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(更)ズトューパ編 4

 ズトューパにおいて、エキーパーとは同じポジションの選手以外には魔法が通じない。


 倒す手段があるとすれば体当たりし、箒から落とすかエパッチマスを手に入れ、爆発に巻きこむかだ。


 逆にそのエパッチマスは手に入れれば試合を決定づけられる……もしくは一発逆転できる代物になる。


 大抵のズトューパにおいて試合開始直後にとられるセオリーは……相手のエパッチマスを潰し、エパッチマスを手に入れる確率を上げること……であるらしい。


 つまりエキーパーとは特別なルールの為に敵チームから集中攻撃されやすいポジションなのだ。


 ……シーカーでもここまで狙われることは無いぞ?



「……はぁ」


 翌日、練習試合まであと数十分前、あたしは……謎の震えに襲われてた。


 昨日の今日で、ほぼ碌な練習せずに練習試合とはいえ試合に出ることに緊張しているのか、それともあたしが担うポジションの危険性を聞いてなのかは分からないけど。


 ただ心臓がとてつもない速さで鼓動してることだけは分かる。


「大丈夫か?」


 峰先輩が心配なのか声を掛けてくる。


「だ……大丈夫っす!ただの武者震いって奴です!」

「……本当なら一年の初心者がエキーパーやるなんてありえないんだが、柏木先生の指名だからな。だが、一つだけ言っておくよ。もし今日負けてもお前のせいじゃない。やめるなよ?」

「それは問題ないっす。あたし初心者なんで!どんなに無様な負け方でも……あたしのせいじゃない!」

「そう……だな。まあ今回はそれぐらいの心持ちで良い。まずは試合の空気を味わえ」

「うっす!」


 と言ってもあたしは主人公だぜ?


 ……ハリーだってデビュー戦で勝ったじゃん?


 ならあたしも勝たなきゃでしょ。


「アリスちゃん!」


 ピト。


「ひゃあ!小林先輩!……なんすかこれ」


 あたしの耳に何かが取り付けられる。


 触ってみると……どうもイヤホンのようだ。携帯もないのに何故あるのか。


 てか他紙の知ってるイヤホンと違う、少し重い。


「これって……イヤホン?」

「え?ああ違うよ。通信用の魔法石。耳に付けて、喋るときは触ると全員に話せるから。一応ゴムでコーティングされてるけど、石の部分が擦れて痛くなるんだよねえ」

「はぁ」


 確かに耳にかける部分はゴムで覆われてるけど、耳に入ってる部分は医師が露出している。


 これじゃ痒くなるよ。


 ……小型の無線機が出来るまではこれなんだろうか。


「そろそろ試合だからお互い頑張ろう!」

「ういっす!」

「花組選手の方!試合開始五分前です!入場口に来てください」


 スタッフが声を掛ける。


 その声で周りに居た全員が動き出す。


 あたしも深呼吸をするとついて行った。


「アリスちゃん!頑張って!」

「頑張って!」

「……」


 サチとコウ、そして香織はハイタッチすると、観客席に歩いて行った。


「やあやあ花組諸君!やっと人数揃ったか!」


 入り口で待機しているあたしたちに花組と違うユニフォームを着た男性が歩いてくる。


 鳥組の選手だ。


「やあ山神。何とか昨日な、これでハンデともおさらばだ。今日は勝つつもりで行くんでよろしく」

「おう!……峰、この歓声が聞こえるか?」

「……聞こえてるよ。ただの練習試合なのに異常だ」


 そういえばさっきから観客席の方から声が聞こえてきてたけど、この試合を見に来てる観客の声だったか。


 峰先輩が異常だって言ってたから本来練習試合でここまで集まるのは稀なのか。


「そこの識人がスタメンで出るという情報が出ていたからな。ズトューパ初心者がいきなりのスタメン……それもエキーパーだ。どんな作戦で来るのか、どんなプレイをするのか見たくなるのもうなずけるさ」


 ……だから何度も言いますが、あたしはつい先日ルールを聞いたばかりの初心者ですよ?


 識人に何の期待をしてるんですか?


「そういえば、部長代理はどこ行った?試合前の挨拶も無しか?」

「え?あれ……そういえば小林先輩は……あ」


 小林先輩は少し離れた所で柏木先生と何か話していた、多分作戦会議的な何かかな?


 でも何処か様子がおかしい。


 柏木先生が何か話すたびに小林先輩の表情が神妙な顔つきになる。


「何を話しているんですかね?」

「さあ?終わったか」


 小林先輩が柏木先輩を連れてこちらに歩いてくる。


 そして柏木先生があたしに耳打ちする。


「良いかアリス。私からは一つだけだ。暴れろ」

「……は?はあ」

「はあ!?何言ってんだ!アリスは初心者も初心者なんだぞ!しかもエキーパーだ!そんなことしたら真っ先に落とされるだろ!」


 小林先輩の指示を聞いた峰先輩が激昂する。


「峰、これは命令だ。アリスと私を信じろ」

「……はぁ、分かりました」


 いやいやいや、あたしまだ作戦の一部すら聞いてないんですが?


「小林!」

「な、何!?」

「変な指示出すんじゃねえぞ?」

「……善処します」


 すみません、聞き捨てならない言葉を聞いたんですが?


 もしかして今まで勝ててない原因……小林先輩では!?


「あの」

「ん?なんだい?」

「その山神先輩は花組が何故勝てないのかご存じで?」

「私も気になります」


 一緒に聞こうとしたのは成田さんだった。


 そりゃそうだ、自分の入った部活のチームが勝ててないと来れば理由を知りたがるのは当然だ。


「……そうだな。これから試合だから細かくは言わんが……ただ一つ言えることは……小林はスエンターに向いてない。ただそれだけだ」

「え?どう言う意味ですかそれ!」

「これ以上は言わんよ。さあ試合だ!」


 山神先輩が自分のチームに戻る。


「選手の皆さん!入り口に向かって一列に並んでください!」

「アリスさん」

「ん?」


 入り口に向かって並んでび専用の杖とエキーパー用の手袋を貰っている時だった。


 成田さんが話しかけてきた。


「私は練習試合だろうが、あなたが初心者だろうが関係ない。勝ちに行くから足、引っ張らないでよ」

「……ふふふ」


 笑っちゃった。


「何がおかしいの!」

「ごめんごめん、大丈夫大丈夫。あたしだって初心者だからハンデ頂戴とか、手を抜いてとか考えた事ないから……だってつまんないじゃん?それに……」

「それに?」


 会場に繋がる天幕が開く。


 同時に観客席からの声援がより大きく聞こえるようになった。


「選手入場!」


 全選手が箒に跨り、会場に飛んでいく。


 あたしも跨り、深呼吸した。


「主人公ってのは勝つもんでしょ?どんな試合でも?」

「は?しゅじん……はあ!?」

「ほら行くよ!」


 前に居る成田さんを追い抜くように、あたしはフィールドに向かって飛び立った。


 フィールドに出た瞬間、あたしは驚いた。


 ズトューパの会場はクィディッチの競技場とよく似ていた。


 え?分からない?……ググれ。


 違うとすれば中心部に白い円形の線が描かれていること、横浜スタジアムのウィング席のようなものが作られている点か。


「……ひっろお……客席高!……つかやっぱ人多くね!?ほんとにこれ練習試合!?」


 飛びながら観察すると、見知った人が観客席に居た。


 友里さんと……師匠だった。


 ……何故いるのか。


 でも表情を見るに、無理やり連れてこさせられた感が否めない……か、はは、師匠らしい。


 小林先輩がフィールド端のシールドの中に入る。


 なるほどあそこから指示を出すのか。


 ……ヤバい、ほんと最低限のルールしか覚えてないから初期位置が分からない。


 あ、相手のエキーパーの反対側に行けばいいか!


 得点ボード付近に居た審判の先生が手榴弾に杖を向け、何かを唱える。


 するとエパッチマスは小さな鳥に変化し飛び立った。


 同時に円形の線の中心から水色の球体が現れる。


 それはある程度の高さに上昇すると、シールドを展開した。


「では両チーム正々堂々とプレーするように!では試合開始!」


 ビュン!……パン!


 赤い花火が打ち上がり……花を咲かせた。


「よっし!いく……ぞ……お?」


 試合開始と共にあたしが見た物は……あたしに迫りくる、無数の魔法だった。


 ……正々堂々とは。


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