自分の出自を知りました。
カグラハラ国に辿り着いて2週間が経過した。身体の痛みはある程度まで治まったので歩けるぐらいまでは回復した。但し激しい動きは絶対にするなと言われている上に監視役の宵華が傍に居る為、やった所で止められる。
「うん、驚くべき回復力ね。傷は殆ど塞がっているわ。でも骨は再生中だから身体動かすのは禁物よ。まぁ、ここまで回復したら出歩くのは問題なしよ。」
「はい、わかりました。」
「じゃあ、出歩ける許可も頂きましたし、大巫女様の所に行きましょうか。」
宵華に連れられて外を出ると行きかう人が全員女性で、男の人を全然見かけない。
「なぁ、宵華」
「はい。」
「男の人が見かけないけど、此処には住んでないのか?」
「そうですよ。ここは女性しか居ないカグラハラ国にあるカンナ院という場所です。」
カンナ院、何故だろうかとても懐かしい名前だ。ずっと前に聞いた事があるような。それにこの目の前に居る宵華という少女も何処かで・・・ダメだ。思い出せない。
俺は自慢ではないが記憶力は良い方だ。覚えがある事を思い出そうとしても映像に霧が掛かっているようにぼやけて、何か大切な事を思い出そうとしてもノイズが掛かったような感じになる。
「コウ、此処ですわ。どうぞ中に大巫女キクナ様がお待ちですわ。」
「あぁ・・・」
キクナ・・・また聞き覚えのある名前・・・いやあるんだろうな・・・。
建物は低い石垣の上に平屋の大きな建物があり俺は靴を脱いで宵華に導かれるまま建物の奥へ奥へと進んで行く。すると、奥に大きな襖が見えて来た。
「大巫女様、コウをお連れしました。」
「どうぞ。」
「失礼致します。」
宵華が襖の前で座りゆっくりと襖を開けると、左右から複数人の女性から注がれる視線と真正面に座り朗らかな笑みを浮かべている老婆が居た。
俺はゆっくりと部屋の中に入ると前に座る為に用意されていた座布団に腰を下ろした。
「こうして、顔を合わせるのは初めてですね。ユウキの息子、晃。」
目の前に居る老婆の言葉に俺は思わず息が止まった。
『ユウキ』その名前は母さんの名前だ・・・それにこの人、こんなに優し気な表情を浮かべているのに隙が全く無い。俺が指一つでも動かせば一瞬で組み伏せられるだけの力を持っているんだ。
「貴女は一体・・・どうして母さんの名を?」
「ほほほ、それは私と貴女の母親とは血縁関係にあるからですよ。貴方から見れば私は祖母に当たります。」
「なっ!?」
この異世界に血縁者・・・普通は聞いたら驚くけれど、何故だろう・・・不思議とそれが真実だと受け入れている自分が居る。
「なるほど、どうやらユウキは本当に『覡』を産んだのですね。」
「覡・・・男性の神に仕える存在ですね?」
「その通りです。幼いのによくご存じですね。あぁ、そうでした小さい見た目でも精神は15歳でしたね。」
「なっ!?」
俺が思わず声を上げると目の前に居る大巫女キクナは、また「ほほほ」と笑いながら瞳を開くと藍色の瞳に白い三つ線が結び合い三角形として浮かび上がっていた。
「その目、ただの目じゃない・・・魔力を感じます。」
「その通りです。晃。そして、この力は貴方もユウキを介して受け継いでいます。」
「俺が・・・ですか?」
「そうです。晃、貴方は既にその力を何回か使っている筈です。今、この場でもです。」
「どういう・・・ことですか?」
「私の言葉を嘘では無く信じられると感じたでしょう?それが我々が持つ力の一旦です。相手の嘘を看破する力です。」
すると、周りに居た女性達がざわめき始めた。覡をユウキが産んだやら男の巫女だとか言っているが、それだけ母さんの知名度は高かったという事だろう。
「それに・・・我が娘ながら逸材を産んだものです。我々の力を全て扱える素質があるみたいです。」
キクナ様の言葉にその場の全員が驚きの声を上げた。
「大巫女様では・・・」
「えぇ・・・宵華に続いて大きな才能を持った子を我々は授かったみたいです。」
宵華の名前が出た為、宵華の方を向くと彼女は笑みを浮かべていた。どうやら事実のようだ。
「晃、貴方には二つの選択肢があります。このカンナ院に留まり我々から力の使い方を学ぶか中立の国であるアーデンエリス王国で人生を過ごすかです。幸いな事に私の言葉と貴方がローレンガルド王国に利用されていた者と説明をすれば安全と保護が約束されます。後は貴方が望めば戦う術も学べるでしょう。」
どちらにせよ。今の状況じゃ帰るに帰れないし。この世界で生きて行く事になるならば自分の身を守る為の術も必要だ。そう言う意味では中立の国であるアーデンエリス王国へ赴きギルドに入るというのも手ではあるけれど。
遅かれ早かれ、俺が持っている力とやらと向き合う事にはなる。そうなるならば、早い方が良いよな。
「俺は迷惑でなければ、この地に留まり自分が持っている力とやらと向き合いたい。今は戦う理由は無いけれど戦う理由が出来た時に何も出来ないのは御免だ。」
「本当にそういう所はそっくりですね。」
キクナ様が懐かしむように俺を見つめると首を縦に振った。
「分かりました。では傷が完全に癒えた時、晃、貴方の修行を執り行います。」
「見張りは引き続き、宵華に任命します。」
「はい、大巫女様」
「後は家の問題ですかね。」
「それでしたら、アキハやキリハの家が良いのではないでしょうか?」
「あぁ、そうですね。相談してみましょう。アキハとキリハを呼んでください。」
返事をした瞬間、あっという間に話が進んで行ってしまい。俺は成り行きを見守るしか出来なかった。