予知した未来が変わる時
巻き起こる土煙の中、確かに凍姫である晃が剣に押しされる姿が見えた。
「そ、そんな・・・凍姫が・・・。」
「・・・あぁぁ。」
クラディウスもソフィリアも絶望的な顔でその場に膝を付きながらミズハとハルナを見る。
2人は巫女だ。視界が悪い中でも何かを視れる筈だと思ったからだ。しかし、返ってきたのは涙を流しながら首を左右に振っている姿だった。
白月も、その場から動かない。稲姫と呼ばれる少女も口元に手を抑えながら動けずにいる。
「そ、そんな・・・晃君が・・・」
「わた・・・私が・・・」
刺されたにも関わらず自分達を安全圏まで吹っ飛ばした彼は剣の下敷きになった。隣で顔を真っ青にしながら血で染まった自分の手を見つめている親友に目を向ける。
「私が・・・晃君を・・・・」
紛れもない事実を口にした瞬間、「あぁぁぁ!!」っと頭を抱えて絶叫を上げた。
「あははははははは、やりましたわ!!ついにやりましたのね。ソウマ様、私達の勝利ですわ!!」
その瞬間、巨大化したソウマ・アマシロの方から声が聞こえて来た。
「邪魔者だった凍姫をついにやったのですね。あれだけ苦渋を飲まされた憎き不届き者は死んだのです。さぁ、ソウマ様、残りの者もやってしまってください。戦意を失った彼等にもう戦う力は残っておりませんわ!!」
マリア・ルーレ・ローレンガルド、リフィアの腹違いの妹でありソウマと共にアーデンエリス王国に入って来た者。
「アンタが・・・アンタ達が来なければ!!」
アンリの中で何かが弾け魔力が溢れ出すと身を焦がす程の炎が巻き起こる。
「あら、まだ羽虫が居ましたわ・・・ね?」
その時だった。マリアの顔色が変わったのだ。アンリから噴き出した魔力の風により、砂煙が晴れた事で振り下ろされた剣が露わになったのだ。そこには氷の結晶が罅を広げて砕ける瞬間だった。
「ギリギリ・・・間に合いましたね。」
「そうだな、マスターよ。この男がギリギリまで諦めずに防御魔法を張っていて我々が間に合った。全く我が娘ながら良い男をマスターに持ったものだ。」
そこには氷を思わせる青い瞳を持ち雪景色を思わせる毛先だけ青く染まった白銀の髪を持つ男性と蒼く美しい髪を持ち晃の使い魔であるシアに20年程歳を取らせたような女性が立っていた。
そして、その後ろには晃の使い魔であるフリーシアが晃を抱きしめている姿だった。
「はい、間に合いました。マスター様が最後まで諦めなかったから間に合いました。」
「精霊に侵されておるな。フリーシア、早く解放してやれ。」
「はい、母様」
するとフリーシアは意識を失って居る晃に口付けを行うと2人の身体が光に包まれた。
―――――――――――――――――――――――――――――
冷たかった身体に熱が戻ってくる。同時に意識が覚醒するのを感じ俺は身を委ねて目を開ける。
そこには俺の相棒が涙を浮かべながら俺を見つめていた。
「シア・・・そっか、間に合ったんだな。」
「はい、マスター様が最後まで諦めなかったから、私達は間に合いました。」
この気配は、そうか彼を解放したんだ。更に王都の外で戦っている気配も感じ取れた。
「リスティーさん、セレナさん、ミリアムさん、エルリッヒさん、そして、セレインさん、リリムさん、グライさんも一緒です。」
後半の3人は俺の知らない人間だ。いや、リリムと言う名には覚えがあるな。
「賢者リリム・アルフェミアか?」
「はい、そう聞きました。」
これまた凄い人物だな。ヒューリ・ウェルアークの知人と言うのは。
「マスター様に取り付いている精霊は私の支配下に置きました。全身に治癒魔法を掛けました。」
俺は左手を見るといつもの自分の左手があり、精霊化していた左半身も元の身体へと戻っていた。
「あぁ、ありがとう。その精霊だけど。」
「分かっています。この子は産まれたばかりの精霊、この子自身も訳も分からない状態だったのでしょう。だから、宿るべき物に宿らせてあげましょう。この子もマスター様の役に立ちたいみたいですから。」
「あぁ、薄氷蝶」
俺は薄氷蝶を呼び出すと俺に取り付いていた精霊が素直に宿り薄氷蝶が新たな形へと変化すると共に俺の中に力の目覚めを感じた。
「シア、行くぞ。」
「はい、マスター様」
俺とシアは魂融合を行い、目を開いた。
―――――――――――――――――――――――――――――
目を開くとそこは、白銀の髪を持った青年とシアを20年ぐらい歳を取らせた女性が笑みを浮かべて此方を見ていた。
「お目覚めですね?」
「ふむ、色々話をしたいが、この魔物を蹴散らすぞマスター」
俺が顔を見上げると巨大な魔物の姿をしたソウマ・アマシロの肩にドレスを纏った金髪の女性が立っていた。
マリア・ルーレ・ローレンガルド、リフィアの腹違いの妹で母親は第2王妃だったな・・・しかも、第1王妃を殺した疑いがあると調査資料には書かれていたな。
けど、今は目の前の敵に集中だ。
俺は薄氷蝶を左手で持つ。今まで装飾の無かった薄氷蝶だが鞘に氷の蝶が模られた装飾が5つずつ施されている。
「踊れ、ユリシス」
俺の言葉に反応して、蝶の装飾が羽ばたきソウマの元へと飛んでいく。その動きは早く常人の目には追う事が出来ない程だ。
俺は飛ばせたユリシスへと瞬間移動する。
「早い。」
「瞬間移動だな。マスターよ我等も」
「えぇ、そうですね。動ける者は彼の援護を」
ヒューリさんの言葉に反応して白月と稲姫が飛び上がる。俺が動けない間に見せた禍月焔がソウマの身体を燃やす。
「くっ、おのれ・・・ソウマ、全方位に魔法を!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ。」
ソウマが全方位にレーザーのような魔法を放ってきたのを俺は全て回避する。
見える。レーザーの軌道が全て!!
間を縫うように潜り抜けると共に薄氷蝶を引き抜く、刃にも込められる魔力が増えているみたいで刃の強化が可能になっていた。
「凍れ!!」
俺はソウマのレーザーを放つ箇所を巫女の瞳で見てそう言葉を発するとソウマの身体を無数の氷で出来た槍が突き刺さった。
「なっ!!」
白夜真抜流 一刀式 漆ノ型 "細雪"
刀を抜刀した状態で放つ連続付きから瞬時に鞘を腰に挿して薄氷蝶を両手で持ち。
白夜真抜流 一刀式 玖ノ型 "雪月華"
渾身の力で放つ四連撃はソウマの硬い鎧を貫き巨大な裂け目を生み出す。
もう一押し必要だな。
白夜真抜流 一刀式 陸ノ型 "斬空"
魔力を込めて振るった俺の背後から円形に放つ一凪の斬撃は空間に裂け目を生み出し、その衝撃がソウマの鎧を砕く。
「なっ!!ソウマの鎧が!!再生を!!」
「させませんよ。凍て付きなさい!!」
そこにヒューリさんの氷結魔法がソウマの身体を覆い鎧の再生を妨げる。
「白月!!」
俺は瞬間移動を使い宵華の所に飛ぶと刀を持つ左手を握る。
「白月、今使った禍月焔ともう一つ、白月には使える魔法がある筈だ。今からそれを伝える。」
禍月焔を巫女の瞳で見たからだろうか、宵華の中に眠るもう一つの可能性が見えた。きっとこれは今の宵華なら絶対に使えると確信を持って言える。そして、あのソウマに大きなダメージを与えられる。
「魔力コントロールは手伝う。黒霧と紫電を暮椿に込めろ。」
「えっ?いえ、はい!!」
宵華に意識を合わせると暮椿に黒い雷が迸る。
「禍月焔が黒い炎なら、これは禍月雷と言った所だな。」
「禍月雷・・・行きますわ!!」
宵華が禍月雷を振るうと黒い雷がソウマの身体を貫き崩壊させていく。消滅と破壊を兼ね揃えた事で起こる崩壊は当たった場所から広がる。
「各々、最大の攻撃で畳み掛けますよ!!」
ヒューリさんがそう言って強力な冷気を纏った斬撃を振るい巨大な三日月型の氷がソウマを凍てつかせる。
「了解ですわ。」
宵華も禍月焔と禍月雷を纏わせた二つの斬撃がソウマの身体を破壊していく。
それを見ながら俺は薄氷蝶を鞘に納めると愛刀である凍華を掴み抜刀術の構えを取り、瞬間移動する。
「トドメは任せます。」
「凍姫!!」
「これで終わりだ。」
ソウマの懐に瞬間移動した俺は真覇と真武を解放して刀を振り抜く
白夜真抜流 奥義 "零羅"
全ての斬撃を放ち終えた俺はソウマの背後に姿を現し凍華を鞘に納めると同時にソウマの身体は無数の斬撃によって消え去った。
「・・・逃したか。」
『うふふ、まさか、あの状態から逆転されるとは夢にも思いませんでしわぁー、今回はこれで引きましょう。ですが、次はそうは行きません。また貴方達の前に姿を見せた時はこの屈辱晴らして見せますわ。ソウマと一緒にね。』
渦巻く黒い気配が消えるのを感じた。どうやらギリギリの所でマリアが何等かの魔道具を使いソウマ・アマシロを引き抜き何処かへ離脱したみたいだ。しかも、ローレンガルド王国では無い何処かに。
あのマリア・ルーレ・ローレンガルドは呼んでいたのか?リフィアにローレンガルド王国を攻めさせている事を?
「マスター様」
「あぁ、大丈夫だ。」
俺は息を吐いて戦闘態勢を解くと地上に着地した。
「この国の国民やらが殆ど居なくて助かったよ。一部には知られてしまったが。」
俺が凍姫だと知ったのはアンリとリーフィだが、まぁ、多くの国民は水牢で閉じ込めてあるし事前に状況を説明したのもあってリーンハインス教会に匿って貰っている国民が居るのだ。主に要人と女、子供を中心にな。それもあってこうしてスムーズに鎮圧出来たのだ。
そんな時だった白月の姿をした宵華が俺に抱き着いて来た。
「うぉ!?宵華?」
「良かった・・・本当に・・・晃・・・。」
「あぁ、すまない。」
宵華も未来が見えていた分、かなり葛藤があった筈だ。凄く心配もかけたからな。
「宵華・・・後で色々叱られるから今はやる事をな?」
「・・・はい。」
そう言って離れると俺は落ちていた仮面を拾い汚れを落としてから顔に付けると外で戦っていたリスティーさん、ミリアム、セレナ先生、エルリッヒ先生、ルイ、そして、セレインさん、リリムさん、グライさんだろう女性2人と男性1人が俺達の居る場所に降り立った。
「ヒューリ、外の連中は片付けたぜ。」
「はい、此方も首謀者には逃げられてしまいましたが片付きました。」
ヒューリさんに対して明るく活発に接するのがグライさんだろう、どちらかと言うとクールでしっかりしている雰囲気を纏っているのがセレインさん、見た目からしてリスティーさんと近い年齢のような気がする。そして、最後に特徴的な緑色の髪を持ち20代を超えているとは思えない幼い人が賢者リリム・アルフェミアか、彼女が書いた魔法書やら学術書は読んでいて自画像を見た事はあるが、此処まで幼いとはある意味、詐欺だ。
するとリスティーさんが俺の方へ笑みを浮かべて近づいてくる。
「どうやら、色々と上手く行ったようね。貴方の作戦勝ちと言った所かしら?」
「えぇ、一先ずアーデンエリスではですね。」
「ローレンガルド王国ね。シアちゃんから話は聞いているわ。」
アーデンエリス王都が片付けばリフィア達の援軍に向かうとリフィアに言ってあるからな。準備を整えて行かなければならない。
「事態の収拾はぁ~私達に任せて下さいですぅ~リスティーさんがパパっとやってくれるですよぉ~」
「えぇ!?ちょっとそれは・・・。」
「リスティー、長旅だったからって休むのは許さないわよ。それに一番の功労者は、まだ動くつもりなんだから。」
「・・・凍姫は此処で休まない?」
突然、懇願するような感じで手を握られてしまった。というより背後で鬼神のような気迫を放つセレインさん・・・圧力がヤバイ・・・殺られる。
「と言われましても自分が作戦を立てて俺が焚き付けた物です。最後までやらないと、それに今、ローレンガルドを攻めている子とも約束しましたから。」
そう答えるとリスティーさんは、納得したように手を離すと「そっ」っと短く返事をした。
「じゃあ、エリスのギルドマスター統覇の帝王が命じます。凍姫、白月、砕杭の三人でローレンガルド王国へ援軍として行きなさい。」
「了解です。」
「はい。」
「んっ。」
各々、返事を返し、俺はヒューリさんに駆け寄る。
「ヒューリさん」
「はい?」
「あの樹と住民の件ですが。」
「大体の事は気配で把握していますよ。あの水樹、よく見つけて来たものです。」
「それならば良いのですが、念の為、これを」
俺が手渡したのは研磨された魔石である。これには水樹を使って水牢をコントロールしている魔石の場所が示されている。
「なるほど、確かに受け取りました。決着が付いたら話をしましょう。ミリアムから君の事は聞きましたが、色々と語らいたいと思っていますから」
「えぇ、是非。」
話を終えるとディンとソフィー、アンリ、リーフィ、ミズハ、ハルナが俺達に寄って来た。
「・・・コウ」
「まぁ、今は良いか。」
ディンの言葉を聞いて仮面を外して笑みを見せる。
「決着を付けてくる。その後は王族の仕事だ。」
「あぁ、分かっている。」
「私も出来る限りサポートします。」
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい。」
「此処の事は任せて。」
ディン、ソフィー、ミズハ、ハルナの言葉に頷いて返事をしてからアンリとリーフィの方を見る。
「あぁーその、色々言いたい事があったんだけど、なんか吹っ飛んじゃったわ。」
リーフィは俺を見るが口を開けないでいる。その瞳は何処か、自分を酷く攻めている様子だ。
「とりあえず、色々あるだろうから話せるようになったら聞くよ。時間も必要だと思うから焦らなくて良い。」
そう言って俺は再び仮面を付ける。
「行こう。」
そう言って俺、シア、宵華、ルイはローレンガルド王国へ瞬間移動した。