど、そもそも一人に対してあの数の魔法を放った結果、魔法同士が衝突し、あたしが居た場所より手前で連鎖爆発した。
「……あっぶねえ……ん?」
安心したのもつかの間、今度は三人ほどの選手がこちらに向かってるのが分かった。
八人中……三人かあ。
あたしがそれほど重要視されてるのか……それとも初心者だから取り合えず潰しときましょうか的なノリか?
……舐められたものだなあ。
こっちに向かってる三人以外は内の選手たちとシールドを割りながら魔法を撃ちあっている。
……まあ現状、エパッチマスもどこに居るか分からんし……あたしも参加するかあ。
あたしも追って来る三人を引き離すように飛びながらシールド破壊に加勢し始めた。
正直、攻撃用の魔法を何一つ知らないあたしがどうやってシールドを破壊すれば良いのか迷っていたけど、杞憂だったようだ。
……魔素球で十分だった。
競技場が楕円形なお陰か、旋回してると嫌でも追跡しながら撃って来る相手が目に入る。
撃って来る魔法を左右に動いたり、微妙な上昇下降で回避していくと、あることに気づいた。
……一人足りない。
追ってきてるのは三人だったはず、作戦が変わった?それとも意識外に移動した?
……駄目だ、ルールさえも曖昧な状態で変に思考すると撃って来る魔法を回避できない!
後さあ、この人たち魔法を打ち抜くのうますぎない?
さっきから何度も魔法撃ってるのに、なんでそれを迎撃できんの!?
ステアの生徒っていかれてるだろ!
バン!
「あっぶ!」
考えちゃいけないけど考えてしまう。
考えた途端に反応できなかった魔法が壁に衝突し爆風で少し押される。
……一つの思考にリソースを割くな!考えつつ避けろ!
あたしの魔法は相手には効かない!なら体当たり?無理だ!一人ならまだしも二人は無理!
なら仲間に頼る?でもここで救援を要請して流れを変えるのはまずい。
なら流れを変えずに助けさせる……いけるか?
ちょうど旋回先に、向こうから旋回してくる先輩、三宅先輩が見える。
このままのスピードで行けば直線の所ですれ違うか。
「…………」
ある意味賭けになるけど……賭ける価値はある!
……ドン!
あたしはスピードを維持しつつカーブを旋回した。
そしてカーブを旋回し終えると、直線に入る。
ちょうど三宅先輩もあたしを確認した。
三宅先輩が避けようと、箒の向きを変えようとした。
しかし、そんなことをされては作戦にならない。
前傾姿勢を取り、スピードを上げた。
その加速に驚いたのか、三宅先輩は急いで耳の無線機に手を当てる。
「アリス!聞こえてるのか!そのままだと俺にぶつかる!早く避けろ!」
あたしはあえて答えなかった。
答えるには耳に手を当てる必要がある。
つまりそれは敵に何かをするという意思表示に他ならないからだ。
スピードを上げれば相手はついて行くために箒にしがみついてあたしを凝視するはず、だからこそ何もしないんだ。
「アリス!これが最後だ!俺が避けるからな!良いな!」
先輩との距離が十数メートル、あと数秒でぶつかる距離なった瞬間、あたしは初めて右耳に手を当て、静かに喋った。
「三宅先輩……杖を構えて」
急旋回!
グルン!
あたしは体を下向きに回転させる。
すると、三宅先輩の構える杖の先は……あたしを追っている二人に向けられた。
「なっ!」
「やばっ!」
ここで相手は初めて目の前にもう一人の……攻撃が通じる相手がいると気づいた。
スピードを緩めて杖を構えようとするが……遅かった。
「撃てえええ!」
「……」
ビュン!ビュン!
三宅先輩の放った魔法は相手が構える前に着弾。
その衝撃で相手選手は二人とも箒から吹き飛び、地面に落下、脱落となった。
「ふぅ」
「アリス……そういう作戦なら言えよ。耳についてんだろ?」
三宅先輩が耳を指さす。
「でも耳に触れた時点で何か作戦があるかもしれないって気取られるじゃないですか!敵を騙すならまず見方からってね!」
「花組の俺が言うのもあれだけど、それを誰にも言わずに躊躇なく出来るって、お前や他の識人が来た旧日本って常に騙しあいとか蹴落とし合いが普通の世紀末なの?」
「お!世紀末何て単語、よくご存じで!……さあどうでしょうね!」
騙しあい、蹴落とし合いねえ。
まあ一部の権力者居る世界以外はそんな世紀末じゃないっすよ?
ただ、上に行こうとすれば自ずとそういう世界に入るんじゃないすか?……知らんけど。
「お前ら!止まってねえで動け!」
耳からつんざく声が響く。
峰先輩だ。
同時に実況が大声で叫ぶ。
「花組!第一層過半数獲得!花組に1ポイント!」
「うるっさー。でも一点入ったし、こっちも二人落としたから合計五点!良い動きじゃないっすか!」
「お前はスコアボード見てねえのか!」
「へ?」
そう言われてスコアボードを見たあたしは驚いた。
花組 5―6 鳥組
……あれえ?なんで?なんであっちに6点も入ってんの?
割られたのは一層だけのはず、なら短い間にこっちは三人もやられたん?
もしかして……あたしを追ってた一人が居なくなったもの、集団戦が有利になったから?
「もしかしてですけど……私がやっとの思いで二人撃破したのに……その間に?」
「そうだよ!こっちはその間に三人やられとるわ!」
「ええええええ!」
「それもこれも良く分からんタイミングでコロコロ作戦変えるうちのスエンター様のせいだがな!」
「小林先輩……」
「だってぇ……皆の動きが早すぎてえ!」
「それがズトューパだろうが!スエンターが何のためにシールドで守られてると思ってるんだ!それとアリス!手段はともかく初心者なのに二人撃破はよくやった!うちのスエンターの何倍もましだ!」
「……あざーす」
あたしは何起きてるのか確かめるために一時的にみんなの動きとその際の通信の内容を聞いてみることにした。
……もちろん、止まってると撃たれるので飛びながら。
「えーと……次Aで!」
「はあ!?今この状態からだあ?敵の動き見ろよ!Aに移行できると思うか!?」
「え?あ、そうだよね!じゃあ……相手のフォーメーション的に……あれ?微妙に違う?でも普通なら…・・行ける?でもさっきこれで三人落ちちゃったし……」
「指示出すんなら早くしろや!見やすい位置に居るのに何してんだ!相手もセオリー通りに動くわけねえだろ!臨機応変にやれ!」
「分かってるよお!」
……駄目だこりゃ。
司令塔、本来は常に変化する状況で的確に迅速に、またはいいタイミングで指示が出せないといけないポジションなのに、小林先輩は一歩遅い。
多分だけど、小林先輩は本来インプット……つまり状況認識と分析は早い方だと思う。
証拠にどんな角度でも敵の動きとフォーメーションの把握は早い。
でも、それに合わせるために指示を出すのに必要な言語化のスピードが遅いんだ。
山神先輩が言ってた、小林先輩にスエンターは向いてないって。
多分、本来のポジションは……あたしと同じ単独行動を主戦とするエキーパーだな?
でもどうする?ルール上、一度スエンターで試合開始すると、不測の事態が起きない限り交代は出来ない。
なら小林先輩の指示の仕方を変えさせるしか方法はない。
……小林先輩の情報収集能力を生かしたある意味本来とは違う司令塔として役割に。
「小林先輩ちょっといいですか?」
「え?アリスちゃん?今忙しいから試合終わってから……」
「駄目です!今じゃなきゃ駄目なんです!」
「あ、はい」
「良いですか?」
あたしは飛びながら、小林先輩にあたしが考えた指示の出し方を伝えた。
小林先輩は驚きつつも納得したようだ。
「わ、分かった!そういう風にすればいいんだね?」
「はいやってみてください」
正直賭けだ。
うまくいく保証はない。
でもさ、よくこういう場面って何も知らない人の言葉が逆にヒントになったりするじゃない?
あたしも試合勝ちたいのよ。
「すうぅ……はぁ……皆行くよ!」
「はよ」
小林先輩が指示……というより、情報を出し始めた。




